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第6話 あぁ素晴らしき恩恵よ
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「太陽!」
その言葉は呼び寄せた、幸福と絶望を。
昂輝の背後、頭上一m。強い光に隠れて現れたのは、顔の描かれた太陽が二つ。彼の頭より二回りほど大きいまるで絵に描かれたような、リアルさを持たないそれらは僅かに熱を持っている。
「壮大だなぁ、それになんかやばそうだぜ…っ。」
よく見れば表情の違う二つの疑似太陽。一つは悲しみの顔、もう一つは強い笑顔。瞬が元から持っている野生の勘とも言うべき感覚が、笑顔の太陽の持つ危険を察知していた。
「待ってたらやられそうだなぁ!行くぜ!」
ひしひしと伝わる、全身の毛が逆立つ寒気。昂輝の太陽が出てから少し温度が上がったというのに、震えが止まらない。
瞬は言いようのない恐れを置いていくように、地面に跡を残すほどの全力で踏み込む。
「灼熱よ。」
呼応する、それは全てを無に帰す光。音さえ消すような激しい光線が瞬を襲った。
「っっぶねぇ!!!」
焼け焦げる地面を見れば分かる、一瞬でも判断が遅れていれば御陀仏だった。いや反射だったかもしれない。咄嗟の跳躍で免れたのだ。
「はぁはぁ…」
心臓が痛むほどに拍動している、これほどの恐怖を感じるのは久しい。涼しい顔の優男を見ると微笑んだ。
「んにゃろう…っ」
悔しいが動けない、しかしそれでは恰好の的だ。
「やめるかい?」
昂輝の言葉に震えが止まる。ありがてぇ、それに知っているだろう、そんな事言われたら燃えるしかない。
「今から殴る、防御しとけよ!」
ドンッ短い音と衝撃、眼前に迫った拳に顔を覆う。メキッと鳴ったのを遅れて感じた。すでに浮いていた身体が後ろの壁に衝突するのに時間はいらなかった。
「ぐぅ…っ」
両腕が折れている、鈍い痛みに悶絶する。
「悪いな、軽く殴ったが多分折っちまったぜ。」
そのとおりだ、しかし今ので軽くだというのか。
「俺の能力は名前通り、力。まぁなんか長ったらしく書いてあったけど、要するに強大な力を行使できる、てところか。」
瞬自身能力の詳しいところを未だ理解していない。
実際は瞬の身体に宿った凶暴で強大な力を無理矢理に従わせるというものであり、それは無意識が持つ最大を常時扱えるというとても強力な能力だ。
「なるほど、じゃあ俺の能力も教えておこうかな。」
瞬の手伝いで立ち上がる。痛みを我慢して掲げた両手を淡い光が包み込んだ。
「笑顔の方は非情の太陽、全てを焼き尽くす灼熱を放つ。悲しんでいるのは慈悲の太陽。全てに活力を与える癒しの光を放つ…て感じかな。」
そうこう説明している僅かな時間に完治してしまった両腕を振り回す。一級品を超えるほどの攻撃に、骨折を即座に直してしまうほどの回復能力。
「…味方で良かったぜ、本当に。」
対決は終わる、グータッチを交わし皆が観戦する場へと戻る二人。
先ほどからの怒涛の衝撃に開いた口が塞がらないリーナを横目に通り過ぎた。
「で、どーするよ。」
というのは、楓、忠成、さくら、優の四名が持つ能力についてだ。対決を始める前の相談で自分の能力が戦闘向けでない事を打ち明けたのだ。
「でも忠成は何とかなるんじゃない?」
「場所が悪いね、音が反響して大変なことになりそうだ。」
あれだけ興奮していたと言うのに、この男の持つ独特なペースには狂わされてしまう。楓がいう言葉に即座に反対する。忠成が持つ審判の能力は至ってシンプルなものであった。
審判のラッパの行使。それは光と音を奏でる凶器のラッパだ。奏でられた光は複雑に屈折し敵を切り裂き、音は物理的な破壊力を得て襲い掛かる。吹き方によって形を変える目に見えない攻撃、闘技場のように密閉された場所で使う危険性は無視出来ない。
「じゃあ私と天で最後だね。」
不適な笑みが向く、何を考えているのか分からないがそれが良くないことであるのは感じ取れる。
