勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第3章 勇者と異世界、初めて編

第27話 テンプレな予感……冒険者ギルドへようこそ!

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 冒険者ギルド……かつて異界より突如として現れた異形なる魔王の脅威から人類を守るため、国や種族の垣根を超えて誕生した超法規的組織が始まりであったとされている。

 異界の魔王に付き従う異形なる者たちは、全ての個体が魔王の意志の元に統一された強大な群体であった。
 個々の力では打ち勝つ事ができず、劣勢を強いられたガイヤの民は、のちに勇者と呼ばれる者が持たらしたスキルの力により、これを打倒した。

 この時、勇者のスキル『つながる力』を用いた、パーティーシステムが出来上がった。
 このパーティーシステムを使うことで、ガイヤに住まう全ての意思ある者が異形の魔王との戦いに参加し、ついに勝利を収めた。
 この時、パーティーシステムに参加する人の補助を担った組織こそが、冒険者ギルドであった。

 地位も身分も関係なく、種族すらも超えてつながり合い、異形なる魔王の脅威を退けたと伝承されている。
 故に現在も冒険者ギルドは全ての国に存在しており、何人なんぴとも私物化が出来ないシステムが構築され、今もなお受け継がれている。
 いつか起こるかも知れない世界の危機に備えて……。

 冒険者ギルドは基本、依頼主からの依頼をクエストと言う形でギルドメンバーに斡旋しフォローすることを基本としている。

 冒険者ギルドには、各国から集められた資金が各冒険者ギルド支部に分配され、その資金でギルドは活動を行なっており、依頼主と冒険者の間にギルドが介入する事で、トラブルの仲裁やクエスト達成のために必要なフォローもしている。
 だが、その名目で依頼料の50%がギルドの取り分とし活動資金に当てられており、昨今ではこれが不正なピンハネとして問題視される声も上がっている。
 
 冒険者ギルドは世界の危機の際に働く最終セイフティーの役割を果たすため、如何なる者も口を出すことが出来ない。
 また、国同士の戦争に冒険者が参加する事も許されない。
 逆に冒険者ギルドもまた、私利私欲で動く事は決して許されないのである。

 著 冒険者ギルド 新人教育教本参照



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルムの町は、南の森に沸く豊富な魔物と森の幸のおかげで大きくなった町である。それ故に冒険者ギルドに寄せられるクエストは多く、それを見越してたくさんの冒険者が近隣から集まってくる。必然的にギルドも大きくなり、町でも五本の指に入る大きさを誇る建物になっていた。
 

「大っきいですね~」

「ですね。アルムの冒険者ギルドには多くの依頼が舞い込みますから、これくらいの大きさが必要になるみたいです」


 ヒロとリーシアはランナーバードを引き取ってもらうため、冒険者ギルドの建物の前にまでやって来た。

 建物は3階建ての石造りの建物であった。横幅だけで50mはあり、奥行きは分からないが、かなりの大きさだという事は分かる。

 リーシアは建物の大きさに呆けているヒロの袖を引っ張り、人がいない路地裏へと移動する。

 
「ヒロ、とりあえずランナーバードとシカーンをアイテム袋から出しましょう。冒険者ギルドの中で、アイテム袋から取り出すのを見られるのは極力避けたいですから」

「分かりました。出しますね。『リスト』」


 ヒロはアイテム袋のメニュー画面を操作して地面にランナーバードとシカーンを取り出した。


「かなりの重量ですね……引きずって行けるかな?」


 木に縛られている時に、リーシアがシカーンを肩に担いで歩いていたのを覚えていたヒロは、シカーンをリーシアに任せ、自分は重量があるランナーバードをギルドまで運ぼうとするが……ヒロがランナーバードを勢いをつけて引っ張っても、10cmも動かせない。重量が100kg近いランナーバードを、ギルドの中へ運ぶだけで一苦労だった。


「私が運びましょうか? ヒロはシカーンをお願いします」

「え? かなり重いですよ?」

「私、こう見えて力は持ちなんですよ」


 そう言うとリーシアはランナーバードの片足を掴み、ズルズルと片手で引きずって歩き出す。

「ええ⁈」

「ねっ♪ さあ、行きましょう」

 片目をつぶり、可愛いウィンクをしながら歩き始めるリーシア……ランナーバードの死体さえ引きずっていなければ、コロッと惚れてそうな可愛いウィンクだった。

 ヒロはシカーンを引きずりながら、リーシアの後を追いかけた。

 冒険者ギルド中央の入り口を抜けて中に入ると、まず広いロビーが見え、次に長大なカウンターが奥に並び、何人ものギルド職員がカウンター越しに冒険者と話し合っている姿が見てとれた。
 机の上にさまざまな素材が置かれ、ギルド職員が査定をしている。

 両脇の壁にはクエスト掲示板が設置されており、クエストが種別毎に張り出されていた。
 どうやら気にいるクエストがあれば張り紙を剥がし、受付に持って行けばクエストが受理されるみたいだ。


