悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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物語の終わり、創造の始まり

マルドゥク・リヴェラム

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(つっよい……っ!)

マルドゥク・リヴェルムがテンペストゥス・ノクテムと同クラス、いや、それ以上の存在であることは知っていた。
ディヴァイン・ディザイアを手に入れるのに合わせ、可能な限り多くの経験値を稼ぎ、十分な力をつけたつもりだった。
それでも、想像をはるかに超えていた。もしあの戦闘訓練を重ねていなければ、一瞬で圧倒されていただろう。

「―――――っ!エレクトロフィールドっ!!」

魔法の衝突で生じた砂煙に紛れて急接近してきたマルドゥク・リヴェラムの蹴りに対して、防御魔法を展開し攻撃を防ぐ。

防御魔法でしっかりと受け止めたにもかかわらず、全身の骨にひびが入りそうなほどの衝撃を感じた。

「プラズマウェーブ!」

歯を食いしばり間髪入れずに魔法を放つがマルドゥク・リヴェルムは器用に体をひねってよける。

(まったく、速いわねっ!)

砂煙が徐々に晴れていく。しかし休む間もなくマルドゥク・リヴェルムは単に魔力を圧縮したとしか言いようがない、魔法とも言えないような魔力の塊を次々に飛ばしてくる。

「ストーンバリアっ!」

ガレンがいまだ起き上がれない実紗希とマルドゥク・リヴェルムの間に岩の壁を作り、飛んできた魔力の塊を防ぐ。

「さすが。うまく粘るもんだな」
「とっとと俺たちの攻略をあきらめてその化け物とどっか行っちまえよ!」
「まぁ俺もやらなきゃいけないかな。お前たちのほうこそ諦めてくれねぇ?」
「ふざけた事言ってるんじゃないわよ!」

マルドゥク・リヴェラムは詠唱なしで私たちの上位クラスに匹敵する威力の魔法を次々と放ち続ける。
ガレンが作ってくれたストーンバリアも使いながら、合間を縫ってこちらも反撃に転じるが、それでもマルドゥク・リヴェラムが常時展開している防御結界に防がれてしまう。

「一向に届いてこねーけどそれでもセレスティアル・アカデミーの生徒会かよ?」

ノーランはマルドゥク・リヴェラムの肩に腰をかけ、足を組みながら私たちの戦いを眺めていた

「は、生徒会の下っ端がよく言うぜ」
「ガレンも厳しいこというじゃねーか。あ、イグニスの攻撃なら破れたかもしれないのにな。ここにはイグニスは来ていないのか?」

その言葉にまだ地面に座ったままの実紗希がピクリと反応した。

「イグ……ニス……?」
「あいつはすげー奴だよなぁ。あいつがしっかり魔法を教えてくれたおかげで、生徒会としても恥ずかしくない程度の能力は身につけたんだよ」
「黙って!実紗希、あんな奴の話なんて聞く必要ないわ!」

再びプラズマウェーブを放つが、今までと同じようにマルドゥク・リヴェラムにはじかれてしまう。

「俺もここに座ってるだけで暇なんだ。話すくらいいいじゃないか。それに最後の会話になるんだぜ?」
「だったらあんたもそこから降りて戦いなさいよ」
「はっはっはっ、無茶言うなって。天才貴族様に俺みたいな平民がかなうわけないだろ」

こうして会話していると、いままでのノーランと何も変わらなかった。
笑い声も、しぐさも、表情も、声も。
ミーナが居なくなって絶望していた時にシルフィード広場声をかけてくれた、あのノーランと何も変わらなかった。

(違う、これがやつの狙い……)

あの時私の元に来たのも、私と仲良くなり物語をスムーズに進めるのが目的だったに違いない。
裏切られたなんて思うな。もともと、アレはそういう存在だったんだ。

「でも、惜しかったなぁ」
「はぁ!?何がだよ!」

ガレンも苛立ちを隠しきれなくなっている。

「もしイグニスが居たら無詠唱ヒートスパイクを一か所に集中させてマルドゥク・リヴェラムの結界を破れたかもしれないし、あいつのインフェルノゲイザーなら俺ごと焼き尽くせたかもしれないのにな」

会話の間にもマルドゥク・リヴェラムから魔法が飛んでくる。

「そうね、残念ね!」

攻撃を相殺しながら、実紗希が射線上に入らないように注意深く移動と攻撃を繰り返す。

「まぁ、落ち着けって。お前も一回攻撃中断だ。もしかしたらその辺の木の陰からイグニスが攻撃してこようと狙ってるかもしれないからな」

手に持った本が光を放ち、マルドゥク・リヴェラムは攻撃を停止した。

「やっぱり俺の言う通り、その辺に……」

そのとき、ノーランはこれまで見せたことのない意地の悪い笑みを浮かべた。それは見るだけで吐き気がするような笑みだった。

「あ、そっか、イグニスはアリシア……違うか、実紗希が殺したんだっけ?」
「っ……!」

その言葉に、実紗希が顔を上げる。その顔は真っ青だった。

「ん?なんだその顔。もしかしてショックを受けてるのか?俺がそそのかしたんだからそこまで気に病むことは無いさ。ミーナの事も、イグニスの事も、あ、そうか、アルドリックの事も」

ノーランは実紗希の絶望した顔を見て、嬉しそうに笑った。

「直接手を下したのは実紗希だが、全部俺のせいだから気に病む必要は無いぜ?」
「……あ、あんた……っ!」

攻撃を仕掛ける直前に、私の目の前でマルドゥク・リヴェラムの魔法陣が展開された。

「くっ……!」

私は慌てて防御魔法を展開させ、間一髪で魔法を受け止める。

「はは、柚季、反応がいいね」

ノーランが楽しそうに笑う。まるで夏休み、みんなでアリシアの家に遊びに行った時のように。
「柚季なんてなれなれしく呼ばないでちょうだい!!」
「おー、怖い怖い」

楽しそうに笑いながらノーランは足を組んだ。
そこでこれまで沈黙を保っていたセシルが初めて声を上げた。

「実紗希?柚季?いったい誰の事を言っているんだい?」

セシルが、困惑した表情を浮かべながら私たちに問いかける。

「そっか、セシルはまだ知らないのか。ふーん、その様子だとガレンは知ってるみてーだな?」

ノーランは実紗希と私、そしてガレン、セシルを順番に見ていく。

「俺がゲームマスターということを隠して紛れ込んでいたように、あの二人も自分の正体を隠してここにいたってわけさ」

そう言って私と実紗希に視線を向ける。

「そこにいるのはレヴィアナの姿をした藤田 柚季、そしてそっちに居るのはアリシアの姿をしているが、中身は青山 実紗希っていう別人だ」

セシルが私と実紗希を見る。
そして、その顔は困惑と疑問を浮かべているように見えた。

「お前らの事を、俺と同じようにずっと騙してたんだよ」
「ちがう、違うの。だますつもりはなかったの!」
「俺もだ、だますつもりじゃなかった。でも、言い出すきっかけがなくて!」

マルドゥク・リヴェラムの右手が光り、セシルに対して先ほどナタリーとガレンにしたように精神支配系の魔法をかけ始める。
しまった……。最悪のタイミングだ。もしここでセシルが私たちからノーラン側に着いたら、完全にバランスが崩れてしまう。
まだ私の魔法陣は完成していない。このままじゃ……。

「ちょっと待ってよ。騙すとか騙さないとか何を言ってるのさ」

しかし私たちの杞憂をよそに、セシルはいつものように、軽い笑顔を保ったまま私たちに問いかけた。

「騙すも何も、レヴィアナが別人だって初めから気づいてたけど?」

セシルはさもそれが当然の事であるかのようにそう言った。

「「―――――は?」」

私とノーランの声が重なる。

「いや、だって魔法の構築パターンが違うもん」

セシルはそう言って私にほほ笑んだ。

「え?みんなもレヴィアナのいつものいたずらだと気づいていて、話を合わせていたんじゃないの?ねえ、ガレン?」
「構築パターン……ってお前……そんなの分かるのかよ……?」
「途中からだけどね」

ガレンがセシルの発言に絶句している。私も、ノーランも同じようなリアクションだった。

「あ、でもいたずらじゃなかったんだね。うーん、そこは想定外」

セシルは少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「でも、初めて名前を知れたね。初めまして。柚季、でいいんだよね?」

セシルはそう言って私に手を差し出した。

「……はじめまして」
「それに君の名前を知ることもできた。実紗希」
「え……と……」
「ん?どうかしたかい?」

実紗希も同じように手を差し伸べられて困惑し、それからしっかりとその手を取った。

「ノーラン、いや、ゲームマスターだっけ?教えてくれてありがとう」

そうしてノーランにもにこりと笑った。

「君の今の問いかけにははっきりと『嫌だ』が回答だ。君みたいな人を助けるなんて嫌だし、それに僕には実紗希を守るっていう、命を懸けるに値するやりたいことがあるからね」

そう言ってセシルはマルドゥク・リヴェラムをにらんだ。

「セシル……」
「柚季、それに実紗希。あとでいろいろ教えてね?」

そう言って実紗希をかばうように前に立ちはだかった。

「……その選択は間違いだぜ」

マルドゥク・リヴェラムが手を振り上げると、彼の頭上に巨大な火球が現れ、それぞれがどんどん大きくなる。腕を振り下ろすと同時に、火球が一斉に実紗希に襲い掛かった。

「くっ!エレクトロフィールド!!」
「ストーンバリア!!」

反射的に私とガレンが防御結界を展開する。しかし私たちに防御結界に当たる前に火球はすべて爆発四散した。

「―――――ゼフィルレヴィテート。僕が今までただ立っていただけだと思った?」
「ははっ、オリジナル魔法か」
「そ、まだ詠唱に時間かかっちゃってさ。お待たせ」

セシルは実紗希を振り返り、にこっと笑いかけた。

「君の事は僕が守るから、安心して」
「……ありがとう、セシル」
「どういたしまして。さて、それじゃ続きをしようか!」

そう言ってノーランとマルドゥク・リヴェラムに向き直った。


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