7 / 7
愛川勉篇
7月9日 PM6:30
しおりを挟む
「こんばんは。あ、早速新メニュー開発ですか?」
ショコラの裏口の扉を開けて入ると、薄い赤がはいったグラスが机にたくさん置かれていて、近くには切ったスイカの汁や種が散らばっていた。
「またこんなに汚して…、新作作りに没頭するのはいいと思いますけど、その度に店内ぐちゃぐちゃにしないでくださいよ」
「うーん、ごめん」
不甲斐なさそうに返事しながらカクテルの調整をする豊の後ろを通り抜けて、モップ掛けを始めた。
「ありがとう。やっぱりこういう時に愛川くんみたいに気を利かせてくれるバイトを雇っててよかったなって思うよ」
「そうですね。俺がいなかったらこの惨状を開店までに元通りになんてできなかったですよね」
「あはは…」
本当にマスターは仕事になると周りが見えなくなるし、そのあとの後処理が苦手なものだからさらに手がかかる。だからここでもっと図に乗りたいけど…
「威張らないように」
「なんか言った?」
「いえ、なんでもないです」
そっかと返してお酒を冷蔵庫にしまった。
「スイカのソルティドッグ、試作品ができたから今日店閉めた後に一緒に飲もうか」
「はい。なんかこうやって新商品をいち早くに飲めると、バイト良いなあって思います。試作品ですけどね」
他愛の無い会話をしている間に店内の清掃はすっかり済んで、あっという間に開店時間になって1人、また1人とショコラは酒が好きな人々が交流する場となった。
「バイトくーん、※1ギムレットおねがーい」
「ちょいちょい、バイトくんじゃなくてつとむくん。今ね、頑張って豊さんの修行を受けてる子なんだから、敬意をもって名前で呼んであげようよ」
「そんな、滅相もないです。バイトくんで構いませんよ」
「いいや!俺は何がなんでもつとむくんって呼ぶぞ!豊さんの作る酒は格別なんだ!そんな豊さんが見込んだ男なんだ君は!もっと誇りをもとう!」
「これはありがとうございます。ご期待に添えるように日々精進いたします」
(別に弟子入りしたわけじゃないんだけどなぁ)
「ボーイさん、※2マタドールお願いしていいかしら」
「わたし※3レッドアーーイがいいなー」
「ちょっと夢香、あなた度数低いのばっかのくせになんでそんな酔ってるのよ」
「だって~お酒弱いのに~お酒好きでたくさん飲みたいから~度数低いのにしてるの~…でも意味なかったね~エヘヘ」
「まったく…その酒癖の悪さのせいで彼氏にも捨てられるんでしょ」
「うーーー…悠馬ーーーー…なんでよ~わたしと結婚を前提にとかー言ってたくせにーー…….ボーイさーんひどいよね?」
「ハハ…辛かったですね…」
愚痴、惚気、説教、うんざりする痴話話…ボーイのバイトをしているとこれらの相手はセットでついてくる。それら全てにボーイは紳士的な対応が求められる。どんな話にでも聞き、受け止める姿勢が必要なんだ。確かお母さんが俺に教えてくれた社会の礼儀にも、そういう感じのことがあった気がする。
「軽いジョークやリップサービスを上手く言う様に」
「どんな時も笑って愛嬌振り撒くように」
難しいけど、お陰様で俺はショコラのお客様たちに受け入れられている気がする。
ん?いや…マスターの人望のおかげなのかな…それなら…まだ俺は大人なんかじゃない…のか?
