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第17章 勇者と嵐の旅立ち編
第223話 勇者と、もうひとつの未来
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切る位置を確かめていた斬首人の剣がついに止まり、リーシアの首筋に鋭利な剣先が添えられた。
「最後に言い残すことはないか?」
「そうですね……もし私が死んだあとに変態を名乗る男が町に現れたら伝えてください。アナタとの約束を守れなくて、ごめんなさいって……」
「承知した。覚悟はいいな?」
「はい」
リーシアは軽い返事をすると目を閉じた。
その顔はこれから死に行くとは思えないほどの安らかな微笑みを浮かべていた。
「では、いくぞ……」
首筋に添えられた剣がゆっくりと離れていく。
斬首人は重量のある幅広い大剣を、頭の後ろに大きく振りかぶる。
「願わくは、あの子たちとヒロに祝福があらんことを……」
「お願いだよ! だれかお姉ちゃんを助けてぇぇぇ!」
「さらばだ!」
死を前にしても、なお他人の幸せを願うリーシアと、悲痛な叫びを上げ、姉を助けてと願うリゲル。
だが無情にも、太陽の光を反射させながら大剣は勢いよく振り下ろされ――
「やめて~!」
――リーシアの首は斬り落とされた。
噴き出す血が切り離された少女の顔を汚し、ゴトリと落ちたものが、落下の衝撃でステージの上を転がる。
二回三回と転がった頭は、やがて勢いをなくすと動きを止め、広間の中は気味が悪いほど静まり返えり、その光景を見た人々は魅入られてしまう。
まるで眠るように目を閉じ、安らかな表情を浮かべた少女だったものに、目を奪われたのだ。
「ハッハッ……ザマァ見ろ、魔女め!」
そして沈黙の中、ひとりの男が呟くと――
「私たちを欺いた罰よ。いい気味だわ!」
「良かった。これで災いは起こらないのね」
――止まっていた時間が動き出したかのように、広場は歓喜の渦に包まれた。
口々に魔女が死んだことに、喜ぶ人々……。
「なんで? なんで! リーシアお姉ちゃんは魔女なんかじゃないのに⁈ お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」
姉と慕う家族を殺された弟が流す嘆きの涙……。
人の死に悲しむ思いは、人が死ぬことで喜ぶ狂った歓喜に押し流されてしまう。
「よかったわ。魔女がいなくなれば、みんな幸せになるわ」
「ああ、そうさ! 魔女はいるだけで他人に災いをもたらすって話だからな。きっとこれで災いから解放される」
「ここのところ運がなかったのも、きっと魔女のせいだ。死んでくれて清々した」
「魔女は、人の不幸に喜ぶような奴らなんだから、死んで当然よ」
他人の不幸を喜ぶドス黒い感情が、広場の中を渦巻いていく。止まることのない狂った歓喜の渦が……。
「なんだこれは……」
そんな歓喜に包まれる広場の中で、一人の男がポツリと呟いた。
呆然とした顔で辺りの様子を見回し、処刑台の上に転がるものを見た瞬間、男は拳を強く握り締めた。爪が手のひらに食い込み血が流れ出る。
「これはなんだと聞いているんだ!」
親しい少女の死を見て、男の心には悲しみよりも怒りの感情が湧き上がり、震える拳をなにもない空間に力一杯叩きつけ――
「答えろ! サイプロプス!」
――声を荒げて激昂した。
すると男が叩きつけた空間に、『ピシッ!』とヒビが入り世界は揺れ動きはじめる。
「これは未来さ、本上 英雄。お前が選んだ……間違った選択の結果だよ」
