もふもふ好きの騎士と毛玉

コオリ

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本編

02

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 美しく強い《獣》の一族。その獣は人間と意思の疎通を図る術をもち、また不思議な術を用いることができた。身体能力も普通の獣に比べ、数段高く、人間たちに勝るものも多くいたという。そんな獣たちも人間の集落の近くに、人間と寄り添うように暮らしていた。お互い助け合って暮らしていたのだ。
 だが、ある日を境に彼らと人間の間には決定的な亀裂が生まれてしまう。その原因は、人間による彼らの乱獲。彼らはその毛皮の質もまた、他の獣よりも優れていたからだ。
 その手触りは人間たちを魅了し、手に入れたいと願うものが増えた。その価格は跳ね上がり、それに目のくらんだ人間たちにより、彼らは乱獲され、多くの命が失われたらしい。この手記の人物はそのことに酷く憤っていた。そして、嘆いていた。
 もうここで彼らと共に暮らしていけない。せめて、全ての命が失われる前に、彼らを魔の森へ逃がすことを決意した、とも書かれていた。どうやら、この手記を残したのは彼らと寄り添って暮らしてきた、人間の一人だったらしい。
 それ以来、その獣たちは人間をも近づくことに危険を伴う魔の森の奥で、ひっそりと隠れて暮らしている。そう私が読み解いた部分には書かれていた。
 手記はまだ続いていたが、ちょうど騎士団に入る時期となり、私はその続きを読むことはできなかった。自室にその手記を置いてきてしまったからなのもあるが、騎士団での生活が忙しく、それに追われているうちに、その手記の存在すら、今の今まで忘れてしまっていたからだ。
 あの毛玉を見るまでは。

 ―――一度、その一族に会ってみたい。

 当時の私はそう思った。別に毛皮に心を惹かれたのではない。不思議な術でも、その身体能力の高さにでもない。私が心を惹かれたのは《意思の疎通が取れる獣》という点だった。

 端的に言おう。私はもふもふが好きだ。

 騎士として、しかも隊の長を務める人間としては大きな声で言えることではないが、好きだ。敬愛しているといっていい。許されるなら崇めたいところだ。
 それほどまでに愛しているのに、私はもふもふ相手に好かれない。いや、好かれないどころではなく、近づく前に相手が怯えてしまい、逃げていく始末だ。

 曰く、その目つきが怖すぎるのではないか。
 曰く、その金髪がキラキラと眩しすぎるのではないか。
 曰く、お前の動きが気持ち悪いんじゃないか。

 そんな風に幼馴染に揶揄われ―――むしろ最後のは悪口だと思うのだが―――その度に色々な対策をして挑んだが、全て徒労に終わった。
 無理に捕まえようとすればできるのかもしれないが、好きなものの怯える姿を誰が好んで見たいと思う? 私はもふもふに触れることを半ば諦めていた。だが、それも相手と意思の疎通が可能ならば大丈夫なのではないか?
 話さえすれば、こちらの意思を伝えさえすれば、触れさせてくれるのではないだろうか―――そう考えたのだ。
 柔らかいもふもふを堪能したい。一度、満足するまで触れてみたい。
 いつしか諦めていたその野望を、叶えられるかもしれない存在が今目の前にいることに、私は小さく身震いをした―――とはいえ、あれが本当にその一族の関係者であるとは限らない。
 そうであってほしいとは願うが、油断していい相手ではない。警戒は決して緩めないまま、私は毛玉に近づいてみることにした。
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