リバーシブルロード

エツヤ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

オリジナルトランプ

しおりを挟む
「2組に転校生来るって!」

「マジで」

「いいなあ」

===

常本先生「君の担任になる常本哲也です。君のことはクラスのみんなの前で聴かせてもらってもいいかな?若山くん」

業「はい」

第1話『転校』

常本先生「若山くんには4年2組に入ってもらうことになった。みんなまってるよ。若山くんはランドセルを丁寧に使ってるね。うちのクラスにはもうボロボロにしてる子もいるよ」

業「おさがりで?」

常本先生「彼は一人っ子だなあ。どの子かは一緒に過ごすうちわかるよきっと」

業「はい」

常本先生「ここだ」

4-2

ガヤガヤ

常本先生「一緒に入るぞ」

業「はい」

ガラ

常本先生「はい着席~!」

ワー

業(…。すげえ人数…)

キュ

黒板

若山業

常本先生「並木小学校から転校してきた若山業くんだ」

ひそひそ

「ごうっていうんだ」

業(おっ)

空席

業(あそこが俺の席か)

常本先生「若山くん。自己紹介するかい?それとも先生からみんなに紹介しようか」

業「自己紹介します」

おお

業「今全校集会でみんなの前に立ってるような気分です。並木小は全校生徒あわせても25人でした」

ザワ

「25人!?」

「え!」

常本先生「若山くん。前の学校で一番思い出に残ってることはなんだい?」

業「一番覚えてるのは僕が2年生の時に全校生徒で行ったディベート大会です」

常本先生「そうか人数が足りなくて若山くんたちも駆り出されてしまったんだな」

業「でも楽しかったです」

常本先生「ちなみにどんな議題…テーマだったのかな?」

「常本先生!その話明らかに長くなるよ!」

「そうだそうだー」

常本先生「ハハハ。それもそうだ。じゃあ質問タイムっていうのはどうだろうみんな?」

さんせー



常本先生「じゃあそろそろ最後の質問にするぞ」

アスカ「はい先生。若山くんは人前に出るの慣れてるんですか?すごい落ち着いてるみたい」

たしかに

常本先生「どうかな?」

業「何かを発表する時はいつも全校生徒の前ででした。だから今どちらかというと懐かしい感じです」

常本先生「ほー。なるほど。では質問タイム終了とします」

はーい

常本先生「若山くんはうしろのあの席へ」

?「よろしくな若ちゃん」

業「…若ちゃん?」

?「あだ名!」

ミカミ「おれミカミ!よろしく」

悪手の手を差し出すミカミ

業「まあ若ちゃんでいいよ。よろしく」

ギュ



業「ミカミくんの手固いね」

ミカミ「ミカミでいいよ若ちゃん!」

常本先「フフ(早速我がクラスで一番ボロボロのランドセルを持った子と友達になったか)」

ミカミ「おれ野球やってるからかな」

業「へえ」

ミカミ「若ちゃんは部活やってた?前の小学校で」

業「遊びみたいな部活しかなかったよ。4年生も大会に出るから強くなろうって雰囲気もなかった」

ミカミ「へえ…。で若ちゃんは何部?」

業「んー笑わない?」

ミカミ「笑わないよ!」

業「昔の遊びクラブ。コマとかメンコとか」

常本先生「はーい」

ミカミ「あ」

ミカミ「追い追い聞かせてな」

業「うん」

休み時間

「ミカミばっか話してずりーぞ!!」

「ねえねえ業くん!!」

ガヤガヤ

ミカミ「若ちゃんはコマとかメンコのクラブに入ってたんだ」

「好きな子のタイプは!?」

「もう聞いたか!?ミカミは4年で唯一のレギュラーなんだぜ!?」

業「え」

ミカミ「おれ2年から部活やってんだ」

「業くんも応援行こうよ」

「次の試合いつだミカミ?」

ミカミ「夏休み明けたばっかだししばらくないと思うよ」

業「ミカミってすごいんだ」

ミカミ「おれはコマを回せない。みんな違ってみんないい!」

業(ミカミいいやつだな)

☆一等星

十二等星

○三等星

常本先生「星には様々な明るさがあります。明るいものから順に一等星、二等星、三等星…というように分けられます」

「四等星もあるの先生!?」

「どうして明るさに違いがあるんですか!?」

業「ミカミ」

ヒソ

業「みんな熱心に授業聞いてるね」

ミカミ「常本先生知ってることは答えてくれるからな」

業「へえ」

常本先生「うーん。まず2つ目の質問から答えようかな」

ミカミ「晩のおかず考えてるみたいだろ」

業「はは」

常本先生「星の明るさの違いを生む原因は2つあって、1つは距離、2つ目は星自身の明るさ。とても明るく大きな星もすごく離れていたら暗く見える。そして最初の質問だけど4等星以下もあります。一等星より明るい星は0(ゼロ)等星、もっと明るかったらマイナスを使って表していくんだ。ちなみに太陽はマイナス26.7等星です」

へえ~

常本先生「じゃあ教科書の続きを読んでもらおうか。ミカミ」

ミカミ「はい。『夏の大三角』。はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガの三つの星を結んで描(えが)かれる大きな三角形で、三つの星のうち二つは七夕の物語におけるおりひめ(ベガ)とひこぼし(アルタイル)でもあります。」

常本先生「そこまで」

キーンコーンカーンコーン

常本先生「はーい次国語なー」

ミカミ「若ちゃん、トイレ行こ」

業「うん」

ジョー

ジョー

ミカミ「4年2組はどう?」

業「みんな常本先生が好きなんだね。俺も早くなじんで先生に質問したいな」

ミカミ「常本先生、1年の頃からおれの担任なんだ。野球やりたいっておれが言った時も顧問の先生にお願いしてくれたっけ」

業「へえ~」

キーンコーンカーンコーン

常本先生「はい国語でーす。金子みすゞの『不思議』は新学期最初の国語です。読んでくれる人~」

はーい

アスカ「はい」

常本先生「では田澤さん」

アスカ「不思議。金子みすゞ。わたしは不思議でたまらない、黒い雲からふる雨が、銀に光っていることが。わたしは不思議でたまらない、青いくわの葉たべている、かいこが白くなることが、わたしは不思議でたまらない、たれもいじらぬ夕顔が、ひとりでぱらりと開くのが。わたしは不思議でたまらない、たれにきいてもわらってて、あたりまえだ、ということが。」

常本先生「『たれ』っていうのは『誰』のことだ。理科の授業ではないのでなぜかの話はしません。いいかな?」

アスカ「じゃあ先生。なんの話をするの?」

業・ミカミ「たしかに」

常本先生「みんなの、みんなの不思議に思うこと、先生が教えてもらいます」

シーン

(ここで話したら『不思議だよなぁ』で済まされるぞ?常本先生の性格からして)

業「はい」

バッ

常本先生「おっ、じゃあ若山くん」

業「俺…地層がしましまになるのが不思議!」

(あ~~。若山くんはまだ…常本先生を知らない…!)

常本先生「不思議だよなあ~」

業「はいっ。先生は子供の頃何を不思議に思いましたか?」

え?

常本先生「お。このクラスを受け持って初めて聞かれたな」

「せ、先生に子供時代…あったんですか?」

常本先生「あったさーははは。よし若山…、いや…ごう、いったん座ってくれ」

ミカミ(若ちゃんを下の名前で呼び捨てにしたぞ?)

なにが始まるんだろう?

常本先生「先生は『なぜなぜ坊や』ってよばれてたよ、近所の人たちに。なんでもすぐ『なぜ?』ってきくから」

業「それは何歳のと…」

モガ

ミカミ「若ちゃん、しっ」

まずは聞こう

シー

常本先生「そう。そんな風に状況を考えて黙るってのが、できなかったんだな。幼稚園の頃から小学校まで。だんだんと本を読むようになって大人や友達への『なぜ?』という問いかけは減っていった。と、いう背景がある中で、先生が不思議で仕方なかったのは螺旋(らせん)を不思議に思う人。螺旋を怖いものだと思う人がいることが不思議でした」

無限ループ…!!

常本先生「人生に意味が無いという発想も不思議だった。とにかく、自分で苦しくなる考えをする人間というものが…自分でも人間やってて不思議だった。先生やってる俺の内面は子供の頃とそんなに変わってないんだ」

ピク

業(自分のこと『俺』って言った)

常本先生「まあ要するに。『子供の頃いて欲しかった大人』を演じる為に先生やってんだ。以上、常本哲也の子供の頃の不思議でした」

パチパチパチパチパチ

給食の時間

アスカ「学校で友達といる時の自分って、家族といる時の自分と違うよね」

モグモグ

パキ

ジュルジュル~

ジャム 食パン

ミカミ「まあ違うな」

アスカ「そうよね」

業(きれいにかけれた)

アスカ「常本先生が子供の頃『居て欲しかった大人を演じてる』って話だけど、じゃあ私たちは、いえ、このクラスは劇ということにならないかしら?」

ミカミ「このクラスが劇?どういうことだ?」

業(はむ)

アスカ「先生の手前言えなかったけど、このクラスにいじめも不登校も無いことが不思議なの」

ガッシャーン

一同「!」

「ごめーん、おかわりしようとして、おたまおとしちゃった」

ミカミ「…いいことだろ。いじめも不登校もやなことなんだし」

業「そうかな。常本先生にコントロールする力があるって事だろ?田澤さんが言いてえのは」

ミカミ「若ちゃん(感じ変わった)」

アスカ「そう。いじめの有無をコントロールできるならすごいことよっ。でも私たち何を奪われて平和に過ごしてるのかしら?何も失ってないなら何も問題ないけど」

業「そう都合のいいことばかりじゃないと」

アスカ「ええ、ただ、自分がいじめられてまで刺激的なクラスで過ごしたいとは思わないの」

業「だったら常本先生の支配する現状が一番いいんじゃねえか?」

アスカ「若山くんってさばさばしてるのね」

モグ

業「自由自由って言うけど飼いならされることを選ぶことも自由だろ?子供だからってことで守られてるうちはそれでいいってことだよ」

ミカミ「若ちゃん、頭いいんだなあ」

業「前の学校で年上と話すことが多かったってだけだよ」

昼休み

「おりゃあ」

ワーワー

ドッジボールをする子供たち

ミカミ「あそこが理科室。だいたいわかった?」

業「ミカミはドッジボールしなくてよかったの?」

ミカミ「学校案内の方が楽しいよ!」

業「ミカミやさしいな」

ミカミ「へへ、そうか?若ちゃんの方は、ときどき人が変わるみたいだね」

業「え、そうかな」

ミカミ「普段と違う顔する時って誰でもあるよ。おれ投手じゃないからあんまり打者の顔とかは見たことないけど、外野やってる時とか、あっ、あいつ今『入ってるな』って思うことは結構あるよ」

業「ハイッテル…か…」

ミカミ「そういう時にすごいプレイするもんだよ」

業「へえ」

「ミカミ」

手招き

ミカミ「若ちゃんちょっと待ってて!」

ミカミ「え!」

こしょこしょ

ミカミ「それでなんの曲…学習発表会の曲じゃん!なつかしー!」

業「フフ(ちょっとと聞こえてるぞ聞こえてるぞ)」

5時間目

音楽室

常本先生「今日の音楽は特別授業です」

「はーい!!」

常本先生「みんな覚えてるかな。2年生の時に学習発表会の劇で最後に歌った歌を若山くんに送ります。伴奏はギター常本、ピアノは美海先生」

ミカミ「赤に青に、白に黄色!!」

クス(ミカミの再現率たけえ…)

業(おっ、なんかみんな愉快そう)

「みんな違って、みんないい!!」

業(これその劇の最後のシーンか!!)

青い空に絵を描こう

ジャン

業「俺もお返しに歌いたい!」

常本先生「お、いいなあ。じゃあ即席でなんかやろうか。何の曲がいい?」

考える業

業「赤いやねの家!!」

(どんな曲だろう?)