次の瞬間、渋い男の声と共に、ヒビ割れた空間は砕け散り、粉々になった破片は空気に溶けるように落ち消える。
「これが……僕の選んだ結果だと⁈」
「そうだ。お前は、またやり過ぎたんだよ。この結末はお前が招いた人災だ!」
割れた空間からヒビが広がり、世界のすべてが崩れ落ちると、黒い空間と共に白い仮面を被った男がヒロの前に現れた。
中央に赤い宝石を輝かせ、ひとつ目の巨人を彷彿とさせる仮面を着けた全裸の男(局部モザイク有り)……謎の変態サイプロプスに、ヒロは刺すような視線を向ける。
「そう睨むな。俺に怒りをぶつけるのはお門違いだ。言っただろう? これはお前が選択を間違えた結果なんだからな?」
「僕がなにを間違ったというんだ!」
激昂するヒロ、心の中で渦巻く怒りをサイプロプスに吐き出す。
「ふむ、憤怒を取り込んだせいか、少し怒りっぽくなっているな。過ぎた怒りは正常な判断を鈍らせる。気をつけろ。さて、お前の過ちについてだが……ひとつ聞きたい。お前はなぜリーシアと別れた?」
突然の話にヒロは面を食らい、一瞬、黙り込んでしまう。
「……彼女と教会や孤児院にいるみんなの安全を考えてだ」
「ほう、リーシアと別れたのは彼女と家族を思ってだと?」
「そうだ。あの時……憤怒を倒した僕たちは、そのままアルムの町に帰れなくなってしまった」
「憤怒を倒した証拠か?」
「ああ……イレギュラーとはいえ、憤怒を人の目がある場所で倒せなかった。誰も見ていない戦いに勝利したとしても、証拠がなければ信じてくれる人はいない」
「誤算により、エクソダス計画に狂いが生じたというわけか」
「ん……なぜお前がエクソダス計画を知っている? それにエクソダスという言葉は、この世界にはないはずだ。おまえは一体……」
「言っただろう? 俺は誰よりもお前を知る男だとな。まあ俺が誰であるかは、いずれ時が来ればわかる。話を続けろ」
ヒロは納得がいかない表情を浮かべながら、話をつづる。
「本来なら、オークヒーローを倒した僕らは、仮死状態のカイザーをアイテム袋に入れたまま、アルムの町を去る予定だった」
「カイザーを人の目に触れない場所で蘇生し逃すためか」
サイプロプスの問いに、ヒロは黙ってうなずく。
「オークは多少討ち漏らしても問題なかった。しかしオークヒーローは別だ。彼が生きている限り人族は安心して暮らせない。だからカイザーの死は絶対条件であり、皆の前で倒す必要があった」
「なるほど……そして死んだ証拠として、これ見よがしに死体をアイテム袋に入れたわけか?」
「アイテム袋には、生きたものは入れられない。これを知る者が話を聞けば、オークヒーローの遺体はなくても、討伐されたと信じるはずだ」
「だがそこで、オークヒーローの息子と母親に、憤怒が乗り移る、誤算が起こった……」
「僕は憤怒の継承条件を見誤っていた。まさか母親であるアリアさんに紋章が継承されるなんて……その結果、戦いの最中、憤怒に乗り移られた僕は、仮死状態のアリアさんをすぐにアイテム袋に入れられなかった」
「だからリーシアは、アリアをすぐに蘇生した」
「仮死状態から蘇生する確率は、経過時間が短ければ短いほど上がる。リーシアの判断は間違ってはいない。しかし……蘇生するタイミングが悪過ぎたんだ」
「本来なら戦いの後、仮死状態の三人を人目のつかない場所で蘇生するつもりだったか……」
「そうだ。再びアリアさんを仮死状態にして、アイテム袋に入れるのも考えたが、リスクの方が高すぎた」
