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テンペトゥス・ノクテム
世界を飲み込む漆黒の闇
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「いよいよですわね……」
準備は万端だ。結局あれから何度か探した『霊石の鎖』は見つからなかったものの、それでもこうしてみんなの協力を得て、それにナディア先生の協力も取り付けている。
連携も取れているし、出来ることは全部やった。きっと何とかなるはずだ。
モンスターの森はいつもに増して不気味な魔力を放っていた。いつもいるかわいらしいモンスターたちはこの雰囲気を察しているのかすでにどこにも見えない。
「―――来るぞ!!!」
セオドア先生が叫ぶ。あたりが一気に嫌な気配で包まれる。そして現れたのは――
「多すぎ……じゃありませんこと……?」
思わずつぶやいてしまう。
テンペストゥス・ノクテムが召喚されるディスペアリアム・オベリスクが1本だけ登場すると思っていた。それが……目視だけで最低でも5本は見える。
「おい……まさか……あの1本1本からこないだの量が出てくるんじゃないよな……?」
ノーランが顔を引きつらせながら言う。多分私も同じような顔をしていると思う。
前のモンスターシーズンでは、たった1本のディスペアリアム・オベリスクから森中を埋め尽くすほどの強力なモンスターが召喚され続けていた。
それは考えたくない可能性だったが、でもその可能性は大いにある。
ちらりと背後の仲間たちを見る。全員顔がこわばっていた。
そうしている間にもディスペアリアム・オベリスクは紫色に光り、空を紫色に染め上げていく。
「先生!もともとの作戦は使えませんわ!指示を下さいまし!!!」
「わかった!!生徒会メンバーはテンペストゥス・ノクテムに備えろ!!それ以外の生徒は全力で魔法の詠唱を開始だ!!詠唱ができ次第、全員で左側のディスペアリアム・オベリスクに向かって放て!!!」
セオドア先生の指示に従ってすぐに私たちは動き出し、次々に魔法がディスペアリアム・オベリスクに直撃する。
協力してくれている生徒たちもあの頃から成長していた。一人ひとりの威力はまだ私たち生徒会メンバーには届かないが、それでもあれだけの量であれば先日イグニスと2人で破壊した時よりも破壊力は高いはずだ。
しかし魔法で巻き起こった砂煙がおさまっても、ディスペアリアム・オベリスクは倒れるどころか傷一つついていなかった。
(いや……これ、もしかしてあたっていない?)
試しに皆の狙っていない反対側のディスペアリアム・オベリスクにサンダーボルトを放つが、直撃する前に何かに阻まれている様にも見える。
「なんか前と違くねーか?」
イグニスが指摘するように、前はここまで紫色に発光しているころには無数のモンスターが召喚されていたはずだが、まだ1体のモンスターも現れていない。
先ほどまで天を紫に染めていた光も少しずつ弱くなっていくように見える。
「これ…………どういう事だ?レヴィアナの言ってたテンペストゥス・ノクテムってこれ……か?」
マリウスも戸惑いの声を上げる。
一週間ずっと張りつめていた緊張感がほぐれるような気がした。何もなかった。確かにディスペアリアム・オベリスクは現れたけどそれ以上何もない。召喚される気配もない。
「今回ばかりはレヴィアナの予想も外れってことかな?」
ノーランがそう明るく声をかけてくる。
「だとしたらあの量の塔はなんだったんだよ」
「そりゃ俺もわかんねーけどさ。でもモンスターも全然出てこねーじゃん?」
そんなノーランとイグニスの会話を背で聞きながら、私自身も首をかしげる。
でもまだ森に立ち込めた嫌な気配が警戒を解くなと警告しているように思えてならない。
何か引っかかる。ナディア先生はなんて言ってた?
『紫の光が消え去るとき、人々は一息つく。だが、終わりではない。今度は深淵から―――』
「―――――違う!!!!みんな!!!!早く魔法の詠唱を!!!!これから――――――」
――ドォン!!!