常本先生「知ってるのに弾けない…」

美海先生「伴奏はピアノのみにしましょう」

常本先生「美海先生!弾けるんですね!?」

美海先生「ええ。『青い空に絵を描こう』と同じ作曲者なのよ。『赤いやねの家』は」

常本先生「若山くん、前へ」

伴奏のイントロ

リズムを感じる業

ミカミ(いいぞ若ちゃん堂々としてる)

赤いやねの家

業がお返しの歌を歌い終え、4年2組のクラスの一員となった。

つづく

===

2010年12月

雪道を走りながら登校する業。

『12月26日、教室でみんなの版画刷るからもしよかったら誰か手伝いに来てくれ』

ガラ

常本先生「お!業!」

業「一番乗りだ!」

常本先生「刷り終わった作品をこっち側に移していってほしいんだ」

業「わかった!」

常本先生「助かるよ」

===

常本先生が単純作業する姿を見守る業

三回目から指示なしで手伝えるようになった

常本先生の集中が研ぎ澄まされていく

===

常本先生「業、エニグマって言葉、聞いたことあるか?」

業「えにぐま?初めて聞いた!」

常本先生「どんな意味だと思う?」

業「エニグマ...マグマみたいな何か?」

常本先生「お~面白いな」

業「正解は?」

常本先生「エニグマは西洋の言葉で謎とかパズルを意味するんだ」

業「よく分からないもの?」

常本先生「そうだでもパズルって意味もあるならいつか解けるはずだ」

業「エニグマはどこにあるの?」

常本先生「みんなの心の底に居る」

業「底?一番下ってこと?」

常本先生「コンパスの中心をエニグマと考えたこともあったがだんだんしっくりこなくなってね」

業「丸じゃなくて地層に考え直した?」

常本先生「!そうか、地層がしましまになるのが不思議って言ってたな」

業「うん!」

常本先生「あの時は全然何とも思わなかった」

業「先生の子供の頃の不思議は螺旋を怖がる人」

常本先生「層になってるものを螺旋に見立てるから出れなくなるんだ」

業「どこから?」

常本先生「箱の中から」

業「箱...」

常本先生「いつの間にかまとわりついて外からは絶対開けられない箱が出来上がる...人の心の中に」

業「内側から開けるしかないの?」

常本先生「そうだしかし中には誰もいない」

業「じゃあパズルじゃないんじゃない?解けないなら」

常本先生「いや中にいない『ハズ』なんだ。ほんとは中に誰かがいる」

業「そいつはなんで出ようとしないの?」

常本先生「約束があるからさ」

業「誰との?」

常本先生「箱の外にいる誰かとの」

業「箱の中に居るのがエニグマ?」

常本先生「いかん、喋りすぎた」

業「へへ、秘密を聞いちゃった」

ガラ

常本先生「おっ栞も来てくれたか」

栞「誰か来てると思って!業だった!」

アスカ「おっはよー!」

常本先生「アスカも来たか!」

アスカ「休みもいいけど来ていいなら来ちゃうわよ、ね!」

業「ほんとそれ」

常本先生「三人とも冬休みはどうしてたんだ?」

業「宿題もう終わっちまって退屈だよ」

アスカ「ゲームとかないの?」

業「無い無い!俺んち超退屈だよ」

常本先生「家の人たちにはなんて言ってきた?」

栞「お昼はどうする?って聞かれた!」

常本先生「長くても11時には終わるよ、しかし3人も来てくれるとは思わなかった」

業「手が余る?」

常本先生「そうだな、今日は特別授業だ」

栞「版画の手伝いを交代でしながら、常本先生の話が聞きたい」

常本先生「うん、そうしようか」

業「俺が来る前のこと聞かせてくれよ」

アスカ「じゃあまず、2年生の時の劇の話をしましょう?」

常本先生「4組に4色の色を与えた」

栞「1組は赤」

常本先生「2組は青」

田澤「3組は白」

栞「4組が黄色!」

業「それでそれで?」

常本先生「4つの色の妖精たちはどの色が一番いいかでもめるんだ」

アスカ「お互いをけなし合うの」

栞「夢中だったけど、今思うと悲しい」

業「それからそれから?」

アスカ「あたしたちは赤をけなした後、青は海の色、どこまでも深い。青が地球で一番広い色なのだから青が一番だって言うの」

栞「なつかしい!」

常本先生「よく覚えてるなあ」

業「白の妖精たちはなんて言ってくるんだ?」

田澤「青は冷たい、残酷な色。」

栞「みんなを暗くして自分だけがいい思いをしようとするって」

常本先生「自分たちのことを言い終わったら反論できないんだ、劇の構成上ね」

業「それで4つの色が自分らのこと褒めた後はどうなるんだ?」

アスカ「最後はみんな違ってみんないい!ってなるんだけど」

栞「たしかちょっとむずかしいセリフが間にあった」

常本先生「『自分以外の色がなかったら、自分の色もわからないんじゃない?』」

業「青しかなかったら青って言葉もいらない」

アスカ「言葉で区別する必要がなくなるものね1つの色しかないのなら」

栞「赤い太陽、白い雪、黄色い花、青い空」

業「最後にあの歌を歌ったのか?」

アスカ「そう、青が最後だったの」

栞「みんなで4つの色の歌を歌った」

業「赤の歌は?」

栞「赤は、手のひらを太陽に」

田澤「白は雪やこんこ」

栞「黄色はたんぽぽ」

業「4番目が青い空に絵を描こう、か」

常本先生「白黒の版画を刷りながら色とりどりの話をする、何とも言い難いな」

栞「業は赤いやねの家を歌ってくれたよね」

常本先生「業が去った後のクラスはさぞさみしいだろうなあって思ったよ」

業「あいつらなら平気だよ!」

アスカ「きっとそうなんでしょうね」

栞「そうだ」

アスカ「どうしたの?」

栞「実は4年2組、クラス替えをしてないの!」

アスカ「そうよね!」

業「小耳には挟んでたけど、1年からずっとみんな一緒なのか?」

常本先生「無責任な授業をしてしまったからな」

栞「そんなことない!」

田澤「口実よね?校長先生にお願いして6年間受け持つことになったの」

常本先生「口実なんかじゃないさ、俺は不完全な授業をしている」

業「6年でまとまる授業ってこと?」

常本先生「そういうことだ、いや、それを目指している」

業「みんなにどんな授業があったか聞かないとな」

アスカ「途中からでも問題ないわよ、業が来たのは運命なんだから」

常本先生「アスカ...業は育ての親のおじいさんが亡くなられてこっちに来たんだ」

アスカ「あ...」

栞「そうだったんだ」

業「気にするなよ、アスカ」

アスカ「ごめんね」

業「いいんだよ!」

栞「業が来たのはうれしいけど」

アスカ「...業はどうなの?」

業「アスカの言った通りさ」

常本先生「運命だっていうのか?」

業「決まってたことなのかもしれない」

常本先生「そんなことないぞ」

業「そうなのかなあ」

常本先生「決められた運命なんてないのさ」

栞「全部自分で決められる!」

常本先生「そういうこと」

田澤「変えられないことだってあるわ?」

常本先生「それを宿命っていうんだ」

業田澤栞「なるほど...」

つづく

===

2011年

5年2組

ガラ

常本先生「はーい社会の時間でーす」

アスカ「今日は何ー?」

常本先生「いつも通りに教科書を開いてくださーい」

女子生徒A「何ページですかー!」

常本先生「鎌倉時代の勉強をしまーす」

一同「探せー!!」

みんながページをめくってる間に

悪人正機

と黒板に黄色いチョークで大きな4文字を常本先生は書いていた。

生徒B「あったよ!」

生徒C「あった!」

「あった!」「あった!」

常本先生「この文字のあるページを開けたかな?」

ミカミ「見つけたよ先生!」

常本先生「まだ見つからない人手を挙げてー」

誰も手を挙げない。

常本先生「よし」

業「(いつもの光景だなあ、みんないつも通りにワクワクしてる)」

常本先生「黒板を見てくれ」

常本先生が白いアンダーラインを2つに分けて引く。

常本先生「悪人、正機。悪人にのみに、正しいチャンスがある。」

第3話『常本先生の一番危険な授業』

歎異抄の勉強、悪人こそが救われると真剣に言っている常本先生に、クラスのみんなは今までの授業が何だったのかわからなくなる。悪人正機に猛反発する。

ミカミ「親鸞って人がそう考えてたのはわかったよ!常本先生も同じように考えてるの!?」

アスカ「そうよ!今までの先生の教えは何だったのよ!?」

常本先生「俺は今までお前たちに何を教えたかな?」

業以外の生徒「(『お前』って...)」

生徒D「僕たち誰にも意地悪しなかった!!我慢してたんじゃない!それが自然なことだと思えた!!」

女子生徒C「そう!わたしたちみんな違ってみんないいって劇でやったもん!!」

生徒E「1年生の頃からずっと常本先生のこと信じてたよ!!それなのに...」

生徒A「5年間も俺らのこと騙してたのかよ!」

業以外の生徒「そうだそうだー!!」

業「(なんでみんなこんな悲壮なんだ?)」

栞「常本先生、今までの時間が嘘だったの?」

常本先生「さてそれこそが俺の言いたかったことなんだ」

アスカ「どういうこと?」

常本先生「俺の存在そのものが嘘だったら、みんなどうする?」

ミカミ「先生が嘘?」

常本先生「お前たちこそ本物で、でも本物じゃない人もこの世界にいるとしたら...そしてその本物じゃない人間が常本哲也という嘘だとしたら...」

栞「そんなの嫌...」

常本先生「安心しろよ、みんなは本物なんだから。他人が嘘でなぜ困る?」

業以外の生徒「嫌だぁ!」

泣き出す子も出てくる、常本先生は全然動じない。

常本先生「どうしてこのクラスにはいじめがないと思う?」

アスカ「やめて...!」

常本先生「俺が嘘だって思えばつじつまが合わないか?」

栞「聞きたくない!!」

ミカミ「嘘だ嘘だ嘘だ!!!常本先生が嘘だなんて嘘にきまってる!!!!」

常本先生「お」

業は猛烈な違和感を抱いた。

業「(機嫌をよくした?今ので?なんで?)」

女子生徒F「常本先生も本物だもん...」

ミカミ「そうだよ!なんで先生は自分が嘘だって思うんだ!?」

アスカ「(!)それは教えてくれないんですか先生!!!」

常本先生「核心に迫ってきたな(でもダメだろうな)」

業「嘘も方便」

一同「!!」

常本先生「業、それはちょっとまだ早いな」

業「順番が逆だってかまわないさ、みんなちゃんと理解する」

みんなが業を振り返る。すがるような眼で。

業「親鸞って言ったっけ。いわんや悪人をや、の人は嘘で鎌かけてみんなが自分で幸せになるように誘導したかっただけなんだな?先生」

常本先生「その通り!!嘘で真実を表現しようとした!全て嘘で語ることによって新しい仏教観を構築したんだ!」

アスカ「どういうこと?」

常本先生「逆になってしまったけど業、続けてくれるか?」

業「限られた人だけが幸せになれるって考えがおかしい」

常本先生「そう、親鸞は前提を疑った」

ミカミ「ぜんていって何?」

常本先生「土台になってる考え方さ。それをみんな当たり前だと思ってる」

アスカ「あたしは不思議でたまらない...たれにきいてもわらってて...あたりまえだということが...」

常本先生「金子みすゞの『不思議』か、いいぞアスカ」

アスカ「国語の時間に読んだのあたしだもん...」

みんなちょっとずつ思い出がほんとだったことに安心し始める。

常本先生「(揺り返せ)(ダメだ俺を信じろ)あの日は業が転校してきたんだっけな」

生徒A「そうだよ」

常本先生「業、5年間の当たり前を疑ったみんなが、お前にはどう見えた?」

業「なんでこんな必死なんだ?って思ったよ」

常本先生「そうなのか。みんな、こわかったか?」

ミカミ「まだ怖いよ...」

常本先生「悟りを開くことができるのは限られた人間だけってのが仏教の当たり前だったんだ、それは反対に見れば、悟りを開けない凡人は幸せになれないってことでもある」

業「だから天才とか凡人とか関係なく幸せになれるように、親鸞って人は当たり前の反対のことだけ、つまり嘘を言った」

常本先生「そこまで業が理解してるなんて、うれしいなあ(こんなところか)(上等じゃないかまだ不満か?)(当たり前だ)」

業「先生、秘密があるんだろ」

常本先生「え?(きたか!?)」

業「誰にも信じてもらえない不思議が先生の底にはあるんだ」

常本先生が少し涙ぐむ

常本先生「(覚えててくれたか...)誰の中にだってある」

業「でも先生はそれが強いんだ」

アスカ「先生の中の不思議って?」

常本先生「やはり、俺の根底には嘘があるんだ」

ミカミ「またそう言う!」

常本先生「不思議そのものは、嘘としか呼べないのさ」

ガラ

生徒の視線が戸に釘付けになる。

生徒たち「美海先生!!」

美海先生「通りかかったものですから」

常本先生「まずいところを見られたな」

美海先生「あの授業をやってたんですね?」

常本先生「あの時より怖かったんじゃないかな私も前より強い言葉を使ってしまった」

美海先生「みんな?常本先生は前の受け持ちのクラスでもね、悪人正機の授業をしたのよ?」

常本先生「事もあろうに授業参観の時にね、若かったですよ、というか馬鹿です」

美海先生「その時は生徒たちが泣き出したところで保護者の皆さんが止めに入ったの、『もうやめろ』って」

常本先生「答えにたどり着けなかったそのあとは、あのクラスのケアに全力を注ぐことになった...」

美海先生「私も音楽の時間には癒しになるような曲を当時の生徒たちに歌ってもらってちょっとずつその子たちは『常本先生は嘘じゃない』って信じられるようになったのよ?」

常本先生「(それは俺の敗北でもある)業、前へ(だが今、希望を見つけた)」

業「え、何?」

常本先生「花丸をやろう」

前に出た業の右手の手のひらに青い水性ペンで青い花丸を常本先生は描いた。

業が手のひらの青い花丸を不思議そうに見つめている。

クラスのみんながそれを不思議そうに見つめている?

