【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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01 悪の組織ってエロすぎない?

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 前世の自分のことは、あんまりよく覚えていない。
 なんとなくは思い出せるんだけど……例えるなら、夢みたいな感じかな。記憶全体がふわっふわしていて、思い出そうとしても、掴んだ先から記憶が消えていくイメージだ。
 でもはっきり覚えていなくても、今のおれに影響していることはいろいろある。
 性格とか、考え方とか、好き嫌いとか。
 こういう感覚は記憶とはちょっと違う感じで魂に結びついているのかもしれない……たぶんだけど。

 バン・クラードゥ、八歳。

 それが今のおれ。
 父親譲りの金髪と母親譲りの紫色の瞳が似合う、割と可愛らしい顔立ちの子供だと思う。
 そんなおれが前世のことを思い出したのは五歳のとき。今からちょうど三年前のことだった。
 といっても、それで生活が大きく変わったとか、そんなことは全くない。前世とは雰囲気の違う今世を、おれは新鮮な気持ちで楽しく過ごしている。

「あら、バン。静かだと思ったら、本を読んでたのね」

 そう言って笑いかけてきたのは、美人で自慢の母さんだ。
 食事の準備を終えた母さんは、ダイニングから料理の乗った皿を運んでいる。
 皿は、全部で六皿・・
 それを六つの手それぞれに持って、危なげなく運ぶ母さんの器用さは、いつ見ても感心してしまう。
 そう。おれの母さんには腕が六本ある。
 悪の組織ダーヴァロードの幹部である〈蜘蛛くも怪人〉アラネア。
 それが母さんの持つ、もう一つの顔だ。

「ねえ、オクトス。テーブルの上を片づけてくれる?」
「ああ……すまん」

 オクトスというのは、大柄で筋肉隆々の父さんだ。
 ダイニングテーブルの上には父さんが置いた物騒な武器が、ずらっと並べられていた。
 確かに、これじゃ食事は無理だ。
 父さんはダイニングテーブルから離れたところにいた。どうやら武器以外の装備を手入れしていたらしい。
 そんな父さんの背中から伸びたのは、ぬるりと長い八本の触腕。吸盤つきのそれらを器用に動かして、あっという間にテーブルの上の武器を片づける。
 父さんは悪の組織の幹部〈たこ怪人〉オクトスという、もう一つの顔を持っていた。

 おれは、そんな悪の幹部の二人から生まれた一人息子だ。
 腕は二本しかないし、背中から触腕が生える気配も全然ないけど。それに魔力だってまだまだ弱かったけど、子供の間はみんなそういうものらしい。

「バンも本を片づけて」
「はーい」

 おれたち三人家族は、組織の本部がある闇都ダークシティの四区、閑静な住宅街で暮らしている。



   ◆◆◆



 それから、あっという間に十年が過ぎた。
 十八歳になったおれは本日、ついに両親と同じ悪の組織ダーヴァロードに入団する。

「え……今日、首領様に会えるの?」

 驚きすぎて、声がひっくり返ってしまった。
 だって、そんな一大イベントがあるなんて聞いていない。幹部である両親からも知らされていなかった。
 おれ以外の新入団員はみんな知っていたみたいで、「そうだよ」「だから緊張しまくってんだろ」「口からなんか出そう」と口々に答える。

「バン、知らなかったのか?」
「うん……全然。知ってたら、もっと気合い入れてきたのに」
「なんだよ、気合いって」

 落胆するおれを見て、笑ったのは幼馴染みのレクセ。
 男のおれから見ても超イケメンだ。
 レクセも幹部の息子なので、立場はおれと似ている。
 まあ……はっきりと差がついているところもあるんだけど。

「昔っから首領様に憧れてたもんなぁ、バンは」
「レクセは違うのかよ」
「そりゃ、俺も憧れてはいるけど。ただ、バンと比べたら確実に負けるからなぁ」

 闇都ダークシティ育ちで、首領様に憧れない子供なんていないと、おれは思っている。
 悪の組織ダーヴァロードを束ねる首領ガラディアーク様は、規格外の魔力を持っているだけでなく、いくつもの特殊能力を自在に操るカリスマ的存在だからだ。
 そんな首領様に会える機会なんてそうそうない。すごいチャンスだっていうのに、レクセはそこまで興味がある様子じゃなかった。
 どうして、そんなに飄々としていていられるんだろう。信じられない。

「もしかして、もう会ったことある……とか?」
「ないって。ただ、前に兄貴に聞いたら『会えるって言っても、一瞬ちらっと顔を拝めるかどうかだよ』って話してたからさ。あんまり期待してないだけ」
「一瞬、ちらっと……」
「幹部の親父だって、ほとんど会う機会はないって言ってたしな……ほら、そんなに落ち込むなよ」
「うう……だって」

 一人ひとり話ができるとは思っていなかったけど、数分くらいは首領様の御姿を拝めるものだと思っていた。
 それが難しいと聞かされて、がっかりせずにはいられない。

「お前がそんな反応するってわかってたから、おじさんたちは首領様が来ることをバンに黙ってたのかもな。お前、期待しすぎて寝不足になりそうだし」
「それは……そう」

 父さんたちには、おれがそうなるのを見透かされてたってことか。

「一瞬でも見られるといいな」
「それはもう! 全力で目に焼きつけるんだ!! あー……でも、このマスク越しなのか」

 おれは、手に持ったマスクに視線を落とした。
 それは下っ端戦闘員の必需品である、頭と顔をすっぽりと覆う全頭マスクだ。
 組織の半分以上を占める下っ端の戦闘員に個性は必要ない。皆同じ格好をし、決められた行動だけを取り、首領様のために命を捧げるのだ。

 ――やば……ちょっと、ぞくぞくしてきた。

 首領様にすべてを捧げる自分を想像しただけで、気持ちが高揚してしまった。おれは興奮を落ち着けるために、ふうっと息を吐き出す。
 制服を身につけた自分の身体を見下ろした。
 下っ端戦闘員の制服とは、いわゆる全身タイツだ。
 素材はタイツよりしっかりしているけど、見た目は完全にそれ。指先までぴったりと覆う真っ黒な全身タイツに身を包んだおれは、なんとなく自分の腰のあたりに指を滑らせた。

「ん……ぁ」

 やばい。変な声が出た。
 素肌を触れる感覚とは全然違う。
 全身を覆っているから触覚は鈍りそうなはずなのに、ぞわぞわっと駆け抜けた気持ちよさは素肌に触れたときより強いかもしれない。
 癖になりそうな甘い快感を誤魔化すように、おれはぶんぶんと首を横に振った。

 ――戦闘員タイツの好きなところは見た目だけだったけど、自分で着るのも結構やばかった? まさか、こんな興奮するなんて……性癖、転生して酷くなってるかも。

 前世の記憶がどれだけおぼろげでも、魂に染みついているものがある。
 性癖もその一つだ。


 前世のおれは、悪の組織という存在に興奮を覚えるタイプだったのだ。
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