「退屈してたところだ…手加減するなよ。」
「あぁ、信じてるよ天。」
花蓮の言葉に込められた意味を理解できたのは天だけだった。二人の背に不気味な雰囲気が漂っていた。
「大丈夫かな、そらくんも花蓮ちゃんも…二人ともいい加減だし。」
さくらの言葉に深く深く頷いた一同。思えばあの二人には振り回されてきた。思い出すだけで気が滅入るようなことも数々、皆頭に思い浮かべて苦笑いを浮かべていた。
「準備OKだよ、天。君とは一度本気でやりたかったんだ。」
剥き出しにした闘志が天の身体を刺す。本気も本気、余裕のない顔をするのは珍しい。
「殺す気で来いよ花蓮。俺は死なないからな。」
指で誘う仕草、挑発だと分かっている。だからあえて乗ってやろう。
右手を高く掲げ、大きく息を吸う。決意をためた開戦の一言。
「行くよ、世界!」
空を握り潰す、それは世界の力。
大気が凍り付いた。
「う、そ…っ」
誰の吐いた言葉か、小さすぎて分からなかった。目も耳も離せない、感じようと凝らすのは天の姿だけ。
透明で巨大な氷の塊、避け逃げる事を許さないような恐ろしい範囲攻撃は確かな冷気を保って存在している。
「私の勝ちだね…」
「勝ち負けの問題じゃあないでしょう!早く、早く天を助けないと…っ」
立ち尽くし呆然と浸る花蓮に紗菜が檄を飛ばす。反応出来たのは彼女だけ、他の皆は目の前の現実に頭と心が追いつかない。
天が死んだ。
「天を殺してしまった…」
哀しみはあるが、そこに罪悪感は無かった。そして後悔も。
状況を理解し始めた者の顔に徐々に感情が戻る。感じた事のない程の怒りか、哀しみか。だがそれが激情となって発することは無かった。
霧が立ち込めた、形のない真っ黒な霧。
「今日は、やけに冷えるなぁ…花蓮。」
聞き慣れた声、聞き惚れた声。呼ばれた彼女は振り返る。壁に背を持たれ両手で黒い杖を突く。
「どうした、まるで殺したはずの人間に出会ったような顔をして。」
その通りだ、だからこそ畏怖してる。
「しばらくぶりだね、さっきから嫌な寒気が止まらないんだ。はは…っ、どういうことなんだ、何故なぜなぜ…」
心を鎮めようと言葉を発する、自問自答も気は漫ろ。ゆったりと近づいてくる彼は先ほどの霧のように実態がつかめない。
「今度こそ君に勝つんだ…っ世界!」
力を込めて発した言葉に能力が答える。
グシャリッと天の身体が酷く歪む、徐々に徐々に足が腕が胴体が小さくなっていく。人体の圧縮。
「へぇぞっとするなぁ…」
真横、今目の前で潰れていた彼が五体満足で覗き込んでいる。思わず距離を取るが彼は追ってくる気配もない。ダメだ、勝てる妄想すら出来ない。
攻撃をされたわけでも無いのに侵食する恐怖に打ち勝てない。
「せ…世界、」
震える手を握ろうと、しかしそれは叶わなかった。
「チェックだ。」
背中に当てられた杖がまるで喉に突き付けられたナイフのようで、命の主導権はこの手にないことを物語る。
「…降参だ、私の負け。」
戦いに終わりを告げたのは花蓮だった。やけにあっさりと負けを認めた彼女に、追い詰めた天も驚いている。チェックメイトと言わなかったのは、まだ反撃の余力を感じていたから。そしてそれは間違いでは無かった。
「突然だな、諦めるお前じゃあないだろう。」
下げた杖が霧散する。それと同時に彼女が膝を着いた。
「君に勝てないことが分かったから…かな。私の能力、世界は完璧な能力だと思っていたが、君だけには通用しないみたいだ。」
そう、世界は完全だった。日に三度だけ、世界的力を行使する。それはまさに約束された成功であった。大気を一瞬にして凍らせ、人体を圧縮する、人知を遥かに超える力。それは全ての生物を屈服させるもの、ただ一人天を覗いては。
愚者、それは危険でさえ無知な愚か者。無意識なエネルギーを内包する、道化と王。それは矛盾に生きる自由な者。
この能力が持つのは無貌《むぼう》の力。何者でも無く、何者にもなれる、自由の行使。
「いつでも挑んで来いよ、負ける気はさらさら無いけどな。」
