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第14章 勇者と魔王降臨編
第159話 勇者と諦めない心
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「リーシア……」
「……」
コントローラースキルのタイムリミットが過ぎ、合体が解けてしまったヒロとリーシア……最終奥義【神威滅却】を放つため、HPと体力を使い果たしてしまい、コントローラーコネクトが解けることで、残りHPと体力が分割され二人は瀕死の状態になっていた。
フラフラの状態で立ち上がったヒロが、返事のないリーシアを見ると、そこには聖女モード時に受けた憤怒の攻撃で脇腹を刺し貫かれ、血を流し倒れた少女の姿があった。
辛うじて意識があるヒロは、リーシアの傷を押さえながら、腰に差した回復ポーションを傷口に振り掛ける。
「グゥッ!」
回復の痛みに声を上げるリーシア……一本目のポーションを傷口に流し込むと、リーシアが痛みで意識が覚醒する。
「ヒロ……イツツ……脇腹が痛いです。我ながら無茶をしました」
「リーシア、ポーションを飲んでください」
すぐに二本目を取り出したヒロは、瓶の蓋を開けて手渡そうとするが、リーシアは指一本動かすことができず、受け取れなかった。
「すみません。体が思うように動かせなくて、飲ませてもらえると助かります」
「……分かりました」
ヒロがリーシア頭を優しく抱き少し頭を上げてポーションが飲ませやすい姿勢にする。
リーシアはポーション瓶の口を、自分の口につけて飲ませてくれるのだと想像して待っていると、ヒロがおもむろにポーション瓶の中身を自分の口に含み……。
「ちょっ! ヒロ!」
そのまま口づけを交わし、ポーションをリーシアに飲ませていく。
コクンコクンと目をつぶり、ポーションを飲むリーシア……ポーションを飲み終わっても二人はしばらく口を離せないでいた。
そしてどちらからと知れず唇を離すと、二人は見つめ合っていた。
「ヒロ……ポーションを飲ますのに口移しはどうかと」
「え? だ、だめでしたか?」
「え~と、意識がない相手なら仕方がないですが、相手の意識があるのに、確認せずにやったら犯罪ですよ?」
「ええ! す、すみません。リーシアが心配で……嫌でしたか?」
「……嫌じゃありませんよ。フフ♪」
リーシアが嬉しそうに笑い、ヒロに笑顔を向けていた。
先にリーシアへポーションを飲ませたヒロは、自らも回復すべく三本目のポーションを飲みながら、二人とは離れた場所に、うずくまる小さなオークの子供を見ていた。
距離があるため、生きているのか……はたまた死んでいるのかの判別がつかない。
肩から生やしていた触手の姿は見えず、ピクリとも動かない……少なくとも覇神六王流最終奥義『神威滅却』を受けている以上、無傷ではないようだ。
ヒロはふと、オートマッピングスキルの簡易マップ画面を覗くと、青と赤……自分のすぐ近くで表示される、二つの光点の輝きを見た。
青は当然隣で横たわるリーシア。そして赤い光点……それは憤怒がまだ生きており、シーザーに取り憑いている事を物語っていた。
「ヒロ……憤怒は?」
「生きてますね。僕の簡易マップの光点が赤く光ったままです。距離があるので気絶しているのか……それとも回復するために気絶したフリをしているのかもしれません」
簡易マップをチラ見しながら、倒れた憤怒の様子をヒロが見ていると、森の方から新たなる青い光点が二つ現れた。
「ん? 森の方から誰か来ます」
「ナターシャさん達ですか?」
「青い光点だから、おそらく会ったことがある味方のはずですが……」
ヒロが視界に映る簡易MAPに指で触れ、メニュー画面から現れた光点が誰なのかを確かめてみると……。
「これは、アリアさんとムラクさんです!」
「え? なんで二人が……まさかシーザー君を追って⁈」
シーザーの母アリアと影の薄い若手No.1戦士ムラク……二人がすぐそばにまでシーザーを追って来ていた。
