彼女はこのあと、僕がおいしく頂きました

なしひと

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52.持ちうる限りの卑怯さ、あるいは人間らしさ

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 そして、時は戻って現在。場所の方も元と変わらず、夜遅いというより朝早いと形容する方がより正確な時間帯の教室。

 僕の目の前に展開されたそれは、なかなかにシュールな光景だった。

「そっか……」

 僕らの話を聞いて、そんな風に納得したような声を出す妹様。もしかしたら精一杯その声音に気を使っていたのかもしれないけれど、もはや残念なほど、その目線は僕や浮月さんより遥かに低く、腰の辺り。つまりは未だ生首のまま、誰のとも知れない机の上に置かれっぱなしだった。

 一方の浮月さんは見慣れた包帯姿。ただしそれは外面のみの話で、包帯の下の肌は普段以上に怪我痕だらけで痛々しいものに違いない。何せつい半日前、その身体に生えた大部分を器官を無理矢理に噛みちぎり、元の姿に戻したというよりはいっそ人の形に仕立て上げたと言った方が正確な蘇生のあとだったのだから。全身は僕の歯型にまみれてそこかしこが痛みに疼き、意識の混濁だってまだ残っていて、恐らく立って喋るのもやっとだろうに、包帯の奥から覗く眼差しの内には平静さ以外の何も見当たらない。

 あくまで首が落とされて行動不能となっただけで、ダメージそのものはと問われればほぼ無傷同然な砂音は、低めの目線から相手の隙を探すような沈黙を束の間置いた。

「浮月さんが生き返った方法はわかったよ。だけど」それから、微笑む。「ならどうして今、私を殺さないのかな?」
「そんなの勝利条件を満たせないからに決まっているじゃないですか」

 なんてどちらも明らかにわかりきったことを尋ねたり答えたりするのだから、双方負けず劣らずにいい性格をしている。とまれ結局のところ、最後まで責任を持って上手くこの二人をまとめるべきは、やはりこの戦いを始めた僕しかいなくて。

 持ちうる限りの卑怯さ、あるいは人間らしさをフルに発揮するつもりで。

 言葉を紡ぐ。

「確か、勝利条件は勾玉の破壊だったね」、と。
「もちろん持ってるのは私じゃないよ」
「……」

 むしろ首を切り落としても死なない砂音を殺すのも至難かとは思うけど、流石に僕に食い尽くされれば少なくとも概念的には死ぬだろうし、そのリスクを考えれば今の言葉だってまんざら嘘というわけでもないだろう。

「となればこれから、残りの生徒らを殺して回る必要が出てくるのだけど」
「もちろんお兄ちゃんがこの教室に来た時点で、みんなにはそれぞれ隠れるようメール送ったから」、と。

 言われてひっそりと思い出すのは、そういえば確かにスマホいじってたな、と。

 それならばなおさら、一人ずつを探し回ってその勾玉のあるなしを確認するのはほぼ無理だろうと予想できた。

「圧倒的に時間が足りないよね」
「だけど、もしも明日に持ち越しってことなれば」
「お兄ちゃんたちにとって、もっと不利な状況が出来上がる」

 砂音は続くだろう僕の言葉を待って楽しそうにしていた。

 浮月さんはすべてを僕に任せるつもりで口を噤んでいた。

 だから。

「僕らと取引しない?」

 と。今回の戦いにおける真の目的を持ちかけてみる。

 僕が設定した本当の勝利条件ひとつめは、砂音らに勝つことではなく同盟を結ぶことだったのだ、なんて。

「取引って、対等な立場でやるものだと思うのですが」
「……」

 一応真剣な場面であることを鑑みて、なるたけ真面目な声を意識した僕の言葉尻に、主導権を譲ってくれたはずの人が隣から口を挟んでくる。そんなことを言ってきた浮月さんが見やるのは、一段も二段も低い砂音の目線。

「まぁ、この状態ならほぼ脅迫だよね」

 と、こちらは我が事なれど下から見上げつつ面白そうな妹様。

「……」

 気付けばいつの間にか一対二な構図の役者名が書き換わっているし、こういう多対多はやっぱり苦手だな、なんて、今更言い出しても始まらないから。

「それで」と、横も下も無視しつつ。「その中身なんだけど」
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