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六章 アイオン落日編
鳶加藤への祝福
澪は本当に来なかった。
朝から……いや早朝そっとベッドを抜け出て厨房に向かうのがわかった。
そうだよ、朝御飯は唐揚げでしたよ。
これは声を大にして言っておきたい事なんだけどさ。
味付けが違う唐揚げを四種類出されておかず四品というのはちょっと道理が通らないと思うんだ。
一部歓喜の軍勢がいてくれて本当に助かった。
唐揚げ自体はね、似たようなのが既に亜空にあった。
鶏もそのものがいるし……ちょっとだけデカくて脚の太さと爪がちょっとだけ危険度が高いだけで。
ただ何となく竜田揚げのような唐揚げのような……それっぽい味だった。
や、十分に美味いんだ。
でも、昨日六夜さんから分けてもらったアレは思わず熱の入った唐揚げトークを展開してしまう程衝撃的に美味かったんだ。
迂闊だった。
澪が頂点を目指して始めてしまった。
と反省しながら、僕は朝はやはり味噌汁などが美味いと思います。安心します。
いやコーンスープというのも懐かしみが凄いな。
本格的なのじゃなく……その、粉の。
思い出すと何だかあのダマが妙に恋しくなる。
「六夜さん、昨日みたいのはマジで困ります」
まずはこれを先制攻撃で言っておかないといけない。
だから使命感のままに僕は昨日と同じ店の同じ席にいた六夜さんに言ってやった訳ですよ。
「? ようやく重い足を前に出したのだろ? 困るも何も、あれだけ待たされる澪さんが気の毒で気の毒で、ついなぁ。あ、これ定番で済まんが赤飯だ。ツィーゲは食材も異様に揃ってるな。簡単に再現できた」
「あ、どうもご丁ね……何の定番ですか!」
真顔で反論が飛んできた。
次いで四角い木の箱をつつ、と僕の方に渡してきた六夜さん。
中々大きい。
そして定番とはなんぞ?
「で、巴さんとはどうなんだ?」
「っ!?」
「……お? おお?」
「……」
驚くほどに誤魔化しも何も出てこなかった。
商人的には最近ムリなく出来る様になったのに!
これは洞察力どうの以前の問題で……百パーバレてるー!!
「ほー! 君も中々やるなあ。良き良き。若者はこうでなくてはな! 帝国のもちょっといき過ぎているが、まあ無理からんかなと思わんでもなし」
「……智樹と一緒にしないでください。いき過ぎってまた何かやらかしてんですか、あいつは」
「いや? そこそこ前からのだ。帝国の施策で面白いのが出ていてね。端的に言えば人口増加の為の策だな。大国とはいえ人口の減少は後々大変な問題になる。そもそも数はヒューマンの利の一つ。シンプルだが効果的と言えよう」
「……もしかして女は全員帝都に来て俺の所に来い、とかですか? どこのエロゲですか」
パーティでハーレムとか貴族の令嬢だろうがお構いなしに魅了したり。
あの分だと多分間違いなく既婚者でも気にしてないだろうからなあ。
現実にNTRとかするんじゃないよ。ゲームの中だけにしとけって。
「……いや? 流石にそれは身が持たんだろうし、人口増加と言っても誤差だ」
「じゃあ?」
「都市単位で順に媚薬を無料でばら撒いて勇者の名の下に数日間を休息日に設定、無礼講の大人のお祭りという訳だ」
「……」
馬鹿が過ぎる。
人口増加ってお前。
せめて結婚を法律で義務化するとか、そういうまともな考えって無いのかね。
どんだけ頭の中ピンクに染めれば……そこまで直接的で終わってる考えが出てくるのか。
「ははははっ、君が口を開けて呆気に取られる様など滅多に見れんだろうな! これは良い物を見せてもらった!」
「あまりに馬鹿過ぎて……もう」
「……どうだろうな。確かに過激なアプローチだが、確実に国単位で人が増えていくのは間違いないぞ?」
「にしたってですねえ。いや、もう帝国の話は良いです。あ、巴のも。昨日の用事の続き、お願いします」
「ん、了解した。ライドウ君は冒険者ギルドと我々の関係をもう知っていると思うが……」
で、さらっと切り替える。
年の功だよなあ、ホント。
「はい。一通りは」
