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舞踏会
【高校生の頃の私_2】
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夢。夢を見ている。高校生になった私の夢の続き。
何か特定の目的で高校生になったわけではないけれど、せっかくの機会だからいろいろと試してみた。それこそ昔図書館で読んだ小説やセレスティアル・ラブ・クロニクルで憧れた恋愛みたいなこともしてみた。
何がきっかけで付き合い始めたかは覚えてないけど、タイミング良く告白されたので付き合うことになった。
恋と呼べるものかはわからなかったし、たぶんどこにでもあるようなありふれた事だったんだろうけど、それでも私は初めてのことにドキドキした。
――――どんなところに行ったら楽しいのかな?
――――どんなものが好きなんだろう?
――――何を話したら喜んでくれるんだろう?
――――あ、いま困った顔した。きっとこれはあんまり好きじゃないんだ。
付き合ってからいろいろなところに行った。
初めて住んだ街の店も知らなかったから彼がいろいろとエスコートしてくれた。
少しずつ知っている場所が増えて、だんだんと町が私たちの色で染まっていくようだった。
いつの間にか一緒に居ることが多くなって、一緒に出掛けることも多くなって、一人暮らしの私の家に来ることも増えて、そうして初めてお互いの唇が触れた。
「傘……っていうんだよな?それ」
彼は物珍しそうに私の傘を見る。初めて見たのかもしれない。
「うん。この音好きで。まぁ不便なんだけどね」
「へぇ……確かにその音いいかもな。俺も今度はシェルターじゃなくて、その傘ってやつさしてみようかな」
雨粒が傘を叩く音を聞きながら、彼に手を引かれて歩いている時にふと目に入ったお店。
小さな雑貨屋さんだった。
「あ……」
思わず立ち止まってしまった私に、彼も足を止めて振り返る。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
その店には1枚のポスターが貼られていた。
『セレスティアル・ラブ・クロニクル 伝説の初代作がついにリメイク決定!』
(そっか……。リメイクだったんだ)
同じように雨を眺めながらした会話を思い出す。
「このゲーム……って言ったっけ?興味あるの?」
「うん……まあ、ちょっと?でもゲームなんてやる人いないもんね」
「……いや、いいんじゃないか?俺、好きだぜ?ほら、価値観を共有できるっていうか?」
「ありがと」
ポスターを見たことで、ついアリシアのように彼の腕に抱き着いてしまう。
セレスティアル・ラブ・クロニクルで憧れた『恋愛』を今私は楽しんでいた。
だから、このまま楽しい時間がずっと続くんだって思っていた。ゲームみたいに。
でも、終わりは突然やってきた。たぶん、ゲームみたいに。
私はたぶん選択肢を間違えたんだと思う。
あの日の雑貨屋さんでの出来事以来、彼の言動が明らかに変わった。
もっと具体的にいうとセレスティアル・ラブ・クロニクルのセリフが彼の口から出てくるようになった。はじめは憧れのゲームの世界が、ソフィアの中じゃない、こっちの世界でも浸れた気がして嬉しかった。
でも、だんだんとそれが嫌になっていった。だって、なんとなく彼であって彼じゃないような気がしたから。
いつものように待ち合わせをして、一緒に登校するはずだった朝。
「おはよー。珍しく今日は早いのね」
「あぁ。俺様達が会ってない時間は勿体ないからな」
「ふふっ…。全く、本当にイグニスみたいよねー……」
自分でそこまで言ってそこで気づいてしまった。
恋は盲目という言葉を聞いたことがあったが、実際に気づくまでわからないものだ。
彼の言動はあまりにも「イグニス」でありすぎた。
彼はソニックオプティカに私が気に入りそうなデートスポットを聞いていたし、話す内容もソニックオプティカが用意してくれていたものを話していただけだった。
きっと私がセレスティアル・ラブ・クロニクルの攻略対象の4人中でイグニスが好きということくらい、ソニックオプティカなら造作もなく的中させるだろう。
(私は……彼ではなくソニックオプティカと付き合ってたのね……)
ドキドキして初めてつないだ手の温かさも、初めて抱きしめてぬくもりを感じた彼の温かさも、初めて唇に残ったあのくすぐったい温かさも、全部色がなくなってしまったように感じてしまった。
気づかないほうがよかったのかもしれない。
このままずっと盲目でいたほうが幸せだったのかもしれない。
