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最期を告げる声
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【王宮・特別区域 隔離室】
扉の外の廊下から、足音が近づいてくるたびに、心臓が跳ねた。
だがそれは、食事の運搬か、見回りか、あるいは何もないことの方が多かった。
リリア・バレンティナは、硬い寝椅子の上で膝を抱えていた。
「……ねえ、赤ちゃん……元気にしてる?」
誰に聞かせるでもない独り言。
だが、それは今となっては空虚だった。
出産の日、初乳を与えたきり――
彼女は赤子の顔を見ることすら、許されていなかった。
「危害を加える恐れがある」と、
誰に言われたのかもわからぬまま、隔離された。
何もかもが狂っていった。
思い描いていた“王妃の未来”は、ただの泡だったのだ。
あの日、産声を聞いたとき。
その小さな命の髪と、瞳の色を見た瞬間――
自分でも、分かってしまった。
その色は、王家の血筋でも、自分の色でもない。
あの色は――サフィール家の色だったから。
いつまでも知らせが来ない。
乳も張らなくなった。
誰も、あの子のことを何も教えてくれない。
その沈黙の意味を、リリアは薄々わかっていた。
「ねえ……私……そんなに悪いことしたの?」
扉の向こうが静かになったとき、
足音が止まり、扉が開いた。
現れたのは、王家の公式使者だった。
見慣れない男。
だが、纏う威圧だけで、その目的がわかった。
「リリア・バレンティナ殿。
貴女への裁定が、王家より正式に下されました」
「……え?」
彼女は声を漏らした。
「貴女は、王家に対して重大な虚偽報告を行い、王宮内に混乱を招いた。
それにより、王家は貴女を“死罪”と認定いたします」
静かに、はっきりとした声だった。
リリアは目を見開いた。
「……死罪……?」
言葉の意味が、頭に染み込むまでに時間がかかった。
「うそ……そんな……赤ちゃんを……産んだのよ、私は……!」
「赤子は、王家と血縁関係にないことが証明されております。
父は、サフィール子爵家の令息、レオン・サフィール。
赤子はすでに、同令息の元に引き取られました」
「そんな……」
言葉にならない声が喉から漏れた。
何かを叫ぼうとして、言えなかった。
崩れ落ちるように、膝を床につけた。
「…どうして……こんな……」
誰も答えない。
もう、誰も手を差し伸べる者はいなかった。
使者は一礼もせず、冷ややかに告げた。
「処刑の時期は、身体の回復を見て正式に決定されます。
以降、面会・弁明は一切受け付けられません。
どうか、静かに“その時”をお迎えください」
扉が閉じる。
まるでこの世との接点が、音を立てて消えていくように。
リリアの肩が震えた。
彼女の涙だけが、静かに衣を濡らしていた。
扉の外の廊下から、足音が近づいてくるたびに、心臓が跳ねた。
だがそれは、食事の運搬か、見回りか、あるいは何もないことの方が多かった。
リリア・バレンティナは、硬い寝椅子の上で膝を抱えていた。
「……ねえ、赤ちゃん……元気にしてる?」
誰に聞かせるでもない独り言。
だが、それは今となっては空虚だった。
出産の日、初乳を与えたきり――
彼女は赤子の顔を見ることすら、許されていなかった。
「危害を加える恐れがある」と、
誰に言われたのかもわからぬまま、隔離された。
何もかもが狂っていった。
思い描いていた“王妃の未来”は、ただの泡だったのだ。
あの日、産声を聞いたとき。
その小さな命の髪と、瞳の色を見た瞬間――
自分でも、分かってしまった。
その色は、王家の血筋でも、自分の色でもない。
あの色は――サフィール家の色だったから。
いつまでも知らせが来ない。
乳も張らなくなった。
誰も、あの子のことを何も教えてくれない。
その沈黙の意味を、リリアは薄々わかっていた。
「ねえ……私……そんなに悪いことしたの?」
扉の向こうが静かになったとき、
足音が止まり、扉が開いた。
現れたのは、王家の公式使者だった。
見慣れない男。
だが、纏う威圧だけで、その目的がわかった。
「リリア・バレンティナ殿。
貴女への裁定が、王家より正式に下されました」
「……え?」
彼女は声を漏らした。
「貴女は、王家に対して重大な虚偽報告を行い、王宮内に混乱を招いた。
それにより、王家は貴女を“死罪”と認定いたします」
静かに、はっきりとした声だった。
リリアは目を見開いた。
「……死罪……?」
言葉の意味が、頭に染み込むまでに時間がかかった。
「うそ……そんな……赤ちゃんを……産んだのよ、私は……!」
「赤子は、王家と血縁関係にないことが証明されております。
父は、サフィール子爵家の令息、レオン・サフィール。
赤子はすでに、同令息の元に引き取られました」
「そんな……」
言葉にならない声が喉から漏れた。
何かを叫ぼうとして、言えなかった。
崩れ落ちるように、膝を床につけた。
「…どうして……こんな……」
誰も答えない。
もう、誰も手を差し伸べる者はいなかった。
使者は一礼もせず、冷ややかに告げた。
「処刑の時期は、身体の回復を見て正式に決定されます。
以降、面会・弁明は一切受け付けられません。
どうか、静かに“その時”をお迎えください」
扉が閉じる。
まるでこの世との接点が、音を立てて消えていくように。
リリアの肩が震えた。
彼女の涙だけが、静かに衣を濡らしていた。
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