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第1章 勇者と転生編
第5話 だが断る!
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そこは何もない虚無の空間だった。
何も存在しない虚無の世界に、それは突然現れた。
形がなく、認識される事もない存在……それは唐突に現れ思考を始めた。
一瞬とも、永遠とも取れる思考の果てに、思考は意志へと変わり、意志を持った思念が波紋のように空間に浸透する。
「光あれ」
始めにその思念が世界を満たし、何もない空間に光が満ち溢れた。
「闇よ、帳を下せ」
世界に闇が生まれ、光と闇が互いに凌ぎを削ることで昼夜が生まれ、時が誕生した。
「火よ、たけ狂え」
巨大な高温の炎が生まれ、全てを焼き尽くさんばかりに炎が燃え盛る。
「地よ、生まれよ」
あらゆる大地の鉱物が炎の周りに出現した。すると次々と炎に鉱物が飲み込まれ、ドロドロのマントルが出来上がった。
「水よ、満ちよ」
ドロドロに煮えたマントルに大量の水が降り注ぐと、冷えて固まり、大地が形成された。
「風よ、流れよ」
水が冷えた際、発生した大量の水蒸気が大地を覆い、
星を動かす事で、大気が流れ始め風は生まれた。
こうして虚無の空間に、思念の力で空と大地と海が生まれた。
「栄あれ」
世界の中心に世界樹が生まれ、世界樹から生み出されるマナが世界中に満ち溢れていった……マナの温かな力は、あらゆる生命を育み、安寧の時を作り出す。
「管理せよ」
それは世界を調整するために、数多くの神族と、最後に三人の女神を生み出した。
天空の女神 ディオーネ
大地の女神 セレス
大海の女神 ノルン
世界は女神を中心に繁栄の時を過ごし……世界は、いつしかガイヤと呼ばれるようになった。
「蜈ィ縺ヲ繧定ィ励☆」
世界の果てで最後の思念が発せられた。誰にも理解できない思念を最後に、その存在はガイヤの世界から消え去った……そして幾千万の時が流れた。
ガイヤの世界に住まう多種多様な生命は、同じ種族や目的を持ったモノ達が集まり、群れをなしていた。
それは少しずつ数を増やし、村を形作り、街を経て都市へと発展していく。ついには幾つもの国が生まれるに至ったが……生まれた国は、いつしか互いに争いを始めてしまう。
最初は些細な誤解だった。その誤解がダンダンと大きくなり、互いの主張がぶつかり合う。どちらも歩み寄れず、一歩も引けなくなった時、ついには国同士の戦争へと発展していった。
いつ終わるとも知れない戦争に、何千、何万もの命が散り、いくつもの国が滅び去っていった。
生まれて生きて死ぬ……そして肉体を離れた魂は、マナの流れに還り、癒された後、また生まれ変わる。
変わることのない世界の理は、一つの完成されたシステムとして機能していた。
たが、繰り返す時の中で、異変が生じ始めた……極稀に、帰るべき魂がマナの流れに戻らず、忽然と消える現象が起こり始めたのだ。
魂の総数に対して微々たる数とは言え、消失する魂に女神は懸念を払うことができなかった。
このまま放置する事は出来ず、神々に消失の原因究明を促した。その調査の過程で、ある現象が確認された。
忽然とガイヤの世界に異質とも言える魂が、マナの流れの中に出現する現象が発見されたのだ。
異質なる魂は、マナの流れの中で魂を癒され、ガイヤの地へ人知れず転生を果てしていた。
転生した魂は、稀有な力を持ってガイヤに差し迫った危機に立ち向かい、世界を救った者を……ガイヤに住まう人々は『勇者』と呼び称賛した。
その後も異質な魂が、マナの流れの中に突然現れては生まれ、その時代に大きな変革をもたらすのだった。
異世界の魂は、マナな流れの中にいつの間にか現れ、記憶を洗い流され転生をしてしまうため、彼らは何者なのか……それは神々を持ってしても分からなかった。