あのイベントがあったからこんな事を知ってしまった。
別に何も変わっていないはずなのに、よくわからないけど涙が出てきて、背を向けて歩き出そうとした。
最後に彼の声色で聞いた言葉は「明日、もしお前さえよければ、俺様と一緒に踊ってくれ」だった。
たぶんこの言葉だけはソニックオプティカの言葉じゃなかったんだろう。
彼と一緒にいて、初めてこんなに不愉快な気分になったから。
私は彼の頬を思いっきり引っ叩き、そのまま走り去った。
それから彼とは話していない。
その日から生身の人間との恋愛に拒否反応が出てしまうようになった。
男の子とは話すし、友達と呼べるような人もいたけど、少しでも恋愛のようなものを意識すると心拍数が上がってしまい何度か倒れた。
小さな頃から本を読むのが好きだったこともあり、創作の世界の私に恋愛をさせてみようと思い小説を書いてみた。
久しぶりにこんなに熱中したかもしれない。
それから半年間、途中から学校にも行かず、この小説を書くことに私の時間のすべてを捧げた。
書き方を調べ、プロットというものを作り、キャラクターの口調を何度も全体を通して修正し、文章だけでは味気なかったのでキャラデザの真似事もしてみた。
そうしてようやく『こうして2人は幸せに暮らしました。(終)』まで書き終えたときは感動なのか達成感なのか喪失感なのかわからないけど、しばらくの間放心して動くことができなかった。
会心の出来だと思えた。
誰かに見てもらいたかった。
でもやっぱり初めて書いた作品を見てもらうのは少し怖いし、こんな文章を読んでくれる人なんて誰もいない。
「ねぇソフィア、この作品、作ってみたんだけどどうかな?」
『はいとても素晴らしいと思います』
「ほんと?本当にそう思う?改善点とか、もっと良くなる箇所ないかな?」
必死に半年かけて作り上げた作品だ。
何度もキャラクターの性格も修正した。口調も伏線もいろいろ考えた。
初めての作品だからもちろん甘いところもあるだろう。
それでも傑作ができたと思っていた。
もしかしたら、ソフィアが手放しで「修正するところはありません」なんて手放しでほめてくれるかも、そう期待して聞いてしまった。
5分後。
私の作品をベースにした、私の作品よりもずっとずっと面白い作品が世の中に誕生した。
その瞬間私の作品が世界から亡くなった。
私の半年間は、今の世界には5分の価値もないというごくごく自然な現実を突きつけられた。
何か特定の目的で高校生になったわけではないけれど、せっかくの機会だからいろいろと試してみた。それこそ昔図書館で読んだ小説やセレスティアル・ラブ・クロニクルで憧れた恋愛みたいなこともしてみた。
何がきっかけで付き合い始めたかは覚えてないけど、タイミング良く告白されたので付き合うことになった。
恋と呼べるものかはわからなかったし、たぶんどこにでもあるようなありふれた事だったんだろうけど、それでも私は初めてのことにドキドキした。
――――どんなところに行ったら楽しいのかな?
――――どんなものが好きなんだろう?
――――何を話したら喜んでくれるんだろう?
――――あ、いま困った顔した。きっとこれはあんまり好きじゃないんだ。
付き合ってからいろいろなところに行った。
初めて住んだ街の店も知らなかったから彼がいろいろとエスコートしてくれた。
少しずつ知っている場所が増えて、だんだんと町が私たちの色で染まっていくようだった。
いつの間にか一緒に居ることが多くなって、一緒に出掛けることも多くなって、一人暮らしの私の家に来ることも増えて、そうして初めてお互いの唇が触れた。
「傘……っていうんだよな?それ」
彼は物珍しそうに私の傘を見る。初めて見たのかもしれない。
「うん。この音好きで。まぁ不便なんだけどね」
「へぇ……確かにその音いいかもな。俺も今度はシェルターじゃなくて、その傘ってやつさしてみようかな」
雨粒が傘を叩く音を聞きながら、彼に手を引かれて歩いている時にふと目に入ったお店。
小さな雑貨屋さんだった。
「あ……」
思わず立ち止まってしまった私に、彼も足を止めて振り返る。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
その店には1枚のポスターが貼られていた。
『セレスティアル・ラブ・クロニクル 伝説の初代作がついにリメイク決定!』
(そっか……。リメイクだったんだ)
同じように雨を眺めながらした会話を思い出す。
「このゲーム……って言ったっけ?興味あるの?」
「うん……まあ、ちょっと?でもゲームなんてやる人いないもんね」
「……いや、いいんじゃないか?俺、好きだぜ?ほら、価値観を共有できるっていうか?」
