記憶を封じられた新米冒険者、森で誰にも見えないはずのS級冒険者を拾いました

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採取依頼、完遂。そして小さな贅沢を

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 クレハ草の採取を終えた私は、最後にもう一度あたりを確認してから、静かに転移陣へと戻った。

 赤い輝石が埋め込まれた転移陣の中央に立ち、意識を指輪に集中させる。

 《転移先選択:自室/始まりの洞/冒険者ギルド前/ドーム北/ドーム東/ドーム南/ドーム西》

「ギルド前……」

 選択を確定すると、視界が淡い光に包まれ、足元の感覚がすっと変わった。

 次に目を開けたとき、私はギルド前の広場に立っていた。

 日はすでに傾き、空は茜色に染まり始めている。転移陣の周囲には人が多く、冒険者や商人たち、町の住人たちの姿が行き交い、にぎやかな声が飛び交っていた。

「よう、今日はいい収穫だったな!」 「美味しいクレ串いらんかね!脂が乗ってるよー」
  「この輝石、少しでも多く持ち帰れたのはお前のおかげだ」

 周囲には屋台が立ち並び、焼きたての香ばしい匂いが鼻をくすぐる。金属の打ち合う音や、笑い声、素材を抱えた冒険者が仲間と肩を並べる姿が、活気に満ちた空間を形作っていた。

 ギルドの近くには様々な職種の人が集まって住んでいるエリアもあるとは聞いていたけど。なるほど、活気があるわけだ。

 小さく息を整えた私は、意を決してギルドの重たい木製扉を押し開けた。

 中は相変わらず賑やかで、数人の職員が忙しそうにカウンターの向こうで応対していた。列に並び、やがて私の番になると、見慣れた顔がこちらに微笑んだ。

「いらっしゃい、レイナさん。クレハ草、無事に採れました?」

「はい、十束ちゃんと採取してきました」

 そう言って指輪から薬草を取り出すと、女性職員さんは笑顔の対応が丁寧で、一束ずつ丁寧に数を数えて確認してくれる。

「……うん、間違いなく十束ですね。お疲れ様でした!」

 彼女が頷くと、報酬が手渡された。私はそれを指輪に収納する。収納が完了した瞬間、所持金に加算される音が耳に届く。

 《現在の所持金:250リル → 250+400=650リル》

「それと……スモッグラット、出ませんでしたか?」

「一匹だけ……倒しました」

 そう答えて指輪から毛皮と赤い輝石を出すと、彼女は目を丸くした。

「わあ、これは換金できますよ。毛皮が30リル、輝石が……大きさと質からすると、200リルですね。こちらも追加で換金いたしますね」

 手際よく手続きが進み、再び報酬が渡される。私はそれも指輪に収納する。

 《現在の所持金:650リル → 650+230=880リル》

「あと……スライムの素材も、少しだけあります」

 私は養成所時代の素材と、卒業後に倒したスライムの素材をまとめて差し出した。合計で素材が6個、赤い輝石が10個。小さめだが、まとめての換金は可能とのこと。

「素材は1つ10リルなので60リル。輝石は……小さめですが、数がありますね。10個で500リルになります」

 《現在の所持金:880リル → 880+60+500=1440リル》

 お金が一気に増えた感覚に、心なしか背筋が伸びた。

「ありがとうございました……!」

「こちらこそ、たくさん集めてくださって助かります。今後もご活躍を期待していますね!」

 笑顔の職員に軽く頭を下げた私は、ギルドを出て広場に戻った。

 空はすっかり夕暮れ色。お腹も空いてきたことだし、少しくらい贅沢しても……いいよね。

 私はふと立ち止まり、香ばしい匂いに引かれて、近くの串焼き屋へと足を向けた。

「クレの串焼き、二本ください」

 たっぷり脂ののった獣肉と甘みのある玉ねぎが交互に刺さった串焼きが、炭火でじゅうじゅうと音を立てて焼かれている。その香りだけで、胃がきゅうっと鳴った。

 熱々の串を受け取りながら、隣の果実水屋でベリー水を注文する。淡いピンク色の果実水はほんのり甘く、ほどよい酸味のある香りが疲れた身体に染みわたりそうだ。

 《クレの串焼き×2(100リル)+ベリー水(50リル)=150リル支出》

 《現在の所持金:1440リル → 1290リル》

 ……さあ、自室に戻ろう。

 
 串焼きと果実水を大事に抱えながら、私は再び転移陣へと足を運んだ。

 《転移先選択:自室/始まりの洞/冒険者ギルド前/ドーム北/ドーム東/ドーム南/ドーム西》

「……自室で」

 淡い光が再び私を包み、気がつけば、見慣れた部屋の空間が目の前に広がっていた。

 ここは、養成所時代から使っている部屋。卒業して正式な冒険者となった今も、家賃を払えばそのまま住み続けられる。質素だけど、落ち着ける場所だ。

 私は靴を脱ぎ、串焼きと果実水を小さな丸机の上にそっと置いた。

「ふぅ……」

 ため息のように息を吐いて、腰を下ろす。ようやく――ようやく、今日一日が終わったのだと思える瞬間だった。

 まずは串焼きから。熱が冷めきる前に、竹串をそっと手に取る。

 ……じゅわっ。

 噛みしめた瞬間、脂が舌の上に広がった。濃厚な肉の旨味と、玉ねぎのやさしい甘み。噛むほどにジュワジュワと味が染み出してきて、自然と頬が緩む。

「……美味しい」

 一人つぶやいた声が、静かな部屋にぽつりと落ちた。

 果実水もひと口。冷たさと甘酸っぱさが喉をすうっと通って、疲れが少しだけほぐれていくような気がした。

 テーブルに肘をつきながら、私はぼんやりと天井を見上げる。

 なんとか、やりきれた。

 頭痛はまだ少し残っているけれど、今日は無事に依頼を果たして、ギルドでもちゃんと換金できた。

 それに、少しだけ贅沢もできたし。今の所持金は1290リル。しばらくは家賃にも困らないはず。

 不安がまったくないわけじゃない。けれど、それでも……

「明日も、頑張ろう」

 そう呟いた私の胸の奥には、小さな満足と、確かな一歩の実感があった。

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