PM11:30
賑わっていた店内からは人が消えて店内のBGM「Everything Happens To Me」がバラードらしく、切なく流れていた。もう客は来まいと豊と勉は店内の清掃を始めていた。それのせいで不意にドアベルの音がした時2人はギクっとして顔を合わせた。その瞬間に店内のBGMは変わり、「Reverse」が流れ出した。
「なんかすみません閉店間際にきちゃって。どうしてもお洒落なお酒が飲みたくなっちゃって」
高そうなスーツ、ネクタイ、革靴…つま先から頭のてっぺんまで品のあるような男性だった。
男はカウンター席に座り勉をよんだ。
「※4シェレスを一杯よろしいですか?お時間は取らせません。この一杯だけで十分なので」
※1 ジンベースの透明なカクテル。ライムジュースとシェークして作られ、元は海軍がビタミンCを摂取するために作られたと言われている。度数は25%以上と高い。
※2 テキーラベースの黄色いロックタイプのカクテル。ライムジュースとパイナップルジュースが混ぜられるためフルーティーな飲み口の良さ。度数は13%と普通くらい。
※3 ビールベースの真っ赤なカクテル。トマトジュースと混ぜてありさっぱりしている。度数は8%と弱い。
※4 シェリーベースの黄金色のカクテル。オレンジビターズ、アンゴスチュラビターズを入れる少し苦目。度数は15%で普通。
ショコラの裏口の扉を開けて入ると、薄い赤がはいったグラスが机にたくさん置かれていて、近くには切ったスイカの汁や種が散らばっていた。
「またこんなに汚して…、新作作りに没頭するのはいいと思いますけど、その度に店内ぐちゃぐちゃにしないでくださいよ」
「うーん、ごめん」
不甲斐なさそうに返事しながらカクテルの調整をする豊の後ろを通り抜けて、モップ掛けを始めた。
「ありがとう。やっぱりこういう時に愛川くんみたいに気を利かせてくれるバイトを雇っててよかったなって思うよ」
「そうですね。俺がいなかったらこの惨状を開店までに元通りになんてできなかったですよね」
「あはは…」
本当にマスターは仕事になると周りが見えなくなるし、そのあとの後処理が苦手なものだからさらに手がかかる。だからここでもっと図に乗りたいけど…
「威張らないように」
「なんか言った?」
「いえ、なんでもないです」
そっかと返してお酒を冷蔵庫にしまった。
「スイカのソルティドッグ、試作品ができたから今日店閉めた後に一緒に飲もうか」
「はい。なんかこうやって新商品をいち早くに飲めると、バイト良いなあって思います。試作品ですけどね」
他愛の無い会話をしている間に店内の清掃はすっかり済んで、あっという間に開店時間になって1人、また1人とショコラは酒が好きな人々が交流する場となった。
「バイトくーん、※1ギムレットおねがーい」
「ちょいちょい、バイトくんじゃなくてつとむくん。今ね、頑張って豊さんの修行を受けてる子なんだから、敬意をもって名前で呼んであげようよ」
「そんな、滅相もないです。バイトくんで構いませんよ」
「いいや!俺は何がなんでもつとむくんって呼ぶぞ!豊さんの作る酒は格別なんだ!そんな豊さんが見込んだ男なんだ君は!もっと誇りをもとう!」
「これはありがとうございます。ご期待に添えるように日々精進いたします」
(別に弟子入りしたわけじゃないんだけどなぁ)
「ボーイさん、※2マタドールお願いしていいかしら」
「わたし※3レッドアーーイがいいなー」
「ちょっと夢香、あなた度数低いのばっかのくせになんでそんな酔ってるのよ」
「だって~お酒弱いのに~お酒好きでたくさん飲みたいから~度数低いのにしてるの~…でも意味なかったね~エヘヘ」
「まったく…その酒癖の悪さのせいで彼氏にも捨てられるんでしょ」
「うーーー…悠馬ーーーー…なんでよ~わたしと結婚を前提にとかー言ってたくせにーー…….ボーイさーんひどいよね?」
「ハハ…辛かったですね…」
愚痴、惚気、説教、うんざりする痴話話…ボーイのバイトをしているとこれらの相手はセットでついてくる。それら全てにボーイは紳士的な対応が求められる。どんな話にでも聞き、受け止める姿勢が必要なんだ。確かお母さんが俺に教えてくれた社会の礼儀にも、そういう感じのことがあった気がする。
「軽いジョークやリップサービスを上手く言う様に」
「どんな時も笑って愛嬌振り撒くように」
難しいけど、お陰様で俺はショコラのお客様たちに受け入れられている気がする。
ん?いや…マスターの人望のおかげなのかな…それなら…まだ俺は大人なんかじゃない…のか?
PM11:30
賑わっていた店内からは人が消えて店内のBGM「Everything Happens To Me」がバラードらしく、切なく流れていた。もう客は来まいと豊と勉は店内の清掃を始めていた。それのせいで不意にドアベルの音がした時2人はギクっとして顔を合わせた。その瞬間に店内のBGMは変わり、「Reverse」が流れ出した。
「なんかすみません閉店間際にきちゃって。どうしてもお洒落なお酒が飲みたくなっちゃって」
高そうなスーツ、ネクタイ、革靴…つま先から頭のてっぺんまで品のあるような男性だった。
男はカウンター席に座り勉をよんだ。
「※4シェレスを一杯よろしいですか?お時間は取らせません。この一杯だけで十分なので」
※1 ジンベースの透明なカクテル。ライムジュースとシェークして作られ、元は海軍がビタミンCを摂取するために作られたと言われている。度数は25%以上と高い。
※2 テキーラベースの黄色いロックタイプのカクテル。ライムジュースとパイナップルジュースが混ぜられるためフルーティーな飲み口の良さ。度数は13%と普通くらい。
※3 ビールベースの真っ赤なカクテル。トマトジュースと混ぜてありさっぱりしている。度数は8%と弱い。
※4 シェリーベースの黄金色のカクテル。オレンジビターズ、アンゴスチュラビターズを入れる少し苦目。度数は15%で普通。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる