勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
95 / 226
第10章 勇者と親子の絆編

第95話 オークと家族と◯◯の紋章

しおりを挟む
「アリア、シーザーはどこだ⁈」


 父親であるカイザーの声が、家の中に鳴り響いた。

 その日、カイザーは族長として村の狩りには参加せず、ひとり森の奥で村の脅威となる魔獣を狩りに出掛けていた。

 中心部に近い魔物を駆逐するのは、長として大事な役目であり、一日置きに狩りに向かうのは責務だった。

 休むことは許されず、カイザーは息子との初めての狩りを泣くなく断念するしかなかった。夢にまで見た親子で初めての狩りが、お預けになってしまったカイザーは悔しがった。

 息子の狩りに同行できず、カイザーは一抹の不安を覚えたが、古参のオーク達も同行する。問題はないだろうとタカを括っていたが……その思いは悪い方へと的中してしまった。

 いつものように、大物のオーガベアーを仕留め村に帰ったとき、村の入り口でシーザーが獲物に襲われ、危険な状態であると知らされた。

 獲物をその場に投げ捨て、カイザーは無我夢中で家へと走り出していた。

 日が傾き村に夕日の赤い光が差し込む道で、カイザーの脳裏に、息子の顔が何度も浮かんでは消えていく。

 夕日の中で交わした、たわいもない会話……たがそれはカイザーにとって、どんな宝石より輝いた思い出として心に残り続けていた。シーザーの笑顔が、カイザーの胸を締め付ける。


「帰ったぞ!」


 入り口の布を勢い良く払い、カイザーは家の中へと飛び込む。


「あなた……シーザーが!」


 シーザーの母、アリアは部屋に入ってきたカイザーの姿を見ると、彼に駆け寄りその胸に飛び込んでいた。


「アリア……シーザーはどこだ! 傷の具合は?」

「いま奥の部屋で寝かせていますが、首を深林オオカミに噛まれて……血が止まらないの」

 胸に抱くアリアの顔は青褪あおざめて、手は血に塗れていた。服にも血が飛び散り、シーザーの出血は多く危険な状態であることをカイザーに伝える。


「ここにいろ」


 カイザーはアリアをその場に留まらせ、息子シーザーの元へと足を運ぶ。その足は大地をしっかりと踏み締めてはいたが、手は微かに震えていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 カイザーが隣の部屋に入ると、部屋の中に置かれた草のベットの上にシーザーは横たわっていた。

 シーザーが浅い息を繰り返し、痛みに耐えている姿を見たカイザーは息を飲み込んだ。

 シーザーの傍に膝を突き屈むカイザー……息子の傷口を見るため、首に巻かれた布に手を伸ばす。

 首に巻かれた布は赤い血で塗れていた。息をする度に首の怪我をした箇所から血が滲み、首に巻いた布が赤く染まっていた。

「シーザー……」

 カイザーは息子の頭に手を置き、その頭を優しくなでながら、空いた手で傷口を縛る布を剥がし傷の状態を見る。

 首に鋭い牙で噛まれて跡があり、その傷の一つから血が滲み出し、止まる気配がない。

 カイザーは、この怪我が体の中を流れる血のくだが傷つけられことによるものだと判断した。噴き出す血の勢いで血が固まらず、心臓が脈を打つごとに、血が少しずつ流れ出してしまうのを経験で知っていた。