『僕は誰?』『あたしってなんなの?』

常本先生「みんなはみんなさ」

緊張の糸が途切れた。

ミカミ「若ちゃんがいなかったらおれ達戻ってこれなかった」

チャイム「キーンコーンカーンコーン」

常本先生「みんなありがとう、こんな授業は二度としたくない」

ミカミ「先生の底にある不思議、いつか教えてね」

アスカ「あたしたち信じるもん!」

業「ねえ、どうして花丸が青なの?先生?」

業を見る一同

常本先生「青がヒントだからさ」

つづく

===

2012年

6年2組

生徒A「何か業臭くない?」

業「いろいろあるんだ」

生徒B「いろいろって何さ」

生徒A「お風呂入ってないの?」

遠目に見ている常本先生

常本先生「...ネグレクトか」

第4話『若ちゃんくさくさ事件』

業たちの方に行く常本先生

常本先生「どれどれ?」

ぴく

常本先生「(まずいな、お世辞にもいい匂いとは言えない...)いい匂いじゃないか」

生徒A「え~?」

生徒B「先生、鼻がおかしい!」

常本先生「自分らの鼻がおかしいとは思わないのか?」

生徒AB「う」

常本先生「お前らの服は誰が洗濯しているか思い出してみろよ」

生徒A「そりゃお母さんだけど」

常本先生「当たり前のことに感謝することだって必要だぞ?」

生徒AB「はーい...」

常本先生「さ、次の時間の準備をしなさい」

生徒A「わかったよお」

生徒B「でも今の業はくさいよ」

常本先生「こら、はやくしなさい」

促されて席に戻る二人

業「先生、俺どうしたらいいんだ?」

常本先生「(業の保護者は腹違いの継母、ネグレクトも警戒していたが...こう来たか)普通にしてなさい」

業「うん...」

常本先生「(目に見えて自信を失くしている...)業も次の授業の準備をしなさい(早く何とかしないと)」

業「わかった!」

常本先生「それでいい(健気な子だ...)(放置しろどんどんひどくなればいい)(お前を解放する子かもしれないんだぞ!!)」

アスカ「常本先生?」

常本先生、我に返る。小声で

常本先生「アスカ、女子は業のにおいのことどう思ってる」

アスカ「うん...洗濯機壊れたのかな、とか、お母さんが倒れたのよきっと、って話してるけど...」

常本先生「想像力を働かせているんだな(ひとまず安心か...いややはり早急に手を打たねば)」

生徒C「先生~体育館で転んじゃった~~!」

膝から血を流す生徒C。

したたる血。

常本先生「!誰か保健室へ...(なぜ直接保健室にいかない?)」

生徒C「先生が診てよ~」

常本先生「(さあ、どうする?)(お前の仕業か)(さあ、どうする?)」

キーンコーンカーンコーン

生徒Cをお姫様抱っこする常本先生

生徒C「わあ!」

常本先生「三郎を保健室に連れていきます、みんなは自習しててくれ」

生徒たちの呆然とした表情。

===

保健室

常本先生「じゃあお願いします」

保健室の先生「はい」

ガラ

常本先生「(今はひと時も業から目を離したくないのに)」

廊下を急ぎ足で歩く常本先生

美海先生「きゃあ!」

常本先生「おっと失礼!」

曲がり角で美海先生とぶつかりそうになる

回想

常本先生「教科書に書いてあるだろ?」

過去の女子生徒「常本先生が嘘なんて信じたくない!」

常本先生「そうだ、嘘である俺をお前たちには信じてほしいんだ」

過去の生徒A「こんなに先生のこと好きなのに、どうして先生は自分のことを嘘だっていうの!?」

過去の生徒たち「うえええええん」

保護者A「もうやめろ!」

保護者B「何のためにこんな授業をするんです!!」

常本先生「(あの時みたいだ)(お前は孤立無援だ)(俺にはお前がいる)」

青白い、常本先生の少年の姿がうれしそうに笑う。

ガラ

みんなおとなしくして自習していた。

ホッとする常本先生。思わず業に目をやる。

それを察知したのはミカミ。

ミカミ「(おれを見てる?ああ若ちゃんか)」

常本先生「みんなありがとう」

栞「どうして、先生?」

常本先生「静かに自習してたみんなを誇りに思うぞ」

照れた顔をする生徒たち。

女子生徒F「もう!低学年じゃないんだから」

常本先生「三郎が戻ったら授業を始める、自習を続けてくれ」

生徒たち「はーい」

常本先生「(作戦を練る時間が与えられたか...)(血の代償だ)(...そういうことか)」

ミカミと目が合う。ミカミが目をそらす。

常本先生「(ランドセルのことを思い出してるのか)」

回想

常本先生「こら!!なにやってるんだ!!」

野球部の少年「こいつ生意気なんだよ」

ボロボロのランドセルと泣いてるミカミ

常本先生「恥ずかしくないのか?」

野球部の生徒「なんでだよ!?」

常本先生「この子が生意気に思えるのはお前らが自分に誇りを持つことを諦めてるからだ!」

常本先生「(まだ2年生だったミカミを野球部に放り込む手筈の整えたのは俺だ...)(お前は生徒を傷つけてばかりだ)(そうかもしれない)(そんなことないよ)」

心を見抜かれて涙をこぼす野球部の少年たち。

常本先生「謝ることだってできるんじゃないか?」

野球部主将の少年「ごめん...!」

謝られて大泣きするミカミ

常本先生「(あの時はランドセルの傷で異変を感じたんだっけな...)」

3年2組

ミカミ「先生、おれこのランドセルが好きなんだ」

常本先生「どうして?あんなひどいことされたのに」

ミカミ「でもおれ、野球が好き」

常本先生「野球のどこが...そんなに好きなんだい?」

ミカミ「みんな変わってくのが楽しい」

常本先生「(いかん、泣きそうだ)(泣けよ悲しい話だろ?)」

ガラ

三郎が戻ってくる

三郎「恥ずかしかった~」

ミカミ「三郎姫!」

一同「ははは」

常本先生「三郎、傷は痛むか?」

三郎「平気だよ!」

常本先生「米田先生に病院行けって言われたか?」

三郎「ううん」

常本先生「そうか、じゃあ一緒に授業しようか」

三郎「うん!」

===

ミカミの声(その後、若ちゃんくさくさ事件は自然解決した)

常本先生「業」

業「何?先生?」

常本先生「服、洗ってもらえるようになったのか」

業「コインランドリーで洗ってんだよ、お金はもらえるんだ」

常本先生「お風呂はどうだ?」

業「はいれるよ」

常本先生「そうか」

業「じゃあね!先生!」

常本先生「ああ、さようなら(なんだか急に業が大人びてきた気がするな...)(心配だ...)(安心ってことか?)(お前は俺をずっと愛してくれてるよな、哲也)」

アスカ「先生さようなら~!」

ミカミ「さようなら!先生!」

常本先生「ああ、また明日な」

栞「先生!」

常本先生「どうした?栞?」

栞「もうすぐ卒業だね」

常本先生「おいおい、まだ先のことだろ?」

栞「あたしとアスカ、付属中に行くの」

常本先生「ミカミと業は二中か」

栞「多分そう」

常本先生「そのことは忘れてなさい」

栞「うん...!でもさみしい気もする」

常本先生「先生も前受け持ったクラスの卒業の時は...」

栞「泣いたの?」

常本先生「悔しかった、この子たちに何を教えれただろうってね」

栞「みんな常本先生のこと尊敬してたのに?」

常本先生「俺は尊敬されるようなことは何もしていない...ただ自分を救いたかっただけさ」

栞「いつか言ってた先生の根底の不思議、まだ秘密?」

常本先生「覚えててくれたのか」

栞「みんなあの授業のこと覚えてる」

常本先生「親鸞は俺と同じ嘘つきさ」

栞「真面目なやつが馬鹿を見るなんておかしい」

常本先生「みんなそう思うのは自分が本当の存在だと思ってるからだ」

栞「あたし、先生の根底の不思議が少しわかった気がするの!」

常本先生「解けそうか?このパズル」

栞「自信無い、でも先生が言いたいことはわかる」

常本先生「言葉にできないんだ」

栞「業がやってくれる」

常本先生「青い花丸のことか」

栞「向かい合って書いてたから青い花丸はきっと逆さになったはず!」

常本先生「栞...そんなに中学校が心配なのか?」

栞「うん...思い出のアルバムを今から準備してる...」

常本先生「やめなさいそんなことは」

栞「6年間」

常本先生「ずっと一緒だったな...俺とも、みんなとも...クラス替えがあったほうがよかったのかな」

栞「でもいつかは分かれる宿命」

常本先生「わかってるんだね、でも心が追い付かない」

栞「そこまで先生がわかってくれるなら、あたし安心!」

常本先生「そうか、じゃあ今日はもう帰りなさい」

栞「うん!さようなら!先生!」

常本先生「さようなら(あの子の名は栞)(今日どこから始めるのかを示してくれる存在か)(今日?お前に時間の感覚なんてないだろ?)(さあ、どういう意味でしょう?)(つくづく飽きないやつだよ、お前は)」

つづく

===

2013年5月

1-3

ミカミ「若ちゃん、おれ、野球部辞めようかな」

学ラン姿の業

業「え!?やめてどうするんだ!?」

ミカミ「やりたいことがあるんだ」

業「それは秘密?」

ミカミ「うん、秘密!」

業「部活辞めて暇になったら常本先生に会いに行かねえか?」

ミカミ「あ、行きたい!」

===

退部届 三上健太

退部理由「背が伸びないのでプレーに限界を感じた。」

===

ノックの後、職員室の戸を開ける業

業とミカミ「失礼します」

視線が集まる。

常本先生も職員室に居た。

常本先生「二人とも...!」

===

談笑する常本先生、ミカミ、業。

===

業「ミカミ、野球部辞めたんだ」

常本先生「へえ!そうなのか、別の何かを見つけたか?」

ミカミ「うん!でも秘密なんだ!」

常本先生「その秘密、大事に育ててくれよ?」

ミカミ「うん!」

業「先生はどうしてた?」

常本先生「今は3年生を受け持ってるんだ」

業「新しいクラスでもまたいつか悪人正機の授業をするの?」

常本先生「3回目は自重するよ、お前たちの代であの授業はおしまいだ」

ミカミ「あの感じ味わってほしい気もするなあ」

常本先生「二人とも携帯は持たせてもらってるのか?」

ミカミ「若ちゃんは持ってるよ」

業「新品だ」

常本先生「番号とアドレス交換しておくのはどうだい?」

業「いいの?」

常本先生「ただしかけてくるのはよっぽどピンチの時だけだ」

業「わかった!」

常本先生「番号は俺が打とう」

業「これ、俺の番号とアドレス!」

常本先生「karma-zoo」

業「着信とメール1通お願い!」

常本先生「ほい」

ミカミ「ほいだって(笑)」

ヴヴ

ヴヴ

常本先生「業、カーマ・ズーってなんだい?」

業「俺はカルマズって読んでる!持って生まれた資質って意味なんだ」

常本先生「へえ」

===

業とミカミ「先生さようなら!」

常本先生「いつでもきていいぞ?」

業とミカミ「はい!」

===

常本先生「カルマズ...(持って生まれた資質か...。カルマは不可算名詞、ズは複数形ではなくズー、つまり動物園...。因果を畜生だと捉えてるのか...すごい発想だ。)(それを感じ取るお前にも表現者の資質があったんだぞ?哲也)(俺は自分の世界観で勝負するなんてできなかった)(アーティストと教師、最後の問いでお前は教師を選んだ)(こっちの道を選んだのは俺さ)」