「だな。という訳で私達はギルド関係に詳しい。例えば近頃このツィーゲでケンカクが生まれたろう?」
「ああ、はい」
ローニンってジョブからクラスアップしたんだとか。
同時候補が出てて、確かクロバカマ。
大分和な系統で驚いた。
「ローレルは見ての通り賢人の影響が非常に強いが……それでもケンカクなどは現在存在しない。色々とこちら側に染まっているというのに、な」
「……」
「その分いつの間にかコスプレが妙な浸透ぶりをしていたのが正直意外で……といかんな、この話はまた唐揚げの様に熱くなってしまう。で、ジョブの話だ。ケンカクにはまだ上がある」
「お、そうなんですか。剣客ときたら剣聖とか剣鬼、剣豪ですか?」
「うむ、剣豪だな。これも過去には存在したが今はおらん。そして更に上」
「剣豪の上?」
「ああ。ムガイというのがある。まだギルドで確認されていないジョブだ。だが私達は存在だけは知っている」
「元は皆さんの能力ですもんね。しかし……ムガイ。無外流ですか?」
何とまあ。
ゲームチックといえば、何となくあってもおかしくはないような。
ムガイね、どんなジョブか興味はあるな。
「だろうとアズが言っていた。無外流とはそんなに有名な流派なのかね。あいつ以外は誰も知らなかったが」
「えー」
そんなものなんだろうか。
「指揮系統ジョブの頂点はヤギュウなんだが、これは私達でもわかった。柳生十兵衛とかああいうのだろうと、ね」
「指揮系統、というなら柳生宗矩の方かと思いますけど」
宗厳の方は新陰流というべきだろうし。
将軍に仕えた御留流としての柳生を指してるつもりだろうから……だよねきっと。
「……まあ、そういう系という事でな。で、こういう初出のジョブが出る事は私達にとって当然の事ながら物凄く嬉しいんだ。我々が到達しえなかった領域に人々が到達していく、というのがな」
「なるほど」
という事はケンカクが珍しく出てきた事へのお礼みたいなものかな?
初出じゃないし、微妙な気がする。
昨日のがあるからなあ。
かこつけて僕をからかいに来ただけ、という線もまだ捨てきれない。
「この度、ギルドで新たなジョブを記録する事が出来た。君に近しい者からな。しかも私にとっては同じ系統のジョブという事で、久々に年甲斐もなく興奮している。本当に、ありがとう」
六夜さんがテーブルの天板ぎりぎりまで頭を下げて真面目に礼を言った。
僕に近しい冒険者って、アルパインの誰か。
いや六夜さんが近いというなら……トアか。
へえ、荒野とは逆の方向に依頼を受けて出かけてクラスアップ。
何てタイミング。
「……トアですか、ひょっとして」
「うむ。既に話は聞かせてもらったんだが、アズが渡したギルド武器が影響したらしく、かなり特殊な条件が必要になるものだった可能性がある。非常に興味深い!」
「と言う事は影朧じゃないのに変わったんですか……へえ」
「鳶加藤だよ、君ならもしかして知ってるんじゃないか? アズは忍びには興味ないようで知らんと言われたが君は意外とそういうのは全方位カバーしてるだろう!?」
トア、凄いのになったな。
あれか、巴に一時期師事してたのも影響してるのか?
ジョブの名前で良いのかって気もするけど……弱くはないよな絶対。
「人を変態みたいに言わないでくださいよ、加藤段蔵の異名でしょう」
「そう! そうなんだ!! まさかそんな亜流のジョブがあるなど思いもしなかった……わかるかね! 鳶加藤には独自の忍術スキルが満載らしいんだよ!」
「ろ、六夜さん! 一応トアの機密情報になりますから! 大声、大声!」
「想像などつくものか! この爺でさえ、ただただ感嘆して頷くしかなかった驚きのジョブなのだから!」
驚きなのはマジであんたのテンションの方だよ、と思った。
想像がつくかどうかの問題じゃないから!
「もう嬉しくて嬉しくて、私の秘蔵装備を幾つか貰ってもらった程だよ。私は気付いたらアサシンロードに染まっていたから忍び関係は憧れからの収集癖くらいしか残ってなかったのが残念だ」
アサシンにも道なんてあるのか。
暗殺道とか?