 この傷は、放っておいても決して治らない……オーク達に医療と言う技術がない以上、怪我は自然治癒に任せるしかなかった。

 むしろ怪我により命を落とすなら、それが運命であり、自然治癒以外で怪我を治すのは、女神の運命を捻じ曲げるものとして忌み嫌われていた。

 これも運命なのかと、カイザーは心の中で呟いた。

 再び布を固く傷口に巻き直すと、シーザーが目を覚ました。


「ち、父上、お帰りなさい……ごめんなさい。狩りで油断してしまいました。いつも父上が狩りの最中は常に警戒しなければならないと教えてくれてたのに……」

「無理に喋るな。この程度の怪我ならすぐに治る。今はゆっくりと休め」

「はい、父上。少し眠りますね。昨日は狩りに行けると興奮して寝られなかったので……」

「うむ、今日は行けなかったが、次の狩りの時は一緒に行くぞ。皆には内緒だがな、お前に狩り方を教えてやるのが我は楽しみだったのだ」

「本当ですか? じゃあ次に狩りに行く時は、がんばらなくちゃ……父上の息子として恥ずかしくない狩りをしないと……」

「我の息子など関係ない。お前はお前だ。他の奴の目など気にするな」

「父上はやっばり優しいですね……楽しみだなあ、父上と一緒の狩り」

「うむ。我も楽しみにしている。さあ、今は休んで、その傷を癒すのだ」

「はい……父上、おやすみなさい」


 目蓋を閉じて、眠るシーザー……眠りに着く息子の顔を見ると、カイザーは立ち上がりアリアの元へと戻る。


「あなた、シーザーはどうなってしまうの……」

「あの傷はもう治すことはできない……体の血が外に流れ続け、やがて死ぬ……」

「そんな……なんで、なんでシーザーが!」


 アリアはその場で泣き崩れてしまう。
 

「たが……これで良かったのかも知れぬ……シーザーがここで死ねば、最悪の事態だけは避けられるのだから……」


 その言葉を聞いたアリアの手がカイザーの頬を叩いていた。


「あなたは自分の息子が死ぬのを、良かったって言うの?」

 アリアが泣きながらも、母として理不尽な死に抗おうと戦う息子のために、最強の男を叩いていた。


「親が子の死を望むなんて……」

「族長として、群れを守らねばならないのだ。シーザーと我……二人の命とオーク族六百の命、どちらを生かすべきかは分かるはずだ……許せ」


 それを聞いたアリアは力なく俯いてしまった。


「我に宿やどりし紋章の呪いが、オーク族全てを破滅へと向かわせる。コレは我が死ねば、我が血を受け継ぐ者に……シーザーに継承されてしまう」


 カイザーは右腕に巻かれた布を解くと、その下から奇妙な形をした痣が現れた。

 
「我が幼き日、森の中で見つけたこの憤怒の紋章は、我に力を与えてはくれた……だが同時に、我らオーク族に呪いをも課した。狂化バーサクの力がオーク族全ての者に効果を及ぼし始めている……このままでは皆が、死ぬまで目につく人族を殺し続ける魔物と化してしまう」

「どうにかできないのですか?」

「無駄だ。この紋章が囁いて来るのだ……時が来た。人を滅ぼせと……我も意識をしっかり保たねば狂化バーサクしてしまいそうなのだ……少しずつ紋章の力が強くなって来ている。もういつ狂化バーサクしてもおかしくない。そうなれば他のオークにも一気に波及して、皆が一斉に狂化バーサクしてしまう」


 カイザーは忌々しい腕に付いた憤怒の紋章に爪を立てると、皮膚が裂け血が流れ落ちる。


「唯一の例外は、我を倒した者に、この紋章を乗り移らせることだが……おそらく乗り移られた者は、我らと同じ道を辿ることになる。自分たちが生き残るために、他の種族を犠牲にせねばならん。それに……」

「あなたがワザと負けるなんてないわね」


 アリアは妻としてカイザーの思いを理解していた。それは族長の妻としてではなく、愛する者を支える者としての言葉だった。


「すまん……我の戦士としての誇りが許さぬのだ。戦うからには、全力で戦って敗れたい……これは我のワガママだ」

「わかっています。でも、あなたに打ち勝てる者など……」

「だからこそ、この我に傷を付けたあの二匹を生かし捕らえたのだ。我を殺させるためにな」


 カイザーの瞳に闘志が宿る。戦士としての勘が、ヒロの中に眠る可能性を見出みいだしていた。


「だが、もうその必要もないか……」

「あなた……死ぬ時は三人一緒よ」

「アリア……せめてお前だけは」


 アリアは首を横に振り、カイザーの言葉を否定していた。


「あなたとシーザーが居ない世界で生きる程、私は強くないの……」

「そうか……面倒を掛けてすまん」

「いいのよ。家族なんだから……」


 二匹のオークは抱き合い、互いを支え合っていた。

 どれ位そうしていただろう。窓から差し込む夕日の赤い光はいつしかなくなり、部屋の中を月明かりが照らし始めていた。

 その時カイザーは、家の入り口に何者かが走って近づいて来る気配を感じた。


「長! いるか!」


 入り口の布を跳ね除けて、若手でNo.1の戦士、ムラクが血相を変えて家の中へ飛び込んできた。


「どうしたムラク? 何かあったか?」

「坊ちゃんを助けられるかもしれない!」

「なに! 本当か⁈」

「シーザーを助けられるの⁈」


 カイザーとアリアは、シーザーが助かるかもしれないと言う言葉に、同時に声を上げていた。


「待ってくれ二人共、まずは落ち着いて話を聞いてくれ」


 二匹に詰め寄られるムラクは、ガブリ寄る夫婦を静止して落ち着かせる。


「長、坊ちゃんを助ける手はある。正確には……あると言われた」

「言われた? 誰に言われたのだムラク?」

「坊ちゃんを助けることが出来る者……ヒロだ!」



〈小さな命を救うため、変態ヒーローが動き出す〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...