「おそらくは……これは想定外です。二人がここに到着するまでに決着をつけなくては」
「ヒロ、急ぎましょう! 痛っ……」
リーシアが動かない体に力を入れ無理に立ち上がろうとするが、脇腹に開けられた穴の痛みに顔を歪め、動きを止めていた。
「リーシアはそのままで、憤怒は僕がやります」
ヒロはフラつきながらも立ち上がり、背中に背負うミスリルロングソードを引き抜くと、傍に横たわるリーシアの顔を覗く。
「リーシア、そこに居てください」
ヒロが決意の顔で女を見つめ、リーシアも男に全てを託しうなずいていた。
「ヒロ……気をつけて」
動かぬ体で少女がヒロを見送ると、ヒロは闘気を体にまとい、ゆっくりとした足取りで憤怒に向かって歩き出した。
(さて、ここまでは多少段取りが狂いましたが、ほぼ計画通りです。あとは最後の仕上げですが……アリアさんとムラクさんの登場が、僕の描いたシナリオにどう絡んで来るかが気掛かりです。下手をしたらバッドエンドへまっしぐらの可能性もあります)
腰に刺した最後のダガーに溜めを行い、ゆっくりと警戒しながらヒロが憤怒に近づく。
(二人がここに到着する前までに全てを終わらせなくては……自分の息子が死ぬ姿を母親に見せるわけにはいきません)
ピクリとも動かない憤怒……顔を伏せて倒れているため、表情も読み取れない。ヒロはさらに警戒を高めジリジリと距離を詰める……そしてあと2メートルの位置にまで近づいた途端、ガバッと立ち上がり憤怒がヒロに飛び掛かろうとした!
予想通りの展開に、ヒロは冷静に腰に置いていた手で素早くダガーを抜くと、銀光が飛びあがろうとした憤怒の軌道に投げ込まれ、一条の光が草原に煌めいた!
だが……一瞬の動きに反応した憤怒は、ヒロに跳び掛かるのを止め、横に跳び転がりギリギリのタイミングで銀光を避ける。
地面に銀光が突き刺さり、ヒロの攻撃が空振りに終わる。
「やはり気絶したフリをしていましたか」
「クソッ! 人如きがぁぁぁぁ!」
シーザーの体を乗っ取った憤怒がヨタヨタと立ち上がり、目の前にいる者を忌々しい瞳で睨みつけていた。
「憤怒、お得意の触手で攻撃して来ないとこを見ると、どうやら、もう力を使い果たしたようですね」
ヒロが弓を引くが如く左足を前に出し半身で剣を構える。右手で切先に近い峰を持ち左手を剣の柄に添えると、そのまま顔の横にまで手を上げる。
そして顔の横から伸びた剣身が、まっすぐに憤怒へと向けられる。
剣を突き出すのに特化させた構え……ヒロの世界で言うならば、霞の構えと呼ばれるものに近く、相手の喉元を突くか、半身を返して切り込むのに適した構えだった
再び溜めを始めたヒロが、構えを崩さずに憤怒を見下ろす。
「邪魔をするな! 貴様ら人は滅ばなければならない。お前たちの存在が母を苦しめる!」
「母? 人がお前の母親に何かしたと言うことですか?」
「黙れ! 人が母を思うことすら許せん! 滅びよ! 人は全てこの大地から滅び去れ! お前らは滅びねばならぬ! 一人残らず滅びるがいい!」
怒りに瞳を赤く染め上げる憤怒が、全てを憎む苦しみの表情でヒロを睨んでいた。
そして憤怒の怒りに燃える瞳から一筋の涙が流れた。
「憤怒……おまえは……そこまでして母親を」
「死ね!」
ヒロが憤怒の流した涙に躊躇を見せた時、その隙を突いて肩から触手を一瞬で生やした憤怒が跳び掛かってきた。
最後の力を振り絞り、ヒロを殺そうと憎しみに染め上げた一撃がヒロを襲う!
「それも予想通りです!」
その言葉と共に、ヒロはあらかじめ練り上げていた闘気を流し込む。ヒロの手首から伸びる……細く見えない魔力の糸でつながった地面に突き刺さり、溜めが終了したダガーへと!
「なにっ!」
巻き起こる大爆発!
憤怒に向かって近づく前から、すでにヒロの策は練り終わっていた。
投擲したダガーが避けられるのを想定し、魔力の糸を予めダガーとつなげておいた。そして憤怒に悟られぬよう、話し掛けながら溜めを行い、爆発の機会をうかがっていたのだ。
後ろで突如巻き起こった爆発に押し出され、憤怒がバランスを崩しながら前方へと吹き飛ばされる……霞の構えを取るヒロの方へと!
「これで終わりです!」
突き出されるミスリルロングソード!
だが……想定よりも早い速度で迫る憤怒に、ヒロの攻撃が一瞬遅れてしまった。突き出した剣がシーザーの小さな体を貫けず、脇腹を掠めて浅い傷を作る。
痛恨のミス……経験の浅いヒロは、爆発により憤怒に隙を作ったが、爆風による加速が計算に入っていなかった。
そして憤怒の攻撃が、ヒロを狙ったものではなかったことも……イレギュラーな要素が重なり攻撃を外してしまう。
攻撃が避けられ、憤怒がヒロの横を通り抜けた時、その顔が笑っていたのをヒロは見逃さなかった。
「まさか! 待て!」
突き出した剣を水平に振るうが、後ろに跳び去る憤怒を捉えられず、剣は虚しく空を切る。
攻撃を回避した憤怒は、着地と同時に走り出していた。
後ろにいるヒロなど振り返らず、憎い人を一人でも殺すために……悔しがり悲しみの表情を浮かべるヒロの顔を見るために……体を動かせないまま横たわるリーシアに向かって憤怒は走っていた。
「な! リーシア!」
「こ、これはちょっとまずいです。体が……ヒロ!」
今だ回復できず、体が動かせないリーシアに憤怒の迫る!
ヒロが脳内のスイッチを入れ、スローモーションの世界に入り込み思考する。
(奴の狙いは最初からリーシアだったのか! クソッ! 今、リーシアは自力で動けない。僕が何とかしないと! Bダッシュではもう追いつけない。投擲武器ならギリギリ間に合いそうだが、ダガーはさっき使い切った。よしんばあったとしても、溜めがされていなければ憤怒は止められない)
「死ぬがいい! そして後悔の念に苦しめ!」
憤怒が肩から生やした触手を振り被る。
(何かないのか⁈ 何か憤怒を止められる攻撃は! 何でもいい! 何でも! 投擲武器があれば、投擲武器が……武器? ……そうか! あるじゃないか! 投擲スキルは別に投擲武器がなければ使えないスキルじゃない!)
「させるか! パワースロー!」
ヒロが手に持つ剣を振りかぶると、渾身の力を持って憤怒の投げつけた!
投擲スキルが発動し、命中率、威力、射程を上げたミスリルロングソードが憤怒の背中に放たれる! 凄まじい勢いで放たれた剣は、さながら回転する電動丸ノコのように新円を描き、憤怒の背中に猛烈な勢いで襲い掛かる。
憤怒が背中から迫り来る攻撃を察知すると、リーシアに振り下ろす触手を、剣に振り下ろしていた!
次の瞬間、触手と剣が宙を舞った!
触手を切り裂くことには成功したが、剣の勢いはそこで終わり、触手と剣が地面に落ちて行く。
間一髪、憤怒の攻撃を退けたと安堵するヒロ……だがそれは早計だった。
触手を切り落とされた憤怒が、リーシアの体を素手で差し貫こうと、貫手で振り被る。
右腕の紋章から凶々しいオーラが噴き出し、憤怒の体を覆っていた。
人の体など、簡単に差し貫く凶々しいオーラに包まれた貫手がリーシアに放たれる。
「ヒロ!」
「Bダッシュ!」
「滅びよ!」
もはや間に合わない……無駄だと分かっていてもヒロは動いていた。今、Bダッシュを使っても、憤怒の攻撃は確実にリーシアの体を貫く。体が動かないリーシアでは攻撃を避ける事もできない。
もはや打つ手なしの状況において、ヒロは足掻いていた……最後の一瞬までも諦めない。どんな難ゲーも諦めずクリアーしてきたゲーマーの矜持が、彼を突き動かす。
この世にクリアーできないゲームなどない。だから諦めるなと……ゲームオーバーの文字は諦めた者の心に表示されるものだと! 彼の心が叫んでいた! 僕の魂にゲームオーバーの文字はなんてない!
「諦めてたまるかあぁぁっ!」
ヒロの叫びが草原に響いた時、どこからともなく闘気をまとった槍が憤怒に向かって投げられた!
【シークレットスキルのロック条件が解除されました。ユニークスキル『ブレイブ』を発動します】
〈希望の諦めない心が、奇跡と勇気を呼び起こす!〉
「……」
コントローラースキルのタイムリミットが過ぎ、合体が解けてしまったヒロとリーシア……最終奥義【神威滅却】を放つため、HPと体力を使い果たしてしまい、コントローラーコネクトが解けることで、残りHPと体力が分割され二人は瀕死の状態になっていた。
フラフラの状態で立ち上がったヒロが、返事のないリーシアを見ると、そこには聖女モード時に受けた憤怒の攻撃で脇腹を刺し貫かれ、血を流し倒れた少女の姿があった。
辛うじて意識があるヒロは、リーシアの傷を押さえながら、腰に差した回復ポーションを傷口に振り掛ける。
「グゥッ!」
回復の痛みに声を上げるリーシア……一本目のポーションを傷口に流し込むと、リーシアが痛みで意識が覚醒する。
「ヒロ……イツツ……脇腹が痛いです。我ながら無茶をしました」
「リーシア、ポーションを飲んでください」
すぐに二本目を取り出したヒロは、瓶の蓋を開けて手渡そうとするが、リーシアは指一本動かすことができず、受け取れなかった。
「すみません。体が思うように動かせなくて、飲ませてもらえると助かります」
「……分かりました」
ヒロがリーシア頭を優しく抱き少し頭を上げてポーションが飲ませやすい姿勢にする。
リーシアはポーション瓶の口を、自分の口につけて飲ませてくれるのだと想像して待っていると、ヒロがおもむろにポーション瓶の中身を自分の口に含み……。
「ちょっ! ヒロ!」
そのまま口づけを交わし、ポーションをリーシアに飲ませていく。
コクンコクンと目をつぶり、ポーションを飲むリーシア……ポーションを飲み終わっても二人はしばらく口を離せないでいた。
そしてどちらからと知れず唇を離すと、二人は見つめ合っていた。
「ヒロ……ポーションを飲ますのに口移しはどうかと」
「え? だ、だめでしたか?」
「え~と、意識がない相手なら仕方がないですが、相手の意識があるのに、確認せずにやったら犯罪ですよ?」
「ええ! す、すみません。リーシアが心配で……嫌でしたか?」
「……嫌じゃありませんよ。フフ♪」
リーシアが嬉しそうに笑い、ヒロに笑顔を向けていた。
先にリーシアへポーションを飲ませたヒロは、自らも回復すべく三本目のポーションを飲みながら、二人とは離れた場所に、うずくまる小さなオークの子供を見ていた。
距離があるため、生きているのか……はたまた死んでいるのかの判別がつかない。
肩から生やしていた触手の姿は見えず、ピクリとも動かない……少なくとも覇神六王流最終奥義『神威滅却』を受けている以上、無傷ではないようだ。
ヒロはふと、オートマッピングスキルの簡易マップ画面を覗くと、青と赤……自分のすぐ近くで表示される、二つの光点の輝きを見た。
青は当然隣で横たわるリーシア。そして赤い光点……それは憤怒がまだ生きており、シーザーに取り憑いている事を物語っていた。
「ヒロ……憤怒は?」
「生きてますね。僕の簡易マップの光点が赤く光ったままです。距離があるので気絶しているのか……それとも回復するために気絶したフリをしているのかもしれません」
簡易マップをチラ見しながら、倒れた憤怒の様子をヒロが見ていると、森の方から新たなる青い光点が二つ現れた。
「ん? 森の方から誰か来ます」
「ナターシャさん達ですか?」
「青い光点だから、おそらく会ったことがある味方のはずですが……」
ヒロが視界に映る簡易MAPに指で触れ、メニュー画面から現れた光点が誰なのかを確かめてみると……。
「これは、アリアさんとムラクさんです!」
「え? なんで二人が……まさかシーザー君を追って⁈」
シーザーの母アリアと影の薄い若手No.1戦士ムラク……二人がすぐそばにまでシーザーを追って来ていた。
「おそらくは……これは想定外です。二人がここに到着するまでに決着をつけなくては」
「ヒロ、急ぎましょう! 痛っ……」