「新ジョブに新装備ですか。そりゃまたトアもホクホクな事で」
「ひとまず二刀流をやるにはラピスに並ぶ位の武器が必要だと悩んでいたからドマの逆鱗を引き千切って……というのは冗談で快く鱗を提供してもらって、アズの幻獣からお祝いに使うからとお願いして貰った素材と併せてツィーゲの職人に加工してもらった」
「……それを、トアにあげちゃったんですか?」
いや、ドマ。
物凄い流れ弾で酷い目見てる。
僕に会うのは絶対嫌だロクな事にならないと逃げ回っていたのに……哀れな。
センサーを潜り抜けて不幸に見舞われるタイプか。
何だろう、他人事に聞こえない。
「むふん!」
「むふんて」
力強く頷いてるからそうなんだろう。
誰が加工したのかわからないけど、とんでもない依頼で偉い目みたねえ、その人も。
「新ジョブ誕生の祝いならこの程度構わんさ。それに……」
「?」
「彼女たちはアイオンの奥深くまで入り込んでいる。そして綻びは既に埋まっているが彼女は向こう側からは未だツィーゲの亀裂に見えている。つまり、危険な立場にいる。鳶加藤をそう簡単に死なせるものか」
「……危険とは言いますけど、あれでトアのとこは強かでしぶといですよ?」
「出てくるかもしれないのが女神の使徒とあれば、それなりに警戒もすべきさ」
「それは一応僕らで対処しようかと思ってるんですが……」
「どうかな、相性で言うなら彼女たちアルパインの方が使徒と良い勝負をする可能性もある。クズノハ商会は君を含めて魔術にかなり頼っているからな。もっと冒険者のスキルの研究と使用も考えるべきかと思うよ」
「スキル……」
僕だけに限って言えば確かにスキルなんて使った記憶もないくらいだ。
間違いなく偏ってる。
それがまずい相手、って事か……面倒な。
「うむ」
「僕、レベル1の商人なんですが」
永遠のレベルワンっす。
「……そうだったな、スキル、ああ、そうか」
「一応、巴と澪、他の人には六夜さんからの忠告、ちゃんと伝えておきます」
「あ、ああ。ソレが良いだろう。何、ギルドのトップは無能ではない。その内原因も突き止めてくれる」
「だと良いんですが」
「……巴さんも澪さんも君を気遣ってか君を見習ってか、スキルを極力排して戦うやり方を追求している節がある。何事も万が一まで考えられる内に対策して備えた方が良い。悔いなく、とはかくあるべきだ」
「はい、ありがとうございます」
僕の存在がスキル忌避に繋がってたら、はっきり言って問題だ。
気にせず冒険者登録してどんどん極めていってほしいくらいなのに。
ムガイとかヤギュウの戦い見たいよね。
「さて、しかし何をもってお礼とすれば良いか……それが問題だな」
「?」
いや既にありがとうもらってるし、昨日美味しい唐揚げ紹介してもらった。
今回は頑張ったのもトアだ。
僕らがお礼をしてもらう筋でもない。
トア自身は既に六夜さんから結構なお祝いの品をもらってる。
「この短期間に巴さんとも関係を持つとは……トアの件もあるし……うーんライドウ君は底が知れんな」
「ちょおお!?」
既視感。
人はそれをデジャブと言います。
いやいやしかも今回一人は誤解だ、完全な。
おいおいもしもし!
視線が痛い……からの流石はツィーゲの冒険者だ、早くも僕らのテーブルが囲まれている。
「声量の大きい暗殺者ってどうかと思います……」
「なに、明日も赤飯を持ってくるから」
「結構で、ってずるい、もう消えてる!」
そうだった、この人にはこれがあった。
僕にも感知できないハイディングスキルー!
ああ、くそ。
また昨日と同じもげろコールがどこからか始まってしまった。
汗と熱気が凄まじい。
何という不快。手は出さないけど徐々に近づいてきて身体で圧するとかいう微妙で奇妙な嫌がらせもキツイ。
はは澪も巴もツィーゲに馴染んでいる、どんな形か知らんけど慕われている証明だと思えばこんな仕打ち、余裕でがま、が……ま……耐えられるかー!!