業とミカミの帰り道。

談笑する二人。

つづく

===

2013年

街の人もまばらな雑踏の中、学ランを着た業と学ランを着た男子生徒Aが楽しそうに談笑しながら歩いている。

業が男子生徒Aの腕に絡みつき、男子生徒Aの顔に頭を擦り付けた。

それを特に誰も気にしなかった、交差点の向こうにいた一人の少女以外は。

業と少女の目が合う。

業はその少女の顔をみて、青ざめる自分を感じた。

少女が微笑んで手を振った。

そして踵(きびす)を返し、視界から消えた。

業「まずいっ知り合いだ!」

男子A「付属の制服着てたよ?」

業「小学校で一緒だった奴なんだ二中の女子に広まる!」

男子A「ど、どうしちゃったのあわてちゃって」

信号が青に変わる。

業「変な噂が立つ前に誤解を解いてくる!お前は帰っててくれ!」

男子A「ええ!?もっと遊んでたいよ!」

業「ごめん!今度埋め合わせするから!」

男子A「そんなあ」

耳元で

業「エッチなことしてやるからさっ」

男子A「ほんと!?」

業「嘘は言わねえよ!行ってくる!」

男子A「うん!」

===

業「アスカ!」

振り返るアスカ

息を切らして追いつく業

業「さっき...!何を見た?」

アスカ「別にい?何も見てないわよ、猫みたいに男の子に甘えてるとこなんか」

業「誤解なんだよ!」

アスカ「あんたと私、付き合ってるわけでもないのになにかまずいのお?」

業「話聞いてくれよ!」

アスカ「あら、そうね久しぶりに会ったんだし立ち話もなんだわ?この店にする?」

業「おう、ここでいい!」

===

アスカ「ウーロン茶のSひとつお願いします」

業「んー、コーラのSひとつ」

店員「お会計は別になさいますか?」

アスカ「一緒でいいです」

業「助かる」

===

じゅる

間。

業「あー何から話せばいいんだ」

アスカ「単刀直入に聞いてあげようか」

業「うーんちょっと恐いけど」

アスカ「あんたが恐がるものなんてあったの?変わったわねえ」

業「俺だってなんでこんなに焦ってんのか自分でわかんねえよ」

アスカ「ふーん」

間。

業に顔を寄せ小声で

アスカ「ねえ、あんたホモなの?」

業「俺にも色々あるんだよ~!!」

アスカ「まあ、解らなくもないわ?」

業「解ってたまるかよ」

アスカ「そんなことないわよ」

業「なんでだよ、なんでそんなこと言えんだよ?」

アスカ、小声で

アスカ「実はね、あたしも女の子が好きなの」

業「ええ!??そうなのかあ!?」

アスカ「声が大きいよっ!!」

業も小声になり

業「い、いつからだ?」

アスカ「小6くらいかなあ、修学旅行でみんなとお風呂はいってたら申し訳ない気持ちになったの」

業「そうか...俺はその辺の感じわかんないんだ。エロいとかそういうの」

アスカ「あんた賢さは変わってないわね?」

業「どうだか、お前と一緒にいたころとなんも変わってねえよ」

アスカ「ふーん、それで、男の裸で興奮したりはしないのね?」

業「そう、さっきのいちゃついてたやつは奴は俺の裸見てちんこ勃ててたよ、自然に。でも俺はノーマルのもホモのもエロ画像とか何とも思わないんだ」

アスカ「ほんとにい?どっちかはするんじゃないのお?」

業「そこが誤解だってんだよお、俺はただイチャイチャすんのが楽しいだけなんだ」

アスカ「へえ、そういうのって珍しいわねえ。でも相手は求めてくるんでしょ?」

業「うん...話がはえーな」

アスカ、愉快そうに

アスカ「そんなときはどうしてんのよ?」

業「応じるよ」

アスカ「どっちやってんのかは聞かないわ」

業「タチはしたことねえぞ」

アスカ「赤裸々よねあんた」

業「ぶっちゃけボ(ピー)ノールとかお世話になってるよ」

アスカ「やめてよ(笑)」

業「セックスってさ、俺は気持ちよくないしオーガズムは一応あるけど」

アスカ「ドライなの?」

業「いや、一応白いの出るよ、でもハマれないんだ」

アスカ「オナニーはしないってこと?」

業「うん、夢精するたび風呂場でパンツ洗ってるよ」

アスカ「それっておうちの人困るんじゃない?家庭の中で性はタブーだもの」

業「あんな家族にどう思われたってかまいやしない」

アスカ「ごめん」

業「いいよ」

アスカ「そういえば小6の時、あんたがすごく臭かったときあったわよね」

業「何か知らないけどクリーニング代出してもらえるようになったんだ」

アスカ「あんたの親、腹違いだったの?」

業「そっ。親父が不倫してできたのが俺。じっちゃんに預けられて10歳まで育ちましたとさ」

アスカ「じっちゃんが亡くなられて引き取られることになったのよね?今の家に」

業「まあ、親父の家族からしたら寝耳に水だよな」

アスカ「普通離婚するよね」

業「その辺だなあ、継ぎ母は親父に対してやたら甘い。親父がそんなに稼いでないから共働きなのに俺を養う方を選んでる」

アスカ「もしかして『離婚したらどうやって食べていくか』がわからないんじゃない?」

業「そんなことあるのか?」

アスカ「あるみたいよ。でもやっぱりいい気分じゃないみたい」

業「だろうなあ...。ってかさ、転校したころからさ、俺、家に居たくなかったんだ」

アスカ「あんたよくそんな家に住んでてあんな楽しそうにしてたわね」

業「家がそうだからだよ、学校が天国に思えたよ」

アスカ「学校が天国か...そう思えるのはきっと、じっちゃんとすごしてた10年間のおかげね」

業「そんなもんなのか?」

アスカ「自分は迷惑な存在だからって言って家に引きこもる人っているわよ」

業「家の人が煙たがるだろう」

アスカ「そこよね、耐えやすい迷惑を選んでるんだと思う...」

業「お前、学校行ってないのか?もしかして」

アスカ「あたしは行ってるわよ」

業「あたしは?誰が行ってないんだ?」

間。

業「今のクラスに不登校の奴がいるのか」

アスカ「常本先生のクラスじゃ考えられなかったけどね」

業「中学校って難しいよなあ」

アスカ「そんな他人事みたいに言わないでよ」

業「俺も知ってる人か?」

アスカ「うん...」

業「...誰だよ」

間。

アスカ「栞」

業「栞...?」

フラッシュバック

給食の時間

4つくっつけた机

向かいにミカミ

その隣にアスカ

業の隣に最後の誰かがいる

物静かに話を聞いていて

でもときどき目をやると

楽しそうに笑ったのは栞。

我に返る業。

業「なんで栞が...」

アスカ「あれはいじめに入るのかしら...」

業「なにされたんだ栞は」

アスカ「無視よ」

業「栞って中学校で嫌われてたのか?なんであいつが」

アスカ「あたしと仲良かったからかな」

業「お前人気者なのか」

アスカ「あたしだってこんなこと望んでないわよ!」

業「声がでかいよっ」

アスカ「栞が来なくなってやっと気づいたの、栞が笑ってるのずっと見てなかったって!」

業「アスカ...」

アスカ「スポーツも勉強もそこそこできてたけど、ただ素の自分でいただけ!なのにクラスのみんなは自分を取り繕ってるのを思い出してたのよ!あたしを見て!」

業「だから栞を省いたってのか」

アスカ「栞だって素の自分でいただけ!なのに栞だけがのけ者にされた!」

業「いつからだ?」

アスカ「5月の連休明けからよ」

業「5月か」

不良A「よおよお」

不良B「おめーらどこ中だ?」

キョトンとする業とアスカ

業「てめーらこそどこ高だよ?脳みそ足りてなさそうだぜ?」

不良AB「んだとこらあ!?」

アスカ「ちょっと挑発しないでよっ」

業「お前らより格上の奴が俺の兄貴だったらどうする?」

不良A「!」

不良B「てめえの名前は」

業「さて!誰でしょう!?」

不良A「ざけんなこらあ!」

業「お前らがマジの不良じゃないことなんて一目瞭然なんだよ」

不良B「どういう意味だよ?」

業この上なくおどけて

業「高校でびゅ~~~~」

田澤「業っ!!」

ヴヴ

業「あ?着信?」

不良A「俺らを優先しろよ!!」

業「!」

田澤「こんなときに電話出る気!?」

業「常本先生?」

不良AB「!!」

業「あ、切れた」

不良B「常本って、常本哲也か!?」

業「何で知ってんだ?」

不良A「お前らはあの先生のなんだ?」

アスカ「あたしの6年間の担任よ」

不良の二人顔を見合わせ

不良A「お前ら幸せだな」

アスカ「そう思うわ...でもだからこそ生じる問題だってあるのよ」

不良B「不登校の子、そのうち戻るといいな」

業「聞いてんじゃねーよ」

ヴヴ

業「今度はメールか。」

常本先生のメール〈ごめんあの時の履歴間違って押しちゃった〉

業「だって」

アスカ「あなた方はどうして常本先生を知ってるの?」

不良A「あの人夜回りしてんだ」

業とアスカ、顔を見合わせる。

不良B「お前ら受け持ってた頃は違ったんだな」

業「もしまた会えたら常本先生との思い出聞かせてやるよ」

アスカ「どっちかっていうと聞いてほしいんじゃないかしら」

不良A「俺はタバコ吸ってるとこ見つめられて話しかけられた」

不良B「俺はメシ奢ってもらった」

業「不良の間で常本先生、有名なのか?」

不良A「みんなに好かれてるよ」

不良B「おい、行こうぜ」

不良A「ああ」

業「...あんたら、名前は?」

不良AB「名乗るほどのもんじゃねえよ」

間。

アスカ「去り際は悪くないわね」

業「ってか俺らだって今先生に救われたよ」

アスカ「あんな挑発かましといて逃げる算段もなかったわけ!?」

業「俺らも出るか」

アスカ「もうっ!」

===

途中まで歩く業と、アスカ。

業「なあ、なんで俺ら同性がいいのかなあ?」

アスカ「それ思うんだけど」

業「おう」

アスカ「この感じってきっと誰の中にでもあるのよ」

業「クラスに一人って言われてるらしいぜ」

アスカ「そうね、でもほんとは誰の中にもあるものなのよ」

業「表に出るやつは何が違うんだ?」

アスカ「あたしたち、常本先生のクラスでみんな違ってみんないいってこと、つまり博愛を習ったわ」

業「博(ひろ)く愛する」

アスカ「そう。だから普通は閉じ込めておく感情を自分に許しやすいのよ」

常本先生「よう」

業「え?」

アスカ「どうしたの?」

業「...」

アスカ「業?」

業「今、常本先生の声が聞こえた」

アスカ「そろそろ夜回りの時間なのかしら」

業「死んだ人みたいに言うな」

アスカ「ここが分かれ道ね」

業「そうだな」

アスカ「栞のこと話せてよかった、今度一緒に顔見せにいかない?」

業「ミカミもつれてくよ」

アスカ「アドレスと番号交換しとく?」

業「偶然会うなんて今日だけだよ」

アスカ「業打ってよ、あたしのアドレス」

業「いいぜ、見せろ」

間。

業「いつ栞んちに行く?」

アスカ「次の週末」

業「おっけー、部活とかは?」

アスカ「帰宅部だから平気よ」

業「俺も。あ、そういやミカミ野球部辞めたんだ」

アスカ「そうなの!?」

業「他にやりたいこと見つけたらしい」

アスカ「結構センス有りそうだったのに」

業「小学校の頃に味わった野球の楽しさには敵わないらしい」

アスカ「栞も何か見つけれたら...」

業「学校行くことにこだわることなんてねえよ」

アスカ「そうもいかないわ」

業「栞が生きてるならひとまず安心だって」

アスカ「そうね、あんたが死ぬなんて想像できないわ?」

業「ん?なんだそれ?」

アスカ「あたしと業とミカミが生きてるって知ったらさ」

業「ちょっとは元気出してくれるかもな」

アスカ「じゃあ週末にね」

業「おう」

つづく

===

2013年

1-3

業「ミカミ、土曜空いてるか?」

ミカミ「うーんごめん用事ある」

業「そうか...」

土曜日。

アスカと待ち合わせ場所で合流する業。

業「栞には連絡してんのか?」

アスカ「栞、携帯持ってないもの」

業「家にもかけてないのか」

アスカ「いなかったら日を改めればいいわ?」

業「それもそうだな」

===

ピン、ポーン

栞の母が出る。

アスカ「あの、栞さんいますか?」

栞の母「まあ!田澤アスカさんね!そっちは若山業くん!!」

アスカ「覚えててくれたんですね」

栞の母「いつもあの子に思い出話を聞かされてるもの!ミカミくんも来てるのよ?」

業「え?」

ミカミの靴が見える。

栞の母「二人とも音楽室にいるわ?」

案内される業とアスカ。

がちゃ

スティックを持ったミカミ「あ!」

業「打ち込むことってこれか、ミカミ?」

栞「アスカ...!業...!」

===

談笑する4人。

ドラムを叩いてみせるミカミ。

アスカ「サマになってるじゃない」

栞「二人で合奏したりもするの」

業「ドラムとピアノでかあ」

===

栞「中学校でも業とミカミがいてくれたらって思った」

アスカ「それでも常本先生までは引っ張ってこれないわ」

栞「アスカ、連れ戻す気で来たの?」

業「違うよ、ただ顔見せたかっただけだよ俺もアスカも」

アスカ「ごめん業」

間。

アスカ「ちょっとは連れ戻そうと思ってたわ」

栞、うつむく。

だんだんと深刻なムードになってく音楽室。

業とミカミ「...」

アスカ「栞は悪くないのに栞があいつらの悪意に同調してちゃダメなのよ!」

わなわなする栞。

間。

栞「あのクラス、気持ち悪い!みんな自分を偽ってる!みんな嘘の自分で生きている!常本先生のクラスは違った!常本先生は本当の自分を自分で愛していたから!だからみんな無意識にまねしてた!常本先生を!自分で自分を愛するってああいうことだったのよ!なのに、それをしてる自分を常本先生は嘘だって言った!あの授業で!それこそが嘘なのよ!本物はみんなの中に居るのに、みんな本当の自分と出会ったら血の雨が降ると思ってる!それを怖がってるのに勇気だ、自由だってほざいてるのよ!自分を束縛してるのは自分以外の誰でもない!人を束縛できるのは自分だけ!みんな箱を開けたいのよ!でも、この箱を開けることは常本先生にもできなかった...怖かったんじゃない!一人じゃできないの!だから常本先生は教師になった!開けてくれる誰かをずっと信じてた!絶対疑わなかった...!答えは一つしかないの!箱を開けるなら...全員で...。誰も置き去りにしないって言葉で約束するべきなのよ!!なのに差別をして...心の底の不思議を他人に見出して八つ裂きにしてきた!戦争も犯罪も、この世の悪の全ては自分に出会いたいって動機の裏返しなのよ!!みんなの悪意をひっくり返すなんてあたしにはできない!だけど業!あなたになら」

顔を上げると誰もいない。

沈黙

栞「はは...、言わなきゃよかった」

沈黙

栞「どうして誰もいないの?この部屋から出ていったの...音もたてずに?そんなことありえない」

???「今ここには君しかいないのさ」

振り返ると夏服の制服を着た、変わった髪型の少年が背を向けて、座って、片膝を立てて、積み木を積み上げている。三つしかない積み木を。

赤の上に水色が載っている

その上に青い積み木を載せた。

???「どうして」

栞「?」

???「振り返らずに誰もいないって思ったの?」

カットイン

青の問い『なぜ、振り返らずに自分以外の存在がいないと決め付けたのか』

栞「だって、4人しかいなかったもの...あなた誰...?」

後ずさる栞。

???「ごめん、今は名乗れない」

栞「どうしてここにいるの...?」

???「君が来たんだ、君の方から」

栞「あなたは常本先生の底で眠ってた不思議なの?」

???「なるほど、それでここにこれたんだ」

栞「どういうこと?」

???「あの人は、常本哲也は青の自分を愛してる、だから子供の頃に何度もここに来た、相手をしたのはオレじゃなかったけどね」

栞「常本先生のこと知ってるの?あなたもしかして常本先生の最初の生徒なの?」

???「おしいな、オレは君と同い年さ」

栞「あなた誰なの?」

積み木を崩す謎の少年。

2つの積み木が床に崩れる音に栞はおびえた。

???「ちょっと待ってね」

青を一番下にして、その上に水色、赤を積み上げた。

少年が振り返った。大人びてるようなあどけないような顔立ちがみえる。

???「オレは由人、笹原由人がオレの名前」

栞「あたしは栞...あたし、部屋ごと由人のところに来たの?」

由人「そうだよ?哲也は心だけで来れたんだ」

栞「先生は、やっぱりすごかったんだ...」

由人「君だってすごいさ、一人で世界の核心に至った」

栞「聞いてくれる3人がいた、みんなは来てないの?」

由人「積み木が3つあるからね」

栞「誰も来ないときはどうしてるの?」

由人「この積み木で遊んでるんだ」

栞「積み上げるだけで退屈しないの?」

由人「崩すのが醍醐味さ」

栞「由人は生きてるの?」

由人「肉体の方に不思議がいるんだ」

栞「本来は肉体に由人がいるはずなのに?」

由人「崩すよ?」

水色の積み木を抜き取って上に載せた

由人「そう、本来は不思議の方が下に居るべきなんだ」

栞「どうして不思議が下ではなく上にあるの...?」

由人「オレが、人一倍臆病だからさ」

栞「嘘。それがホントならあたしとこんな風に話せるわけない」

ガラ

今度は怯えない栞。

積み木の順:下から青、水色、赤。

由人「みんな赤の自分がすべてだと思ってる、一番重要な自分しかいないって」

栞「どうやって自分の色を変えたの?」

由人「なりゆきでそうなっただけ」

栞「不思議のほうが上に居て、社会生活を送れたの?」

由人「普通に学校通ってるね」

栞「怖い...、あたしが学校行かない理由がなくなる」

由人「世界は終わったんだから安心しなよ」

栞「世界が終わった?」

由人「ハッピーエンドでもバッドエンドでもない終わり方をしたとき、みんなここに来るんだ」

栞「業たちの返事が聞きたい、さっきあたしが言ったことへの返事...」

由人「その子たちは君に追いついてないから無理だ、ホントの事実は誰にも聞こえないものなのさ」

栞「あたしの言ったことは正しかったの?」

由人「うん!君はだからすごい!」

栞「でも、誰にも会えなくなった...」

由人「精神科に担ぎ込まれることで両方を叶えること、つまり真実と共存することも可能だけど」

栞「今度は誰も話を聞いてくれなくなる」

由人「そういうこと」

栞「あたし、ずっとここにいるの?」

由人「それも叶わない」

栞「あたし、どこにいくの?」

由人「いるべき場所」

栞「それは元居た世界じゃないの?」

由人「そうとも言えるのかな」

栞「元の世界に戻ったら業たちにまた会える?」

由人「その子たちには会えるけど、君の到達した真実を口に出す前の時間の彼らだ」

栞「世界は分裂した...」

由人「潔癖になるなよ、業は業、ミカミはミカミ、アスカはアスカ」

栞「3人を知ってるの!?」

由人「約束してるんだもん、知ってる、アスカと栞には会ったことないけどね」

栞「業とミカミとはもう会ってるの?」

由人「そうだよ?でも彼らとすれ違ってるのは由人のオレじゃない。君の言葉で言うなら不思議の方のオレだ」

栞「時間、戻して」

由人「できない。進むことでそこに行けるんだ」

栞「どういうこと?」

由人「時間は揺り籠、思うように生きればいい」

===

アスカ「栞は悪くないのに栞があいつらの悪意に同調してちゃダメなのよ!」

気持ちが叫ぶ前のように高ぶってる。

状況:叫ぶ前と同じ。

しかしもう一度同じことを叫んじゃいけないことがわかる。

栞「(もう一度同じことを一字一句、再現することをできる。でもそれをしたらあの子の言ってた精神科に担ぎ込まれる未来が待ってる...誰もあたしの話を真剣に取り合ってくれなくなる!)」

わなわな震える栞。

アスカ「栞、言葉にできないその気持ち、ひとまずピアノで表現してみれば?」

栞「!聞いてくれるの?」

業「聞きたい!」

ミカミ「一緒に演奏してやろうか栞」

栞「え?」

ミカミの顔

栞「(どっち...?)」

由人の声「最後には問いが残るんだ」

ゲームのような選択肢

⇒ミカミのドラムとあたしのピアノで演奏する。

一人で演奏する。
二択。

カーソルが上下に点滅する、

ミカミのドラムとあたしのピアノで演奏する。
⇒一人で演奏する。

栞「どっち...?」

由人の声「最後には自由が残るんだ」

ミカミ「栞の決めることだよ」

微笑むミカミ。

栞「(もしかして三人ともあたしの叫んだこと覚えててもう一度演じてくれてるの?)」

業「うーん、どっちがいいんだろうなあ?」

栞「わからない!どっちが正しいの!?もう失敗できないの!!」

アスカ「もうっ!思うままにやればいいじゃない!」

栞「!」

間。

栞「(思うようにやればいい...さっきも同じこと言われた気がする、でも、誰に?あたし、何を怖がってたの?思い出せない)」

間。

栞「ミカミと一緒に演奏する」

☆★☆

ドラムとピアノの演奏

ミカミ「曲は?」

栞「サティのジムノペディ1番、やる!」

===

栞「みんな」

間。

栞「お昼ご飯...食べていって?」

===

業とミカミ「おかわり!」

栞の母「3杯目~~~!?男の子ってこうなの~~~!?」

アスカ「ははははは(爆笑)」

栞「お母さん、そんな声上げるんだ!!」

業とミカミ「ええ?ははははは」

===

三人の声「お邪魔しましたあ!」

アスカの声(それでも栞は来なかった、中学1年生の時間のほとんどを栞は家で過ごした、あたしもあれから一度も顔を見せてない)