「ありがと」
ポスターを見たことで、ついアリシアのように彼の腕に抱き着いてしまう。
セレスティアル・ラブ・クロニクルで憧れた『恋愛』を今私は楽しんでいた。
だから、このまま楽しい時間がずっと続くんだって思っていた。ゲームみたいに。
でも、終わりは突然やってきた。たぶん、ゲームみたいに。
私はたぶん選択肢を間違えたんだと思う。
あの日の雑貨屋さんでの出来事以来、彼の言動が明らかに変わった。
もっと具体的にいうとセレスティアル・ラブ・クロニクルのセリフが彼の口から出てくるようになった。はじめは憧れのゲームの世界が、ソフィアの中じゃない、こっちの世界でも浸れた気がして嬉しかった。
でも、だんだんとそれが嫌になっていった。だって、なんとなく彼であって彼じゃないような気がしたから。
いつものように待ち合わせをして、一緒に登校するはずだった朝。
「おはよー。珍しく今日は早いのね」
「あぁ。俺様達が会ってない時間は勿体ないからな」
「ふふっ…。全く、本当にイグニスみたいよねー……」
自分でそこまで言ってそこで気づいてしまった。
恋は盲目という言葉を聞いたことがあったが、実際に気づくまでわからないものだ。
彼の言動はあまりにも「イグニス」でありすぎた。
彼はソニックオプティカに私が気に入りそうなデートスポットを聞いていたし、話す内容もソニックオプティカが用意してくれていたものを話していただけだった。
きっと私がセレスティアル・ラブ・クロニクルの攻略対象の4人中でイグニスが好きということくらい、ソニックオプティカなら造作もなく的中させるだろう。
(私は……彼ではなくソニックオプティカと付き合ってたのね……)
ドキドキして初めてつないだ手の温かさも、初めて抱きしめてぬくもりを感じた彼の温かさも、初めて唇に残ったあのくすぐったい温かさも、全部色がなくなってしまったように感じてしまった。
気づかないほうがよかったのかもしれない。
このままずっと盲目でいたほうが幸せだったのかもしれない。
あのイベントがあったからこんな事を知ってしまった。
別に何も変わっていないはずなのに、よくわからないけど涙が出てきて、背を向けて歩き出そうとした。
最後に彼の声色で聞いた言葉は「明日、もしお前さえよければ、俺様と一緒に踊ってくれ」だった。
たぶんこの言葉だけはソニックオプティカの言葉じゃなかったんだろう。
彼と一緒にいて、初めてこんなに不愉快な気分になったから。
私は彼の頬を思いっきり引っ叩き、そのまま走り去った。
それから彼とは話していない。
その日から生身の人間との恋愛に拒否反応が出てしまうようになった。
男の子とは話すし、友達と呼べるような人もいたけど、少しでも恋愛のようなものを意識すると心拍数が上がってしまい何度か倒れた。
小さな頃から本を読むのが好きだったこともあり、創作の世界の私に恋愛をさせてみようと思い小説を書いてみた。
久しぶりにこんなに熱中したかもしれない。
それから半年間、途中から学校にも行かず、この小説を書くことに私の時間のすべてを捧げた。
書き方を調べ、プロットというものを作り、キャラクターの口調を何度も全体を通して修正し、文章だけでは味気なかったのでキャラデザの真似事もしてみた。
そうしてようやく『こうして2人は幸せに暮らしました。(終)』まで書き終えたときは感動なのか達成感なのか喪失感なのかわからないけど、しばらくの間放心して動くことができなかった。
会心の出来だと思えた。
誰かに見てもらいたかった。
でもやっぱり初めて書いた作品を見てもらうのは少し怖いし、こんな文章を読んでくれる人なんて誰もいない。
「ねぇソフィア、この作品、作ってみたんだけどどうかな?」
『はいとても素晴らしいと思います』
「ほんと?本当にそう思う?改善点とか、もっと良くなる箇所ないかな?」
必死に半年かけて作り上げた作品だ。
何度もキャラクターの性格も修正した。口調も伏線もいろいろ考えた。
初めての作品だからもちろん甘いところもあるだろう。
それでも傑作ができたと思っていた。
もしかしたら、ソフィアが手放しで「修正するところはありません」なんて手放しでほめてくれるかも、そう期待して聞いてしまった。
5分後。
私の作品をベースにした、私の作品よりもずっとずっと面白い作品が世の中に誕生した。
その瞬間私の作品が世界から亡くなった。
私の半年間は、今の世界には5分の価値もないというごくごく自然な現実を突きつけられた。
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