胸板! 肩! 腹ー!!
朝から……いや早朝そっとベッドを抜け出て厨房に向かうのがわかった。
そうだよ、朝御飯は唐揚げでしたよ。
これは声を大にして言っておきたい事なんだけどさ。
味付けが違う唐揚げを四種類出されておかず四品というのはちょっと道理が通らないと思うんだ。
一部歓喜の軍勢がいてくれて本当に助かった。
唐揚げ自体はね、似たようなのが既に亜空にあった。
鶏もそのものがいるし……ちょっとだけデカくて脚の太さと爪がちょっとだけ危険度が高いだけで。
ただ何となく竜田揚げのような唐揚げのような……それっぽい味だった。
や、十分に美味いんだ。
でも、昨日六夜さんから分けてもらったアレは思わず熱の入った唐揚げトークを展開してしまう程衝撃的に美味かったんだ。
迂闊だった。
澪が頂点を目指して始めてしまった。
と反省しながら、僕は朝はやはり味噌汁などが美味いと思います。安心します。
いやコーンスープというのも懐かしみが凄いな。
本格的なのじゃなく……その、粉の。
思い出すと何だかあのダマが妙に恋しくなる。
「六夜さん、昨日みたいのはマジで困ります」
まずはこれを先制攻撃で言っておかないといけない。
だから使命感のままに僕は昨日と同じ店の同じ席にいた六夜さんに言ってやった訳ですよ。
「? ようやく重い足を前に出したのだろ? 困るも何も、あれだけ待たされる澪さんが気の毒で気の毒で、ついなぁ。あ、これ定番で済まんが赤飯だ。ツィーゲは食材も異様に揃ってるな。簡単に再現できた」
「あ、どうもご丁ね……何の定番ですか!」
真顔で反論が飛んできた。
次いで四角い木の箱をつつ、と僕の方に渡してきた六夜さん。
中々大きい。
そして定番とはなんぞ?
「で、巴さんとはどうなんだ?」
「っ!?」
「……お? おお?」
「……」
驚くほどに誤魔化しも何も出てこなかった。
商人的には最近ムリなく出来る様になったのに!
これは洞察力どうの以前の問題で……百パーバレてるー!!
「ほー! 君も中々やるなあ。良き良き。若者はこうでなくてはな! 帝国のもちょっといき過ぎているが、まあ無理からんかなと思わんでもなし」
「……智樹と一緒にしないでください。いき過ぎってまた何かやらかしてんですか、あいつは」
「いや? そこそこ前からのだ。帝国の施策で面白いのが出ていてね。端的に言えば人口増加の為の策だな。大国とはいえ人口の減少は後々大変な問題になる。そもそも数はヒューマンの利の一つ。シンプルだが効果的と言えよう」
「……もしかして女は全員帝都に来て俺の所に来い、とかですか? どこのエロゲですか」
パーティでハーレムとか貴族の令嬢だろうがお構いなしに魅了したり。
あの分だと多分間違いなく既婚者でも気にしてないだろうからなあ。
現実にNTRとかするんじゃないよ。ゲームの中だけにしとけって。
「……いや? 流石にそれは身が持たんだろうし、人口増加と言っても誤差だ」
「じゃあ?」
「都市単位で順に媚薬を無料でばら撒いて勇者の名の下に数日間を休息日に設定、無礼講の大人のお祭りという訳だ」
「……」
馬鹿が過ぎる。
人口増加ってお前。
せめて結婚を法律で義務化するとか、そういうまともな考えって無いのかね。
どんだけ頭の中ピンクに染めれば……そこまで直接的で終わってる考えが出てくるのか。
「ははははっ、君が口を開けて呆気に取られる様など滅多に見れんだろうな! これは良い物を見せてもらった!」
「あまりに馬鹿過ぎて……もう」
「……どうだろうな。確かに過激なアプローチだが、確実に国単位で人が増えていくのは間違いないぞ?」
「にしたってですねえ。いや、もう帝国の話は良いです。あ、巴のも。昨日の用事の続き、お願いします」
「ん、了解した。ライドウ君は冒険者ギルドと我々の関係をもう知っていると思うが……」
で、さらっと切り替える。
年の功だよなあ、ホント。
「はい。一通りは」
「だな。という訳で私達はギルド関係に詳しい。例えば近頃このツィーゲでケンカクが生まれたろう?」
