悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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物語の終わり、創造の始まり

卒業式の先の世界

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「レヴィアナさ―ん」

校門前で待っているナタリーが元気よく手を振っていた。
すでにナタリーも、マリウスも、ガレンも集合場所に集まってた。

「お待たせ!ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
「もういいのか?」
「ん、大丈夫。一年分は文句言ってきたから」

持つよ、とガレンが一つ荷物を取ってくれる。

「それで、セシルさんは?」
「今日も誘ってみたけど実紗希と一緒にいるって。もしまたゲームマスターみたいなのが来てもちゃんと守るって笑ってたわよ」

今日も実紗希は一人で満足げな表情を浮かべたまま【霊石の鎖】で封印されたままだった。
私がいくら文句を言っても、蹴っ飛ばしても、……少しだけサンダーボルトを当てても、微笑んだまま何も反応してくれなかった。

「この文章がうまくつながってるといいんだがな」

マリウスがナディア先生の部屋で見つけた『解体新書-2-』を確認しながら言う。

「そうねー」

実紗希がバカなことをした日。
【霊石の鎖】の解除方法を探し学校中を歩き回ってた私たちは、ナディア先生の部屋で2冊の本を見つけた。
その内の1つには『解体新書-2-』と書かれていた。

これでもしかしたら実紗希を助けられるかもしれない、そんな期待に胸を膨らませながら開くと、セレスティアル・ラブ・クロニクルの世界の設定集だった。
【霊石の鎖】の解除方法は書いてなかったけど、お父様が持っていた『解体新書』で不明瞭な部分もこれと合わせれば何かわかるかもしれないと、まずは私の家に向かうことになった。

「もしそうなら私の師匠のところにも行きましょう!きっと『解体新書-3-』を持ってるはずですから」
「確かに、それが一番可能性高そうよね」

ナタリーが嬉しそうに言った。三賢者のうち2人が持っていたんだ。きっとナタリーの師匠、三賢者の一人アイザリウム・グレイシャルセージも『解体新書』を持っているはずだ。

「ナタリーの師匠って、どんな人なの?」
「うーん、すごく優しくて厳しい人です!きっと皆さんの事も歓迎してくれますよ!マリウスさんの氷魔法を見せたらきっと師匠喜びますよ!」
「そうか?」
「はい!」
「なら、もっとちゃんと花も作れるように馬車でも訓練しておかないとな」

ガレンとナタリーが楽しそうに話している。
シルフィード広場は今日もにぎやかに人が行きかっていた。

「今日は大安売りだよー」「ねーねー、これかわいいでしょ」「いやー、今日の劇も最高だった」

普段と何も変わらない。私も、そして実紗希も、ここに来る前もここに来てからもずっと大好きなシルフィード広場だった。

「で、さ?」
「ん?どうしたの?」

ガレンが聞きづらそうに聞いてきた。

「もし全部の『解体新書』を見ても解除方法がわからなかったらどうするんだ?」

そんなことを言うガレンがくすぐったくて表情が崩れてしまう。
あまりに期待しすぎてそれがダメだったとき、私がショックを受けないように、きっとそんなところだろう。

「相変わらず優しいわね」
「は?何がだよ!」

ガレンが気恥ずかしそうに怒る。

「吟遊詩人、居るじゃない?」
「あぁ、あの劇してる人たちだろ?」
「吟遊詩人が居るってことは、きっとこの国の外もあるのよ」
「……はぁ?」

ガレンが素っ頓狂な声を上げる。

「『解体新書』はこの国の事を書いた本でしょ?ここで【霊石の鎖】の解除方法が見つからなかったら、外を探しに行きましょ」
「え?そんなことできんのかよ?」
「わかんない」
「わかんないって、お前なぁ……」

あきれたようにガレンが天を仰ぐ。

「それに『レヴィアナ』が私も知らないヴォルタリア・フェイトリフターなんて魔法の研究をしてたのよ?もしかしたら何かそういった裏技みたいなものがあるのかも」
「ふぅん?」
「それかー……、そうね。ノーランみたいな新しいゲームマスターが現れたらそいつをとっ捕まえて吐かせるのもありね」
「あー、はいはい、そうですか」
「そうよ。私たちにはまだまだ試すことが残ってるもの」
「……そうだな」
「ぜーったい、ぜーーーったいあんな封印なんて解いて、それであんなバカなことしたこと謝らせるんだから!!」
「わかったって」

ガレンが笑いながら言った。

「それで?もしそのお前の思い付きがぜーんぶ空振りに終わって、それでもアリシアを元に戻す方法が見つからなかったらどうするんだ?」
「んー?そしたらその時はまぁ、ヴォルタリア・フェイトリフターをお見舞いしてやるわ。悪役令嬢らしく、すっごい悪い顔してね!」

