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菊池まりな

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第103話 融和の兆し

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藍都学園都市は、ゆっくりと呼吸を取り戻しつつあった。
 あの夜の混乱で荒れ果てた街のあちこちに、復旧作業の音が響いている。クレーンが空を横切り、人々の声が交差し、かつての静けさに代わって活気が戻ってきていた。

 ニュースでは「不可解なシステム暴走の終息」とだけ伝えられている。だが美佳たちは、その背後にあった真実──LAPISと、そしてミオの存在──を知っている。

 旧藍都学苑の再建と歩調を合わせるように、街には「共存」や「未来」といった言葉が人々の口から自然にこぼれ始めていた。破壊ではなく、繋ぎ直すために。

「……変わったね、この街」
 美佳が呟くと、隣で純が頷いた。
「でも、変えたのは街じゃない。俺たちだ。選んだからだよ」

 ユリは遠くで遊ぶ子どもたちを見つめ、柔らかく笑った。
「もう“アンケート”なんてものに人の心が縛られることはない。そう信じたいです」

 玲は腕を組みながらも、その表情には以前にはなかった安らぎがあった。
「……油断はできないわ。でも、今は素直に喜んでもいいのかもしれないわね」

 翔は無言のまま、街の高層ビル群を見上げていた。その眼差しは厳しくも穏やかで、これから先の未来をじっと見据えているようだった。

 そのとき。
 美佳のポケットの中で、古びた携帯が震えた。

 心臓が跳ねる。彼女はそっと取り出し、画面を見た。
 表示された番号は──見覚えのあるもの。

「……!」
 思わず息を呑む。

 耳に当てると、懐かしい、けれど不思議な響きの声が流れ込んできた。
『……よく、ここまで来たわね』

 あの、若い女性の声。
 第3話で、美佳に初めて「アンケートの異常」を告げた──“電話の女”。

「あなたは……やっぱり、ミオ……?」

 だが応答はなかった。ただ一瞬、風に揺らぐようなノイズが混ざり、そして静かに通話は途切れた。

 美佳は携帯を見つめ、強く唇を噛んだ。
 確かに存在するのに、決して掴めない声。
 それでも──彼女は笑った。

「……大丈夫。私たち、もう迷わないから」

 朝の光に包まれる街の中で、美佳は胸の奥に確かに“融和”の鼓動を感じていた。
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