===

2014年4月

業「あ...」

2年3組

三上健太

2年4組

若山業

業「(ミカミと別のクラスになっちゃったか...)」

ミカミ「若ちゃん」

業「ミカミ...」

ミカミ「3組と4組、下駄箱挟んでるから遠いね」

業「体育の授業は一緒だよ」

ミカミ「さみしいな」

業「俺だって」

ミカミ「ずっと一緒だと思ってた、若ちゃんと」

業「俺もさ」

ミカミ「栞もこんな気持ちだったのかな」

業「俺とミカミをいっぺんに失ったのか」

ミカミ「自分で言うのもなんだけどアスカ一人じゃ」

業「言うなよ」

ミカミ「4人で一つの班だったんだ」

業「ミカミと一緒だからそれが続いてるような気がしてたよ」

ミカミ「おれ、今打ち込むものがあるから若ちゃん居なくても何とか頑張るよ」

業「ミカミがいなくなったら俺荒れちゃうかもな(笑)」

ミカミ「若ちゃんって不良じゃないけどさ」

業「ん?」

ミカミ「おれに秘密があるよね」

業「ミカミだってドラムのこと隠してたろ(笑)」

ミカミ「お互い踏み込めない領域があるんだ」

業「難しいこと言うようになったな...ミカミ...」

ミカミ「じゃあおれ3組行くよ」

業「俺も、新しいクラスの方向くよ」

ミカミ「じゃあね」

業「ああ」

===

2-4

席についてクラスの面々を見渡す業

笹原由人 松雪一葉 他 他 他

業「あ」

何かを思いつく業

業「(しばらく世話になるか)」

===

ピンポーン

モヒカンの男「はーい」

ガチャ

業「ただいま」

モヒカンの男「業」

業「またしばらく泊めてくんねえかな」

間。

モヒカンの男「おかえり」

===

業「友達と別のクラスになっちゃった」

モヒカンの男「帰る家があそこじゃ耐えられないって?」

業「うん」

モヒカンの男「ピザでも取るか」

業「鍋でもつつきたい気分だよ」

モヒカンの男「まだ4時か、よし買い出しに行こう」

業「うん!」

つづく

===

劇外劇
カルマズ全4話

===

撫でる手を引き寄せ業を抱きしめる由人

由人「心配したんだぞ」

業「心配掛けたな」

由人「うわあああああああああ」

業「病院の中探検しようぜ」

由人「...うん」

===

業「由人見ろ!屋上が解放されてる!」

由人「ほんとだ!」

===

由人「業。傷だらけだな」

業「まさか最後はトラックとは」

由人「オレ、業がここに石ぶつけられた時、頭にすげー血が昇ったの覚えてる」

業「あれは仕方ないさ」

由人「石投げたのってミカミか?」

業「ミカミだけどミカミじゃない。ミカミは俺の事若ちゃんて呼ぶもん」

由人「そういやそうか」

業「そういや昔金子みすゞの授業をしたんだ」

===

わたしが両手を広げても

お空はちっとも飛べないが

飛べる小鳥はわたしのように

地べたを早くは走れない

わたしが体をゆすっても

きれいな音は出ないけれど

あの鳴る鈴はわたしのように

たくさんな歌は知らないよ

鈴と小鳥と それからわたし

みんな違って みんないい

由人「その詩知ってる」

業「それから積もった雪」

上の雪

さむかろな。

つめたい月がさしていて。

下の雪

重かろな。

何百人ものせていて。

中の雪

さみしかろな。

空も地面もみえないで。

業「体育館で三人重なって積もった雪になってるやつらがいてさ、ミカミがそいつら一人一人にインタビューしたんだ」

由人「上の人、月が冷たい。下の人、重い。中の人、なにも見えない。」

業「そうそう。しまいにゃミカミがその上に飛び乗って4層目になってさ」

由人「インタビュアーがのっちゃうのかよ」

業「ミカミに『今の気持ちは?』って聞いた」

由人「なんて言ったんだ?」

業「『今日から俺が一番上だ!』って」

由人「へえ」

すっ

業「今の気持ちは?」

由人「オレは由人、そっちこそだれだ?」

業「俺は業!若山業だ!」

由人「オレの中にはオレじゃないだれかがいるのか」

業「俺の中にだってそうさ」

由人「そうだな...」

業「俺らが生きてるって」

由人「オレがココにいる事自体がオレが愛された事の証明なんだな」

業「誰にだよ?」

由人「お前に決まってるだろ」

業「戻ろうか」

屋上を後にしようとする二人、ドアを開けたときミカミとアスカと栞がいる

業「アスカ、栞」

ミカミ「おれは昨日来たからね」

業に抱き着くアスカ

カットイン

アスカ「テレビで踏みつぶされたあんたの携帯観て、あんたがああなったとおもちゃったわよう!」

栞「業...元気?」

業「生きてはいるぜ」

栞「ほっとした!」

アスカ「もおおおおおおおお業の馬鹿ああああああ」

業「由人にミカミに栞にアスカ、そして俺」

アスカ「今ここにいるあたしたちが生きていることってどれだけの奇跡かわかってるの!?」

業「ああ。あっそうだ」

栞「業、何?」

業「いいこと思いついた、高校生になったら5人でバンド組もう!」

栞「え?」

由人「オレだけ小学校違うんじゃないか?」

アスカ「いいわ?あんたの願い聞いたわ」

業「お前はミサンガか」

ミカミ「どういう意味?」

由人「自然に切れたとき夢を叶える」

ミカミ「うまい!」

栞「いいの?あたしも」

業「ここにいる5人だ」

ミカミ「おれがドラム」

栞「あたしがキーボード?」

業「そうだ、由人がギター、アスカがベース」

由人「ギターなんて弾いたことないぞ」

アスカ「あたしもよ。でもやるわ。そのくらい、ベースとギターってどう違うの?」

業「ベースは低音でノリを作るんだ」

アスカ「グルーヴってやつね?わかったわ」

由人「まあ、14才のくせに何かを始めるのをためらうこともないか」

栞「始めるのに年齢なんて関係ない!」

由人「そうだね」

業「高校生になるまで2年間もあるんだ」

アスカ「最高の女ベーシストになってやるわよ、あんたのために!」

===

栞とアスカの帰り道。

アスカ「まずは貯金ね、あとは音楽をよく聞くこと!」

栞「あたし、学校行く」

アスカ「本当!?」

栞「うん、業の死んだ世界を生きるくらいなら、あたしこの世界でちゃんと生きたい」

アスカ「あっ」

とくん。

栞がいた6年間。

栞のいなかった1年間。

そして

アスカ「ああああああああ」

泣き出すアスカ。

アスカ「(あたしは今、かなわない恋をした!!!)」

栞「そっか...ずっと心配かけてたんだ、ごめんね」

アスカ「違うの違うの~~~~!!」

栞「ええ!?いまアスカが何考えてるかわからない!」

アスカ「(あたしは業のために生きるのにあんたを好きになっちゃったのよおおおおおおおおお)」

===

由人帰宅、愛礎が抱き着いてくる。

愛礎「由人なの?」

由人「大丈夫、由人だよ」

抱きしめ返す由人。

母「おかえり、出かける前なにかあったの?」

由人「なにもないよ、ただいま」

===

翌日

常本先生「業」

振り返り驚く業

業「常本先生!」

常本先生「車は怖いなあ」

業「俺の過失だよ、運転手に申し訳ないくらいだ」

常本先生「年間4000人が死んでるんだ、助かったんだからいい」

業「あ」

常本先生「ん?」

常本先生の胸ポケットを見る業

業「それ」

常本先生「ああ、トランプ、お前のことだから眠りながら退屈してるかなってさ」

業「先生は人が起きてても寝てても活動してるって思ってるんだね」

常本先生「だから来る前コンビニで買っといたんだ」

業「さてはもし臨終してたら墓標に添える気だったな?常本先生のことだから」

常本先生「業、死にかけたか?鋭敏すぎる」

業「心臓は一回止まったらしい!」

常本先生「そうかあ。・・・ちょっと遊ぶか?」

業「ポーカーやろう!」

常本先生「お、いいなあ。先生強いぞ?」

業「14才の顔色は見慣れてないはずだぜえ~?」

常本先生「かけるか?」

業「金なんてないよ~」

常本先生「真剣にやる方法ないかな」

業「真剣になるだけでいいんだよ」

常本先生「確かにな、ジョーカーは?」

業「1枚入れる。何回勝負にする?」

常本先生「どちらかが負けを認めるまで」

業「乗ったぜ」

常本先生視点

1戦目

表情を読む常本先生、業は手札に夢中。

業「昨日ミカミと栞とアスカと由人が来てさ」

常本先生「よしとってあのクラスにいたか?」

業「ううん中2になって一緒のクラスになった友達」

常本先生「4人が来てどうなった?」

業「高校生になったらバンド組むんだ」

常本先生「どっちから決める?」

業「なにを?」

常本先生「乗るか下りるか」

業「じゃあ俺から」

常本先生「オーケー。互いのドローが済んだ、どうする?」

業「乗る」

常本先生「おれも乗ろう」

業と常本先生「せーの」

業「スリー・カード!」

常本先生「フルハウス」

業「負けたあ!もう一回!」

常本先生「負けを認めさせたほうが勝ちだからな」

業「おう!」

2戦目

手札交換。業は相変わらず手札に夢中。

無言で笑いながら手札を揃える業。

常本先生「(まあうれしそうな顔しちゃって...勝負して勝った顔を見たい気もするが...子供扱いは...卒業生に対して失礼だな)」

業「さあどうする?」

常本先生「下りる」

手札を裏向きのまま置く常本先生。

業「ちぇ、フォア・カードだったのに」

置いた手札を裏返す常本先生。

常本先生「俺はフラッシュ」

業「フラッシュで下りたのか?俺なら乗っちゃうなあ」

常本先生「ふふ(お前俺の顔見てないだろ)」

常本先生が1勝のまま3戦目。

常本先生「(今の業は臨死体験の影響で鋭敏だ、しかし俺の顔を見ない。飽きた方の負けになるか)」

業は相変わらず楽しそう。おでこの治りかけの傷、鼻頭の傷、頭に巻かれた包帯。

常本先生「(今の業には根負けすらしたくない、ロイヤルストレートフラッシュでも決めりゃいいのか?)」

3戦目で業が何かに気づいた表情。

そしてうれしそうな顔を見せ始め

手札交換の末にそれは頂点に達する

常本先生「何が来た?フォア・カードでもあの程度の表情だったのに」

業「表情?あー!!顔見てたのかずるいぞ!」

常本先生「おいおいポーカーフェイスって言葉があるだろう」

業「げげ~~...」

常本先生「さて乗るか下りるかどっちだ?」

業「乗るぜ」

常本先生「手札を見せたくてたまらないみたいだな」

ツーペアを揃えるも舐めプを選ばず下りる常本先生。

置いた手札から手を放す。

常本先生を見つめる業のうれしそうな顔は崩れない。

常本先生「(しまった!弱い役でかましてきたか!)」

業「じゃーん!!」

常本先生「(業の手札は!?)」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

常本先生「(ブタ!?やられた!いやジョーカーでエースとのワンペアか!!)」