「賢明な判断だ。リーシアにポンポン蘇生されて生き返れるのは、お前ぐらいだ。レアスキル『不死鳥の魂』さまさまだな。普通なら仮死状態からの蘇生なぞ、そう何度もできん」
サイプロプスは肩をすくめながら仮面の宝石を光らすと、ヒロは表情を険しくする。
「結果、カイザーと息子のジーク君も同時に蘇生し、その場で別れることになったが、問題はその後だ……」
「憤怒討伐の物的証拠がないか?」
「そうだ。オークヒーローの時と違って、僕とリーシア以外に目撃者はいない。いくら僕らが倒したと主張しても、信じる人は少なく、疑う者も出るだろう」
「だからお前は存在しない証拠を持って、旅立ったことにしたワケか?」
「ああ、僕は旅の途中だからな。フラっと町からいなくなっても問題はない。討伐の証である遺体は僕が持ち去ったことにすれば、最悪オークヒーローを倒した事実だけは残る。一緒に戦った人たちの目撃証言もあるしな」
「なぜそれが、リーシアと別れる話へとつながるんだ?」
「……もともと、リーシアと別れるのは計画の内だったんだ。これは彼女にも話していない内容だ。これを知れば、リーシアは無理にでも僕について来てしまうから」
「なぜ秘密にする必要がある?」
「あのまま二人でアルムの町に帰れば、必ずオークヒーローの遺体を見せろと言われたはずだ。だから帰るワケにはいかず、遺体を持ったまま旅に出ることにしていた。さっきも言ったが、僕はこの町に立ち寄っただけの旅人だから、突然いなくなっても問題はない。でもリーシアは違う」
「なるほど、教会と孤児院の子たちか?」
「あのまま二人で町に戻らず、旅に出ることも考えた。でもそれだと、町で暮らす彼女の家族に迷惑を掛ける可能性があった」
「そのことをリーシアに話したのか?」
「いや……話していない。話せばきっと彼女は思い悩む。だから……真実を伝えないまま、わざとひどい言葉を使って別れた」
「すべての罪を、お前が背負うつもりでか?」
「これはリーシアの願いでもある。人をオークの双方が最小の犠牲で幸せになれるな。最悪、僕がお尋ね者になるだけで済む最良の手だ」
「ふむ」
「それにリーシアはある意味、純粋でウソが苦手だ。町に戻れば、必ず討伐の話を報告しなければならない。計画を話し、口裏を合わせたとしても、微妙な証言の食い違いから、ボロを出す可能性が高かった。それにナターシャさんの持つ、嘘を見抜くスキル『真実の目』があるしな」
「余計なことを知らなければ嘘も見破られんか……合点がいった」
サイプロプスの答えに、ヒロは黙ってうなずいた。
「僕ひとりがオークヒーローの遺体を持ち去ったことにすれば、少なくとも町に戻ったリーシアと家族は、悪く言われないはずだ。リーシアには辛い思いをさせてしまったが、これでエクソダス計画はおおむね計画通りにことを運んだ。あとは頃合いを見計らって彼女と連絡を取り、一緒に旅立つ予定だった」
「フッフッフッフッ、ハッハッハッハッ!」
サイプロプスはヒロの言葉に、天を仰ぎながら乾いた声で笑い出す。
「ハッハッハッハッ、なるほど……よくできた計画だ。しかし詰めが甘かったな、本上 英雄!」
「なっ⁈」
「おまえは自身が傷付くことで、他人が幸せになることを良しとするようだか、他人が傷付くことで心を痛める者がいることを、いい加減理解しろ!」
「どういうことだ?」
「まあ、これは俺がお前に言うべき言葉ではないがな。だがこれだけは言えるぞ。お前がリーシアと別れた時点で、計画は破綻したのさ!」
「なんだと!」
「あの時、お前の取るべき行動は、リーシアと一緒に町を出ることだった」
「バカをいうな。そんなことをすれば町に住む教会や孤児院のみんなが……」
「それだ。別にリーシアが町に戻らなくても、多少のイザコザはあるだろうが、誰も死ぬことはなかったはず。お前は考え過ぎなんだよ。余計なことを深読みし過ぎて、すべてを自分一人で解決しようとする傾向がある」
「それの何がいけない?」
「リーシアと別れるとき、真実を打ち明けていれば、彼女の首が落とされる未来はなかっただろう。なぜ話さなかった?」
「最悪、僕ひとりの犠牲で済むなら、すべての罪を背負って旅立とうと……今の僕なら、この世界でひとりで旅をしても問題ない力があったから」
「憤怒を倒し慢心したか? アイツを倒せたのはお前ひとりの力ではあるまい。リーシアやアリア、カイザー、さまざまな者の助けがあったればこそだろう」
「……」
「おまえは他人が傷付くのを恐れて、なんでも自分で背追い込むクセがある。覚えておけ、おまえは弱い。災厄のひとりを倒せたのも、皆の力があったからだ。お前ひとりの力で倒したわけではない」
「……」
「おまえはリーシアに相談するべきだったんだ。あの時、お前の考えを相談していれば、なにか別の手を思いついたかもしれない。少なくともこんなバッドエンドは起きなかっただろう。これは独りよがりなお前が招いた人災だ」
「僕がリーシアを……殺した……」
うつむき黙り込むヒロを見て、サイプロプスの口元が笑みをこぼす。
「だが……リーシアの死ぬ未来はまだ訪れてはいない。間違えた選択はやり直せないが、未来はまだ変えられる。顔を上げろ本上 英雄、お前のすべてを知る男がここにいるんだ。自らの失敗に落ち込む暇があるのなら、次に続く最良の一手を考えろ。失敗を無駄にするな。リーシアの幸せを一緒に見つけてやるといったのは誰だ?」
サイプロプスの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げたヒロの目には光が宿っていた。
「……そうだな。僕はまた間違えるところだった。ありがとうサイプロプス。おまえのおかげで目が覚めたよ」
「なに、気にするな。お前を助けるのは、俺の目的のためでもある。礼など必要ない」
「目的?」
「ああ……お前に力を貸すのは俺の打算ゆえだ。軽蔑するか?」
サイプロプスの問いにヒロはゆっくりと首を横に振る。
「いいや、しないよ。僕だってお前を利用しようとしているからな」
「その通りだ。俺とお前は互いに利用しあう関係でしかない。だが利害が一致している間は、俺はお前を裏切ることはない」
「そうか、それを聞いて安心したよ」
二人は顔を見合わせ小さく笑っていた。
すると、そんな二人のやり取りを遮るように遥か頭上の空間が歪み、ゴロゴロと音を鳴らしはじめる。
「雷か?」
「いや、ここはS領域、天候など存在しない虚無の世界だ」
「なら、アレは?」
頭上の空間が大きく歪み、細かな雷がバチバチ走る。
「何者かが、俺たちのいるS領域につながろうとしているのか? いったい誰が?」
「どうやら、お前でも知らないことがあるみたいだな?」
「言っただろう? 俺は誰よりもお前を誰よりも知る男だと、つまりそれ以外は知らないことだらけだ!」
「……急にお前が不安になってきたよ」
「さて、冗談はさておき、何か出てくるぞ。備えろ」
「言われないでもわかっている」
剣を持たないヒロは徒手空拳で拳を握りしめ、覇神六王流の構えを取ると、頭上の空間が一瞬眩い光を放ち、雷が――
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
――悲鳴と共に足元に落ちてきた!
