不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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十六、自慰

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 これは一体どういうことだろうか。
 僕は、アルの逞しい腹筋に、裸のままぺたりと座らされている。
 はじめはタオルで秘部を隠していたのに、いつの間にやらどこかへ行ってしまった。

(こんなの、丸見えじゃないか)
 カッと顔が熱くなる。
 隠せるものは何もない。

 お風呂のむわりとした空気に、くらりと眩暈めまいがした。

「どうした? 動いてみろ」
 言うまでもないが、この体勢はとんでもなく恥ずかしい。
 それをわかっているはずなのに、アルが可笑しそうに急かした。

 いっそアルの上から退けば良いのだが、逃げないように両手首を掴まれている。
 快楽で立てなくなった僕は、ただアルの身体の上でわずかに動くことしか出来ない。

「深く考えるな。俺は何もしない。お前を犯したり、身体を暴いてはいない。アスアドとやらに引け目を感じる必要はないだろう。ただお前は自慰をしているだけだ。固い床に身体を擦りつけて。それならば問題なかろう」
「そ、んな……っ、あ」

 問題がないわけない。
 それがわかっていながら、絶頂前の敏感な身体は、少しの刺激にもびくんと跳ねた。

 浴場では呼吸がしづらい。
(ダメだ、頭がぼうっとして……)
 僕は獣のように、口を半開きにして、犬のように舌を少し出し、天井を仰いだ。
 イきたくてもイけない身体が痙攣けいれんするみたいに震えている。

「どれ、手本を見せてやろう」
 動かない僕に焦れたのか、アルが腹筋を波打たせた。
「ひぃあアアっ! ア、る、動かな……っ、ぁ!」

 アルの上に乗っている僕は、その振動に合わせて、ずり、ずりと前後に中心が擦れる。

「嫌か? それなら自分で動いてみろ」
 アルは、まるで僕を操るかのように見据えた。
 紫水晶アメジストの如き瞳は、射貫くように真っ直ぐに僕を見つめている。
 アルはまるで帝王のようだ。

 笑顔を浮かべているときは、気さくで親しみやすいのに、その表情が一転し真顔になったときは、あまりに冷酷なようにも見える。

 僕はあたかも、アルに操られているかのように、おずおずと両のてのひらを、アルの腹筋に置いた。
 小麦色の鍛え上げられた深い刻印のような腹筋は、なかなかお目に掛かれない。

 アルは、ただ無言で、じいっと僕を見ているだけだ。
 その眼差しに視姦されているようで、ぞくりとする。

 そして、堪え性がない僕の身体は、前後運動を始めた。
 腰をゆらめかせ、アルの腹筋に勃起したものを擦りつける。

「んン、……っぁ、ふ、っく……っ」
 じわりとこめかみから汗が浮かび、ぽたりとアルの腹筋に落ちた。
 それでもアルは微動びどうだにしない。
 僕の痴態をただただ注視している。

 アルに絶頂寸前まで追い上げられたペニスは、陰嚢がアルの腹に擦れるだけで、竿の部分が当たらない。

「うう、ぅあ……」
ただ座っただけの平行運動では、じりじりと焦燥しょうそうが募るばかりだ。

 過ぎた快楽は拷問ごうもんだ。
 しかも、絶頂前の暴発しそうな快感をずっと味わっているなんて、頭がおかしくなりそうだった。

 僕はそれでも懸命に腰をグラインドさせた。

「ううーっ、っぁ、んんっ、んはっ、ぁっ」
 
(イきたい。イきたい。イきたいのに、全然イけない)
辛くて、生理的な涙があふれた。


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