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4話
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アメリアは書斎の椅子に座り、窓から差し込む朝の光を浴びていた。暖炉の灰は冷え、偽造の手帳はもう存在しない。リンドンは意識不明のまま医者の手に委ねられ、屋敷は奇妙な静けさに包まれていた。彼女の計画は完璧だった――少なくとも、そう思っていた。だが、扉を叩く音がその静寂を破った。
「奥様、エルザ様が……お話ししたいと」
マークの声には戸惑いが滲んでいた。アメリアは眉を上げ、ゆっくりと頷いた。
「……通して」
応接間に現れたエルザは、派手なドレスをまとい、唇に高慢な笑みを浮かべていた。だが、その目は鋭く、アメリアを射抜くようだった。アメリアはソファに腰掛け、穏やかに微笑んだ。
「エルザ、こんな朝早くに……何かしら?」
「……ふん、芝居はいいわよ」
エルザはソファに腰を下ろさず、アメリアの前に立ったまま言葉を続けた。
「リンドンのあの倒れ方、変だと思わない? 毒よ、間違いなく。……で、誰がやったと思う?」
アメリアの心臓が一瞬跳ねたが、顔には何も浮かべなかった。彼女は首を傾げ、驚いたふりをした。
「毒? ……まさか、そんな」
「まさかも何もないわ。わたし、知ってるのよ。あなたが何か企んでたってこと。貴族の集まりでのあの騒ぎ、手帳の話……全部、あなたの仕掛けでしょ?」
エルザの声には確信があった。アメリアは内心で舌打ちした。エルザは思った以上に鋭い。だが、アメリアの負けず嫌いな魂は、ここで引くつもりはなかった。
「……エルザ、あなた、随分なこと言うのね。証拠でもあれば別だけど」
「証拠? ふっ、必要ないわ。あなたが黙らないなら、わたし、貴族たちに全部話すわよ。リンドンを毒で倒したのはアメリアだって」
アメリアは一瞬目を細めたが、すぐに小さく笑った。その笑みには、控えめな彼女らしからぬ冷たさが宿っていた。
「脅すつもり? ……ふふ、面白いわ。ねえ、エルザ、あなたこそ何か隠してるんじゃない?」
エルザの眉がピクリと動いた。アメリアは立ち上がり、彼女に一歩近づいた。
「あなた、妊娠してるって言ってたわよね? リンドンの子だって、屋敷中に吹聴して。でも……本当かしら?」
エルザの顔から笑みが消えた。アメリアは畳み掛ける。
「だって、あなた、リンドンの財産目当てに近づいたんでしょう? 妊娠なんて嘘で、彼を操るための道具だったんじゃない?」
「何!? ふざけないで!」
エルザの声が鋭く響いたが、アメリアは動じなかった。彼女の目はエルザの動揺を逃さなかった。
「ふざけてなんかないわ。あなたがリンドンに毒を盛ったのよ。だって、彼が倒れれば、財産はあなたのものになるかもしれないものね」
「バカバカしい! わたしがそんなことするわけない!」
エルザは顔を赤らめたが、アメリアは冷静に続けた。
「そうかしら? あなたが妊娠を偽ってたってバレたら、どうなると思う? 貴族たちはあなたを嘘つきだと笑うわ。そして、リンドンを毒で倒した動機も十分だって考えるでしょうね」
エルザが一瞬言葉に詰まった。その隙をついて、アメリアは最終の一撃を放った。
「今夜、貴族たちに話すわ。エルザがリンドンを毒で殺しかけたって。あなたが彼の子を偽って、財産を狙ったって。……どう、エルザ? まだ私を脅すつもり?」
エルザの顔が青ざめた。彼女は唇を震わせ、アメリアを睨んだが、言葉が出てこなかった。アメリアは微笑みを深め、ソファに座り直した。
「……考え直したほうがいいわよ。黙っててくれるなら、私も何も言わないでおくわ」
エルザは拳を握り、しばらくアメリアを睨んでいたが、やがて踵を返して部屋を出て行った。扉が閉まる音が響き、アメリアは深く息を吐いた。彼女の心はまだ高鳴っていたが、勝利の予感が胸を満たしていた。
その夜、アメリアは再び貴族たちの集まりに姿を現した。彼女は控えめなドレスに身を包み、悲しげな表情を浮かべていた。広間の貴族たちは、彼女の登場にざわめいた。
「皆様、リンドンのことで……新たなことがわかりました」
アメリアの声は静かだが、広間に響き渡った。彼女は涙を浮かべ、言葉を続けた。
「彼を倒したのは、エルザだったのです。彼女は妊娠を偽り、彼の財産を狙っていました。リンドンがその嘘に気づきそうになったから、彼女は毒を……」
貴族たちの間に衝撃が走った。エルザが屋敷で妊娠を吹聴していたことは、すでに多くの者が知っていた。アメリアの言葉は、その噂と完璧に符合した。
「そんな……エルザが!」
「なんて女だ、財産目当てに!」
囁きが広まり、エルザへの非難が高まった。アメリアは目を伏せ、涙を拭うふりをした。彼女の演技は完璧だった。エルザは屋敷に姿を見せず、アメリアの告発を否定する機会すらなかった。
数日後、エルザは貴族社会から追放された。彼女の嘘が明るみに出たことで、誰も彼女を擁護しなかった。リンドンは依然として意識不明のままだったが、アメリアは屋敷の主としての地位を固めていた。彼女は書斎の窓辺に立ち、庭の薔薇を眺めた。花弁は風に揺れ、まるで彼女の勝利を祝福するようだった。
「……これで、終わりね」
アメリアは呟き、静かに微笑んだ。だが、その背中には、策略の重みが静かにのしかかっていた。
「奥様、エルザ様が……お話ししたいと」
マークの声には戸惑いが滲んでいた。アメリアは眉を上げ、ゆっくりと頷いた。
「……通して」
応接間に現れたエルザは、派手なドレスをまとい、唇に高慢な笑みを浮かべていた。だが、その目は鋭く、アメリアを射抜くようだった。アメリアはソファに腰掛け、穏やかに微笑んだ。
「エルザ、こんな朝早くに……何かしら?」
「……ふん、芝居はいいわよ」
エルザはソファに腰を下ろさず、アメリアの前に立ったまま言葉を続けた。
「リンドンのあの倒れ方、変だと思わない? 毒よ、間違いなく。……で、誰がやったと思う?」
アメリアの心臓が一瞬跳ねたが、顔には何も浮かべなかった。彼女は首を傾げ、驚いたふりをした。
「毒? ……まさか、そんな」
「まさかも何もないわ。わたし、知ってるのよ。あなたが何か企んでたってこと。貴族の集まりでのあの騒ぎ、手帳の話……全部、あなたの仕掛けでしょ?」
エルザの声には確信があった。アメリアは内心で舌打ちした。エルザは思った以上に鋭い。だが、アメリアの負けず嫌いな魂は、ここで引くつもりはなかった。
「……エルザ、あなた、随分なこと言うのね。証拠でもあれば別だけど」
「証拠? ふっ、必要ないわ。あなたが黙らないなら、わたし、貴族たちに全部話すわよ。リンドンを毒で倒したのはアメリアだって」
アメリアは一瞬目を細めたが、すぐに小さく笑った。その笑みには、控えめな彼女らしからぬ冷たさが宿っていた。
「脅すつもり? ……ふふ、面白いわ。ねえ、エルザ、あなたこそ何か隠してるんじゃない?」
エルザの眉がピクリと動いた。アメリアは立ち上がり、彼女に一歩近づいた。
「あなた、妊娠してるって言ってたわよね? リンドンの子だって、屋敷中に吹聴して。でも……本当かしら?」
エルザの顔から笑みが消えた。アメリアは畳み掛ける。
「だって、あなた、リンドンの財産目当てに近づいたんでしょう? 妊娠なんて嘘で、彼を操るための道具だったんじゃない?」
「何!? ふざけないで!」
エルザの声が鋭く響いたが、アメリアは動じなかった。彼女の目はエルザの動揺を逃さなかった。
「ふざけてなんかないわ。あなたがリンドンに毒を盛ったのよ。だって、彼が倒れれば、財産はあなたのものになるかもしれないものね」
「バカバカしい! わたしがそんなことするわけない!」
エルザは顔を赤らめたが、アメリアは冷静に続けた。
「そうかしら? あなたが妊娠を偽ってたってバレたら、どうなると思う? 貴族たちはあなたを嘘つきだと笑うわ。そして、リンドンを毒で倒した動機も十分だって考えるでしょうね」
エルザが一瞬言葉に詰まった。その隙をついて、アメリアは最終の一撃を放った。
「今夜、貴族たちに話すわ。エルザがリンドンを毒で殺しかけたって。あなたが彼の子を偽って、財産を狙ったって。……どう、エルザ? まだ私を脅すつもり?」
エルザの顔が青ざめた。彼女は唇を震わせ、アメリアを睨んだが、言葉が出てこなかった。アメリアは微笑みを深め、ソファに座り直した。
「……考え直したほうがいいわよ。黙っててくれるなら、私も何も言わないでおくわ」
エルザは拳を握り、しばらくアメリアを睨んでいたが、やがて踵を返して部屋を出て行った。扉が閉まる音が響き、アメリアは深く息を吐いた。彼女の心はまだ高鳴っていたが、勝利の予感が胸を満たしていた。
その夜、アメリアは再び貴族たちの集まりに姿を現した。彼女は控えめなドレスに身を包み、悲しげな表情を浮かべていた。広間の貴族たちは、彼女の登場にざわめいた。
「皆様、リンドンのことで……新たなことがわかりました」
アメリアの声は静かだが、広間に響き渡った。彼女は涙を浮かべ、言葉を続けた。
「彼を倒したのは、エルザだったのです。彼女は妊娠を偽り、彼の財産を狙っていました。リンドンがその嘘に気づきそうになったから、彼女は毒を……」
貴族たちの間に衝撃が走った。エルザが屋敷で妊娠を吹聴していたことは、すでに多くの者が知っていた。アメリアの言葉は、その噂と完璧に符合した。
「そんな……エルザが!」
「なんて女だ、財産目当てに!」
囁きが広まり、エルザへの非難が高まった。アメリアは目を伏せ、涙を拭うふりをした。彼女の演技は完璧だった。エルザは屋敷に姿を見せず、アメリアの告発を否定する機会すらなかった。
数日後、エルザは貴族社会から追放された。彼女の嘘が明るみに出たことで、誰も彼女を擁護しなかった。リンドンは依然として意識不明のままだったが、アメリアは屋敷の主としての地位を固めていた。彼女は書斎の窓辺に立ち、庭の薔薇を眺めた。花弁は風に揺れ、まるで彼女の勝利を祝福するようだった。
「……これで、終わりね」
アメリアは呟き、静かに微笑んだ。だが、その背中には、策略の重みが静かにのしかかっていた。
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