天から雷と共に落ちたものを見下ろす二人……その目には、ピクピクとは体を震わせる白と黒のマダラ模様の物体が映っていた。
「なんだコイツは?」
サイプロプスが疑問の声を上げ、足元で蠢く物体を踏みつける。
「痛ってぇ~、誰だ! いきなり、俺様の頭を踏みつけやがって!」
「おい、貴様、何者だ?」
サイプロプスが尋ねると、それは踏みつけた足を払い除け、ピョンと立ち上がった。
「お前こそ何者だ! この俺様を足蹴にするなんて……って、ブハッ! なにこいつ⁈ なんで仮面被ってスッポンポンなの! 下のそれなに? どうやんのソレ? 変態すぎるぞ。ヒロほど変態ではないけどな。まあアイツに勝てる変態は、そうそういないだろう」
「コイツと知り合いか?」
「……利害が一致しただけの関係だ」
ヒロの言葉に、マダラ模様のカラスがバッと振り向くと――
「おお! 心の友よ~!」
――災厄の希望は飛び立ち、ヒロの頭の上に降り立つのだった。
〈勇者の下に、利害関係で動く者たちが集結したとき、異世界ガイヤに大いなるバグが発生した!〉
「最後に言い残すことはないか?」
「そうですね……もし私が死んだあとに変態を名乗る男が町に現れたら伝えてください。アナタとの約束を守れなくて、ごめんなさいって……」
「承知した。覚悟はいいな?」
「はい」
リーシアは軽い返事をすると目を閉じた。
その顔はこれから死に行くとは思えないほどの安らかな微笑みを浮かべていた。
「では、いくぞ……」
首筋に添えられた剣がゆっくりと離れていく。
斬首人は重量のある幅広い大剣を、頭の後ろに大きく振りかぶる。
「願わくは、あの子たちとヒロに祝福があらんことを……」
「お願いだよ! だれかお姉ちゃんを助けてぇぇぇ!」
「さらばだ!」
死を前にしても、なお他人の幸せを願うリーシアと、悲痛な叫びを上げ、姉を助けてと願うリゲル。
だが無情にも、太陽の光を反射させながら大剣は勢いよく振り下ろされ――
「やめて~!」
――リーシアの首は斬り落とされた。
噴き出す血が切り離された少女の顔を汚し、ゴトリと落ちたものが、落下の衝撃でステージの上を転がる。
二回三回と転がった頭は、やがて勢いをなくすと動きを止め、広間の中は気味が悪いほど静まり返えり、その光景を見た人々は魅入られてしまう。
まるで眠るように目を閉じ、安らかな表情を浮かべた少女だったものに、目を奪われたのだ。
「ハッハッ……ザマァ見ろ、魔女め!」
そして沈黙の中、ひとりの男が呟くと――
「私たちを欺いた罰よ。いい気味だわ!」
「良かった。これで災いは起こらないのね」
――止まっていた時間が動き出したかのように、広場は歓喜の渦に包まれた。
口々に魔女が死んだことに、喜ぶ人々……。
「なんで? なんで! リーシアお姉ちゃんは魔女なんかじゃないのに⁈ お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」
姉と慕う家族を殺された弟が流す嘆きの涙……。
人の死に悲しむ思いは、人が死ぬことで喜ぶ狂った歓喜に押し流されてしまう。
「よかったわ。魔女がいなくなれば、みんな幸せになるわ」
「ああ、そうさ! 魔女はいるだけで他人に災いをもたらすって話だからな。きっとこれで災いから解放される」
「ここのところ運がなかったのも、きっと魔女のせいだ。死んでくれて清々した」
「魔女は、人の不幸に喜ぶような奴らなんだから、死んで当然よ」
他人の不幸を喜ぶドス黒い感情が、広場の中を渦巻いていく。止まることのない狂った歓喜の渦が……。
「なんだこれは……」
そんな歓喜に包まれる広場の中で、一人の男がポツリと呟いた。
呆然とした顔で辺りの様子を見回し、処刑台の上に転がるものを見た瞬間、男は拳を強く握り締めた。爪が手のひらに食い込み血が流れ出る。
「これはなんだと聞いているんだ!」
親しい少女の死を見て、男の心には悲しみよりも怒りの感情が湧き上がり、震える拳をなにもない空間に力一杯叩きつけ――
「答えろ! サイプロプス!」
――声を荒げて激昂した。
すると男が叩きつけた空間に、『ピシッ!』とヒビが入り世界は揺れ動きはじめる。
「これは未来さ、本上 英雄。お前が選んだ……間違った選択の結果だよ」
次の瞬間、渋い男の声と共に、ヒビ割れた空間は砕け散り、粉々になった破片は空気に溶けるように落ち消える。
「これが……僕の選んだ結果だと⁈」
「そうだ。お前は、またやり過ぎたんだよ。この結末はお前が招いた人災だ!」