私の張り上げた声は轟音を世界に響かせながら現れた巨大なディスペアリアム・オベリスクによってかき消された。
一瞬の出来事だった。私はただ茫然と目の前の光景を見つめることしかできなかった。
突然出現した巨大なディスペアリアム・オベリスクの衝撃波が地面を抉り、木々を巻き込み、まるで竜巻のようにすべてをなぎ倒しながら暴れまわる。
さっきまであんなにきれいな草原だったのに今は見る影もなかった。荒れ果てた荒野のような風景が広がる。
あまりの衝撃に立っていられず、その場に座り込む。足が震えて力が入らない。
それだけではなく、辺り一面の空間を不愉快な魔力が満たしていく。
「……うそでしょ……?」
私が呆然とつぶやいた言葉は誰に届くこともなく宙に消えていった。
「ぐっ……いったいなにが……」
セオドア先生が起き上がりながらつぶやく。他の生徒たちも続々と起き上がってきた。
視線をディスペアリアム・オベリスクに向けるとそこだけ世界が切り取られたかのように色を失っていた。
全てを吸い込む完全な闇。そしてその漆黒の光はどんどん勢いを増していく。
辺り一面がすべて黒に染まる。そして突如光は空の一点で収束していった。
―――これはまずい!!
本能に似た何かが警鐘を鳴らす。すぐさま立ち上がり、全神経を集中させる。
上空に現れた闇の球体から禍々しい黒い魔力の塊が降り注ぐ。
その塊は触れたもの全てを消滅させ、地面すらも抉りながら迫ってくる。
「くっ…………!電気の海に溺れよ、我が周りに舞い踊れ!荒れ狂う渦、エレクトロフィールド!!!!!」
とっさに魔法を唱え、みんなの目の前に全力の魔法の防壁を作り出す。セオドア先生やイグニスも反応し、次の瞬間には私たちの周りに光がドーム状に展開され、間一髪攻撃を防いだ。
「――――っ!!!」
闇の攻撃は強力で、私たちの防壁を軋ませる。でもその攻撃はほどなくして止んだ。
「みんな大丈夫!?」
急いで辺りを確認する。
「はい、大丈夫です……!ありがとうございます!」
ミネットが震えながら声を上げる。
再び視線を上空に向けると小さく人型の何か浮いていた。
その姿は大きな翼を持ち、全身が鱗で覆われた人の形をした竜のようにも見えた。
準備は万端だ。結局あれから何度か探した『霊石の鎖』は見つからなかったものの、それでもこうしてみんなの協力を得て、それにナディア先生の協力も取り付けている。
連携も取れているし、出来ることは全部やった。きっと何とかなるはずだ。
モンスターの森はいつもに増して不気味な魔力を放っていた。いつもいるかわいらしいモンスターたちはこの雰囲気を察しているのかすでにどこにも見えない。
「―――来るぞ!!!」
セオドア先生が叫ぶ。あたりが一気に嫌な気配で包まれる。そして現れたのは――
「多すぎ……じゃありませんこと……?」
思わずつぶやいてしまう。
テンペストゥス・ノクテムが召喚されるディスペアリアム・オベリスクが1本だけ登場すると思っていた。それが……目視だけで最低でも5本は見える。
「おい……まさか……あの1本1本からこないだの量が出てくるんじゃないよな……?」
ノーランが顔を引きつらせながら言う。多分私も同じような顔をしていると思う。
前のモンスターシーズンでは、たった1本のディスペアリアム・オベリスクから森中を埋め尽くすほどの強力なモンスターが召喚され続けていた。
それは考えたくない可能性だったが、でもその可能性は大いにある。
ちらりと背後の仲間たちを見る。全員顔がこわばっていた。
そうしている間にもディスペアリアム・オベリスクは紫色に光り、空を紫色に染め上げていく。
「先生!もともとの作戦は使えませんわ!指示を下さいまし!!!」
「わかった!!生徒会メンバーはテンペストゥス・ノクテムに備えろ!!それ以外の生徒は全力で魔法の詠唱を開始だ!!詠唱ができ次第、全員で左側のディスペアリアム・オベリスクに向かって放て!!!」
セオドア先生の指示に従ってすぐに私たちは動き出し、次々に魔法がディスペアリアム・オベリスクに直撃する。
協力してくれている生徒たちもあの頃から成長していた。一人ひとりの威力はまだ私たち生徒会メンバーには届かないが、それでもあれだけの量であれば先日イグニスと2人で破壊した時よりも破壊力は高いはずだ。
しかし魔法で巻き起こった砂煙がおさまっても、ディスペアリアム・オベリスクは倒れるどころか傷一つついていなかった。
(いや……これ、もしかしてあたっていない?)
