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百八、楽園追放(5)
しおりを挟む師匠の言葉に、ナースィフは声を震わせる。
立ち尽くし、か細い四肢を、唇を、戦慄かせた。
「だが……、だが……っ、実の父である王にさえ疎まれて、暗殺者を差し向けられる私に、どこに生きる理由がある……!」
低い声は、間違いなく、ナースィフの慟哭だった。
「本当に――そうなのかな……」
僕はぽつりと呟いた。
いくら第二王子のアルを、玉座に据えると考えていたとしても、我が子を暗殺する理由はない。
「柚?」
「ねえアル! 本当に、王様はナースィフ様を殺そうとしていたのかな……?」
イスハークも僕と共に首を傾げる。
「確かに、柚様の仰る通り、王は当然ながら国の頂点です。何も、こそこそと第一王子を暗殺する必要はない。当然、守るべき法はありますが、顔も見たくないのなら、他にいくらでも方法はあります。
とりわけ、国の要であり、港のある青都を任せはしません。何と言っても、国防がありますから」
「珍しく全員の気が合うな。俺も同意見だ。親父は、殺るならもっと早く殺る」
アルが前に進み出る。
「黄蓋! 嘘偽りなしに答えよ。王は、確かに第一王子、ナースィフ・イル=アズィーズの暗殺をお前に命じていたのか」
しん、と静まり返る。
「もういい、聞きたくない! 黄蓋。早く私を縊り殺せ。これ以上生き恥を晒すなど――まっぴらだ」
腕を押さえていた黄蓋は、呆然と呟く。
「坊ちゃん……」
「お前なら、剣がなくとも出来るだろう。例え負傷したとしても、その両腕で――」
ナースィフは、脱力した黄蓋の手を、折れてしまいそうなほど白い、自身の首筋に沿わせた。
「久々に――お前に触れた。黄蓋……」
ナースィフは、自身の命を奪う腕に、聖母のような、慈しみの笑みを浮かべた。
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