悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
74 / 143
テンペトゥス・ノクテム

世界を飲み込む漆黒の闇

しおりを挟む
「いよいよですわね……」

準備は万端だ。結局あれから何度か探した『霊石の鎖』は見つからなかったものの、それでもこうしてみんなの協力を得て、それにナディア先生の協力も取り付けている。
連携も取れているし、出来ることは全部やった。きっと何とかなるはずだ。

モンスターの森はいつもに増して不気味な魔力を放っていた。いつもいるかわいらしいモンスターたちはこの雰囲気を察しているのかすでにどこにも見えない。

「―――来るぞ!!!」

セオドア先生が叫ぶ。あたりが一気に嫌な気配で包まれる。そして現れたのは――

「多すぎ……じゃありませんこと……?」

思わずつぶやいてしまう。

テンペストゥス・ノクテムが召喚されるディスペアリアム・オベリスクが1本だけ登場すると思っていた。それが……目視だけで最低でも5本は見える。

「おい……まさか……あの1本1本からこないだの量が出てくるんじゃないよな……?」

ノーランが顔を引きつらせながら言う。多分私も同じような顔をしていると思う。

前のモンスターシーズンでは、たった1本のディスペアリアム・オベリスクから森中を埋め尽くすほどの強力なモンスターが召喚され続けていた。

それは考えたくない可能性だったが、でもその可能性は大いにある。
ちらりと背後の仲間たちを見る。全員顔がこわばっていた。
そうしている間にもディスペアリアム・オベリスクは紫色に光り、空を紫色に染め上げていく。

「先生!もともとの作戦は使えませんわ!指示を下さいまし!!!」

「わかった!!生徒会メンバーはテンペストゥス・ノクテムに備えろ!!それ以外の生徒は全力で魔法の詠唱を開始だ!!詠唱ができ次第、全員で左側のディスペアリアム・オベリスクに向かって放て!!!」

セオドア先生の指示に従ってすぐに私たちは動き出し、次々に魔法がディスペアリアム・オベリスクに直撃する。
協力してくれている生徒たちもあの頃から成長していた。一人ひとりの威力はまだ私たち生徒会メンバーには届かないが、それでもあれだけの量であれば先日イグニスと2人で破壊した時よりも破壊力は高いはずだ。

しかし魔法で巻き起こった砂煙がおさまっても、ディスペアリアム・オベリスクは倒れるどころか傷一つついていなかった。

(いや……これ、もしかしてあたっていない?)

試しに皆の狙っていない反対側のディスペアリアム・オベリスクにサンダーボルトを放つが、直撃する前に何かに阻まれている様にも見える。

「なんか前と違くねーか?」

イグニスが指摘するように、前はここまで紫色に発光しているころには無数のモンスターが召喚されていたはずだが、まだ1体のモンスターも現れていない。
先ほどまで天を紫に染めていた光も少しずつ弱くなっていくように見える。

「これ…………どういう事だ?レヴィアナの言ってたテンペストゥス・ノクテムってこれ……か?」

マリウスも戸惑いの声を上げる。

一週間ずっと張りつめていた緊張感がほぐれるような気がした。何もなかった。確かにディスペアリアム・オベリスクは現れたけどそれ以上何もない。召喚される気配もない。

「今回ばかりはレヴィアナの予想も外れってことかな?」

ノーランがそう明るく声をかけてくる。

「だとしたらあの量の塔はなんだったんだよ」
「そりゃ俺もわかんねーけどさ。でもモンスターも全然出てこねーじゃん?」

そんなノーランとイグニスの会話を背で聞きながら、私自身も首をかしげる。

でもまだ森に立ち込めた嫌な気配が警戒を解くなと警告しているように思えてならない。
何か引っかかる。ナディア先生はなんて言ってた?

『紫の光が消え去るとき、人々は一息つく。だが、終わりではない。今度は深淵から―――』

「―――――違う!!!!みんな!!!!早く魔法の詠唱を!!!!これから――――――」

――ドォン!!!

私の張り上げた声は轟音を世界に響かせながら現れた巨大なディスペアリアム・オベリスクによってかき消された。

一瞬の出来事だった。私はただ茫然と目の前の光景を見つめることしかできなかった。
突然出現した巨大なディスペアリアム・オベリスクの衝撃波が地面を抉り、木々を巻き込み、まるで竜巻のようにすべてをなぎ倒しながら暴れまわる。

さっきまであんなにきれいな草原だったのに今は見る影もなかった。荒れ果てた荒野のような風景が広がる。
あまりの衝撃に立っていられず、その場に座り込む。足が震えて力が入らない。
それだけではなく、辺り一面の空間を不愉快な魔力が満たしていく。

「……うそでしょ……?」

私が呆然とつぶやいた言葉は誰に届くこともなく宙に消えていった。

「ぐっ……いったいなにが……」

セオドア先生が起き上がりながらつぶやく。他の生徒たちも続々と起き上がってきた。

視線をディスペアリアム・オベリスクに向けるとそこだけ世界が切り取られたかのように色を失っていた。
全てを吸い込む完全な闇。そしてその漆黒の光はどんどん勢いを増していく。

辺り一面がすべて黒に染まる。そして突如光は空の一点で収束していった。

―――これはまずい!!

本能に似た何かが警鐘を鳴らす。すぐさま立ち上がり、全神経を集中させる。
上空に現れた闇の球体から禍々しい黒い魔力の塊が降り注ぐ。
その塊は触れたもの全てを消滅させ、地面すらも抉りながら迫ってくる。

「くっ…………!電気の海に溺れよ、我が周りに舞い踊れ!荒れ狂う渦、エレクトロフィールド!!!!!」

とっさに魔法を唱え、みんなの目の前に全力の魔法の防壁を作り出す。セオドア先生やイグニスも反応し、次の瞬間には私たちの周りに光がドーム状に展開され、間一髪攻撃を防いだ。

「――――っ!!!」

闇の攻撃は強力で、私たちの防壁を軋ませる。でもその攻撃はほどなくして止んだ。

「みんな大丈夫!?」

急いで辺りを確認する。

「はい、大丈夫です……!ありがとうございます!」

ミネットが震えながら声を上げる。

再び視線を上空に向けると小さく人型の何か浮いていた。
その姿は大きな翼を持ち、全身が鱗で覆われた人の形をした竜のようにも見えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...