穏やかに生きたい悪役令息なのに、過保護な義兄たちが構いすぎてくる~イヴは悪役に向いてない~

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
27 / 107
8

114

しおりを挟む
 誰だってまずは自分のことが先になる。
 心配、こわい、どうしよう、そんなことばかり。
 目の前で真っ青なかおでぶつぶつ呟いているアンリは、ここに来て少しずつ整理出来たおれと違い、急に昨日色々と知ってしまい、混乱している十八歳だ。

 元々アンリは平民の出だ。
 平民では中々出ない能力持ちで、学園に入学することになり、そこで色々なひとと出会っていく……というのはゲームのストーリーだけれど、まあ間違ってはいない。
 少なくともおれの知ってるゲームのアンリはおとなしい少年で、擦れてないところも貴族には魅力的だったのだと思う。
 素直で、真っ直ぐで、優しい少年。朗らかで、牧歌的で。
 最近のアンリはおれに素を見せてくれていたからか、思い出すと確かに初々しさとか、足りないものがいっぱいあるな、と思った。
 いや、今は目の前にいるアンリだ。

 彼は先程、処刑されてもおかしくない、と言った。
 確かにアンリとイヴでは家柄から何から違い過ぎる。おまけに相手は王太子ときた。
 王太子が惚れてるのだから問題ないと思える程楽観的な子ではないようだ。
 ……処刑なんてゲームでは話も出なかった気がするけど。

「あの」
「ひゃい!」

 声を掛けると、ひっくり返りそうなアンリがまだ蒼褪めたまま返事をした。
 見た目も声も同じなものだから、なんだか調子が狂うなあ……

「……処刑とか、その、ないんで。そんなにがちがちにならないでいいよ」
「で、でも……」
「ひとつ確認しておきたいんだけど」
「はい……」
「アンリはジャンさまのこと、すき?」
「へ……」

 そんなに想像していないような問いだっただろうか。
 アンリは大きな瞳をぱちぱちさせ、それから考えるように視線を逸らし、ええと、とかおを伏せた。
 その質問に彼を責める意図はない。だってやっぱりおれはジャンが苦手だし、アルベールとレオンがいる。

 おれの知るアンリは、ジャンのことをかわいいと言っていた。
 それは弟のようにかわいげがあるとか、そういうものよりもっと深いものだと思う。
 でも今のアンリは?
 気がついたら王太子と婚約していて、式の日取りも決まっていて、もう逃げられないと思ったんじゃないだろうか。
 自分は婚約した時のアンリじゃないなんて言えやしないだろう。
 もしアンリにジャンへの恋心がなかったら?寧ろ苦手だったら?地獄じゃないだろうか。おまけに元の婚約者からの略奪愛ときた。

「もし……その、今のアンリが違うって言うなら」
「……あの、」
「あ、言いにくいよね?大丈夫、すきでもきらいでもおれはどっちでも!あの、本当に処刑とかないし……」
「……ええと、その……あの、……す、すきです……!」
「えっ」

 一瞬自分が告白されたのかと思った。
 馬鹿。そんな訳はない。
 ええとええと、とまだ視線を泳がせながら、その、実際に自分が経験したものではないのですが、と頬を紅くした。

「全部、その、自分じゃなくて、自分の中にいたもうひとりのアンリに向けてだとわかってるんです。でも、記憶の中のジャンさまはぼくに笑ってくれて、優しくしてくれて、その……いいんでしょうか、ぼくがジャンさまをすきだと言っても」

 一気に流れ込んできた情報で、圧倒的に多いのはジャンとのことなのだろう。
 色々なひととのパターンを試したという前のアンリがすきになった相手だ、さぞおれには想像も出来ない程色々とあったことだろう。
 そこでふと思い出して、アンリの胸元をぐいと引いた。
 何をするんですか、と慌てる彼の声を無視して、硬い釦をふたつみっつ外し、胸元を確認する。
 そこにはもう大分薄くなった痕が残っていた。

 その痕を確認されたとわかったアンリは焦ったようにまた釦を閉じると、能力は使ってませんから、と言い訳のように呟くから笑ってしまう。
 おれには使ったのに、ジャンには使ってないだなんて。
 あんなにひとを煽っておいて。
 いいと思う、褒められた能力じゃないもの、相手を発情させるだなんて。
 すきなひとに、能力を使わずに愛されたいと思うなんて、純粋でかわいらしいじゃないかと思う。あのアンリが。

「いやじゃなかった?」
「……その、まだ……記憶しかないです、けど……いやだとか、は、思わなかった、です……」
「じゃあ良かった」
「よかっ……?」
「もし婚約に困ってたらどうしようかと思って」

 でも、とまだ納得いかない様子のアンリに、覚えてるでしょう、と遮る。
 前のアンリとの会話も全て覚えているのならわかる筈だ、アルベールとレオンのことを。
 身を引かれたって困る。
 アンリがいやじゃないのなら、ジャンとしあわせになってくれた方がありがたい。

「困って……というか……その、余りにも身分が、」
「認められたから婚約発表されたんでしょう」
「そう……なの、でしょうか……」
「そうだよ、でもアンリがいやなら婚約破棄、手伝ってあげようか」
「……え」

 紅くなっていた頬がまた色を失った。
 あ、今の、意地悪に聞こえたかな。そんなつもりはなかったんだけど。
 でもそうか、やり返したみたいだ。アンリにはそのつもりなかったし、前のアンリだっておれを助ける為にあんな人前で婚約破棄をさせたと言っていたけれど、結果恥をかかされたことにかわりはない。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。