割れた空間からヒビが広がり、世界のすべてが崩れ落ちると、黒い空間と共に白い仮面を被った男がヒロの前に現れた。
中央に赤い宝石を輝かせ、ひとつ目の巨人を彷彿とさせる仮面を着けた全裸の男(局部モザイク有り)……謎の変態サイプロプスに、ヒロは刺すような視線を向ける。
「そう睨むな。俺に怒りをぶつけるのはお門違いだ。言っただろう? これはお前が選択を間違えた結果なんだからな?」
「僕がなにを間違ったというんだ!」
激昂するヒロ、心の中で渦巻く怒りをサイプロプスに吐き出す。
「ふむ、憤怒を取り込んだせいか、少し怒りっぽくなっているな。過ぎた怒りは正常な判断を鈍らせる。気をつけろ。さて、お前の過ちについてだが……ひとつ聞きたい。お前はなぜリーシアと別れた?」
突然の話にヒロは面を食らい、一瞬、黙り込んでしまう。
「……彼女と教会や孤児院にいるみんなの安全を考えてだ」
「ほう、リーシアと別れたのは彼女と家族を思ってだと?」
「そうだ。あの時……憤怒を倒した僕たちは、そのままアルムの町に帰れなくなってしまった」
「憤怒を倒した証拠か?」
「ああ……イレギュラーとはいえ、憤怒を人の目がある場所で倒せなかった。誰も見ていない戦いに勝利したとしても、証拠がなければ信じてくれる人はいない」
「誤算により、エクソダス計画に狂いが生じたというわけか」
「ん……なぜお前がエクソダス計画を知っている? それにエクソダスという言葉は、この世界にはないはずだ。おまえは一体……」
「言っただろう? 俺は誰よりもお前を知る男だとな。まあ俺が誰であるかは、いずれ時が来ればわかる。話を続けろ」
ヒロは納得がいかない表情を浮かべながら、話をつづる。
「本来なら、オークヒーローを倒した僕らは、仮死状態のカイザーをアイテム袋に入れたまま、アルムの町を去る予定だった」
「カイザーを人の目に触れない場所で蘇生し逃すためか」
サイプロプスの問いに、ヒロは黙ってうなずく。
「オークは多少討ち漏らしても問題なかった。しかしオークヒーローは別だ。彼が生きている限り人族は安心して暮らせない。だからカイザーの死は絶対条件であり、皆の前で倒す必要があった」
「なるほど……そして死んだ証拠として、これ見よがしに死体をアイテム袋に入れたわけか?」
「アイテム袋には、生きたものは入れられない。これを知る者が話を聞けば、オークヒーローの遺体はなくても、討伐されたと信じるはずだ」
「だがそこで、オークヒーローの息子と母親に、憤怒が乗り移る、誤算が起こった……」
「僕は憤怒の継承条件を見誤っていた。まさか母親であるアリアさんに紋章が継承されるなんて……その結果、戦いの最中、憤怒に乗り移られた僕は、仮死状態のアリアさんをすぐにアイテム袋に入れられなかった」
「だからリーシアは、アリアをすぐに蘇生した」
「仮死状態から蘇生する確率は、経過時間が短ければ短いほど上がる。リーシアの判断は間違ってはいない。しかし……蘇生するタイミングが悪過ぎたんだ」
「本来なら戦いの後、仮死状態の三人を人目のつかない場所で蘇生するつもりだったか……」
「そうだ。再びアリアさんを仮死状態にして、アイテム袋に入れるのも考えたが、リスクの方が高すぎた」
「賢明な判断だ。リーシアにポンポン蘇生されて生き返れるのは、お前ぐらいだ。レアスキル『不死鳥の魂』さまさまだな。普通なら仮死状態からの蘇生なぞ、そう何度もできん」
サイプロプスは肩をすくめながら仮面の宝石を光らすと、ヒロは表情を険しくする。
「結果、カイザーと息子のジーク君も同時に蘇生し、その場で別れることになったが、問題はその後だ……」
「憤怒討伐の物的証拠がないか?」
「そうだ。オークヒーローの時と違って、僕とリーシア以外に目撃者はいない。いくら僕らが倒したと主張しても、信じる人は少なく、疑う者も出るだろう」
「だからお前は存在しない証拠を持って、旅立ったことにしたワケか?」
「ああ、僕は旅の途中だからな。フラっと町からいなくなっても問題はない。討伐の証である遺体は僕が持ち去ったことにすれば、最悪オークヒーローを倒した事実だけは残る。一緒に戦った人たちの目撃証言もあるしな」
「なぜそれが、リーシアと別れる話へとつながるんだ?」
「……もともと、リーシアと別れるのは計画の内だったんだ。これは彼女にも話していない内容だ。これを知れば、リーシアは無理にでも僕について来てしまうから」
「なぜ秘密にする必要がある?」