「ああ、はい」
ローニンってジョブからクラスアップしたんだとか。
同時候補が出てて、確かクロバカマ。
大分和な系統で驚いた。
「ローレルは見ての通り賢人の影響が非常に強いが……それでもケンカクなどは現在存在しない。色々とこちら側に染まっているというのに、な」
「……」
「その分いつの間にかコスプレが妙な浸透ぶりをしていたのが正直意外で……といかんな、この話はまた唐揚げの様に熱くなってしまう。で、ジョブの話だ。ケンカクにはまだ上がある」
「お、そうなんですか。剣客ときたら剣聖とか剣鬼、剣豪ですか?」
「うむ、剣豪だな。これも過去には存在したが今はおらん。そして更に上」
「剣豪の上?」
「ああ。ムガイというのがある。まだギルドで確認されていないジョブだ。だが私達は存在だけは知っている」
「元は皆さんの能力ですもんね。しかし……ムガイ。無外流ですか?」
何とまあ。
ゲームチックといえば、何となくあってもおかしくはないような。
ムガイね、どんなジョブか興味はあるな。
「だろうとアズが言っていた。無外流とはそんなに有名な流派なのかね。あいつ以外は誰も知らなかったが」
「えー」
そんなものなんだろうか。
「指揮系統ジョブの頂点はヤギュウなんだが、これは私達でもわかった。柳生十兵衛とかああいうのだろうと、ね」
「指揮系統、というなら柳生宗矩の方かと思いますけど」
宗厳の方は新陰流というべきだろうし。
将軍に仕えた御留流としての柳生を指してるつもりだろうから……だよねきっと。
「……まあ、そういう系という事でな。で、こういう初出のジョブが出る事は私達にとって当然の事ながら物凄く嬉しいんだ。我々が到達しえなかった領域に人々が到達していく、というのがな」
「なるほど」
という事はケンカクが珍しく出てきた事へのお礼みたいなものかな?
初出じゃないし、微妙な気がする。
昨日のがあるからなあ。
かこつけて僕をからかいに来ただけ、という線もまだ捨てきれない。
「この度、ギルドで新たなジョブを記録する事が出来た。君に近しい者からな。しかも私にとっては同じ系統のジョブという事で、久々に年甲斐もなく興奮している。本当に、ありがとう」
六夜さんがテーブルの天板ぎりぎりまで頭を下げて真面目に礼を言った。
僕に近しい冒険者って、アルパインの誰か。
いや六夜さんが近いというなら……トアか。
へえ、荒野とは逆の方向に依頼を受けて出かけてクラスアップ。
何てタイミング。
「……トアですか、ひょっとして」
「うむ。既に話は聞かせてもらったんだが、アズが渡したギルド武器が影響したらしく、かなり特殊な条件が必要になるものだった可能性がある。非常に興味深い!」
「と言う事は影朧じゃないのに変わったんですか……へえ」
「鳶加藤だよ、君ならもしかして知ってるんじゃないか? アズは忍びには興味ないようで知らんと言われたが君は意外とそういうのは全方位カバーしてるだろう!?」
トア、凄いのになったな。
あれか、巴に一時期師事してたのも影響してるのか?
ジョブの名前で良いのかって気もするけど……弱くはないよな絶対。
「人を変態みたいに言わないでくださいよ、加藤段蔵の異名でしょう」
「そう! そうなんだ!! まさかそんな亜流のジョブがあるなど思いもしなかった……わかるかね! 鳶加藤には独自の忍術スキルが満載らしいんだよ!」
「ろ、六夜さん! 一応トアの機密情報になりますから! 大声、大声!」
「想像などつくものか! この爺でさえ、ただただ感嘆して頷くしかなかった驚きのジョブなのだから!」
驚きなのはマジであんたのテンションの方だよ、と思った。
想像がつくかどうかの問題じゃないから!
「もう嬉しくて嬉しくて、私の秘蔵装備を幾つか貰ってもらった程だよ。私は気付いたらアサシンロードに染まっていたから忍び関係は憧れからの収集癖くらいしか残ってなかったのが残念だ」
アサシンにも道なんてあるのか。
暗殺道とか?
