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しおりを挟む「うちの父さんはセシリアを気に入ってるからね。君と結婚すれば家も継げるし、問題ないよ」
さも当然のことのように言う。少し前には婚約解消になるものと思っていたセシリアは、困惑のまま眉根を寄せた。
「ちょっと待って。あなた、私の顔が気に入らないって…」
「えー、じゃあ、ルピのこと可愛いって言った嘘なんだー」
セシリアの言葉に被さる高い声。慌てた様子でメルセスが弁解し始める。
「嘘じゃないよ! ルピのことは世界で一番可愛いって思ってるし!」
「でも、その子と結婚するんでしょ? ルピ二番目とかヤダー」
「ルピのことは一番愛してるよ! 一番大事! 一番大切! セシリアは正妻ってだけだよ。だって顔が気に入らないし、この間承諾してくれたし!」
「……いい加減にしないか! おかしな話をベラベラ、ベラベラと!! もう出ていってくれ! 自分の領地に帰れ!」
自分本意な主張に、ファブラが声を荒らげる。ビクッと肩が跳ねて、けれどすぐに不満そうにしたメルセスは、口を尖らせたまま返した。
「あーそう。もういいよ。こっちだって疲れたし、ね? 帰ろうルピ」
「えー」
「なんか買ってあげるからさ」
「んー。じゃあ、いっかー」
メルセスがルピアの肩を抱いて、来た道を戻っていく。だが途中で足を止めた。彼はわずかに顔を向けて、セシリアに声をかける。
「セシリアも来なよ。今夜、父さんが来る予定なんだ。挨拶してくれれば喜ぶし。それに君は僕の婚約者だろ?」
「……」
暗に体面が悪い、とでも言いたげだ。セシリアは眉間に深くシワを作り、不快さを露にする。言い返そうと口を開きかけたが、それを遮るようにファブラが前に出た。
「悪いが彼女は俺の客人だ。数日泊まると彼女の家に伝えてある」
その言葉にメルセスは一度睨み付けて、一拍置いて「あっそ」と返した。
「なら、仕方ないけど。セシリアは僕のものだからね。手を出さないでよ」
以前から、こうして独占欲に似た言動をすることがあった。けれど今、それがどういう意味で言っていたのか、わかってしまう。彼は、本当に言葉のまま、セシリアのことを都合よく利用できる物として見ていた。
彼女は嬉しくもない言葉に俯き、唇を噛み締める。メルセスたちがいなくなってからも握った拳がわずかに震えていた。ファブラが思わず、そのセシリアの片手に優しく触れる。
「そんなに固く握っては傷になる。ひとまず戻ろう。君は少し休んだ方がいい」
「…そう…ね」
微かな声で応えて、小さく息を吐きだし、ゆっくりとファブラを見上げる。先程まで凛と輝いていたセシリアの紺の瞳が、悲しみに揺れている。今にもこぼれ落ちそうな雫に耐えきれず、ファブラは彼女の肩に手を回した。
「……っ……うぅ……」
そっと抱き寄せ胸にセシリアの顔を押し当てる。彼女は押し殺すようにして、微かな嗚咽を洩らした。
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