それは数えきれない数のマナの流れの中から、忽然と現れた異世界の魂を拾い出すなど不可能に近く、神々たちも詳細を調べる事は出来なかったのだ。
結局、魂消失の原因を解明出来ないまま、時間だけがイタズラに過ぎ去っていった。
そして恐れていた事態がついに起こってしまった……魂の消失の件数が目に見えて増え始めたのだ。
消失して失われた魂の数は看過できないほどの数に上り、このまま魂の総数が減り続ければ、マナの流れに支障をきたし兼ねない。このままでは遠からず世界が崩壊する可能性も出て来てしまった。
神々が監視していたマナの流れに、問題は見受けられない……最終的には、ガイヤの民が暮らす地上で何かが起きている事までは突き止められた。
しかし、そこまでだった。
神々はガイヤの地に直接干渉する事は許されず、地上に降りて調べる事はできない。結果……調査は一向に進まず、答えが出ないまま、時間だけが無駄に過ぎ去って行った。
ある日、打開策を思案する女神たちの耳に吉報が届いた。
マナの流れを監視していた一人の神が、奇跡に近い確率である魂の保護に成功したと言うのだ。
それは出現したばかりの異世界の魂であった。
マナの流れに乗る前の魂だったため、記憶もほとんど洗い流されていなかった。
三人の女神は相談し、この魂にガイヤの地で起こっている魂消失の原因究明を託すことにした。
だが異世界の魂を、記憶を持ったまま転生させたとしても、勇者として育つまでに世界が終焉を迎えている可能性が高い。だが、魂だけで肉体がない以上……すぐにガイヤの地に降り立つ事もできない。
そこで三人の女神は、ある計画を立てた。
それは魂の情報を読み解く事で、生前と同じ体を作り出し、魂をその体の中に定着させて勇者として復活させる計画だった。
勇者復活計画はすぐに実行に移されたが……いくら女神と言えど代償もなしに、魂から体を構築する事は困難を極めた。異世界の魂というのも関係していたのかも知れない。
その結果、女神一人の力を使い果たしても、体の再構築しかできなかった……仕方なく魂の定着のため、もう一人の女神も力を使ったが、同じく力を使い果たしてしまう。
力を使い果たした二人の女神は、最後の女神に全てを託し長い眠りについてしまった
二人の女神が眠りについた今、最後に残った女神だけで勇者をサポートし、世界を救わなければならない。
やり直しはできない……頼れる二人の女神はもうおらず、残った最後の女神だけで成さなければならず、そのプレッシャーが、残された女神に肩に大きくのし掛かっていた。
今からこの膝の下で眠る勇者に、自分は過酷な試練を課せなければならない。
勇者の意思はできるだけ尊重したいが、失敗が許されない以上、絶対に断られる訳にはいかない。
もし断られたら……そんな不安が女神の中で大きくなる。
「もう後戻りはできません。だから……一緒に世界を救って下さい。異世界の勇者様」
「目覚めなさい」
女神は膝の上で眠る勇者の髪をなでながら、そう呟いたのだった。
〈長すぎる再説明パートが終了した!〉
「という訳で、もう私たちには後がありません」
一度、返事を断られたら女神セレスは諦めず、ヒロが転移した事情を、事の起こりから説明してくれた。
「私以外の女神は眠りについてしまい、頼れるのは異世界から転移し、勇者としての力を宿すヒロ様だけなのです。どうか世界をお救い下さい! 私に出来ることなら何でも致します。だからどうかお願いします」
女神は真剣な眼差しで、ヒロに見つめた。
いつ滅びるか分からない瀬戸際で、頼れる他の女神も、もういない。全てを自分に賭けて託すしかない状況に、並々ならぬセレスの想いが伝わってくる。
「事情は分かりました」
「それでは!」
その言葉を聞いたはセレスは顔をほころばせ、その瞳は期待に満ちる。
「確認ですが、いま何でもしてくれるって言いましたよね? 何でもって……」
「はい。ガイヤの世界において、私に出来得る範囲の話になりますが、お約束致します」
