迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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決行の日②

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 ただ私に対しては、難しいことを言わなかった。獣の中心──ソンブルに近づけば良いだけ。

 そうすれば、スマホに込められた術式が展開するそうだ。そこを終えるまでは、近衛の方々が守ってくれる。そうアミーラ様は言った。

 信用するのは難しかったけど、私が死んだらその時点で作戦失敗となる。

 それは彼女も望んでいない。それを分かっていたから、ここにいる。

 理解しながらも目の当たりにした戦場を前に、手が震えてしまう。それを無理矢理、押さえ込んだ。

 ……大丈夫、怖くない。

「着きました」

 その言葉に顔を上げ、短く返事をする。

 促されるままに外に出たら、砂混じりの風が抜けていった。

「ルミ様、ここからは馬で移動にします。お手を」
「はい」

 手を借りて、近衛の方の馬に登る。慣れてないから不安定さは感じるけど、それでも前よりも余裕があった。

「……」

 ふと思い出す噴水広場。こんなところでまで、彼を思い出してしまうなんて、どれ程諦めが悪いのだろう。

 馬上で痛いほどの風を受けながら、そんなことを思っていた。

 騎馬隊に混じり前衛まで向かう。さすがは王女様付きの近衛兵。獣を一切近づかせず、攻撃はもう一人が受けていた。

 飛びかかるヴォルフの爪を剣で払い、炎の魔術だろうか。火球が飛んでいく。当たった瞬間「ギャン」と鈍い鳴き声が耳に残る。

 あの子達も、理由なくここに喚び出されただけなのだ。侵略などするつもりもないのに攻撃されている。

 こんなこと早く終わらせなきゃいけない。焦り始める中、言葉が掠めた。

「……もうすぐ中心です。ご準備を」

 肩から下げているカバンの持ち手を握り締める。そのまま大きく頷いた。

 もう一人の近衛の方が、空に向かって小さな石のようなものを投げる。

 直後、キンッと高い音を立てて宙に波紋を作った。あれは狼煙に似たもので、作戦の合図を自軍に伝えたようだ。

 その証拠に戦っていた者達が徐々に引いていく。魔獣達も何かを察したのか、警戒するように下がっていく。

 その中でソンブルと目が合った。直後、耳をつんざく叫びを上げる。

「!」

 瞬間、ヴォルフたちが動きを揃えて向かって来た。

 まるで何かの指示を受けたかのよう。

 突然のことに私を運ぶ近衛の方が焦って、手綱を強く引いた。

 馬の嘶きと共に、体が大きく揺れる。すぐに進路を変えたけど時はすでに遅く、ヴォルフ達が飛びかかって来ていた。

「ぐっ!」
「きゃ!」

 雪崩れ込むような体当たりを受けて体勢を崩す。無理矢理立て直したものの、二撃目を受けて私は勢いよく体を投げ出されてしまった。

「っ!!」

 なんとかカバンだけは手放さないようにと握り締める。けど、受け身が取れない。

 このままでは地面にぶつかってしまう!

 焦る中、懐かしい声が耳を掠めた。

「ルミ!」

 ザッと蹄が地面を蹴る音。横切るフェルの姿に、半ば無意識に手を伸ばした。

「フェル!」

 瞬間──地面に丸い緑の紋様が浮かび、ふわり、と風が吹いた。まるで吸い寄せられるようにフェルの腕の中に収まる。

「今のは……?」
「私の魔導具だよ。風の力で……」

 けどだんだんと言葉のなくなる。フェルがヴォルフたちから離れると、馬の速度を緩めて強く抱き締めてきた。

「フ、フェル?!」
「やはり、私はダメだな」
「どういう…」
「何度も考えたんだ。……一時ならば耐えられるだろうか、と。耐えなければならないのだと。だけど……」

 彼の言葉を遮るようにヴォルフ達が近づいてくると唸り、威嚇してくる。警戒するようにフェルが言う。

「…話は後だね。君はここを離れるんだ」
「それは……出来ません」

 私はこの不毛な戦いを止めに来たのだから。強い意思とともに彼を見つめたら何かを言いかける。

 けど、それを許すことなく中央のソンブルが頭をもたげ再び声を上げた。それを聞いて彼に訴える。

「フェル、時間がないの。このままあの子の元へ連れて行って」

 ヴォルフ達がじりじりと距離を詰めてくる。今にも攻撃を仕掛けてきそうだ。

 だけど彼は全く動く気配を見せない。

 見上げたら、藍色の瞳が切なげに揺れた。

「君をあの場に連れていけば、どうなるのかは分かってる。けど……」

 小さく息を吐いて正面を見据える。呟きが耳を掠めた。

「皮肉だな。今になって君と観た劇が思い出されるんだ」
「……」

 彼の顔を見ていられなくなって視線を逸らす。

 私だって思い出せる。あの時、あの二人がなんと言っていたのかを。

 ヴォルフ達が唸り声を上げる。慌てて名を呼ぶと、フェルはようやく手綱を握り締めた。

「ルミ、しっかり掴まっていてくれ」
「はい!」

 速度が速すぎて、思い切りしがみつく。だから前方の様子は全く分からなかったけど、不思議な安心感があった。

 大丈夫。彼と一緒なら辿り着ける、と。

 しばらくして速度がゆるやかになる。恐る恐る振り返ったら、ソンブルが間近にいた。

 その真紅の瞳を見つめたら、小さく一鳴きする。すると、ヴォルフ達が一斉に大人しくなり、その場にゆっくりと腰を下ろし始めた。

「…………」

 ……この子は……。
 
 ソンブルはもしかしたら、帰ることが出来ると気付いたのかもしれない。

 周りにはもう兵の姿もなかった。皆、撤退したのだろう。

 危害を加える者がいないと、理解したのか。その子自身も静かに腰を下ろす。それはまるで、時間を与えてもらったかのようだった。

 不思議な静寂が訪れる中、フェルが馬から降りて手を借り同じように地面に足をつけた。

 そのままソンブルへ向かう最中、引き留めるように手首を掴まれた。
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