悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
113 / 143
悲しみの向こう側

天才悪役令嬢『レヴィアナ』_1

しおりを挟む
ここから先は『レヴィアナ』も他の人には、ナタリーはまだしもガレンには知られたくないことかなと思ったので、2人には食堂に戻ってもらうことにした。

先日の襲撃事件の時はバタバタとしていて実感していなかったけど、この部屋は『レヴィアナ』の部屋でもあったけど、もう私の部屋にもなっていた。

初めてこの屋敷で目が覚めた時はあんなにも広くて不安だったのに、こうしてベッドに腰掛けているととても落ち着く。

「さてと、まずは……」

部屋の中を探す。きっと『レヴィアナ』の事だからノートにいろいろ書いてあるだろうと部屋中を探してみたが、それらしきものは見当たらなかった。
定番のベッドの下や、本棚のほんの裏に隠されているのかとも思って探してみたが残念ながら見当たらなかった。

「うーん……絶対にあるはずなんだけど……」

でも、そんな【解体新書】のことをこんな場所でノートに書きなぐるようなことはしないのかもしれない。
思えば私は『レヴィアナ』のことを何も知らなかった。

――――コンコン

ノックの音が部屋に響く。

「はい?」
「お嬢様。少々お時間よろしいでしょうか?」

フローラが部屋に入ってくる。なんだかこの部屋に2人で居るのも久しぶりな気がする。
初めて目を覚まして、この世界に来た私を初めて見つけてくれたのはこのフローラだ。着替えさせてもらって、屋敷を案内してもらって。あの頃は何を話したらいいんだろうと思ったけど、当然今ではそんな気まずさもない。

「ええ、どうぞ」
「失礼します。まぁこんなに本を広げてしまって」
「あ、ごめんなさい。探し物をしていて」
「いえいえ。なんだか懐かしいですね」

フローラは私が座っているベッドの、私のすぐ隣に腰掛けた。そして私と同じように床に並べられた本を見る。

「ふふ」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」

フローラは懐かしむように微笑む。少しの間2人で床に並べられた本をただ眺めていた。
「それでどうかしたのかしら?」
「あ、そうでした」

私が声をかけるとフローラは思い出したように手をたたいた。

「今日のお夕食は食べていかれるのかお伺いに参りました」
「えぇ、そのつもりでしたけれど、でも大丈夫ですか?急に3人も……」

「もちろんですよ。先日はけがをしていてちゃんとご用意もできなかったので今日は楽しみにしていてください」

フローラは嬉しそうに答えてくれ、そのまま部屋を後にしようとした。
でも扉をあけ、こちらに背をむけたまま、フローラは急に立ち止まった。
何か言い忘れたのかと思いまっていたが、特に何も声をかけてこない。不思議な時間が流れた。

「……?どうしたのかしら?」

フローラの背中にそう尋ねると、彼女はこちらを振り向かずそのまま話し始めた。

「探し物、もしお部屋で見つからないようでしたらお嬢様の勉強部屋にあるのではないでしょうか?」
「……勉強部屋?」
「えぇ、あのお花の庭園の……お嬢様がお気に入りの、です」

そう言ってフローラは部屋を後にした。扉の横の棚には青月灯が置かれていた。私はしばらく閉められた扉を見て、そして頭を下げた。

「ーーーーありがとう、フローラ」

***

屋敷の外に出て目的地に向かう。
先日のカムランの襲撃の時にさんざん荒らされていた花たちも、きれいに手入れされていた。

花の庭園の中央に立ち、魔力探知を使う。一か所だけ不思議な魔力の乱れがある場所があった。そちらに向かうとぽつんと小屋があった。

「なるほど……」

小屋には庭園を管理するための道具が入っている場所か、休憩用の小屋と思っていたが、それにしては立派すぎる。
今になってきちんと確認すると封印魔法が施されているようだった。

そのまま扉を開けようと手をかけるが、びくともしなかった。
これまでと同じようにお父様から受け取った鍵を近づけても、今までのように封印は解除されない。

「もしかして……」

私の右手に魔力を集中させそっと扉に触れると、扉にかけられてた封印が解ける。
一階部分は机と本棚、そして本棚もいくつかの魔導書と白紙のノートが大量においてある簡素な作りだった。
そして部屋の隅の床にも同じように封印が施された扉がある。

