悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
11 / 143
魔法学校入学試験

どうして?

しおりを挟む
「――――雷光の連鎖、我が指先に宿りて無限の鎖となれ!閃光の縛め、ライトニングチェイン!!!!」

魔力が収束した雷が風船にめがけて突き進み、次々と風船に帯電していく。私のライトニングチェインは狙った複数の標的に魔力が連鎖的に拘束していく魔法だ。本来の使い方ではないが、このアーク・スナイパーという競技にはある意味最適だと言える。

「氷河の刃、我が意志に呼応し突き進め!鋭き氷の矢、アイシクルランス!」

ナタリーが放った氷の槍は正確に風船の1点を的確にとらえ、次々と氷の刃が風船へと突き刺さっていく。

「空を切り裂く鋭利な刃、我が手中に集結せよ!疾風の剣、エアースラッシュ!」

ミーナは身軽な体を生かし風船に近づき、至近距離で魔法を手中にため込み、目の前の風船に対して一気に炸裂させていく。

「おいおい…あいつらすごくねーか?」
「本当だ。なんであんなに簡単に割れるんだ?」

次々に風船を割っていく私たちのチームに周囲は感嘆の声を漏らしていた。

(よし―――作戦通り――――)

***

イグニスのチーム以降は、1つの風船すら割ることができなかったチームが続出した。

(まぁ……そうよね……)

もともとゲームでもチュートリアル的な位置づけでのイベントだ。当てれば成功、1つでも割れれば大成功の部類に入るだろう。
でも私たちはこれから15個以上の風船を割って、イグニスよりも良い順位をとらないといけない。

ゲームの悪役令嬢、レヴィアナは時に満点を出してヒロイン、アリシアを邪魔してきていた。
しかしまだ自分の魔法も制御できていない私はきっと15個の風船を割るなんて無理。
……でも3人で協力すれば何とかなるかもしれない。
「お二人とも、魔法の命中精度はどのくらいでして?」
「私氷魔法なら……あの風船くらいなら狙えると思います。でも、水魔法だと……正確に狙うのは……」
「むむむー……ミーナはちょっと自信ないですー……」
「シルフィードダンスは使えまして?」
「それなら大丈夫です!得意なのです!」

うん。じゃあいくらでもやりようはある。私はこのゲームクリアのコツを知っている。

「わたくし気づいたんですけども、あの風船弱点があるみたいですの」
「弱点……ですか?」
「ええ、これまで割ることができたチームを観察していますと……。あの風船、ある程度の魔力を吸収することはできるようですが、許容量を超えると風船の下の部分がもろくなるみたいですわ」

これまで、どころではない。何週も、何十週も、それこそセリフを勝手に覚える程やり込んだゲームだ。

「わたくしが魔力を放出してあの風船に魔力を帯電させますので、その間に2人には破裂させる役をお願いしますわ!」

そういうとナタリーとミーナがコクリと頷いた。

「さすがレヴィアナさん……。私そんな事全く気づきませんでした」
「うー……。でも下の部分ですかー……。私うまくねらえますですかねー……」

心配そうにこちらを見つめてくるミーナに私は笑顔で返す。

「そんなの……自分から近づいて至近距離から思いっきり放てばいいんですわ」

***

(よし……思ったとおり、成功してよかった……!)

私の放った魔力は次々に風船に連鎖して20個すべての風船に魔力を滞留させ、その間にミーナがシルフィードダンスで駆け回り、ナタリーが矢継ぎ早に正確に氷魔法詠唱し、それぞれ魔法を風船を破裂させていく。

(……13……14……よし……!)

これでイグニスたちと並んだ。そしてまだ時間は――――っ!?

「ごめんです……もう……私……」
「はあっ……はあっ……ん……っ」

見ればナタリーもミーナももう魔力が尽きかけて手を膝についている。
無理もない。2人が割った風船はそれぞれ7個。1組目は3人の全魔力を使っても1個割るのが限界だったことから考えても大健闘だろう。

……それでもまだイグニスに並んだだけだ。

(やだ……!負けたくない……!)

イグニスに見てもらいたい。ずっと私の支えだったイグニスに……!!!
その刹那、口が、体が勝手に詠唱を始めていた。

「はぁぁぁっ!!!天空の雷光よ、我が意志に従え!煌めく一撃、サンダーボルト!!!!!!」

手中に現れた膨大な量の電気の渦が一直線に風船へ飛んでいき、そしてそのまま風船に風穴を開けた。
15個目の風船を破裂させたところでセオドア先生の「終了」という声が森の中に響いた。

一瞬の静寂のあと、私たちが割った風船の数に会場がどよめく。
それまで息も絶え絶えといった様子で座り込んでいた2人も、呆然と立ち尽くしていた私も我に返って歓声を上げた。

「レヴィアナさん!!すごい!すごいです!!なんですか!?今の魔法!!」
「すごいです!あんな魔法初めて見ました!」

ミーナもナタリーもそのまま興奮冷めやらぬまま駆け寄ってくる。

「私!やった!!わたくしも……自分でもびっくりですわ!!」

興奮気味のミーナに抱き着かれて、私もナタリーと一緒にはしゃいだ。

「さすがはグレイシャルセージ様の弟子と、『雷光の綺羅星』レヴィアナのチームということかな?15個、君たちが暫定トップだ」

(やった!やった!やった!!)

これでイグニスたちのチームを抜いた。イベント通りだったらこれでイグニスの好感度も上がるはず。

さっきの体育館では訳も分からず抱きしめられてしまったけど、今度はこの勢いで私から抱き着いてみたりして!そう思ってイグニスの方に振り返って―――――

「っざっけんなよ!!!何のつもりだ!!レヴィアナ!!!!」

私は怒声にと共にイグニスに胸ぐらをつかまれた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...