業がワンペアの手札を携えた表情で常本先生を下りさせて勝った。

常本先生「(待て!おかしいぞ!このばらばらの手札を揃える過程で、なんであんなうれしそうな顔ができるんだ!)」

常本先生の混乱した顔を見て業の喜びは有頂天。

業「先生!この役の名前を聞いて?」

常本先生「(名前だと!?)」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

常本先生「(そうか自分でルール上意味を持たない付加価値を与えたのか...!!)」

常本先生は合点がいった。

常本先生「業、先生、ロイヤルストレートフラッシュでも揃えてんのかと思ったぞ、この役はお前にとって何なんだいったい?」

業「これはね...」

唾をのむ常本先生

業「『みんな違ってみんないい』!!」

常本先生の精神が崩壊する

回想

ミカミの声「赤に青に白に黄色!」

唱和「みんな違って!みんないい!!」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

常本先生「ああ!!」

業「全員だ!」

常本先生頭を抱える。

常本先生「ブタとは博愛のことなのか!!みんな違う!1枚も同じカードのないブタは役に勝てない!!勝負にならない!!役と争わないのが博愛か!!」

業「そうっ!ジョーカーがいるから一応ワンペアだけどねっ!」

常本先生「JOKER、KING、QUEEN、JACK、ACEそしてハートにダイヤにスペードにクラブ!」

業「みんな違ってみんないい!!」

常本先生「業は、誰よりも俺の教えた博愛を理解した!!いや!!!俺を超えたんだ!!!」

業「超えた?」

その瞬間、バンド名を業が思いつく

業「先生、俺バンド名思いついた!」

常本「博愛のバンド名!?『みんな違ってみんないい』!?」

業「ううん!由人とミカミとアスカと栞と組むバンド名は」

常本先生「バンド名は!?」

業「『オリジナル・トランプ』だ!赤に青に白に黄色!みんな違ってみんないい!」

常本先生「うおおおおおおお」

ランプから解き放たれた魔神のような声を上げる常本先生。

業「はは、この部屋にほかの患者さんがいなくてよかったっ」

常本先生少し落ち着く。

常本先生「業たち5人にこの手札の役職があるんだな?」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

業「そう、今日みんなが来たら誰がなにか話し合う!」

常本先生「最高じゃないか」

業「へへっ」

常本先生「業、売店にいこう。祝杯をあげよう」

業「ええ!?まあ酒なんて病院にないし、もう卒業してるし、いっか!!」

===

常本先生に売店で何か奢ってもらうものを選ぶ業。

だが常本先生は由人たちとも盛り上がれるようにいろいろ買ってくれた。

売店のお姉さん「ちょうどいただきます」

袋詰めする売店のお姉さん

常本先生「...業、頭撫でていいか?」

業「いいよっ」

業の包帯巻きの頭を撫でる常本先生。

回想

『花丸をやろう』

逆さの青い花丸が書かれた右の手のひら

業「(先生が俺に触れるのってあの青い花丸をくれたとき以来だな)」

『君の担任になる常本哲也です』

『その通り!!嘘で真実を表現しようとした!全て嘘で語ることによって新しい仏教観を構築したんだ!』

常本先生「ふっ、もう俺とそんなに背が変わんないなあ」

業、その一言聞いてトランス。

業「先生っ!」

姿が小学生の頃に戻って先生にしがみつく。

抱きしめ返す常本先生。

常本先生の姿も青白い姿になる。

青白い常本先生「俺を超えた業は俺の誇りだ...!」

小学生の業「うんっ!」

青白い常本先生「いつか卒業した誰かが証明してくれると信じてたけど、それはやっぱり業だった!!」

小学生の業「うん!!」

青白い常本先生「俺、教師になってよかったよ...!」

小学生の業「うん!!!」

青白い常本先生「俺は常本哲也だけど違うんだ!!俺の正体はエニグマだ!!!!みんなの中にいるのに誰もそれを認めなかった!!!」

小学生の業「俺だって、俺だってカルマズだ!!俺だけのエニグマがカルマズなんだ!!!!」

青白い常本先生「カルマズ!お前に会いたくて俺は生まれてきたんだ!」

小学生の業「俺は、先生の夢見た通りみんなのエニグマを全員救う!!」

青白い常本先生「同じ約束だ、俺たちはずっとこの約束を果たすために生きていくんだ!」

業「うん!」

売店のお姉さん口あんぐり。

顔のアップになりよだれをたらしてるのがわかる。

14歳と32歳が涙をぼろぼろこぼして抱きしめ合っている。

売店のお姉さん「(な、なんなのこの光景...)」

抱擁を解く二人

売店のお姉さん「どうぞ」

常本先生「ありがとう」

業「先生、もう花丸くれたりしないのかな」

常本先生「自分よりすごい存在に花丸なんてやれないさ」

ミカミ「あ!」

アスカ「え?あ!」

栞「あ!」

由人「ん。誰?」

ミカミアスカ栞「せんせー!!」

駆け寄る三人についてく由人。

常本先生「おーお前ら、先生は帰るところだ、これみんなで食べてくれ...」

ミカミ「ええ!?帰るの!?」

栞「先生に会えたの卒業以来!」

アスカ「あたしも!」

常本先生「あ、バンドの話聞いたぞ、それにさっき業がバンド名思いついたぞ」

栞「本当!?」

業「ああ、病室行こうぜ」

アスカ「先生も来ない?」

常本先生「さっきいったからな、はは」

ミカミ「先生俺らがライブやったら見に来てくれよな!」

常本先生「2年後を楽しみにしてるよ」

栞「また会える!」

アスカ「うん!」

由人「おい病室行こうぜ」

常本先生「君が5人目のメンバーか」

由人「あ、はい由人です。」

常本先生「(この子もエニグマか...)業たちをよろしくな」

由人「アスカさんと栞さんは昨日会ったばかりですけど、まかせてください」

常本先生「たのもしいな、じゃ、帰るよ」

アスカが手を振って見送る

手を振り返す常本先生。やがて背を向ける。

誰にも聞こえない小声で何かをつぶやく常本先生。

常本先生「由人くんか...(あの子のエニグマは変わってたな...言葉のひっくり返り方の度合いが強いみたいだ)」

『田澤さんと栞さんは昨日会ったばかりですけど、まかせてください』

常本先生「(どういう意味だ?)ミカミと業は知ってたから当然としてアスカと栞も自分にまかせてください。(解読してくれ意味不明だ)6人目がいる?(なるほど)それはもう出会ってる友達、ということか(ふふ、面白い子だな、哲也)ああ(...俺は今日、初めてお前意外の存在に知覚された)」気付かれた聞かれた見られた知られた(最高の一日だ)残りの人生をどう過ごす?(ここからが『戻り道』という訳だよ)」

立ち止まるとちょうど信号前

緑ではなく「青」が信号に灯り、横断歩道を渡り切り

常本哲也「行き道はついに終わったか。業の代わりに俺が死ぬ?(そんなこと、誰にもさせやしない)俺としたことが赤い雨を恐れてしまったか、こりゃ愉快だ(さて今のクラスに気持ちを切り替えよう)」

???「あー常本先生!」

常本先生「おーみのるー!」

みのる「どこいってたの?」

常本先生「お見舞いだよ」

みのる「誰の?」

常本先生「卒業生の業って生徒だ」

みのる「先生いつまで僕の先生でいてくれる~?」

常本先生「お前が先生って呼んでくれる限り、ずっとだよ」

みのる「うん!!じゃあずっと僕の先生ね!」

常本先生「みのるは何してたんだい?」

みのる「カード買いに来たの」

常本先生「いいの当たったか?」

「うん!」

ロングになる「みてみて~」

===

アスカ「ねえバンド名何なの!?」

ミカミ「それでは発表してもらいましょう」

栞「あたしたちのバンド名は」

由人「オレ達のバンド名は」

ミカミ「だらららららららら!だん!」

業「オリジナル・トランプだ」

アスカ「お~」

由人「へ~」

栞「いいかも!」

ミカミ「どういう意味なの?」

業「さっき常本先生とポーカーしてたんだ、最後に先生が負けを認めたのがこの手札!」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

アスカ「ワンペアじゃない」

栞「ポーカーフェイスで先生を下りさせた!」

業「そう」

ミカミ「どんな顔してたの!?」

業「こんな顔」

両手で顔を挟む業。

ミカミ「真相は藪の中か」

由人「俺ら5人がこの5枚ってわけだな?」

栞「それおもしろい!」

業「誰がどれかはこれから話し合おう」

JOKER

KINGハート

QUEENダイヤ

JACKスペード

ACEクラブ

業「俺がジョーカーかな?」

間。

由人栞ミカミアスカ「いやいやいやいや」

アスカ「まあジョーカーはおいといてあたしはジャックね」

栞「ちがうアスカはクイーン!」

由人「ミカミはエースがいいんじゃないか?」

ミカミ「俺がエースう?」

アスカ「野球やってたしね」

栞「あたし、ジャックがいい!」

由人「ならオレがジョーカーだな」

業「キングが俺か」

栞「ジョーカー、冗談しか言わないってどう?」

由人「拒否する」

ミカミ「それも冗談?」

アスカ「反対言葉ね?おもしろいわ!」

業「由人」

由人「なんだ?」

業「ほんとのこと言ったら死刑な?」

由人「ふふっ、そんなことできる訳ない」

アスカ「疲れたらやめていいわよ?」

由人「わかった」

ミカミ「なんかこわいなあ(笑)」

業「由人は自然体でジョーカーなのさ」

ミカミ「そうなんだ」

栞「業だけは由人のことわかってる!」

アスカ「自然体でジョーカー、それってギャグとシリアスに境がないってことかしらチャップリンみたいね」

業「これから一緒に過ごすうち解ってくるさ。なっ由人!」

由人「いやあ、それほどでも...」

ミカミ「なんで照れるの?」

栞「由人のこと、あたしたちも知りたい!」

アスカ「楽しくなりそうね、業」

業「差別の行き道は終わった!これからは博愛の戻り道を歩いていくんだ!」

ミカミ「戻るの?」

由人「たどり着くのは」

栞「どこ!?」

由人「差別の無い世界かな」

アスカミカミ栞「...」

アスカ「そんなの実現できるの?」

由人「できる訳ないさ」

業「嘘つきのことを純真ていうんだ、由人は世界一の純真だ!」

由人「そんな訳ないだろう!前提からしておかしいよ!」

呆然とするアスカとミカミと栞

栞「悪人正機...」

由人「なんだそれ」

ミカミ「差別はなくならないって前提を」

アスカ「あたしたちが覆すの?」

業「この5人でならできるよ!」

由人「そりゃ誤認だ」

一同「ぷっ、ははははは」

リバーシブル・ロード 第12話 行き道と戻り道 おわり

===

JOKER(由人)

KINGハート(業)

QUEENダイヤ(アスカ)

JACKスペード(栞)

ACEクラブ(ミカミ)

