悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
41 / 143
モンスターシーズン

ストーリーテラー_1

しおりを挟む
「これってどういう事なんでしょうか?」

ナタリーが心配そうに声をかけてくる。ミーナもずっと心の中に引っかかっていた。

「みんなどこいっちゃったです?」

もともとクラスメイトがいた場所はすべて確認した……はずだ。
しかしいくら探しても、クラスメイトすら1人も見つからない。

(どういうことですか……まさかもうみんなモンスターに……)

最悪の想像が頭をよぎり、思わず身震いする。

(そんなことないです……!みんな頑張ってるです。ミーナたちも……)

「刃よ、天を突き刺し敵を貫け!天剣の嵐、エアロクラッシュ!」

ミーナの魔法は周りのモンスターを一掃した。
体中に溢れる力は尽きる事を知らない。でも、目につくモンスターは殲滅して移動してきたはずなのに、一向に数が減っている気がしない。

「ミーナさん!もうそろそろ戻りましょう」

ナタリーさんがそう声をかけてくる。あれからもう30分以上は舞い続けているだろうか?

「はいです……でも……」

今日はずっとおかしかった。
今朝起きてからの悪寒。さっきレヴィアナさんと別れる時の違和感。そして今ずっと感じ続けている得体の知れない不安。

「ナタリーさん、少しの間、10秒くらいミーナ動かなくなるので、少しだけ守ってくださいです」
「ミーナさん!?こんな場所で!?」
「ごめんなさいです。でも、たぶん今がきっと最後のチャンスだと思うです」

そういってミーナは耳に手を触れ、眼を瞑り意識を深く堕としていった。

***

「氷の結晶で織り成す盾よ、我らを守り護れ!氷結の防壁、フロストシールド!」

私はミーナさんに言われるがまま、全力で防御魔法を展開した。
意図は全くわからなかったけど、ミーナさんの眼は真剣そのものだったから。

(っ……!)

割られた箇所にマナを集中して全力で修復していく。さっきまでのミーナさんは簡単に退治していたけど、私には1体倒すのもやっとなモンスターたち。
ミーナさんはこんなところで足を止めて一体何をしているのだろうか?

(だめ……割られちゃう……)

一か所を修復する間に他の箇所はどんどんと壊されていく。防御魔法をすべて崩壊させられて暴走したら2人とも終わりだ。
そう思った矢先のことだった。
ミーナさんが急に眼を見開いたかと思うと、口を動かさないまま何かを詠唱した。

(え……?)

それと同時にミーナさんを中心に光り輝く巨大な竜巻が吹き荒れた。

「ストームガーディアン!!」

それは一瞬の出来事だった。さっきまで私の防御魔法を攻撃していたモンスターは吹き飛び、空高くまで巻き上がっていた。あれだけ苦戦していたモンスターたちが1匹残らずに散っていったのだ。

(すごい……!)

モンスターと私たちの間に巨大な風の渦が吹き荒れる。十重二十重に私たちを包囲したモンスターは次々にミーナさんの防御魔法に攻撃を仕掛けて、しかし近づく度に竜巻に吹き飛ばされていく。

「ナタリーさん、すこしのあいだ手を握っててください……です」

そんな竜巻の中心でミーナさんが笑いかけた。少し休憩をしているのだろうか。

「は、はい!でもこの魔法すごいですね……!」
「へへ、たまたまですよ!ちょっとだけ……、あ、魔法の詠唱をする間お話ししてくださいです」
「お話ですか……?」

辺りの木々はあんなにも揺れているのに、中心にいる私たちにはそよ風1つ当たっていなかった。まるで世界からここだけ切り離されているような不思議な感覚だった。

こんなモンスターに囲まれている状態で一体何を話すんだろう?

私はミーナさんの手をぎゅっと握った。すぐにミーナさんも握り返してきた。お互いの手は少し汗ばんでいたけど、毎晩のように眠りに落ちる時につないでいた手の感触は変わらなかった。

「えへへ……ナタリーさんとは夏休み終わってからずーっとこうして手を握ってたですねー」

ミーナさんが私の手の感触を確かめる様に、にぎにぎと何度か感触を確かめている。

「ナタリーさんの手ってあんなに冷たい氷魔法使ってるのに、いっつもあったかいんですよねー」
「魔法の属性は関係ないでしょ」

遠くから聞こえてくるはずのモンスターたちのうなり声や息遣いも聞こえてこない。
こんな世界にいるとは思えないくらい平和な空間だった。

「今度みんなで朝から演劇を見に行こうです!それで、お昼ご飯をたべてー、あ、みんなでストーンサークルズで勝負しましょうです。ミーナも強くなったですよ!」
「知ってますよ。どれだけ一緒にやったと思ってるんですか」
「えへへ、そうでした。ナタリーさんとは毎日やったですからねー。おかげで上手になれました!今度レヴィアナさんにリベンジですね」

ニコニコ笑うミーナさんだったけど、もしレヴィアナさんと勝負したらまたけちょんけちょんにされる気がしてしまう。
でも、負けながら「もう一回勝負です!」なんて笑いながら何度も再戦をする光景が簡単に想像できて思わず笑ってしまう。