「あのまま二人でアルムの町に帰れば、必ずオークヒーローの遺体を見せろと言われたはずだ。だから帰るワケにはいかず、遺体を持ったまま旅に出ることにしていた。さっきも言ったが、僕はこの町に立ち寄っただけの旅人だから、突然いなくなっても問題はない。でもリーシアは違う」
「なるほど、教会と孤児院の子たちか?」
「あのまま二人で町に戻らず、旅に出ることも考えた。でもそれだと、町で暮らす彼女の家族に迷惑を掛ける可能性があった」
「そのことをリーシアに話したのか?」
「いや……話していない。話せばきっと彼女は思い悩む。だから……真実を伝えないまま、わざとひどい言葉を使って別れた」
「すべての罪を、お前が背負うつもりでか?」
「これはリーシアの願いでもある。人をオークの双方が最小の犠牲で幸せになれるな。最悪、僕がお尋ね者になるだけで済む最良の手だ」
「ふむ」
「それにリーシアはある意味、純粋でウソが苦手だ。町に戻れば、必ず討伐の話を報告しなければならない。計画を話し、口裏を合わせたとしても、微妙な証言の食い違いから、ボロを出す可能性が高かった。それにナターシャさんの持つ、嘘を見抜くスキル『真実の目』があるしな」
「余計なことを知らなければ嘘も見破られんか……合点がいった」
サイプロプスの答えに、ヒロは黙ってうなずいた。
「僕ひとりがオークヒーローの遺体を持ち去ったことにすれば、少なくとも町に戻ったリーシアと家族は、悪く言われないはずだ。リーシアには辛い思いをさせてしまったが、これでエクソダス計画はおおむね計画通りにことを運んだ。あとは頃合いを見計らって彼女と連絡を取り、一緒に旅立つ予定だった」
「フッフッフッフッ、ハッハッハッハッ!」
サイプロプスはヒロの言葉に、天を仰ぎながら乾いた声で笑い出す。
「ハッハッハッハッ、なるほど……よくできた計画だ。しかし詰めが甘かったな、本上 英雄!」
「なっ⁈」
「おまえは自身が傷付くことで、他人が幸せになることを良しとするようだか、他人が傷付くことで心を痛める者がいることを、いい加減理解しろ!」
「どういうことだ?」
「まあ、これは俺がお前に言うべき言葉ではないがな。だがこれだけは言えるぞ。お前がリーシアと別れた時点で、計画は破綻したのさ!」
「なんだと!」
「あの時、お前の取るべき行動は、リーシアと一緒に町を出ることだった」
「バカをいうな。そんなことをすれば町に住む教会や孤児院のみんなが……」
「それだ。別にリーシアが町に戻らなくても、多少のイザコザはあるだろうが、誰も死ぬことはなかったはず。お前は考え過ぎなんだよ。余計なことを深読みし過ぎて、すべてを自分一人で解決しようとする傾向がある」
「それの何がいけない?」
「リーシアと別れるとき、真実を打ち明けていれば、彼女の首が落とされる未来はなかっただろう。なぜ話さなかった?」
「最悪、僕ひとりの犠牲で済むなら、すべての罪を背負って旅立とうと……今の僕なら、この世界でひとりで旅をしても問題ない力があったから」
「憤怒を倒し慢心したか? アイツを倒せたのはお前ひとりの力ではあるまい。リーシアやアリア、カイザー、さまざまな者の助けがあったればこそだろう」
「……」
「おまえは他人が傷付くのを恐れて、なんでも自分で背追い込むクセがある。覚えておけ、おまえは弱い。災厄のひとりを倒せたのも、皆の力があったからだ。お前ひとりの力で倒したわけではない」
「……」
「おまえはリーシアに相談するべきだったんだ。あの時、お前の考えを相談していれば、なにか別の手を思いついたかもしれない。少なくともこんなバッドエンドは起きなかっただろう。これは独りよがりなお前が招いた人災だ」
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「だが……リーシアの死ぬ未来はまだ訪れてはいない。間違えた選択はやり直せないが、未来はまだ変えられる。顔を上げろ本上 英雄、お前のすべてを知る男がここにいるんだ。自らの失敗に落ち込む暇があるのなら、次に続く最良の一手を考えろ。失敗を無駄にするな。リーシアの幸せを一緒に見つけてやるといったのは誰だ?」
サイプロプスの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げたヒロの目には光が宿っていた。
「……そうだな。僕はまた間違えるところだった。ありがとうサイプロプス。おまえのおかげで目が覚めたよ」