口を両指で釣り上げながらいたずらっぽく笑った。

「悪役令嬢ならもっと悪い顔してくれよ」

ガレンが私の真似をして口を釣り上げる。そして、2人で大笑いした。

「ほら!2人とも!置いてくぞ」

ナタリーとマリウスが先に歩き始めていた。

「あ、ちょっとまって!ごめん、今行くわよ!」

私はわがまま。だから自分のしたいようにする。
実紗希だけが満足する終わり方なんて許さない。
実紗希を元に戻せる方法も、ソニックオプティカやゲームマスターの力なんて借りずに全部見つける。
それにこの愛と夢と希望にあふれた大好きな世界には、きっとご都合主義の何かがきっとある気がした。

一度寮の方を振り返る。

(この世界は、もっとわからないことだらけできっと私やあなたが思っているよりずっとずっと広いの!だから、絶対、絶対一緒に、ううん、生徒会の皆でこの世界を遊びつくしましょうね!!)

そうして胸いっぱいにセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界を吸い込み、新しい一歩を踏み出した。

***

ーー
ーーー
ーーーー

「----ほら、甘えんぼ。そろそろ起きなさい」
「ん……、あれ?」

実紗希の周りを包んでた結晶が少しずつ溶けだしていく。そして、光の粒子になっていき、そのまま空気に溶けて消えていった。
そのまま実紗希はぺたりと床に座り込んだ。

「目が覚めた?」

私は優しく実紗希の頭を撫でた。
まだ状況が呑み込めていないようできょろきょろとあたりを見回していた。

「あ……俺……、手紙……」
「はぁ?何よ、寝ぼけてるの?」
「いや、って言うか柚季……その髪、あれ?」
「髪くらい伸びるわよ。大変だったんだから」
「……」
「ほら、もうあんたはヒロインじゃないって言ったでしょ。どんなことしても無駄なんだから諦めなさい」

実紗希は目を白黒させて、何が何だかわからないという顔をしていた。

「って言うか大変だったんだから。もう面倒なことしないでよね。ナタリーの師匠さんにも助けてもらってさ。あ、そうそうナタリーの師匠って本当にすごいわよ!それに、それに……あー!もうめんどくさい!」
「えっと、ごめん?」
「ほら!行くわよ!」

手を強引に引っ張って立たせる。

「わっ、ちょっと!」
「もう、今度はイグニスとミーナを何とかしに行くんだから。実紗希が撒いた種でしょ。あんたも協力しなさいよ!」
「いや、でも、俺は、あの……っ!!!」

実紗希がそのまま抱き着いてきた。いきなりの事にバランスを崩し2人でベッドに倒れる。

「あはは、たしかずーっと前にもこんな事あったわよね」
「……ごめん、柚季。ほんとごめん、勝手に決めて、それで……それで!」
「はいはい、わかったから」
「ほんとごめん……」
「あとでセシルにも謝っときなさいよ。あのセシルがずーっとここで待ってたんだから」
「……うん」

実紗希は顔をこすりつけて泣いていた。泣き止むまで頭を撫でて、ゆっくりと立ち上がった。

「という事で、これからよろしくお願いしますわ!実紗希!」
「ーーーーっ、……はい!こちらこそよろしくお願いします!柚季!」

私は実紗希の手を引っ張って部屋を飛び出した。

「ちょっと柚季!まだ俺着替えてない!!」
「バカなことした日のまんまの姿だからへーきよ。封印中ってどんな感じだったの?」
「いや、意識はあるんだけど、いや、無かったのかな?」
「ふーん?あんたがバカなことしてる間に完全にマリウス取られちゃったわよ?」
「バカバカ言うなって!わかってるんだから!っていうかなんだよ、それ!」
「結婚式はあんたにちゃんと報告してからにするって、ナタリーもなかなか良い性格になったわよね」
「え?ちょっと待てって、俺全然ついてけないんだけど!」
「まぁ、あんたにはちゃーんとセシルが……でもあんまり変なことばっかりしてるとどっか行っちゃうわよ?あの自由人」
「いや、だから!え?何?」

2人きりの寮の廊下を実紗希を引っ張って駆け抜ける。

「はぁ……そういう柚季は、ガレンとうまくいってんのかよ」
「何よ、反撃のつもり?そうねー、いーっぱい冒険したしガレンが一歩か二歩リードよねー。でもイグニスが復活したら私の事取りあってもらおうかなって!」
「うっわ……」
「ここはそういうとこでしょ!今度はちゃんと一緒にダンスするんだから」
「……」
「なーに暗くなってんのよ!だから協力しなさいって言ってるの!!あ!でもイグニスの事取ったら許さないからね!」
「あー、わかったって!」

2人してバカみたいに大声をだして、寮を、そしてセレスティアル・アカデミーを飛び出して進む。

「ね、実紗希!」
「ん?」
「私、今すっごく楽しい!」
「あぁ、俺も!」

ここから先はヒロインと悪役令嬢が手を取り歩む誰も知らない物語。
でも、きっとそれはどんな物語よりも楽しくて面白い幸せな物語に決まってる。
今日もセレスティアル・ラブ・クロニクルの風が優しく吹いていた。


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