試しに皆の狙っていない反対側のディスペアリアム・オベリスクにサンダーボルトを放つが、直撃する前に何かに阻まれている様にも見える。
「なんか前と違くねーか?」
イグニスが指摘するように、前はここまで紫色に発光しているころには無数のモンスターが召喚されていたはずだが、まだ1体のモンスターも現れていない。
先ほどまで天を紫に染めていた光も少しずつ弱くなっていくように見える。
「これ…………どういう事だ?レヴィアナの言ってたテンペストゥス・ノクテムってこれ……か?」
マリウスも戸惑いの声を上げる。
一週間ずっと張りつめていた緊張感がほぐれるような気がした。何もなかった。確かにディスペアリアム・オベリスクは現れたけどそれ以上何もない。召喚される気配もない。
「今回ばかりはレヴィアナの予想も外れってことかな?」
ノーランがそう明るく声をかけてくる。
「だとしたらあの量の塔はなんだったんだよ」
「そりゃ俺もわかんねーけどさ。でもモンスターも全然出てこねーじゃん?」
そんなノーランとイグニスの会話を背で聞きながら、私自身も首をかしげる。
でもまだ森に立ち込めた嫌な気配が警戒を解くなと警告しているように思えてならない。
何か引っかかる。ナディア先生はなんて言ってた?
『紫の光が消え去るとき、人々は一息つく。だが、終わりではない。今度は深淵から―――』
「―――――違う!!!!みんな!!!!早く魔法の詠唱を!!!!これから――――――」
――ドォン!!!
私の張り上げた声は轟音を世界に響かせながら現れた巨大なディスペアリアム・オベリスクによってかき消された。
一瞬の出来事だった。私はただ茫然と目の前の光景を見つめることしかできなかった。
突然出現した巨大なディスペアリアム・オベリスクの衝撃波が地面を抉り、木々を巻き込み、まるで竜巻のようにすべてをなぎ倒しながら暴れまわる。
さっきまであんなにきれいな草原だったのに今は見る影もなかった。荒れ果てた荒野のような風景が広がる。
あまりの衝撃に立っていられず、その場に座り込む。足が震えて力が入らない。
それだけではなく、辺り一面の空間を不愉快な魔力が満たしていく。
「……うそでしょ……?」
私が呆然とつぶやいた言葉は誰に届くこともなく宙に消えていった。
「ぐっ……いったいなにが……」
セオドア先生が起き上がりながらつぶやく。他の生徒たちも続々と起き上がってきた。
視線をディスペアリアム・オベリスクに向けるとそこだけ世界が切り取られたかのように色を失っていた。
全てを吸い込む完全な闇。そしてその漆黒の光はどんどん勢いを増していく。
辺り一面がすべて黒に染まる。そして突如光は空の一点で収束していった。
―――これはまずい!!
本能に似た何かが警鐘を鳴らす。すぐさま立ち上がり、全神経を集中させる。
上空に現れた闇の球体から禍々しい黒い魔力の塊が降り注ぐ。
その塊は触れたもの全てを消滅させ、地面すらも抉りながら迫ってくる。
「くっ…………!電気の海に溺れよ、我が周りに舞い踊れ!荒れ狂う渦、エレクトロフィールド!!!!!」
とっさに魔法を唱え、みんなの目の前に全力の魔法の防壁を作り出す。セオドア先生やイグニスも反応し、次の瞬間には私たちの周りに光がドーム状に展開され、間一髪攻撃を防いだ。
「――――っ!!!」
闇の攻撃は強力で、私たちの防壁を軋ませる。でもその攻撃はほどなくして止んだ。
「みんな大丈夫!?」
急いで辺りを確認する。
「はい、大丈夫です……!ありがとうございます!」
ミネットが震えながら声を上げる。
再び視線を上空に向けると小さく人型の何か浮いていた。
その姿は大きな翼を持ち、全身が鱗で覆われた人の形をした竜のようにも見えた。
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