慰めではないその言葉が胸に刺さる。天に駆け寄る皆を背に、花蓮は静かに涙を落とした。
その言葉は呼び寄せた、幸福と絶望を。
昂輝の背後、頭上一m。強い光に隠れて現れたのは、顔の描かれた太陽が二つ。彼の頭より二回りほど大きいまるで絵に描かれたような、リアルさを持たないそれらは僅かに熱を持っている。
「壮大だなぁ、それになんかやばそうだぜ…っ。」
よく見れば表情の違う二つの疑似太陽。一つは悲しみの顔、もう一つは強い笑顔。瞬が元から持っている野生の勘とも言うべき感覚が、笑顔の太陽の持つ危険を察知していた。
「待ってたらやられそうだなぁ!行くぜ!」
ひしひしと伝わる、全身の毛が逆立つ寒気。昂輝の太陽が出てから少し温度が上がったというのに、震えが止まらない。
瞬は言いようのない恐れを置いていくように、地面に跡を残すほどの全力で踏み込む。
「灼熱よ。」
呼応する、それは全てを無に帰す光。音さえ消すような激しい光線が瞬を襲った。
「っっぶねぇ!!!」
焼け焦げる地面を見れば分かる、一瞬でも判断が遅れていれば御陀仏だった。いや反射だったかもしれない。咄嗟の跳躍で免れたのだ。
「はぁはぁ…」
心臓が痛むほどに拍動している、これほどの恐怖を感じるのは久しい。涼しい顔の優男を見ると微笑んだ。
「んにゃろう…っ」
悔しいが動けない、しかしそれでは恰好の的だ。
「やめるかい?」
昂輝の言葉に震えが止まる。ありがてぇ、それに知っているだろう、そんな事言われたら燃えるしかない。
「今から殴る、防御しとけよ!」
ドンッ短い音と衝撃、眼前に迫った拳に顔を覆う。メキッと鳴ったのを遅れて感じた。すでに浮いていた身体が後ろの壁に衝突するのに時間はいらなかった。
「ぐぅ…っ」
両腕が折れている、鈍い痛みに悶絶する。
「悪いな、軽く殴ったが多分折っちまったぜ。」
そのとおりだ、しかし今ので軽くだというのか。
「俺の能力は名前通り、力。まぁなんか長ったらしく書いてあったけど、要するに強大な力を行使できる、てところか。」
瞬自身能力の詳しいところを未だ理解していない。
実際は瞬の身体に宿った凶暴で強大な力を無理矢理に従わせるというものであり、それは無意識が持つ最大を常時扱えるというとても強力な能力だ。
「なるほど、じゃあ俺の能力も教えておこうかな。」
瞬の手伝いで立ち上がる。痛みを我慢して掲げた両手を淡い光が包み込んだ。
「笑顔の方は非情の太陽、全てを焼き尽くす灼熱を放つ。悲しんでいるのは慈悲の太陽。全てに活力を与える癒しの光を放つ…て感じかな。」
そうこう説明している僅かな時間に完治してしまった両腕を振り回す。一級品を超えるほどの攻撃に、骨折を即座に直してしまうほどの回復能力。
「…味方で良かったぜ、本当に。」
対決は終わる、グータッチを交わし皆が観戦する場へと戻る二人。
先ほどからの怒涛の衝撃に開いた口が塞がらないリーナを横目に通り過ぎた。
「で、どーするよ。」
というのは、楓、忠成、さくら、優の四名が持つ能力についてだ。対決を始める前の相談で自分の能力が戦闘向けでない事を打ち明けたのだ。
「でも忠成は何とかなるんじゃない?」
「場所が悪いね、音が反響して大変なことになりそうだ。」
あれだけ興奮していたと言うのに、この男の持つ独特なペースには狂わされてしまう。楓がいう言葉に即座に反対する。忠成が持つ審判の能力は至ってシンプルなものであった。
審判のラッパの行使。それは光と音を奏でる凶器のラッパだ。奏でられた光は複雑に屈折し敵を切り裂き、音は物理的な破壊力を得て襲い掛かる。吹き方によって形を変える目に見えない攻撃、闘技場のように密閉された場所で使う危険性は無視出来ない。
「じゃあ私と天で最後だね。」
不適な笑みが向く、何を考えているのか分からないがそれが良くないことであるのは感じ取れる。
「退屈してたところだ…手加減するなよ。」
「あぁ、信じてるよ天。」
花蓮の言葉に込められた意味を理解できたのは天だけだった。二人の背に不気味な雰囲気が漂っていた。
「大丈夫かな、そらくんも花蓮ちゃんも…二人ともいい加減だし。」
