7 / 103
第7話 旧校舎
しおりを挟む
夜の学園都市には、妙な静けさが漂っていた。
人工光が整然と整備された歩道を照らしているはずなのに、どこか影が濃い。空気が重い。
美佳は旧校舎へと続く小道を歩きながら、何度も後ろを振り返っていた。
「……なんでこんなことに」
制服姿の自分を思い出せない。
彩音の笑顔も、朝倉の声も、どこか映像のように平坦で、手触りがなかった。
──カツ、カツ、カツ……
誰かの足音が背後から近づいてくる。
美佳は振り返り、ほっとしたように声をかけた。
「朝倉くん……!」
「……違うよ」
現れたのは、宮下ユリだった。高校時代、同じクラスだったはずの少女。いつも冷静で、誰とも群れないタイプだった。彼女もまた、この“同窓会”に来ていたのだ。
「君も来たんだ」
「あなたも……気づいてたのね、“あの事件”のこと」
「事件?」
美佳は首を傾げる。
ユリはため息をついた後、小さなタブレットを取り出して美佳に渡した。
そこには、5年前の記録が映っていた。
記録映像:
> 「LAPIS試験区域、0-αクラス対象:記憶感情パターン収集実験」
「実験開始──被験者、三枝美佳、状態異常なし」
「アンケート送信完了。記憶同期開始」
「これは……私……?」
「そう、あなたは“LAPIS”の第一期被験者。私も、朝倉くんも」
映像に映る自分は、どこか虚ろだった。
目の焦点が合わず、笑顔だけが浮いていた。
「あなたの“記憶”はね、他人の感情で構成されてるの。
本当の自分じゃなく、アンケートで“他人が想像した三枝美佳”が、あなたの中に書き込まれていったのよ」
美佳は言葉を失った。
(じゃあ、私の思い出は──私のじゃない?)
「あなたがこの実験の“鍵”だった。だから記憶を書き換えられたまま放置されてた。でも、同窓会でLAPISのネットワークに近づいたことで、“回収プロセス”が動き出したの」
「回収……?」
「ええ。“あなたの記憶”と、“私たちの記憶”を照合して、
本来の人格を選び取る。
でも、誰か一人が選ばれたら、他は消えるわ──記憶ごと」
突如、旧校舎の扉が開いた。
中から、朝倉が現れる。顔に静かな緊張をたたえていた。
「始まったようだね。LAPISの“審問”が」
人工光が整然と整備された歩道を照らしているはずなのに、どこか影が濃い。空気が重い。
美佳は旧校舎へと続く小道を歩きながら、何度も後ろを振り返っていた。
「……なんでこんなことに」
制服姿の自分を思い出せない。
彩音の笑顔も、朝倉の声も、どこか映像のように平坦で、手触りがなかった。
──カツ、カツ、カツ……
誰かの足音が背後から近づいてくる。
美佳は振り返り、ほっとしたように声をかけた。
「朝倉くん……!」
「……違うよ」
現れたのは、宮下ユリだった。高校時代、同じクラスだったはずの少女。いつも冷静で、誰とも群れないタイプだった。彼女もまた、この“同窓会”に来ていたのだ。
「君も来たんだ」
「あなたも……気づいてたのね、“あの事件”のこと」
「事件?」
美佳は首を傾げる。
ユリはため息をついた後、小さなタブレットを取り出して美佳に渡した。
そこには、5年前の記録が映っていた。
記録映像:
> 「LAPIS試験区域、0-αクラス対象:記憶感情パターン収集実験」
「実験開始──被験者、三枝美佳、状態異常なし」
「アンケート送信完了。記憶同期開始」
「これは……私……?」
「そう、あなたは“LAPIS”の第一期被験者。私も、朝倉くんも」
映像に映る自分は、どこか虚ろだった。
目の焦点が合わず、笑顔だけが浮いていた。
「あなたの“記憶”はね、他人の感情で構成されてるの。
本当の自分じゃなく、アンケートで“他人が想像した三枝美佳”が、あなたの中に書き込まれていったのよ」
美佳は言葉を失った。
(じゃあ、私の思い出は──私のじゃない?)
「あなたがこの実験の“鍵”だった。だから記憶を書き換えられたまま放置されてた。でも、同窓会でLAPISのネットワークに近づいたことで、“回収プロセス”が動き出したの」
「回収……?」
「ええ。“あなたの記憶”と、“私たちの記憶”を照合して、
本来の人格を選び取る。
でも、誰か一人が選ばれたら、他は消えるわ──記憶ごと」
突如、旧校舎の扉が開いた。
中から、朝倉が現れる。顔に静かな緊張をたたえていた。
「始まったようだね。LAPISの“審問”が」
0
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】
けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~
のafter storyです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる