穏やかに生きたい悪役令息なのに、過保護な義兄たちが構いすぎてくる~イヴは悪役に向いてない~

鯖猫ちかこ

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「事案じゃんか……!」
「じあん?」
「未成年!」
「十八から成人になったよ、知らない?」
「高校生はアウトだよお!」

 ぎゅううと自分の胸元のシャツをまた握り締め、こんなの見せちゃってごめんね!とアンリが言う。
 今のアンリはイヴと同じ十八歳なのに、普段は甘えたり我儘言ったり自由にしてるのに、たまに見せる歳上感はなんなんだろう。
 おれと違って、ここに来る前は社会人だったみたいだから、その時の気持ちに引き摺られてるのかな。
 アンリは元は幾つかだったのかは訊けなかった、幾つと言われてもリアクションに困りそうで。

「あっ、あんなエロゲしたらだめですよ!高校生が!もう!最近の子はませちゃって!すけべ!」
「だからおれの時はもうそんなゲームじゃなかったんですって」
「学生時代に邪魔しまくったぼくいい仕事してたのでは……?いやでも卒業してもまだ十八……かわいい、十八歳初心でかわいい……」
「アンリ……」
「やばいね十八!?」
「落ち着いて」

 冷静になったアンリが、またはっとしたように口元を押さえながら、もしかして、と呟く。
 この間、最後までした……?とおそるおそる、といったように。
 そうしろと能力まで使ったのはそっちじゃないか。
 呆れ半分で頷くと、高校生に!いや卒業したか、いやでもぎりアウト……セーフ、いやいやいや、おとながやっていいことでは、とひとりで忙しい。

「そうしないとだめって言ったのアンリでしょ……」
「そうですけど!まさか十八だとは!かわいいとは思ってたけど!ていうかしたんだ、その言い方!どーしよ!」
「そんな言うけどさ、ジャンさまだって同い歳なんだから十八だよ」
「……ぼく淫行と唆した罪で捕まるのでは?」
「アンリも十八なんだから大丈夫でしょ、合意なら」
「アンリとして何回もやり直してるから麻痺しちゃってて……十八……どおりであんなに大きくてしっかりしてるのにかわいい筈だよ十八、ぼくこんなかわいい子たちと学園生活送ってたの……すご……前世じゃなくてやっぱりこれBLゲームだよ……」

 ゲームではないと言ったのはアンリなのに。
 十八歳だって十分おとなじゃないか。
 高校卒業間近、卒業したらひとり暮らし、就職。
 仕事して、ひとりで生活していく予定だった。
 少しでもお金を貯めて、いつでも愛莉を助けられるようにしたかった。
 困ってたらうちにおいでって言いたかった。しあわせに暮らしてくれてたらそれがいちばんだけれど、愛莉が笑えない生活をしてるなら、おれが助けてあげられたらって思ってた。

 まだ実際に働いた訳ではない。
 竜騎士団でもおれは正団員という訳ではないし、行くも行かないのも自由、なんならバイトより楽な扱いかもしれない。
 アルベールも父さまも忙しそうで、レオンだっておれには暇そうに見えるけど、仕事はちゃんとこなしてると言う。皆しっかり働いてるんだ、イヴよりずっと、ちゃんと。
 働いていたアンリの中のひとからすると、やっぱりまだこどもなのかな。見た目も、考え方も。甘いのかな。
 おれにはまだ誰も助けることは出来ないのかな……

「あ」
「えっなに、訴える?」 
「もうそれいいんで」

 アンリがどれだけ騒いだところでアンリもジャンも同じ十八歳なんだから訴えられる訳がない。
 イヴとジャンは学園を出たら結婚する予定だったんだ、前世だとか元の世界だとかを知ってるのはふたりだけなのだから、十八歳の性行為は捕まるようなものではないということ。
 まあ王子との婚前交渉が許されてるのかまではわからないけど、BLゲームの元になるような世界なのだからそこら辺は緩いのだろう。閨について手ほどきや仕込んだりする貴族の話だってよくあるものだし。
 訊きたいのはそんなことじゃなくて。

「あの、おれが今ここにいることで、元の世界は何か変わったりするのかな……例えばその、おれがここで大金持ちになったら元の世界でもお金持ちになったり、とか」
「いや、ならないでしょ」
「ぅえっ」

 あっさりと否定されて変な声を出してしまった。
 だって実際に変わったじゃないか、アンリの元の世界では過激なゲームだったものが、アンリがこっちの世界でイヴとジャンを助ける為に試行錯誤したことで、健全な……内容はちょっとおかしいけれど、それでも全年齢対象のBLゲームに変わった。

「それは特殊だと思いますよ、未来を変えたというより……ううん、なんて言えば伝わるかなあ」

 例えば、とアンリは考えるように唇を弄りながら話してくれた。

「例えば、イヴさまが今この状態から、そうですね、幼少期に戻ったとしましょうか。その頃からレオンさまとは仲良くしてたのでしょう?」
「えっと、うん……」
「でもイヴさまは本当はジャンさまの方がすきで婚約破棄をしたくないと、」
「いやそんなことは」
「例えですよ、例え」

 何もそんな自分が傷付きそうな例えをしなくてもいいじゃないか。
 そんなおれの心配を他所に、アンリは淡々と進めていく。
 少しくらい、アンリだって自分の未来を考えてもいいんじゃないだろうか。
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