リーシアが動かない体に力を入れ無理に立ち上がろうとするが、脇腹に開けられた穴の痛みに顔を歪め、動きを止めていた。
「リーシアはそのままで、憤怒は僕がやります」
ヒロはフラつきながらも立ち上がり、背中に背負うミスリルロングソードを引き抜くと、傍に横たわるリーシアの顔を覗く。
「リーシア、そこに居てください」
ヒロが決意の顔で女を見つめ、リーシアも男に全てを託しうなずいていた。
「ヒロ……気をつけて」
動かぬ体で少女がヒロを見送ると、ヒロは闘気を体にまとい、ゆっくりとした足取りで憤怒に向かって歩き出した。
(さて、ここまでは多少段取りが狂いましたが、ほぼ計画通りです。あとは最後の仕上げですが……アリアさんとムラクさんの登場が、僕の描いたシナリオにどう絡んで来るかが気掛かりです。下手をしたらバッドエンドへまっしぐらの可能性もあります)
腰に刺した最後のダガーに溜めを行い、ゆっくりと警戒しながらヒロが憤怒に近づく。
(二人がここに到着する前までに全てを終わらせなくては……自分の息子が死ぬ姿を母親に見せるわけにはいきません)
ピクリとも動かない憤怒……顔を伏せて倒れているため、表情も読み取れない。ヒロはさらに警戒を高めジリジリと距離を詰める……そしてあと2メートルの位置にまで近づいた途端、ガバッと立ち上がり憤怒がヒロに飛び掛かろうとした!
予想通りの展開に、ヒロは冷静に腰に置いていた手で素早くダガーを抜くと、銀光が飛びあがろうとした憤怒の軌道に投げ込まれ、一条の光が草原に煌めいた!
だが……一瞬の動きに反応した憤怒は、ヒロに跳び掛かるのを止め、横に跳び転がりギリギリのタイミングで銀光を避ける。
地面に銀光が突き刺さり、ヒロの攻撃が空振りに終わる。
「やはり気絶したフリをしていましたか」
「クソッ! 人如きがぁぁぁぁ!」
シーザーの体を乗っ取った憤怒がヨタヨタと立ち上がり、目の前にいる者を忌々しい瞳で睨みつけていた。
「憤怒、お得意の触手で攻撃して来ないとこを見ると、どうやら、もう力を使い果たしたようですね」
ヒロが弓を引くが如く左足を前に出し半身で剣を構える。右手で切先に近い峰を持ち左手を剣の柄に添えると、そのまま顔の横にまで手を上げる。
そして顔の横から伸びた剣身が、まっすぐに憤怒へと向けられる。
剣を突き出すのに特化させた構え……ヒロの世界で言うならば、霞の構えと呼ばれるものに近く、相手の喉元を突くか、半身を返して切り込むのに適した構えだった
再び溜めを始めたヒロが、構えを崩さずに憤怒を見下ろす。
「邪魔をするな! 貴様ら人は滅ばなければならない。お前たちの存在が母を苦しめる!」
「母? 人がお前の母親に何かしたと言うことですか?」
「黙れ! 人が母を思うことすら許せん! 滅びよ! 人は全てこの大地から滅び去れ! お前らは滅びねばならぬ! 一人残らず滅びるがいい!」
怒りに瞳を赤く染め上げる憤怒が、全てを憎む苦しみの表情でヒロを睨んでいた。
そして憤怒の怒りに燃える瞳から一筋の涙が流れた。
「憤怒……おまえは……そこまでして母親を」
「死ね!」
ヒロが憤怒の流した涙に躊躇を見せた時、その隙を突いて肩から触手を一瞬で生やした憤怒が跳び掛かってきた。
最後の力を振り絞り、ヒロを殺そうと憎しみに染め上げた一撃がヒロを襲う!
「それも予想通りです!」
その言葉と共に、ヒロはあらかじめ練り上げていた闘気を流し込む。ヒロの手首から伸びる……細く見えない魔力の糸でつながった地面に突き刺さり、溜めが終了したダガーへと!
「なにっ!」
巻き起こる大爆発!
憤怒に向かって近づく前から、すでにヒロの策は練り終わっていた。
投擲したダガーが避けられるのを想定し、魔力の糸を予めダガーとつなげておいた。そして憤怒に悟られぬよう、話し掛けながら溜めを行い、爆発の機会をうかがっていたのだ。
後ろで突如巻き起こった爆発に押し出され、憤怒がバランスを崩しながら前方へと吹き飛ばされる……霞の構えを取るヒロの方へと!