女神の答えに少しだけ考え込み、ヒロは答えた。
「だが断る!」
〈やっぱり世界は終わりを迎えた!〉
何も存在しない虚無の世界に、それは突然現れた。
形がなく、認識される事もない存在……それは唐突に現れ思考を始めた。
一瞬とも、永遠とも取れる思考の果てに、思考は意志へと変わり、意志を持った思念が波紋のように空間に浸透する。
「光あれ」
始めにその思念が世界を満たし、何もない空間に光が満ち溢れた。
「闇よ、帳を下せ」
世界に闇が生まれ、光と闇が互いに凌ぎを削ることで昼夜が生まれ、時が誕生した。
「火よ、たけ狂え」
巨大な高温の炎が生まれ、全てを焼き尽くさんばかりに炎が燃え盛る。
「地よ、生まれよ」
あらゆる大地の鉱物が炎の周りに出現した。すると次々と炎に鉱物が飲み込まれ、ドロドロのマントルが出来上がった。
「水よ、満ちよ」
ドロドロに煮えたマントルに大量の水が降り注ぐと、冷えて固まり、大地が形成された。
「風よ、流れよ」
水が冷えた際、発生した大量の水蒸気が大地を覆い、
星を動かす事で、大気が流れ始め風は生まれた。
こうして虚無の空間に、思念の力で空と大地と海が生まれた。
「栄あれ」
世界の中心に世界樹が生まれ、世界樹から生み出されるマナが世界中に満ち溢れていった……マナの温かな力は、あらゆる生命を育み、安寧の時を作り出す。
「管理せよ」
それは世界を調整するために、数多くの神族と、最後に三人の女神を生み出した。
天空の女神 ディオーネ
大地の女神 セレス
大海の女神 ノルン
世界は女神を中心に繁栄の時を過ごし……世界は、いつしかガイヤと呼ばれるようになった。
「蜈ィ縺ヲ繧定ィ励☆」
世界の果てで最後の思念が発せられた。誰にも理解できない思念を最後に、その存在はガイヤの世界から消え去った……そして幾千万の時が流れた。
ガイヤの世界に住まう多種多様な生命は、同じ種族や目的を持ったモノ達が集まり、群れをなしていた。
それは少しずつ数を増やし、村を形作り、街を経て都市へと発展していく。ついには幾つもの国が生まれるに至ったが……生まれた国は、いつしか互いに争いを始めてしまう。
最初は些細な誤解だった。その誤解がダンダンと大きくなり、互いの主張がぶつかり合う。どちらも歩み寄れず、一歩も引けなくなった時、ついには国同士の戦争へと発展していった。
いつ終わるとも知れない戦争に、何千、何万もの命が散り、いくつもの国が滅び去っていった。
生まれて生きて死ぬ……そして肉体を離れた魂は、マナの流れに還り、癒された後、また生まれ変わる。
変わることのない世界の理は、一つの完成されたシステムとして機能していた。
たが、繰り返す時の中で、異変が生じ始めた……極稀に、帰るべき魂がマナの流れに戻らず、忽然と消える現象が起こり始めたのだ。
魂の総数に対して微々たる数とは言え、消失する魂に女神は懸念を払うことができなかった。
このまま放置する事は出来ず、神々に消失の原因究明を促した。その調査の過程で、ある現象が確認された。
忽然とガイヤの世界に異質とも言える魂が、マナの流れの中に出現する現象が発見されたのだ。
異質なる魂は、マナの流れの中で魂を癒され、ガイヤの地へ人知れず転生を果てしていた。
転生した魂は、稀有な力を持ってガイヤに差し迫った危機に立ち向かい、世界を救った者を……ガイヤに住まう人々は『勇者』と呼び称賛した。
その後も異質な魂が、マナの流れの中に突然現れては生まれ、その時代に大きな変革をもたらすのだった。
異世界の魂は、マナな流れの中にいつの間にか現れ、記憶を洗い流され転生をしてしまうため、彼らは何者なのか……それは神々を持ってしても分からなかった。
それは数えきれない数のマナの流れの中から、忽然と現れた異世界の魂を拾い出すなど不可能に近く、神々たちも詳細を調べる事は出来なかったのだ。