「新ジョブに新装備ですか。そりゃまたトアもホクホクな事で」
「ひとまず二刀流をやるにはラピスに並ぶ位の武器が必要だと悩んでいたからドマの逆鱗を引き千切って……というのは冗談で快く鱗を提供してもらって、アズの幻獣からお祝いに使うからとお願いして貰った素材と併せてツィーゲの職人に加工してもらった」
「……それを、トアにあげちゃったんですか?」
いや、ドマ。
物凄い流れ弾で酷い目見てる。
僕に会うのは絶対嫌だロクな事にならないと逃げ回っていたのに……哀れな。
センサーを潜り抜けて不幸に見舞われるタイプか。
何だろう、他人事に聞こえない。
「むふん!」
「むふんて」
力強く頷いてるからそうなんだろう。
誰が加工したのかわからないけど、とんでもない依頼で偉い目みたねえ、その人も。
「新ジョブ誕生の祝いならこの程度構わんさ。それに……」
「?」
「彼女たちはアイオンの奥深くまで入り込んでいる。そして綻びは既に埋まっているが彼女は向こう側からは未だツィーゲの亀裂に見えている。つまり、危険な立場にいる。鳶加藤をそう簡単に死なせるものか」
「……危険とは言いますけど、あれでトアのとこは強かでしぶといですよ?」
「出てくるかもしれないのが女神の使徒とあれば、それなりに警戒もすべきさ」
「それは一応僕らで対処しようかと思ってるんですが……」
「どうかな、相性で言うなら彼女たちアルパインの方が使徒と良い勝負をする可能性もある。クズノハ商会は君を含めて魔術にかなり頼っているからな。もっと冒険者のスキルの研究と使用も考えるべきかと思うよ」
「スキル……」
僕だけに限って言えば確かにスキルなんて使った記憶もないくらいだ。
間違いなく偏ってる。
それがまずい相手、って事か……面倒な。
「うむ」
「僕、レベル1の商人なんですが」
永遠のレベルワンっす。
「……そうだったな、スキル、ああ、そうか」
「一応、巴と澪、他の人には六夜さんからの忠告、ちゃんと伝えておきます」
「あ、ああ。ソレが良いだろう。何、ギルドのトップは無能ではない。その内原因も突き止めてくれる」
「だと良いんですが」
「……巴さんも澪さんも君を気遣ってか君を見習ってか、スキルを極力排して戦うやり方を追求している節がある。何事も万が一まで考えられる内に対策して備えた方が良い。悔いなく、とはかくあるべきだ」
「はい、ありがとうございます」
僕の存在がスキル忌避に繋がってたら、はっきり言って問題だ。
気にせず冒険者登録してどんどん極めていってほしいくらいなのに。
ムガイとかヤギュウの戦い見たいよね。
「さて、しかし何をもってお礼とすれば良いか……それが問題だな」
「?」
いや既にありがとうもらってるし、昨日美味しい唐揚げ紹介してもらった。
今回は頑張ったのもトアだ。
僕らがお礼をしてもらう筋でもない。
トア自身は既に六夜さんから結構なお祝いの品をもらってる。
「この短期間に巴さんとも関係を持つとは……トアの件もあるし……うーんライドウ君は底が知れんな」
「ちょおお!?」
既視感。
人はそれをデジャブと言います。
いやいやしかも今回一人は誤解だ、完全な。
おいおいもしもし!
視線が痛い……からの流石はツィーゲの冒険者だ、早くも僕らのテーブルが囲まれている。
「声量の大きい暗殺者ってどうかと思います……」
「なに、明日も赤飯を持ってくるから」
「結構で、ってずるい、もう消えてる!」
そうだった、この人にはこれがあった。
僕にも感知できないハイディングスキルー!
ああ、くそ。
また昨日と同じもげろコールがどこからか始まってしまった。
汗と熱気が凄まじい。
何という不快。手は出さないけど徐々に近づいてきて身体で圧するとかいう微妙で奇妙な嫌がらせもキツイ。
はは澪も巴もツィーゲに馴染んでいる、どんな形か知らんけど慕われている証明だと思えばこんな仕打ち、余裕でがま、が……ま……耐えられるかー!!
胸板! 肩! 腹ー!!
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です