さくらの言葉に深く深く頷いた一同。思えばあの二人には振り回されてきた。思い出すだけで気が滅入るようなことも数々、皆頭に思い浮かべて苦笑いを浮かべていた。
「準備OKだよ、天。君とは一度本気でやりたかったんだ。」
剥き出しにした闘志が天の身体を刺す。本気も本気、余裕のない顔をするのは珍しい。
「殺す気で来いよ花蓮。俺は死なないからな。」
指で誘う仕草、挑発だと分かっている。だからあえて乗ってやろう。
右手を高く掲げ、大きく息を吸う。決意をためた開戦の一言。
「行くよ、世界!」
空を握り潰す、それは世界の力。
大気が凍り付いた。
「う、そ…っ」
誰の吐いた言葉か、小さすぎて分からなかった。目も耳も離せない、感じようと凝らすのは天の姿だけ。
透明で巨大な氷の塊、避け逃げる事を許さないような恐ろしい範囲攻撃は確かな冷気を保って存在している。
「私の勝ちだね…」
「勝ち負けの問題じゃあないでしょう!早く、早く天を助けないと…っ」
立ち尽くし呆然と浸る花蓮に紗菜が檄を飛ばす。反応出来たのは彼女だけ、他の皆は目の前の現実に頭と心が追いつかない。
天が死んだ。
「天を殺してしまった…」
哀しみはあるが、そこに罪悪感は無かった。そして後悔も。
状況を理解し始めた者の顔に徐々に感情が戻る。感じた事のない程の怒りか、哀しみか。だがそれが激情となって発することは無かった。
霧が立ち込めた、形のない真っ黒な霧。
「今日は、やけに冷えるなぁ…花蓮。」
聞き慣れた声、聞き惚れた声。呼ばれた彼女は振り返る。壁に背を持たれ両手で黒い杖を突く。
「どうした、まるで殺したはずの人間に出会ったような顔をして。」
その通りだ、だからこそ畏怖してる。
「しばらくぶりだね、さっきから嫌な寒気が止まらないんだ。はは…っ、どういうことなんだ、何故なぜなぜ…」
心を鎮めようと言葉を発する、自問自答も気は漫ろ。ゆったりと近づいてくる彼は先ほどの霧のように実態がつかめない。
「今度こそ君に勝つんだ…っ世界!」
力を込めて発した言葉に能力が答える。
グシャリッと天の身体が酷く歪む、徐々に徐々に足が腕が胴体が小さくなっていく。人体の圧縮。
「へぇぞっとするなぁ…」
真横、今目の前で潰れていた彼が五体満足で覗き込んでいる。思わず距離を取るが彼は追ってくる気配もない。ダメだ、勝てる妄想すら出来ない。
攻撃をされたわけでも無いのに侵食する恐怖に打ち勝てない。
「せ…世界、」
震える手を握ろうと、しかしそれは叶わなかった。
「チェックだ。」
背中に当てられた杖がまるで喉に突き付けられたナイフのようで、命の主導権はこの手にないことを物語る。
「…降参だ、私の負け。」
戦いに終わりを告げたのは花蓮だった。やけにあっさりと負けを認めた彼女に、追い詰めた天も驚いている。チェックメイトと言わなかったのは、まだ反撃の余力を感じていたから。そしてそれは間違いでは無かった。
「突然だな、諦めるお前じゃあないだろう。」
下げた杖が霧散する。それと同時に彼女が膝を着いた。
「君に勝てないことが分かったから…かな。私の能力、世界は完璧な能力だと思っていたが、君だけには通用しないみたいだ。」
そう、世界は完全だった。日に三度だけ、世界的力を行使する。それはまさに約束された成功であった。大気を一瞬にして凍らせ、人体を圧縮する、人知を遥かに超える力。それは全ての生物を屈服させるもの、ただ一人天を覗いては。
愚者、それは危険でさえ無知な愚か者。無意識なエネルギーを内包する、道化と王。それは矛盾に生きる自由な者。
この能力が持つのは無貌《むぼう》の力。何者でも無く、何者にもなれる、自由の行使。
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慰めではないその言葉が胸に刺さる。天に駆け寄る皆を背に、花蓮は静かに涙を落とした。
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