結局、魂消失の原因を解明出来ないまま、時間だけがイタズラに過ぎ去っていった。
そして恐れていた事態がついに起こってしまった……魂の消失の件数が目に見えて増え始めたのだ。
消失して失われた魂の数は看過できないほどの数に上り、このまま魂の総数が減り続ければ、マナの流れに支障をきたし兼ねない。このままでは遠からず世界が崩壊する可能性も出て来てしまった。
神々が監視していたマナの流れに、問題は見受けられない……最終的には、ガイヤの民が暮らす地上で何かが起きている事までは突き止められた。
しかし、そこまでだった。
神々はガイヤの地に直接干渉する事は許されず、地上に降りて調べる事はできない。結果……調査は一向に進まず、答えが出ないまま、時間だけが無駄に過ぎ去って行った。
ある日、打開策を思案する女神たちの耳に吉報が届いた。
マナの流れを監視していた一人の神が、奇跡に近い確率である魂の保護に成功したと言うのだ。
それは出現したばかりの異世界の魂であった。
マナの流れに乗る前の魂だったため、記憶もほとんど洗い流されていなかった。
三人の女神は相談し、この魂にガイヤの地で起こっている魂消失の原因究明を託すことにした。
だが異世界の魂を、記憶を持ったまま転生させたとしても、勇者として育つまでに世界が終焉を迎えている可能性が高い。だが、魂だけで肉体がない以上……すぐにガイヤの地に降り立つ事もできない。
そこで三人の女神は、ある計画を立てた。
それは魂の情報を読み解く事で、生前と同じ体を作り出し、魂をその体の中に定着させて勇者として復活させる計画だった。
勇者復活計画はすぐに実行に移されたが……いくら女神と言えど代償もなしに、魂から体を構築する事は困難を極めた。異世界の魂というのも関係していたのかも知れない。
その結果、女神一人の力を使い果たしても、体の再構築しかできなかった……仕方なく魂の定着のため、もう一人の女神も力を使ったが、同じく力を使い果たしてしまう。
力を使い果たした二人の女神は、最後の女神に全てを託し長い眠りについてしまった
二人の女神が眠りについた今、最後に残った女神だけで勇者をサポートし、世界を救わなければならない。
やり直しはできない……頼れる二人の女神はもうおらず、残った最後の女神だけで成さなければならず、そのプレッシャーが、残された女神に肩に大きくのし掛かっていた。
今からこの膝の下で眠る勇者に、自分は過酷な試練を課せなければならない。
勇者の意思はできるだけ尊重したいが、失敗が許されない以上、絶対に断られる訳にはいかない。
もし断られたら……そんな不安が女神の中で大きくなる。
「もう後戻りはできません。だから……一緒に世界を救って下さい。異世界の勇者様」
「目覚めなさい」
女神は膝の上で眠る勇者の髪をなでながら、そう呟いたのだった。
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一度、返事を断られたら女神セレスは諦めず、ヒロが転移した事情を、事の起こりから説明してくれた。
「私以外の女神は眠りについてしまい、頼れるのは異世界から転移し、勇者としての力を宿すヒロ様だけなのです。どうか世界をお救い下さい! 私に出来ることなら何でも致します。だからどうかお願いします」
女神は真剣な眼差しで、ヒロに見つめた。
いつ滅びるか分からない瀬戸際で、頼れる他の女神も、もういない。全てを自分に賭けて託すしかない状況に、並々ならぬセレスの想いが伝わってくる。
「事情は分かりました」
「それでは!」
その言葉を聞いたはセレスは顔をほころばせ、その瞳は期待に満ちる。
「確認ですが、いま何でもしてくれるって言いましたよね? 何でもって……」
「はい。ガイヤの世界において、私に出来得る範囲の話になりますが、お約束致します」
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