「ヒロ、こっちです。魔物の買取は奥の解体部屋に持ち込みです」

「はい、いま行きます」


 リーシアに連れられてギルド内を歩くヒロは、遠巻きから複数の視線を感じていた。ヒロですら分かる露骨な視線に、リーシアが気づいていないはずがない。

 むしろ巨体のランナーバードを引きずる小柄な女の子が歩いていたら、注目されない訳がないかと変な納得をするヒロ……リーシアは完全に視線を無視してズンズン歩く。その後を、ヒヨコみたいにキョロキョロしながらヒロは付いて行く。


「おいアレ……」

「まさか? マジでか?」

「おいおい、あの女……」


 一歩進むごとに視線が集まり、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。何となく嫌な予感が、ヒロの脳裏をよぎり始めた。

 新人冒険者にベテランが、命のやり取りの厳しさを教えるためにワザと絡んで来たり……。

『新人のクセに可愛い女を連れて冒険とはいい身分だな~』と、不良冒険者による新人イビリが始まったり……。

『そんな高ランクの魔物を、お前たちが倒せるわけがない!』と、難癖を付けられたり……。

 異世界小説の初めて訪れたギルドでありがちな、テンプレートがヒロの頭の中で展開される。

 異世界あるあるテンプレをアレコレ妄想していたヒロは、気がつけばいつの間にやら目的地の解体部屋の前に着いていた。部屋の前には、何人かの冒険者が獲物を手に持ち、並んで順番待ちをしていた。

 順番が来ると1から10までの番号が振られた扉のどれかに、ギルド職員が誘導し冒険者たちが部屋の中に入っていく。


「やっぱりこの時間は混んでますね。仕方ありません。並びましょう」


 ヒロとリーシアも順番待ちの列の最後尾に並ぶ。

 ヒロ達が列に並ぶと、なぜか順番待ちをしている人たちは押し黙り、前を向いたまま微動だにしない。
 さっきまで騒がしく、活気に溢れていたギルド内が、シーンと静まり返っている事にヒロは気付いていなかった。
 ヒロも順番待ちの間は、静かに待つのがルールなのだろうと空気を読み無言で順番を待つ。
  

「次の人、5番の部屋へお願いします」


 ギルド職員から声を掛けられ、ヒロとリーシアが魔物を引きずりながら部屋の中へと入って行く。

 部屋は両開きの扉になっており、大型の魔物を持ち込んでも問題なく通れる大きさの作りだった。


「こんにちは」


 ヒロがそうあいさつをしながら部屋の中に入ると……。


「まあ! ランナーバードが丸々一匹なんて久しぶりです。解体ですか? それとも買取ですか?」


 部屋の奥の方から、インテリアメガネを掛けたギルド支給の制服では隠しきれない、グラマラスなボディーの女性が声を上げて近づいて来た。

 思わずヒロは、胸に視線を合わせてしまう……ヒロの視線の先に気付いたリーシアは、自分の胸と見比べて不機嫌になるがヒロは気付かない。


「こんにちは、ランナーバードとシカーンの買取をお願いします」

「こんにちは、買取ですね。ありがとうございます。私はギルド職員のライムと申します。よろしくお願いします」

「僕はヒロと言います。よろしくお願いします」

「リーシアと申します」

「解体を利用されるのは初めてですか?」

「僕は初めてです」

「分かりました。簡単に説明しますね」


 解体は解体専門のギルドスタッフが担当し、その場で査定していくらしい。事前に欲しい素材がある場合、先に言っておけば査定から外して渡してくれるそうだ。

 解体が終わった際に全ての素材の鑑定額を書いた紙が渡され。問題がなければサインして取引は終了する。
 その際、現金かギルド口座への預金かを選択できるみたいだ。
 高額になると現金では支払いが出来ないため、口座への振り込みになる。そんな高額を支払うのは稀で、もっぱら現金での取引がほとんどらしい。
 買取査定額の10%が解体費用として差し引かれるため、買取が安い魔物だとほとんど儲からないみたいだ。

 ライムの話を手短に聞くヒロの目線は、チラチラ胸元へ……リーシアは汚物を見るような目でヒロ見つめていた。


「では、解体と査定に時間が掛かりますので、番号札をお渡します」


 そう言うと、制服の内ポケットから金属で作られた番号札を二枚取り出すと揺れた……それはダイナミックに揺れた! 思わずヒロの目が釘付けになる。

「反対側にギルドのラウンジがありますので、その番号札を見せればドリンクを1杯無料で飲めます。査定が終わりましたらお呼びしますので、ラウンジでお待ちください」


「ありがとうございます」

「お願いします。ヒロ、行きますよ」


 鼻の下を伸ばしているヒロを引っ張って、歩き出すリーシア……二人が部屋を歩き出す姿を見て、ライムは微笑ましい気持ちになり、『青春ね~』とつぶやきながら二人を見送るのだった。



〈鼻の下を伸ばした勇者に、少女は嫉妬した!〉
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