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冬木立の月
第21話
「これはなんですか? スヴァンテ公子」
「そちらは馬です。のちにゲームで使います」
「これは?」
「そちらは戦車、こちらが城ですね。こちらものちほど、ゲームで使いますよ」
「これはルーレットだな。しかし、こんなに小さく精巧なものが玩具として、しかも付属品として入っているだなんて……」
エステン令息は目の付け所が細かいな。市井の暮らしを知っている素振りが見える。
「サイコロは珊瑚、天板は大理石を敷き詰め、彩色を施した上へクリスタルの薄い板を被せてあります」
目を輝かせて覗き込む姿はやっぱお子ちゃまよねって感じだ。バルタザールを除いては。それでもやはり、バルタザールも興味はあるらしく、徐々に体が前のめりになっている。
「おお、細部まで美しいな。さすがスヴェンだ。さ、ルールをせつめいしてやってくれ」
「ルールは簡単です。サイコロを振り、その数だけマス目を進みます。止まったマスに書いてある指示に従いながら、ゴールを目指すというシンプルなゲームです。皆様、ぜひ勇者一行の軌跡をお楽しみください」
「スヴェンはやらんのか」
「コマが六つしかありませんので、ラルクに譲ろうと思います」
「うむ。ではお前がみなにルールをせつめいしながら見ていてくれると助かる」
「そのつもりでございます」
一応、ルールを記した紙も封入されているが、ジークフリードは読まないだろう。
「たのんだぞ。ではみな、サイコロをふって出た数字が大きいものからじゅんばんにすすめることにする」
この世界にジャンケンはない。いつか広めようと思っている。だから公平に何かの順番を決める時はくじとかになる。よってサイコロの出目で決めた順番は、ロマーヌス、ローデリヒ、ジークフリード、バルタザール、ティモ、ラルクとなった。
さっそくロマーヌスがサイコロを転がす。暖炉の中で薪が爆ぜる音がした。
「ルーレットは必ずしも毎回回すわけではないのですね……。ボクはサイコロが二だったので二マス進んで……ダンジョンでゴブリンと遭遇! ルーレットを回して偶数が出たら勝ち……?」
「偶数とは、二で割り切れる数のことです、ロマーヌス様。例えば二、四、六などですね。逆に一、三、五は二で割り切れない奇数となります」
「なるほど。これは勉強になりますね、スヴァンテ公子」
「早くルーレットを回してくれ、ロン」
待ちきれない様子でローデリヒが急かす。ロマーヌスが回したルーレットを、全員が息を飲んで見守る。
「……三だ! 奇数だから負け、一マス戻る……うわぁ、一マス戻ったら一回休み……」
がっくりと肩を落としたロマーヌスの背中を叩いて、ローデリヒが豪快に笑う。
「あはは、残念だったな、ロン。次はオレだ……四が出たから……森でエルフから馬をもらう……」
「では、こちらの馬のコマをどうぞ。『一回休み』の指示をパスすることができます」
説明をしつつ、馬のコマをローデリヒへ渡した。今日はもう、ホスト役に徹することに決めている。
「やった! 面白いな、これ」
「うむ。次はオレだな。六だ! なになに……どうめいこくの王からしえんきんを六百ヴァイツたまわる……。スヴェン、きんかを六枚くれ」
お、数字も習い始めたのか、それともサボるのをやめたからか。ジークフリードへ金貨を六枚渡したが、どうしても生暖かい目で見てしまう。自分の思い通りにならないとあんなに大暴れしてた子がルールを理解しているよ。ゲームを作ったこと、無駄じゃなかったね。一番年上のバルタザールは以前のジークフリードのダメさ加減を知っているらしく、驚いた表情で見ている。
「次はバルタザールだぞ」
ジークフリードに急かされて、ようよう、という様子でバルタザールがサイコロを転がす。
「え、ええ……。三が出ました。えっと、リザード族のヒーラーが仲間になった。毒を回避できる……」
ぼくはリザード族のヒーラーが描かれているカードをバルタザールへ渡した。これもぼくが描いたものだ。販売するものには、画家が描いたものが付く。
「ジーク様の献上品の絵は全部、ぼくが描いたものなんですよ」
「……よく、出来ている」
カードをまじまじと見つめながら、バルタザールが呟いた。
「お褒めに預かり光栄です。ちなみに勇者を仲間にするとダンジョンに入って一回休みになることを回避できますし、魔法使いを仲間にすると橋のかかっていない川や燃え盛る山を渡ることができて迂回せずに済みます。他にもありますから、都度説明いたしますね」
ちなみに我らが麗しの偉大なる魔法使い様の絵は、ルクレーシャスさんから何度もダメ出しを食らった。他の誰でもない本人監修なのだから、かなりいい出来になっている、はず。こんなに切実に己が創作を嗜むタイプのヲタクで良かった、と思ったことはない。まぁ、モデルもいいからね。ルクレーシャスさん美人さんだし。
「じゃあ次はおれだね……いち……」
「あはははは、しょっぱなから一回休みかよティモ!」
「うわぁん、ひどいよリヒのいじわる」
ローデリヒはどうやら、ムードメーカー的な存在らしい。やんちゃな兄貴分といったところか。
「じゃあ、つぎはオレが」
ラルクは慣れた手つきでサイコロを転がす。七だ。ぼくが説明せずとも、七つマスを進めて、ぼくを振り返る。文字はまだ習っている途中だから、読めないんだよね。
「炎の山を越える。魔法使いがいなければ、迂回しなければならないから次はこっちへ進んでね」
「わかっ……りました」
遊びに気が回っているせいか、敬語が怪しくなって来てるぞラルク。大丈夫か。もうちょっとだ、がんばれ。
「君の侍従は数字は分かるのだな」
バルタザールがぼそりと呟く。独り言ということにしてもいいが、ぼくはきちんとその問いに答えた。
「元々このゲームは、ぼくがラルクに数字を教えるために作ったものです。それと、ラルクはぼくの乳兄弟で侍従ではありません」
ラルクは侍従ではない。そう伝えた瞬間、バルタザールは驚いた顔をした。そりゃそうだ。金のない名前ばかりの公爵家であるフリュクレフ家が、貴族の令嬢を侍女や乳母に雇えるわけがない。つまりベッテもヴィノさんも下級貴族ですらない平民である。だから勉強を教えるとしたら、ぼくが教えるしかないのだ。
「……そう、か。マスの指示も、君が考えたのか」
いつの間にか、バルタザールはぼくの隣に座っていた。なんだよう。さっきあからさまに喧嘩売ってたのに。
「そうですね。マスの指示を考えたのも、この献上品に限って、指示を書いたのもぼくです」
「これは君の字か」
「ええ。力がなくてちょっと情けない文字しか書けないのですが」
「そんなことはない。細いが……綺麗な字だ」
「お褒めいただくと気恥しいですね」
ゲームが白熱して来たのか、みんなラグの上へ寝そべったり胡坐をかいたりして、少し打ち解けて来たようだ。主にローデリヒとラルクが大きく声を上げて笑ったり、大げさに悔しがったりして回りを和ませているようだ。ラルクがマスを進めると、誰ともなくマスの指示を読み上げている。いずれも後継者教育を受けている令息たちだ、ルールを理解するのも早い。ぼくがつきっきりになる必要もなくなって来た。そのせいか、バルタザールは何かとぼくに話しかけて来る。
「川や火の山を渡るのに、魔法使いが仲間になっていないと迂回しないといけないのはおもしろい」
「困難な旅ほど、ゴールが楽しみになるものでございましょう?」
「そうだな。みな夢中になっている。常にルーレットを回すのではないところもいい。私はまだ、ルーレットを回せていないが」
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