ニセ親子

kuroodin

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1話完結

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 「お前はどうしてこんな簡単なこともできない!もう辞めてしまえ!」

 俺は今日をもって会社から首になった。そして、夕暮れの中、先が見えない俺は下を向いたまま帰り道を歩く。
 俺は賑やかな公園を見た。
 母親と一緒に遊ぶ子供の姿を見てどこか懐かしい気持ちになった。

 家に帰り冷蔵庫に残ってあったビールを全て飲み干す。そして、拳で何度も壁に穴を開け、机をひっくり返した。しかし、目の前にあった昔、母と一緒に撮った写真の入った写真立てを壊そうとするが、俺は一瞬我に返りその場で涙を流しながら寝てしまった。

 朝日が昇り、俺はゆっくりと体を起こした。母親は介護施設で入居していて、とてもではないが失業手当で遣り繰りする余裕が無かった。そして、俺は今日、昨日の帰り道に考えていた「なりすまし詐欺」を決行する。相手は近所のお婆ちゃん、最近そのお婆ちゃんの家の息子の姿はなく、一人暮らしをしているようであった。なので、この詐欺の手口からしてかなり好都合の相手であった。

 俺は手を震わせながら、携帯を握る。相手はお婆ちゃんと知っていても、心の奥深くにある罪悪感を全て抑えることが出来なかった。そして、電話帳を取り出し、大きく深呼吸をしてからその近所のお婆ちゃんに電話をかける。

 「もしもし? お母さん? 俺だよ。元気にしてた?。」

 「あんた隆(たかし)なのかい? 隆なのかい?」

 お婆ちゃんは今にも泣きそうな声で息子の確認をした。

 「うん。隆だよお母さん。 ちょっと頼み事があってね、今ちょっとお金が必要なんだ。」

 「いくら必要なんだい?」

 「15万ほど、コンビニで買えるカードがあってね、それで送って欲しいんだ。」

 「分かった。」
 
 俺はお婆ちゃんに手続きを説明して電話を切った。スムーズに事が進んで安心したが、まだ手が震えていた。
 お婆ちゃんと電話をしてから少し時間が経ってからお婆ちゃんから電話がきた。

 「隆。15万円分買ってきたよ。ねえ、隆、隆はいつ帰ってこれるんだい?もしね、帰って来られるんだったら、あんたのね好きなカレー作ってあげるからね。いつでも帰っておいでよ。」

 「うん。分かった。」

 俺はお婆ちゃんから15万円分のお金を受け取ったが、母の介護の費用以外には使うことが出来なかった。

 5ヶ月ほど時間が経過して、俺は失業手当以外の収入源を確保するために就職活動を続けていたが、どの会社も俺を拾ってはくれなかった。失業手当もなくなり、収入源の尽きた俺は再びお婆ちゃんにお金をもらうことにした。
 前と同様の方法でお婆ちゃんからお金を受け取ることにした。

 「もしもしお母さん。隆だけどね。また10万ほどお金が必要になったんだ。」

 「分かった。今から買いに行くけど、前のことはごめんね。母さんね知らなかったんだよ。だから、もし許してくれるのだったらお願いだから、家に帰ってきてほしいんよ。」
 
 「安心してお母さん。俺もうそんなこと気にして無いからね。だから、もうすぐ家に帰るからね。」
 
 俺は嘘をついた。俺は息子を装った赤の他人ではあるが、最近お婆ちゃんの家庭事情を気にかけ始めていた。
 そして、お婆ちゃんからお金を受け取ったが、今回は電話は切らずにお婆ちゃんと話をした。
 俺は毎日お婆ちゃんと何気ない話も電話するようになった。そして、俺は息子を大切に思う母親の存在に対して深く考えることがあった。
 
 ある日のことだった。警察が家に来た。

 「あのーすみません。神奈川県警の者ですが、片海さんのお宅で間違いないですか?」
 
 俺はゆっくりとドアを開く。すると、お婆ちゃんと警察の姿があった。

 「片海さん、あなたこのお婆ちゃんからお金を受け取っていたそうですが、ちょっと詳しい話をしたいので署まで来て頂けますか?」

 俺は諦めて抵抗することはしなかった。だが、警察に連れて行かれる俺をお婆ちゃんが止めた。
 
 「違う! その子は私の息子だよ! 私がお金を送ったんだよ!」

 俺を迎えに来た警察官がそのお婆ちゃんの一言に動揺した。

 「お母さんとこの人は血縁関係はありません。なので恐らく、この人はお母さんのお金を騙し取っていたんですよ。」

 「いいや、違う。この子は血縁関係がなくても、息子なんだ。私の話相手になってくれた。そのお礼で今までお金を渡していたんだよ。だから警察は早く帰りな!」

 警察は呆然とした後、無言でパトカーに乗りこの場を去った。そして、理解できずに立ちすくむ俺にお婆ちゃんは言った。

 「これからもお母さんを大事にするんだよ。お金で困ったらまた電話をするんだよ。」
 
 お婆ちゃんはそう言ってこの場を去った。
  
 次の日俺は母のいる介護施設へ向かった。母の変わり果てた姿に涙を流しそうになった。俺は迷わずに母を抱きしめた。そして母を抱きしめたと同時に抑えていた涙も目から溢れた。

 「今まで一人にさせてごめんね。俺ずっと母さんのそばにいるからね。」

 母は自分の息子だとわかったのか笑顔を浮かべながら、涙を流していた。
 俺はそれからというもの毎日、毎日、母のもとへ行った。そして、毎日、毎日、街中で近所のお婆ちゃんの息子を捜した。そして、ある日のこと、川原 隆という男が現れた。
 川原という苗字はお婆ちゃんと同一のものであった。そして、俺はその男に母の事情を話した。するとやはり、お婆ちゃんはその男の母であるらしく、3年前に大喧嘩をして以降家に帰ってなかったらしい。
 
 俺は急いでお婆ちゃんの家にその男を連れて行った。そして、俺はお婆ちゃん家のインターホンを鳴らす。すると、慌ててお婆ちゃんが家から出てきた。

 「隆!」

 「母さん! 今まで一人にさせてごめん!」

 そして、お婆ちゃんと息子は涙を流しながら、強く抱きしめ合った。
 

 

 

 
 
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