時間は揺り籠、思うままに生きなさい。

第1話 橋渡し

2016年4月

業「誕生日来てないメンバーはまだ15歳だからな、なかなか採用してもらえないと思うぜえ?」

由人「どっちにしろ高1取りたがる店なんてそうないよ」

栞「活動資金がなくてもやれることやろうっ」

アスカ「栞がそんなこと言うなんて不思議~」

ミカミ「由人の言ったこと翻訳したんだよ」

栞「あたし、みんなの本音が言える!」

アスカ「筒抜けってことお?じゃあ隠し事する必要がないから楽でいいわね」

業「隠せないのか...俺、この5人なら何でもできる気がするんだ」

由人「マネージャーもほしいってかあ?」

業「そうは言ってねえよ!」

栞「いいかもしれない!」

アスカ「ねえ、マネージャーのオーディションしましょうよ」

ミカミ「SNSで告知して」

栞「来た人の中からこの人!って人を選ぶ!」

業「俺は練習のスケジュールも一人一人の責任で決めたいなあ」

由人「ばか、誰もまだバイト決まってないだろ」

栞「業天才!オレ達には最優先事項がある!」

ミカミ「最優先事項?ライブ?」

アスカ「そうね、目的と手段は混同しがちよね」

業「客観的に見れる人が必要ってか」

由人「マネージャー要らないだろ」

栞「要るってこと!」

ミカミ「由人は素なのかジョーカーなのかわかんないなあ」

アスカ「頭の体操よね、おもしろいわ?」

業「じゃあ全員で告知しよう、たぶん100人くらいその告知見るだろ」

ミカミ「来るのは何人かなあ」

アスカ「どんな人が来るかしら」

栞「アーティスティックな人がいい!」

業「それは栞の本音だな?」

由人「違うよ」

ミカミ「違うの?」

アスカ「アーティスティックな人がいいっていうのは」

由人「満場一致だ」

業「そうなのか!」

ミカミ「おれもそう思う!」

アスカ「あたしも」

栞「あたしも!」

由人「俺はちょっとは人間臭い奴がいいなあ」

アスカ「アーティスティックな人って自分はアーティストじゃないってこと?」

業「いや人間はすべからく表現者だよ」

栞「すべからくってそうあるべきって意味だよ?」

由人「まあ矛盾しないか」

栞「由人の今のそれ、いやだなあ」

アスカ「栞っ、今のどういう意味なの?」

栞「由人、自分が一番すごい表現者だと思ってる」

業「かあっ!おこがましいなあ!」

栞「でも今は作曲できるの由人だけ」

アスカ「詩なら全員書こうと思えば書けるわよね」

業「しばらくは既存の曲やるからさ、由人に依存することにもならないって」

由人「やっぱりオレ、ジョーカーじゃなくてキングだろ」

業「じゃあ俺が道化師だってかあ!?」

一同「ははは」

===

オーディション当日

栞「全員で面接官になる」

アスカ「いいわね。バイトの面接のとききっと役立つわ?反対の立場の視点って」

業に着信

ミカミ「告知見たって人が来たよ!これから一緒にそっちに行く!」

===

志望者、着席。

大学生「失礼します」

業「何才ですか?」

大学生「20歳(はたち)です」

由人「将来の夢ってありますか?」

大学生「プロデューサーです」

アスカ「あたしたちはマネージャーを募集してたんですけどマネージャーとプロデューサーの違いって何だと思いますか?」

大学生「そうですね、プロデューサーは世界観を演出する人、マネージャーはそのままマネジメント、つまり業務管理する役割だと思います」

業「業務管理か」

栞「あたしたち、客観的な目を求めてマネージャーを募集したんです」

大学生「はい、僕は夢のためにマネジメントも知っておかないとと思って応募しました」

ミカミ「チームプレイの経験はありますか?スポーツとか」

大学生「吹奏楽部に入ってました、指揮者にあこがれたこともあります」

由人「オレ達は自分で世界観を演出するつもりだから退屈な雑務ばかりあなたに押し付けるかもしれない」

大学生「かまいません、ひいてはグループがどう動きたがるかをいくつも見ておきたいってことですから」

栞「長期的に見たときいつまでマネージャーやってくれますか?」

大学生「長期的...来年までですね、就活が始まるので」

業「なるほど...」

由人「もっといろいろ聞きたいけど」

栞「ここで終了とします」

大学生「ありがとうございました、採用でも不採用でも連絡していただけますか?」

業「そうします」

大学生「ありがとうございます、では失礼します」

ミカミ「見送らせてください」

業「そのまま、店の前にいてくれるか」

ミカミ「オッケー!」

===

アスカ「ねえねえ!今の人いきなりいい感じじゃなかった?」

業「あ!」

由人「名前聞いてないな」

栞「すごく失礼だった」

アスカ「ああスタート切ったのは業だけど」

栞「流れ始めたら戻すのためらう」

業「ミカミに電話する!」

由人「名前聞いといてってか?」

田澤「それも失礼よね」

栞「失敗経験、1」

業「おいミカミ!その人の名前!え!?名刺くれた!?よかった!!」

由人「準備がいいな」

アスカ「大学生って持ってるものなのかしら」

栞「多分、いままでも活動してたんだと思う」

由人「学歴にも興味持たなかったなオレら」

アスカ「知的なムードに飲まれたわね」

栞「聞かなくて正解」

由人「なんでだ?」

栞「あの人、学歴にコンプレックスある」

アスカ「どこでそう思ったの?」

栞「雰囲気」

業「俺ら年下だし、日本的でいいじゃん」

由人「それ嫌だな」

業「なんでだ?」

栞「由人は和の心に縛られたくない」

業「そっか、由人はずばずばいけばいいよ」

由人「いや、好きにやるよ」

アスカ「ほんと、由人って不思議ねえ」

着信

業「おう!二人目来たか!?」

ミカミ「来たけど知り合いだよ、どうする?」

業「知り合い!?おもしろい!通してくれ!」

ミカミ「わかった」

===

ミカミ「なんで名前出しちゃダメだったの?」

???「業くん通してくれないと思って」

===

ミカミ「連れてきたよ」

松雪の顔が見える。

業、絶句。

由人「松雪」

栞「二中の人?」

業「なにしにきやがった!?」

松雪「マネージャーに志願しようと思って」

業「冗談じゃねえ!お前なんか願い下げだ!」

松雪「そう言うとは思ってたよ帰ったほうがいいかな」

栞「ダメ。きてくれたんだから」

アスカ「あたしたち二中でのことは知らないもの」

業「く~!」

由人「面接する、いいか松雪?」

松雪「お願いしたい」

アスカ「じゃあ」

栞「始めよう」

松雪、着席。

アスカ「お名前を教えてください」

松雪「松雪一葉(かずは)です。一に葉と書きます」

業「どうして来たんだ?」

松雪「大人になりたいと思って」

業「俺らのやってることが子供じみてるって言いてえのか?」

由人「そうは言ってないだろ」

栞「業とのしがらみは聞かない。あたしたちにもわかる言葉でなぜ志願したかを教えて」

松雪「業くんと笹原を手伝いたいと思った。クラスメイトだったし」

アスカ「要するに業に鎌かけられてたってわけね」

業「おいアスカ!その言い方はねえだろ!!」

アスカ「あたしたち業と肉体関係はないの」

業「やめろ!」

由人「松雪、俺らはお前に雑務を押し付けるかもしれない」

松雪「たとえば?」

ミカミ「スケジュール決めとか会場予約とか」

松雪「18になったら車だって出すよ」

業「くっ」

由人「結構長い目で考えてくれてるんだな」

松雪「基本的に雑務をこなす気でいる、プロデューサーとマネージャーは違う」

アスカ「純粋な業務管理に専念して世界観とかそういうのには口を出さないって言ってるけどそれでいいのかしら」

松雪「客観的に、あるいはファンから見てふざけた行動をとりそうになった時は口出すつもり」

業「ファンだあ?」

由人「最後の質問」

栞「今、業をどう思ってる?」

由人「それ」

業「なんかあんのかよ」

松雪「僕は...業くんを見捨てた」

業「そんなセリフは自己陶酔したい奴が吐くんだよ!俺にはこの4人がいるんだ!」

ミカミ「若ちゃん」

業「なんだ?」

ミカミ「人が変わってるよ」

業「黙ってろってか??」

栞「最後の質問の答えは聞けた」

由人「オレは別に松雪のことどうとも思ってないぞ」

アスカ「たぶんもう誰も来ないわ?だからさっきの人とどっちにするか決めたら連絡するわ?番号は」

由人「オレが知ってる」

栞「メモリー確認して」

由人「わかった...あった、ほら。番号同じか?」

松雪「うん」

業「松雪、帰ってくれ」

松雪「ふふわかった」

業「(くそっなにがおかしいんだ)」

ミカミ「見送るね」

===

松雪「やっぱり怒らせちゃったか」

ミカミ「細かいことは気にするなって、若ちゃん小学生の頃から時々人が変わるんだ」

松雪「そうなんだ...じゃあ、ここで」

ミカミ「来てくれてありがとう...、あの」

松雪「え?」

ミカミ「一回笑ったよね?どこがおもしろかったの?」

松雪「ああ、いままで業くんの家行ったことなかったからさ」

ミカミ「おれもないや」

松雪「ううん、君を含めた4人が業くんの家、ホームなんだなって」

===

ミカミが戻ってくる

業「二択なんだ」

由人「片方は絶対嫌ってか」

栞「でも業がこれじゃあ松雪くんは無理そう」

田澤「藤代さん(大学生)に決めたらどうなるかしら」

栞「主導権は私たちのもの」

ミカミ「松雪を迎えるってのは無しなの?若ちゃん」

由人「おっ」

業「あいつを迎えて成り立つもんじゃねえオリジナル・トランプは」

アスカ「ならマネージャーは藤代さんでいいのね?」

業「文句ねえよ」

===

後日、夏祭りのライブの曲目を決める6人

藤代「ノスタルジィから始まるってのはどうだろう?」

業「悪くない」

由人「オリジナル曲はまだ完成度が低い」

栞「由人の曲は未来志向でもノスタルジィでもない」

アスカ「そうよね独特よね」

ミカミ「ノスタルジィってなに?」

業「懐かしさ、かな」

ミカミ「へえ、じゃあ、青い空に絵を描こう」

由人「いいなそれ」

栞「あの歌で到着した後の世界を由人は描(えが)いてる感じがする」

業「じゃあ赤いやねの家」

アスカ「ふふ、業が転校してきた日に歌った曲ね」

藤代「出番で歌えるのは4曲くらいだと思うよ」

ミカミ「オリジナルも入れよう」

業「なら由人のあの曲がいい」

由人「『エニグマ』か」

業「あと一曲は」

由人「新曲なんてそうすぐできるもんじゃない」

栞「任せとけって言ってる!!いい曲があるって!」

業「へえっ、夏祭りのライブ楽しみだなあ!!」

===

7月

業「トップバッター!5人組のオリジナル・トランプです!今日が初ライブです!聞き覚えのある曲があったら思うままに聞いてください!」

青い空に絵を描こう

赤いやねの家

アジアの純真

エニグマ

業「(Aメロ)

赤い屋根 青い下駄

水色の雨 桜色の夢を持ち

僕は眠ってた

(サビ)

ずっと見ていたよ

君が僕との約束を果たそうとする姿を

(Bメロ)

赤い雨を恐れ

裸足の日もあったねでも

ずっと信じていたよ

僕が花咲く日を

(Cメロ)

君が過ぎ去った日 僕らは夢を叶え

僕はまた同じ約束を次の誰かとかわす

今日から(僕以外の一人称)が僕だ

(Aメロ)

赤いシャツ 水色のプリントの模様

背中に大きく灯り

理想の青を抱いて

(Bメロ)

散った桜色は

観えない空を舞う

それは今青の君が夢見る

あの日の約束

(サビ)

僕がここにいる

そのこと自体が

名を咲かせた誰かが僕を愛して

くれた日の証(あかし)



由人のギターソロ

由人「めぐるめぐるよぼくらは

時の旅をする

未来はあの日の足跡

たどれば君がいる」

業「この地層の模様は

めぐりながら連なる

すべての色と出会う約束

博愛をなそう

このエニグマの層で」

(ロックなアウトロ)

歓声

===

カットイン

===

10月

最初の夏祭りライブは盛り上がり、うまくいったがその後はいまいち。

お金の一部を藤代さんに頼ってライブをしたのがまずかった。

発言権を持たれ、5人の思うような世界観と藤代さんのそれとの間にはギャップが生じていた。

いつものファミレス、5人の表情。

由人「もうバンド辞めようぜ」

業「...それはジョーカーとして言ってんだよな?」

由人「ああ冗談さ」

栞「その冗談、賛成」

業「え」

ミカミ「いったん解散して改名しよう」

アスカ「まわりくどいわねあのマネージャーに気を遣うことないわよ」

由人「そうだな向こうも忙しい大学生だ」

栞「そう、あの人暇つぶしでやってるのが嫌」

業「松雪を選ぶわけにはいかなかったろ?」

由人「なんでなんだ????」

業「う」

由人「松雪には普通でいて欲しかったんだろ。これは冗談だけど俺たちも真面目に高校生の本分果たそうぜ」

ミカミ「バンドがなくなったらバイトだけだ」

アスカ「勉学よ」

由人「みんなの親もオレらのこと応援してくれてるよな」

栞「そう、表向きは」

業「俺たちは普通の大人になっちゃダメなんだよ!!!」

間。

栞「でも、常本先生だって普通の大人」

業「!」

アスカ「そうよね、あんな生き方ができるなら別にバンドにこだわることもないわ」

ミカミ「だなあ」

業「ミカミ...!」

ミカミ「若ちゃん、やっぱりバンド辞めよう」

業「4人で満場一致か」

由人「お前をのけ者にしない」

栞「オリジナル・トランプってバンド名は5人のもの」

業「......わかったよ、解散だ」

由人「オリジナル・トランプってバンド名の発案者は業だからな」

栞「えっと、使うなってこと、5人のものだから」

業「お前らじゃなきゃバンドなんてやんねえよ」

ミカミ「若ちゃん...」

アスカ「業...」

うつむいてる業。

間。

業「常本先生も普通の大人、か...(青白い常本先生と泣きながら抱きしめ合った映像)(じっちゃんの後ろ姿)

ああそっか、常本先生とじっちゃんって似てたんだ

...はは、そんなことに気づくためにバンド始めたのかよ」

業目が覚める

携帯に2016年4月の表示

悪夢を見ていた気がするが何も覚えていない

===

業「今日すっげー夢見た気がするんだよ...楽しかったけど、後半でどんどんバッドエンドにむかっていった気がする」

由人「なんだあ?幸先悪いなあっ」

===

アスカ「あ、業と由人来たわよ」

ミカミ「おれ外で来る人いるか待ってる」

===

アスカ「業顔色悪いわね」

由人「夢見が悪かったんだって」

栞「どんな夢?」

業「んーライブをした気がする」

由人「だけどバッドエンドだったんだって」

アスカ「あら残念」

栞「バッドエンドの世界はその世界のそこで終わり」

業「あの世界の俺が永遠にいるわけじゃないのか...ちょっと救われたよ」

===

業に着信

ミカミ「二中の知り合いだけどどうする?」

業「え?知り合い?...まあ通してくれ」

===

ミカミ「どうして名前出しちゃダメだったの?」

松雪「業くん通してくれないと思って」

===

アスカ「やっと一人目ね」

業「...なんで来たんだ?」

松雪「業くんと笹原を手伝いたいと思った」

アスカ「業の顔を見るにしがらみがあるようだけどそれは吹っ切れてるの?」

松雪「中二の頃のことだしさすがにね」

栞「純粋な気持ち」

松雪「うん、ただ混ざりたいってのとも違う」

業「お前以外居ねえんだから仕方ねえ」

栞「?」

アスカ「松雪くんにマネージャーをお願いしたいわよね」

ミカミ「いいんじゃないか?」

由人「俺松雪はどうかと思うぜ」

栞「はは、由人、この6人にビビってる!」

業「まあそんなわけで松雪、スケジュール決めとかいろいろ頼む」

松雪「ありがとう、それでなんだけど」

===

業「今日のところは...解散だな」

アスカ「小目標も決まったし頑張りましょ」

栞「松雪、プロデビューした後のことまで考えてる!」

由人「あれはつまりそういうことかあ」

ミカミ「お金の配分が均等になるようにってことでしょ?」

業「うん。松雪のこと、見直したぜ...」

===

松雪「全員が作詞作曲の能力を持ってるべきだと思うんだ」

第1話 橋渡し おわり

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...