開くと地下へと続く梯子があった。地下はうっすらと光り輝いている。おそらく『レヴィアナ』が使っていた青月灯がまだ光っているのだろう。
私もフローラから受け取った青月灯に魔力を込めて光を灯し、ゆっくりと地下に潜っていく。
もしかしたら通気口など整備されているからなのか、まだ1年も経っていないからなのかきれいなままだった。

「わ……ぁ……」

眼前に広がる景色に私は言葉を失った。
地下部分は、上の小屋の部分からは想像できないほど巨大な作りになっており、四方の壁にぎっしりと本が詰められている。
中央には大きな机と、その上にもたくさんの本や資料が積まれている。そして机の上には山のようなノートがあった。

「これ……全部読んだの……?」

ざっと確認しただけでも昔通っていた図書館程ではないが、一目見ただけでは数えきれないほどの本がある。
ふらふらとさまようがまだ奥までぎっちり本で埋め尽くされているそれとは別に魔力で鍵がかかった棚もあり、きっとあの中にも本が入っているのだろう。

そして、中央にある机の上には、【解体新書】の写しと思われる本のページが開かれたまま置いてあった。
机の上に書きなぐられた大量のメモには魔法理論や魔法陣が記載されている。どれも学校の学術書では見たことがないものばかりだった。
そして、一番気になる山積みになっているノート1冊取り、1ページずつ丁寧に目を通す。

「『レヴィアナ』……あなたは一体……」

そこに書かれていたのは、『レヴィアナ』がこの世界に抗うための試行錯誤の記録だった。

試したこと、失敗したこと、検証できたこと、そしてこれから試そうとしていること。
そのすべてが事細かに記されていた。
ページをめくる手が震える。喉がカラカラに乾く。息が荒くなるのが分かる。

アルドリック、フローラ、そしてほかの使用人の名前が書き連なっているページに目が留まる。それぞれ名前だけでなく顔の特徴と簡単な性格が書かれていた。

――――そして……

『22時、サーシャ、覚えてる。23時、サーシャ、覚えてる。24時、サーシャ……、今回もダメ……』

何人かの名前に斜線が引かれて、その横に『この人は誰……?』と書かれていた。

やけに泥だらけのノートを手に取り確認する。
『レヴィアナ』は『アリシア』のところにも行ったようだ。
街中の人は『アリシア』のしたいことをすべて叶え、それ以外のものに対しては興味を持っていないような異常さを書き記している。

そして、『アリシア』に対して故意だろうとなかろうとかかわらず、何らかの害を加えた人がいた場合、モンスターに襲われて殺された場面が淡々と書かれている。
その襲われたであろう人物の特徴が描写され、横に『また今回も忘れてしまった』と書かれた文字は滲んでいた。

信じられない強大なモンスターが現れ、『アリシア』と街の人が襲われた時も、『アリシア』だけが無事で翌日村は何事もなかったかのようにふるまっていることも書かれていた。
きっと『レヴィアナ』も必死にモンスターから逃げ、そして忘れる前に書き記そうと躍起になっていたのが、ノートの状態と暴れている文字から見て取れた。

他にもいくつも、いくつか同じようなことが書かれている。
そしてモンスターに殺されたであろう人たちの名前の横には同じように斜線が引かれている。
ページをめくる手が震える。感情がぐちゃぐちゃになって思わずノートを握りしめそうになってしまう。
ノートを持つ手は震えているのに、頭の芯はとても冷えてクリアな状態になっていた。

どんな気持ちだったんだろう。いったいどんな気持ちでこのノートを書き、自分の記憶がなくなっていることと向き合ってきたんだろう。
震える文字が続く。

『やっぱり私の仮説で間違いなかったみたい。
この世界は【本】の通り、アリシアという人物を中心に回っていて、アリシアが害するとモンスターなどによって自然に排除される。
排除されて死んだ人はこの世界から文字通り居なくなってしまうみたい。
自然に亡くなった場合も同様ね。
そして、私の記憶の中からも本当に無くなってしまう。
もしかしたらこのことも忘れてしまうかもしれないから、ちゃんと書き記しておくわね。
使用人のページに書いてある名前、本当にちゃんと私の世話をしてくれた人達よ。
今の私ももう覚えていない人もいるけど、ちゃんと世話をしてくれた人たち。
父もこのことにはきっと気づいている。昔から「忘れっぽいから」といって人の名前をよくかいていたけど、きっとこのためだったんだわ』


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...