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第143話 好きと言った後の沈黙は、前よりずっと苦しい
月曜日の夜。
帰り道の分岐点で別れたあとも、朱里の胸は落ち着かなかった。
(“隣にいたい”って……言っちゃったんだ、私)
嬉しいのに、実感が追いつかない。
不安と期待がぐちゃぐちゃに混ざって、身体の奥が熱い。
家に着いて、靴を脱いだ瞬間。
スマホが震えた。
《今日、ありがとう。
嬉しかった。また話そう。
おやすみ》
平田嵩より。
たったそれだけなのに、涙が出そうになった。
“急がない”と言ってくれたことが救いで、
“曖昧にしない”と示してくれたことが怖くて嬉しい。
朱里は返信画面を開いて、指を止める。
《こちらこそ、ありがとうございます。
おやすみなさい》
送信。
短くて不器用。でも今の自分にはそれが精一杯だった。
その夜は眠れなかった。
翌朝(火曜日)
いつもより早く目が覚めた。
寝不足なのに眠気が来ない。
恋愛って、体力奪うのに覚醒力も上げるとか意味わからない。
会社に向かう途中、角を曲がった瞬間。
「……おはよう」
嵩が立っていた。
偶然か、それとも待っていてくれたのかは分からない。
「お、おはようございます……」
並んで歩く。
昨日より距離が近い。でも触れない。
触れたら、何かが決定的に変わってしまいそうで。
沈黙が落ちる。
言葉を探していたのは朱里だけではなかった。
「……無理させてない?」
嵩が不意に言った。
「え?」
「怖いまま立たせてるんじゃないかって。
言葉にしたら、重くなるの分かってるから……それでも言ったけど」
その“ちゃんと考えてる”感じが、また心臓に悪い。
「無理は……してます。
でも、無理してでも前に進みたい無理です」
言いながら、自分でも何を言ってるか分からなくなる。
嵩は小さく笑った。
「じゃあ……一緒に無理しようか。
ちゃんと前向きな無理だけ」
その言い方が優しくて、泣きそうになる。
会社で
デスクに着くと、瑠奈が静かに近づいてきた。
昨日の“宣戦布告”の余韻がまだ空気に残っている。
「先輩、今日……目が違いますね」
「え?」
「覚悟してる目。
負けませんけど、それはそれとして、ちゃんと素敵です」
言葉は穏やか。
でも、その芯は折れてない。
「進むって言うなら、私も止まるつもりはありませんから」
その瞳には泣き言なんてひとつもなかった。
負けたくないという想いも、ちゃんと恋だった。
朱里は小さく息を吸い、答えた。
「ありがとう。でも、もう逃げないから」
瑠奈はそれ以上何も言わず、微かに笑って去っていった。
少しだけ、敵じゃなくなった気がした。
同じ場所を好きになっただけの、ただの人間同士。
でも、その「ただ」がいちばん難しい。
そして、夕方
帰り支度をしていたら、嵩が近づいてきた。
「今日も、少し歩く?」
朱里は迷わず頷いた。
「……歩きます。逃げないって決めたので」
嵩の目が、微かに驚いて、すぐに柔らかくなった。
「そっか。なら、次は……もう少し先まで行こう」
今日は、昨日より一歩だけ遠くまで歩いた。
触れない距離のまま。
でも、もう手を伸ばせば届く場所にいた。
帰り道の分岐点で別れたあとも、朱里の胸は落ち着かなかった。
(“隣にいたい”って……言っちゃったんだ、私)
嬉しいのに、実感が追いつかない。
不安と期待がぐちゃぐちゃに混ざって、身体の奥が熱い。
家に着いて、靴を脱いだ瞬間。
スマホが震えた。
《今日、ありがとう。
嬉しかった。また話そう。
おやすみ》
平田嵩より。
たったそれだけなのに、涙が出そうになった。
“急がない”と言ってくれたことが救いで、
“曖昧にしない”と示してくれたことが怖くて嬉しい。
朱里は返信画面を開いて、指を止める。
《こちらこそ、ありがとうございます。
おやすみなさい》
送信。
短くて不器用。でも今の自分にはそれが精一杯だった。
その夜は眠れなかった。
翌朝(火曜日)
いつもより早く目が覚めた。
寝不足なのに眠気が来ない。
恋愛って、体力奪うのに覚醒力も上げるとか意味わからない。
会社に向かう途中、角を曲がった瞬間。
「……おはよう」
嵩が立っていた。
偶然か、それとも待っていてくれたのかは分からない。
「お、おはようございます……」
並んで歩く。
昨日より距離が近い。でも触れない。
触れたら、何かが決定的に変わってしまいそうで。
沈黙が落ちる。
言葉を探していたのは朱里だけではなかった。
「……無理させてない?」
嵩が不意に言った。
「え?」
「怖いまま立たせてるんじゃないかって。
言葉にしたら、重くなるの分かってるから……それでも言ったけど」
その“ちゃんと考えてる”感じが、また心臓に悪い。
「無理は……してます。
でも、無理してでも前に進みたい無理です」
言いながら、自分でも何を言ってるか分からなくなる。
嵩は小さく笑った。
「じゃあ……一緒に無理しようか。
ちゃんと前向きな無理だけ」
その言い方が優しくて、泣きそうになる。
会社で
デスクに着くと、瑠奈が静かに近づいてきた。
昨日の“宣戦布告”の余韻がまだ空気に残っている。
「先輩、今日……目が違いますね」
「え?」
「覚悟してる目。
負けませんけど、それはそれとして、ちゃんと素敵です」
言葉は穏やか。
でも、その芯は折れてない。
「進むって言うなら、私も止まるつもりはありませんから」
その瞳には泣き言なんてひとつもなかった。
負けたくないという想いも、ちゃんと恋だった。
朱里は小さく息を吸い、答えた。
「ありがとう。でも、もう逃げないから」
瑠奈はそれ以上何も言わず、微かに笑って去っていった。
少しだけ、敵じゃなくなった気がした。
同じ場所を好きになっただけの、ただの人間同士。
でも、その「ただ」がいちばん難しい。
そして、夕方
帰り支度をしていたら、嵩が近づいてきた。
「今日も、少し歩く?」
朱里は迷わず頷いた。
「……歩きます。逃げないって決めたので」
嵩の目が、微かに驚いて、すぐに柔らかくなった。
「そっか。なら、次は……もう少し先まで行こう」
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触れない距離のまま。
でも、もう手を伸ばせば届く場所にいた。
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