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本編
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リティスは本当によく食べる。
それだけ食べて、なぜ大きくなれないのだろう。そんなことを聞いたら、間違いなく暫く口をきいてもらえなくなるだろうが。
「次は何にする?」
「さっきの屋台に戻っていい? 甘いのいっぱい食べたら、しょっぱいのがほしくて。あのたれ付きのお肉が食べたい! いい?」
「構わない」
その食べる姿を見るのも好きだ。
口を大きく開けると、鋭く尖った牙が見える。
獣体の時に比べれば小さいが、それでも人間のものに比べれば鋭く長い。
「ん? どうかした?」
「いや、その牙……口の中を噛むことはないのか?」
「あー……たまにある。アウルムは? 噛んだりする?」
「いや、私はそんな牙はないからな」
「ないの? え、そうなの? 見せて!」
ぐいっと背伸びをしたリティスが私の口元を覗き込んでくる。
え、いや。それはまずい。その体勢はまるで―――。
「見えないよー?」
苦情を言っているのが聞こえるが、私は今それどころではない。
気になっている子が、自分の唇に向かって背伸びをしている。しかも、ねだるような仕草で……いや、ただ牙の有無を確認したがっているだけなのだが。
リティスの望む通り、犬歯の位置が見えるように口を開いてやる。リティスの顔がさらに近づいてくる。その時だった。
「あれー? 隊長?」
「!」
その声には聞き覚えがあった。
私の隊のイーゴだ。話好きで噂好きの男。まずい相手に出会ってしまった気がする。
「あれ? お隣は隊長の彼女さんですか? ……じゃないか、男の子? こんにちは」
「……こんにちは」
「おー、めっちゃ可愛い。って、何ですか。隊長。隠すことないじゃないですか。減るもんじゃなし」
慌てて、イーゴから見えない位置にリティスを隠す。減るもんじゃないだと。減るだろう、間違いなく。
「関わるな。さっさと行け」
「あれ? やっぱり、お二人はそういう仲ですか? でもそうか。そのローブって隊長が前にめっちゃ選んで買ってたヤツですもんね。商人困らすぐらい長い時間悩んで。隊長にあんな顔させるの、どんな相手かと思ってたんですよ! 着てもらえてよかったじゃないですか! あ、そういうの、オレ全然偏見ないんで! お似合いだと思いますよ。お二人」
「え、あ……お似合い? え、と……」
ぺらぺらと喧しく話すイーゴの言葉に、戸惑っているリティスの声が背後から聞こえる。
くそ、イーゴの奴。これ以上リティスの前で変なことを言うんじゃない。
殺気を飛ばすと流石に気づいたのか、イーゴの顔色がみるみる青褪めていく。
そうだ、そのまま早く消えろ。
「あー、えっと。お二人ごゆっくり? オレは、その……失礼します!」
言うだけ言って、イーゴは脱兎のごとく逃げていった。
―――本当に要らないことをぺらぺらと。
リティスに嫌な思いをさせてしまったのではないかと、振り返って、私は自分の目を疑った。
リティスが顔を真っ赤にしている。
「僕と、アウルムが……お似合い?」
なぜ、そんな嬉しそうな顔なんだ?
フードでほとんど隠れているが、その目の輝きまでは隠れない。
獣人の瞳は獣のそれに近いからか、少しの光でキラキラと輝く。その目がいつも以上にきらめている気がする。
イーゴの奴に冷やかされた不快を露わにしてもおかしくないのに……そんな嬉しそうな顔をされたら。紅潮したリティスの顔に私も意識せずにはいられない。
「……悪いな。嫌じゃなかったか?」
取り繕って声をかける。ハッとしたリティスがこちらを見上げる。
「全然! あ、でもアウルムは平気?」
「何がだ?」
「その……僕とそういうんだって、勘違いされてたけど」
「―――別に。私は構わない」
私の答えに、リティスはほっとした顔で笑う。
その顔の意味は何なんだ? 特に深い意味はないのか? それとも。
それ以上、その話題に触れることもできず、私たちはリティスの食べたがった肉串の屋台へと向かった。
それだけ食べて、なぜ大きくなれないのだろう。そんなことを聞いたら、間違いなく暫く口をきいてもらえなくなるだろうが。
「次は何にする?」
「さっきの屋台に戻っていい? 甘いのいっぱい食べたら、しょっぱいのがほしくて。あのたれ付きのお肉が食べたい! いい?」
「構わない」
その食べる姿を見るのも好きだ。
口を大きく開けると、鋭く尖った牙が見える。
獣体の時に比べれば小さいが、それでも人間のものに比べれば鋭く長い。
「ん? どうかした?」
「いや、その牙……口の中を噛むことはないのか?」
「あー……たまにある。アウルムは? 噛んだりする?」
「いや、私はそんな牙はないからな」
「ないの? え、そうなの? 見せて!」
ぐいっと背伸びをしたリティスが私の口元を覗き込んでくる。
え、いや。それはまずい。その体勢はまるで―――。
「見えないよー?」
苦情を言っているのが聞こえるが、私は今それどころではない。
気になっている子が、自分の唇に向かって背伸びをしている。しかも、ねだるような仕草で……いや、ただ牙の有無を確認したがっているだけなのだが。
リティスの望む通り、犬歯の位置が見えるように口を開いてやる。リティスの顔がさらに近づいてくる。その時だった。
「あれー? 隊長?」
「!」
その声には聞き覚えがあった。
私の隊のイーゴだ。話好きで噂好きの男。まずい相手に出会ってしまった気がする。
「あれ? お隣は隊長の彼女さんですか? ……じゃないか、男の子? こんにちは」
「……こんにちは」
「おー、めっちゃ可愛い。って、何ですか。隊長。隠すことないじゃないですか。減るもんじゃなし」
慌てて、イーゴから見えない位置にリティスを隠す。減るもんじゃないだと。減るだろう、間違いなく。
「関わるな。さっさと行け」
「あれ? やっぱり、お二人はそういう仲ですか? でもそうか。そのローブって隊長が前にめっちゃ選んで買ってたヤツですもんね。商人困らすぐらい長い時間悩んで。隊長にあんな顔させるの、どんな相手かと思ってたんですよ! 着てもらえてよかったじゃないですか! あ、そういうの、オレ全然偏見ないんで! お似合いだと思いますよ。お二人」
「え、あ……お似合い? え、と……」
ぺらぺらと喧しく話すイーゴの言葉に、戸惑っているリティスの声が背後から聞こえる。
くそ、イーゴの奴。これ以上リティスの前で変なことを言うんじゃない。
殺気を飛ばすと流石に気づいたのか、イーゴの顔色がみるみる青褪めていく。
そうだ、そのまま早く消えろ。
「あー、えっと。お二人ごゆっくり? オレは、その……失礼します!」
言うだけ言って、イーゴは脱兎のごとく逃げていった。
―――本当に要らないことをぺらぺらと。
リティスに嫌な思いをさせてしまったのではないかと、振り返って、私は自分の目を疑った。
リティスが顔を真っ赤にしている。
「僕と、アウルムが……お似合い?」
なぜ、そんな嬉しそうな顔なんだ?
フードでほとんど隠れているが、その目の輝きまでは隠れない。
獣人の瞳は獣のそれに近いからか、少しの光でキラキラと輝く。その目がいつも以上にきらめている気がする。
イーゴの奴に冷やかされた不快を露わにしてもおかしくないのに……そんな嬉しそうな顔をされたら。紅潮したリティスの顔に私も意識せずにはいられない。
「……悪いな。嫌じゃなかったか?」
取り繕って声をかける。ハッとしたリティスがこちらを見上げる。
「全然! あ、でもアウルムは平気?」
「何がだ?」
「その……僕とそういうんだって、勘違いされてたけど」
「―――別に。私は構わない」
私の答えに、リティスはほっとした顔で笑う。
その顔の意味は何なんだ? 特に深い意味はないのか? それとも。
それ以上、その話題に触れることもできず、私たちはリティスの食べたがった肉串の屋台へと向かった。
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