「それでー、午後はみんなでお買い物行くんです!お揃いのお洋服を着たり、あ、ナタリーさんにはもっと派手でフリフリの……今度はあのお店のワンピース買いに行きましょうよ!」
「もしかしたらあれですか!?あんなの恥ずかしくて着れませんよ」
「えー?かわいいのにー。それで、それでですね!みんなでアリシアさんの家みたいにみんなでお風呂にはいっていろんなお話するんです!」

ミーナはこんな状況なのに眼をキラキラさせながら楽しそうに話す。

「それでみんなでのぼせて、みんなで顔真っ赤にしながら草むらでゴロゴロして、気づいたら朝になるまでずーっと話し続けててー。あ、それでみんなで授業遅刻してごめんなさいって学校にいって。それからそれから、あ!アリシアさんのティーパーティもしないとですね。絶対、絶対に楽しいですよ!」

本当にいつも学校にいるときと何も変わらない笑顔で話し続けていく。本当になんでもない日常の話を楽しそうに話し続ける。

「それに、レヴィアナさんの家でダンスの練習もさせてもらわないとですね!ちゃんと踊れないと舞踏会なんて出られないですからね。ナタリーさんもちゃんとしないとマリウスさんががっかりしますよ!」
「ちょっ!?なんでマリウスさん!?」
「あ、イグニスさんの方が良かったです?それともノーランさん?」

いたずらっ子のような笑顔でミーナさんがからかって来る。

「ち、ちがいますよ!なんでみんなが出てくるんですか!」
「えへへ!楽しみですね!それでみんなで一緒に卒業式に出て……、それでもっと、もっと沢山お話ししましょうです!」

ミーナさんはまた手をぎゅっと握る。
今となっては育ての親である師匠よりも触り慣れた手を私はその手を優しく握り返す。少しの間2人の間に沈黙が流れた。

「ナタリーさんにお願いがあるです!」

その手が離れていき自分の両耳についたイヤリングを外し、そして私の方に差し出してきた。片方は私の耳についているイヤリングの片割れ、もう一つはレヴィアナさんのイヤリングだった。

「ミーナの新しい魔法は自分が身に着けているものを目印にして飛んでいくことができるです!ナタリーさんはミーナのイヤリングを持って、生徒会のみんなの所に先に逃げてくださいです!」
「そんな魔法……私知らないよ?」
「本当は今使ってる魔法と一緒に魔法大会で見せてみんなを驚かせたかったです。でも、初お披露目としてはわるくないですよね!突然パッとみんなの前に現れてみんなを思いっきり驚かせるですよ!」
「ミーナさんはどうするんですか?」
「ミーナはもう少し先まで探してみるです!」
「私はミーナさんを置いて逃げません!」

そうきっぱりと言ってのける。せっかくここまで一緒に来たのに、1人だけ置いていくなんてできない。

「―――――いえ、ナタリーさんは戻ってください」

さっきまでの笑顔とは対照的な、初めて見る真剣な、でも泣きそうな顔でそうつぶやいた。

「だ、だめです!一緒に逃げましょう!」
「……――――ミーナ一人ならもう少し先まで行けるです!だから!」

私に2つのイヤリングを握らせ、そのまま両手で私の右手をぎゅっと握る。

「……お願いです!ナタリーさんは先に戻っててください。それで、生徒会のみんなと合流出来たら天高く氷魔法を使ってくださいです!それを合図にミーナは飛んでいくです!」

(あ……え……?)

「生徒会のみんなにかっこいいところを見せたいですから!だからお願いします!」

私に笑いかけながらそうお願いをしてくる。有無を言わせぬ迫真な表情だった。
イヤリングをぎゅっと握りしめ頷いた。

「ありがとうございますです!ミーナが道を開くです!まっすぐ向かって下さい!」

そこからミーナさんの行動は早かった。
右手を私の後方に突き出し、そのまま敵陣に向かって魔法を唱え始めた。

「――――――空を裂く極限の嵐、すべてを破壊する力を我に!終焉の風、テンペストブレイク!」

ミーナさんの詠唱でモンスターたちの周囲の大気が急激に変化する。強烈な強風が巻き起こり、モンスターたちを天高く吹き飛ばしていく。

「また、また会いましょうです!」

ドンと突き飛ばされた拍子に反射的に開けた視界に向かって体が飛んでいく。ミーナさんが私の体にシルフィードダンスかけてくれていたようだ。

「グレイシャルスライド!!」

一掃されたモンスターの間に開けた道をシルフィードダンスでさらに加速していく。一瞬振り返るがもう先ほどのモンスターの集団は見えなくなっていた。

(ミーナさん……!)

何故か一人でミーナさんは先に向かっていったようだ。
でも、生徒会のみんなと合流すればミーナさんは飛んで私のところに帰ってきてくれる。
受け取ったイヤリングを落とさないようにイヤリングを握りしめたまま、ただ一心不乱に前へと走った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...