「これで終わりです!」
突き出されるミスリルロングソード!
だが……想定よりも早い速度で迫る憤怒に、ヒロの攻撃が一瞬遅れてしまった。突き出した剣がシーザーの小さな体を貫けず、脇腹を掠めて浅い傷を作る。
痛恨のミス……経験の浅いヒロは、爆発により憤怒に隙を作ったが、爆風による加速が計算に入っていなかった。
そして憤怒の攻撃が、ヒロを狙ったものではなかったことも……イレギュラーな要素が重なり攻撃を外してしまう。
攻撃が避けられ、憤怒がヒロの横を通り抜けた時、その顔が笑っていたのをヒロは見逃さなかった。
「まさか! 待て!」
突き出した剣を水平に振るうが、後ろに跳び去る憤怒を捉えられず、剣は虚しく空を切る。
攻撃を回避した憤怒は、着地と同時に走り出していた。
後ろにいるヒロなど振り返らず、憎い人を一人でも殺すために……悔しがり悲しみの表情を浮かべるヒロの顔を見るために……体を動かせないまま横たわるリーシアに向かって憤怒は走っていた。
「な! リーシア!」
「こ、これはちょっとまずいです。体が……ヒロ!」
今だ回復できず、体が動かせないリーシアに憤怒の迫る!
ヒロが脳内のスイッチを入れ、スローモーションの世界に入り込み思考する。
(奴の狙いは最初からリーシアだったのか! クソッ! 今、リーシアは自力で動けない。僕が何とかしないと! Bダッシュではもう追いつけない。投擲武器ならギリギリ間に合いそうだが、ダガーはさっき使い切った。よしんばあったとしても、溜めがされていなければ憤怒は止められない)
「死ぬがいい! そして後悔の念に苦しめ!」
憤怒が肩から生やした触手を振り被る。
(何かないのか⁈ 何か憤怒を止められる攻撃は! 何でもいい! 何でも! 投擲武器があれば、投擲武器が……武器? ……そうか! あるじゃないか! 投擲スキルは別に投擲武器がなければ使えないスキルじゃない!)
「させるか! パワースロー!」
ヒロが手に持つ剣を振りかぶると、渾身の力を持って憤怒の投げつけた!
投擲スキルが発動し、命中率、威力、射程を上げたミスリルロングソードが憤怒の背中に放たれる! 凄まじい勢いで放たれた剣は、さながら回転する電動丸ノコのように新円を描き、憤怒の背中に猛烈な勢いで襲い掛かる。
憤怒が背中から迫り来る攻撃を察知すると、リーシアに振り下ろす触手を、剣に振り下ろしていた!
次の瞬間、触手と剣が宙を舞った!
触手を切り裂くことには成功したが、剣の勢いはそこで終わり、触手と剣が地面に落ちて行く。
間一髪、憤怒の攻撃を退けたと安堵するヒロ……だがそれは早計だった。
触手を切り落とされた憤怒が、リーシアの体を素手で差し貫こうと、貫手で振り被る。
右腕の紋章から凶々しいオーラが噴き出し、憤怒の体を覆っていた。
人の体など、簡単に差し貫く凶々しいオーラに包まれた貫手がリーシアに放たれる。
「ヒロ!」
「Bダッシュ!」
「滅びよ!」
もはや間に合わない……無駄だと分かっていてもヒロは動いていた。今、Bダッシュを使っても、憤怒の攻撃は確実にリーシアの体を貫く。体が動かないリーシアでは攻撃を避ける事もできない。
もはや打つ手なしの状況において、ヒロは足掻いていた……最後の一瞬までも諦めない。どんな難ゲーも諦めずクリアーしてきたゲーマーの矜持が、彼を突き動かす。
この世にクリアーできないゲームなどない。だから諦めるなと……ゲームオーバーの文字は諦めた者の心に表示されるものだと! 彼の心が叫んでいた! 僕の魂にゲームオーバーの文字はなんてない!
「諦めてたまるかあぁぁっ!」
ヒロの叫びが草原に響いた時、どこからともなく闘気をまとった槍が憤怒に向かって投げられた!
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『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
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