「なに、気にするな。お前を助けるのは、俺の目的のためでもある。礼など必要ない」
「目的?」
「ああ……お前に力を貸すのは俺の打算ゆえだ。軽蔑するか?」
サイプロプスの問いにヒロはゆっくりと首を横に振る。
「いいや、しないよ。僕だってお前を利用しようとしているからな」
「その通りだ。俺とお前は互いに利用しあう関係でしかない。だが利害が一致している間は、俺はお前を裏切ることはない」
「そうか、それを聞いて安心したよ」
二人は顔を見合わせ小さく笑っていた。
すると、そんな二人のやり取りを遮るように遥か頭上の空間が歪み、ゴロゴロと音を鳴らしはじめる。
「雷か?」
「いや、ここはS領域、天候など存在しない虚無の世界だ」
「なら、アレは?」
頭上の空間が大きく歪み、細かな雷がバチバチ走る。
「何者かが、俺たちのいるS領域につながろうとしているのか? いったい誰が?」
「どうやら、お前でも知らないことがあるみたいだな?」
「言っただろう? 俺は誰よりもお前を誰よりも知る男だと、つまりそれ以外は知らないことだらけだ!」
「……急にお前が不安になってきたよ」
「さて、冗談はさておき、何か出てくるぞ。備えろ」
「言われないでもわかっている」
剣を持たないヒロは徒手空拳で拳を握りしめ、覇神六王流の構えを取ると、頭上の空間が一瞬眩い光を放ち、雷が――
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
――悲鳴と共に足元に落ちてきた!
天から雷と共に落ちたものを見下ろす二人……その目には、ピクピクとは体を震わせる白と黒のマダラ模様の物体が映っていた。
「なんだコイツは?」
サイプロプスが疑問の声を上げ、足元で蠢く物体を踏みつける。
「痛ってぇ~、誰だ! いきなり、俺様の頭を踏みつけやがって!」
「おい、貴様、何者だ?」
サイプロプスが尋ねると、それは踏みつけた足を払い除け、ピョンと立ち上がった。
「お前こそ何者だ! この俺様を足蹴にするなんて……って、ブハッ! なにこいつ⁈ なんで仮面被ってスッポンポンなの! 下のそれなに? どうやんのソレ? 変態すぎるぞ。ヒロほど変態ではないけどな。まあアイツに勝てる変態は、そうそういないだろう」
「コイツと知り合いか?」
「……利害が一致しただけの関係だ」
ヒロの言葉に、マダラ模様のカラスがバッと振り向くと――
「おお! 心の友よ~!」
――災厄の希望は飛び立ち、ヒロの頭の上に降り立つのだった。
〈勇者の下に、利害関係で動く者たちが集結したとき、異世界ガイヤに大いなるバグが発生した!〉
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】おじいちゃんは元勇者
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元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
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「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
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この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
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〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
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これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
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──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
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