6 / 6
定休日のガーデンパーティー
しおりを挟む
いつもなら定休日である日曜日。
三日月亭の裏庭では、結婚式の二次会として、ガーデンパーティーが開かれていた。
「マスター、今日は無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
本日の主役である新婦が、三日月亭の店主に声をかけると、隣にいた新郎も深々と頭を下げて
「本当にありがとうございます」
とお礼を述べた。
「いやいや、そんな。こちらとしても、お店を使ってもらえるのはありがたいことですから。それにしても、お二人が結婚することになるとは……出会いから見守ってきた私としても、嬉しい限りです」
マスターの言葉には、心からの祝福がこもっているように聞こえた。
「そうそう、毎朝『三日月亭』でモーニングセットを食べるのがルーティンだった私に、マスターが彼を引き合わせてくれたのよね」
「引き合わせたというほどのことはしていませんよ。ただ、閉店間際に来店したお客様に、『モーニングもやっているのでぜひお越しください』とご案内しただけですから」
「でも、その一言が無ければ俺はモーニングを食べに行かなかっただろうし、彼女にも出会えなかったと思うので、こうして結婚することが出来たのは、やっぱりマスターのおかげですよ」
新郎と新婦は改めてマスターにお礼を告げると、他の招待客にも挨拶をするため、人々の輪の方へ戻って行った。
マスターはその後ろ姿を見送った後、料理や飲み物の補充をしているパート店員のサツキを呼び止め
「サツキさん、それが終わったらヤヨイと一緒に休憩に入っちゃって。調理場に賄いを用意してあるから」
と声をかけた。
「あら、賄いまでいただいちゃっていいんですか?」
「もちろん。休みの日にまで手伝いに来てもらっちゃって悪かったね」
「いえいえ、うちの旦那は出張中だし、お義母さんと二人で家にいるのも気まずいなぁと思ってたから、かえって助かりましたよ。それじゃ、ヤヨイちゃんと一緒に休憩をいただいてきますね」
サツキはそう言うと、空いたお皿を下げているヤヨイに声をかけ、二人で店内に入って行った。
しばらくして戻ってきたヤヨイは
「お父さん、冷凍庫に入ってるバニラアイス、クロワッサンに挟んで食べてもいい?」
とマスターに尋ねた。
するとその声が聞こえたのか、近くにいた新婦の友人達も
「何それ、美味しそう!」
「食べてみたいね」
と言いながらマスターの方を見る。
「それじゃ、皆さんの分もご用意しましょうか。ヤヨイ、手伝ってくれ」
マスターの声かけに、ヤヨイが元気よく答える。
「はーい。でも、私とサツキさんの分もちゃんと残しておいてよ!」
「分かってるよ」
マスターは目を細めながら、ヤヨイの頭にポンと手を置く。
「ちょっと、子供扱いしないでよ」
「はいはい」
涼しい風が吹き抜け、裏庭に植えてあるジャスミンの木が大きく揺れた。
白くて可憐なジャスミンの花からは、甘い香りが漂ってくる。
「ジャスミンはペルシャ語のヤースミーンが語源で、『神様からの贈り物』っていう意味があるんだ。ヤヨイが生まれた時に、おじいちゃんが植えてくれたんだよ」
と話すマスターに、ヤヨイは
「それ、何度も聞いた」
と、素っ気なく返す。
けれどもその横顔は、何だかとても誇らしげに見えた。
三日月亭の裏庭では、結婚式の二次会として、ガーデンパーティーが開かれていた。
「マスター、今日は無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
本日の主役である新婦が、三日月亭の店主に声をかけると、隣にいた新郎も深々と頭を下げて
「本当にありがとうございます」
とお礼を述べた。
「いやいや、そんな。こちらとしても、お店を使ってもらえるのはありがたいことですから。それにしても、お二人が結婚することになるとは……出会いから見守ってきた私としても、嬉しい限りです」
マスターの言葉には、心からの祝福がこもっているように聞こえた。
「そうそう、毎朝『三日月亭』でモーニングセットを食べるのがルーティンだった私に、マスターが彼を引き合わせてくれたのよね」
「引き合わせたというほどのことはしていませんよ。ただ、閉店間際に来店したお客様に、『モーニングもやっているのでぜひお越しください』とご案内しただけですから」
「でも、その一言が無ければ俺はモーニングを食べに行かなかっただろうし、彼女にも出会えなかったと思うので、こうして結婚することが出来たのは、やっぱりマスターのおかげですよ」
新郎と新婦は改めてマスターにお礼を告げると、他の招待客にも挨拶をするため、人々の輪の方へ戻って行った。
マスターはその後ろ姿を見送った後、料理や飲み物の補充をしているパート店員のサツキを呼び止め
「サツキさん、それが終わったらヤヨイと一緒に休憩に入っちゃって。調理場に賄いを用意してあるから」
と声をかけた。
「あら、賄いまでいただいちゃっていいんですか?」
「もちろん。休みの日にまで手伝いに来てもらっちゃって悪かったね」
「いえいえ、うちの旦那は出張中だし、お義母さんと二人で家にいるのも気まずいなぁと思ってたから、かえって助かりましたよ。それじゃ、ヤヨイちゃんと一緒に休憩をいただいてきますね」
サツキはそう言うと、空いたお皿を下げているヤヨイに声をかけ、二人で店内に入って行った。
しばらくして戻ってきたヤヨイは
「お父さん、冷凍庫に入ってるバニラアイス、クロワッサンに挟んで食べてもいい?」
とマスターに尋ねた。
するとその声が聞こえたのか、近くにいた新婦の友人達も
「何それ、美味しそう!」
「食べてみたいね」
と言いながらマスターの方を見る。
「それじゃ、皆さんの分もご用意しましょうか。ヤヨイ、手伝ってくれ」
マスターの声かけに、ヤヨイが元気よく答える。
「はーい。でも、私とサツキさんの分もちゃんと残しておいてよ!」
「分かってるよ」
マスターは目を細めながら、ヤヨイの頭にポンと手を置く。
「ちょっと、子供扱いしないでよ」
「はいはい」
涼しい風が吹き抜け、裏庭に植えてあるジャスミンの木が大きく揺れた。
白くて可憐なジャスミンの花からは、甘い香りが漂ってくる。
「ジャスミンはペルシャ語のヤースミーンが語源で、『神様からの贈り物』っていう意味があるんだ。ヤヨイが生まれた時に、おじいちゃんが植えてくれたんだよ」
と話すマスターに、ヤヨイは
「それ、何度も聞いた」
と、素っ気なく返す。
けれどもその横顔は、何だかとても誇らしげに見えた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる