44 / 103
第44話 灰色の交差点(二)
しおりを挟む
──どうして、こんなにも懐かしいのだろう。
彩音の声が耳に残る。「ちゃんと、迎えにきたよ」と微笑むその表情は、今も鮮明に記憶の中に焼きついている。
だが、美佳にはまだわからない。彼女が「どこへ導こうとしているのか」、その全貌は霧の向こうだ。
「彩音……あなたは、何を知っているの?」
風に揺れる制服の裾。あれは、LAPISの制服ではない。かつての藍都学苑の、懐かしいセーラー服──。それが、彼女の存在がただの幻覚でないことを告げていた。
「答えはもうすぐ、あたしの役目は、あなたに“鍵”を渡すこと。それだけ」
「鍵……?」
「うん。思い出して。あの日、わたしと最後に話した場所を。そこに、あなたを待つ“扉”があるの。今のあなたなら開けられる。だから、お願い──向かって。時間がないの」
そう言うと、彩音は静かに手を差し出した。その手の中に、小さな金属のペンダントが握られていた。
美佳の胸がざわめく。その形に見覚えがある。中学のとき、二人で「おそろいにしよう」と言って買ったものだ。が──それは、失くしたはずのものだった。
「……どうして、これが……?」
「あなたの心の中に、ずっとあったからだよ」
彩音が手を開いた瞬間、ペンダントがふわりと宙に浮かび、美佳の首もとへ吸い込まれるように戻っていった。
カチリ。
小さな音とともに、空間にひびが入る。
「扉が開いた──あとは、あなたが歩く番」
目を見開いた美佳の前で、彩音の姿は薄れていく。
「待って……まだ、話したいことが……!」
「また会えるよ。ほんとのあなたに、戻れたなら──」
風が吹き抜け、光が走る。
気づけば、美佳は白い廊下に立っていた。足元には、古びた木の床。壁に並ぶ写真。見覚えのある──旧校舎の内部だった。
そして、目の前にあったのは「記録室」。封鎖されたはずの場所。
「鍵は、ここを開けるものだった……?」
美佳はそっと手を伸ばす。ペンダントが淡く光ると、重い扉が軋みを上げて開いた──
彩音の声が耳に残る。「ちゃんと、迎えにきたよ」と微笑むその表情は、今も鮮明に記憶の中に焼きついている。
だが、美佳にはまだわからない。彼女が「どこへ導こうとしているのか」、その全貌は霧の向こうだ。
「彩音……あなたは、何を知っているの?」
風に揺れる制服の裾。あれは、LAPISの制服ではない。かつての藍都学苑の、懐かしいセーラー服──。それが、彼女の存在がただの幻覚でないことを告げていた。
「答えはもうすぐ、あたしの役目は、あなたに“鍵”を渡すこと。それだけ」
「鍵……?」
「うん。思い出して。あの日、わたしと最後に話した場所を。そこに、あなたを待つ“扉”があるの。今のあなたなら開けられる。だから、お願い──向かって。時間がないの」
そう言うと、彩音は静かに手を差し出した。その手の中に、小さな金属のペンダントが握られていた。
美佳の胸がざわめく。その形に見覚えがある。中学のとき、二人で「おそろいにしよう」と言って買ったものだ。が──それは、失くしたはずのものだった。
「……どうして、これが……?」
「あなたの心の中に、ずっとあったからだよ」
彩音が手を開いた瞬間、ペンダントがふわりと宙に浮かび、美佳の首もとへ吸い込まれるように戻っていった。
カチリ。
小さな音とともに、空間にひびが入る。
「扉が開いた──あとは、あなたが歩く番」
目を見開いた美佳の前で、彩音の姿は薄れていく。
「待って……まだ、話したいことが……!」
「また会えるよ。ほんとのあなたに、戻れたなら──」
風が吹き抜け、光が走る。
気づけば、美佳は白い廊下に立っていた。足元には、古びた木の床。壁に並ぶ写真。見覚えのある──旧校舎の内部だった。
そして、目の前にあったのは「記録室」。封鎖されたはずの場所。
「鍵は、ここを開けるものだった……?」
美佳はそっと手を伸ばす。ペンダントが淡く光ると、重い扉が軋みを上げて開いた──
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる