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七十一、七日間の禊(2)
しおりを挟む「扉は厳重に塞いだ。もはやこの建物には、鼠一匹、入れやしない。例え君がアルをどんなに想っていたとしても、一週間もの間、別の男と番った花嫁を、アルが許すことはない」
恐ろしさに、歯が鳴るのは初めてだった。
(寒いわけじゃないのに……っ!)
僕の前に居るのは、痩せた狼だ。
暗闇の中で息を潜め、眼光鋭く獲物を狙っている。
力はそれほどない。
しかし、自分でもそれをわかっているのか、確実にこちらを追い詰め、そして喉笛に食いつこうとしている。
じりじりと、距離を詰められていく。
「やめ……っ、アスアド、様……っ」
ヘッドボードにトンと背中が着いた。
それ以上、後退することは出来ない。
その時を狙っていたかのように、アスアドに手首を掴まれた。
「おねが……っしま……っ! もういちど、アル様と話、を……っ!」
この状況になってわかった。
僕はもう、アルが居なければだめになってしまったのだ。
アルだって、あれほどアスアドのもとに嫁ぐことを反対していたのに、それを押し切って逃げ出した。
(僕は、ばかだ)
アスアドは、それほど力がないと思っていたが、組み合ってみれば、僕との差は歴然だ。アルと比べてみれば細いだけで、動きは体術に長けた者の動きだ。
僕は難なく寝台に組み敷かれた。
ひやりとしたシーツの温度が、手の甲に伝わる。
手足を思い切り動かそうとしてもビクともしない。
「大人しくしている方がいい。私はこの国ではちょっとした――珍重される血筋でね。柚が私の舌を嚙み切ったり、怪我をさせたりすると、今度は私に柚に引き合わせた、アルに迷惑が掛かることになる」
抗う僕へと、アスアドは囁く。
(僕のせいで、アルに……迷惑が……?)
瞬間、僕の抵抗が止んだことを察して、アスアドは如何にもよそ行きの笑みを滲ませた。
「そう、それがどういうことか、よくわかるね。アルの社会的な地位を失墜させることも、私には容易く出来るということだ。別荘で、アルは決して私に逆らうことはしなかったろう? つまりは、そういうことだ」
アルが、アスアドの言うことを聞いている理由は、権力の地位でもってみても、アスアドの方が位が高いからだという。
――もう、諦めるしかないのかもしれない。
圧し掛かってくるアスアドの胸元を押し返していたが、ふとそんな考えが頭をよぎった。
ここで、僕がアスアドを傷つけるような真似をすればアルに迷惑が掛かる。
アルのもとに逃げ帰ったとしても、どのみちアルに迷惑が掛かることは明白だ。
――逃げる術は、どこにもない。
僕が絶望的な瞳をする瞬間を待ち焦がれていたかのように、アスアドは僕の手首を頭上で一纏めにした。
(嘘……っ!)
「柚。『禊』の契約により、一週間、私と交尾をして貰うぞ」
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