穏やかに生きたい悪役令息なのに、過保護な義兄たちが構いすぎてくる~イヴは悪役に向いてない~

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
61 / 107
9

148

しおりを挟む


 ◇◇◇

「えっ、まじでイヴじゃん、すご、変わんないねえ、かわい……あっこれ今の時代犯罪になる?」

 病院内ではお静かに、と看護師に注意をされ、あ、すみませーん、と明るく染めた頭を下げた男がおれに紙袋と小さな紙を渡した。
 恐らくお見舞いのお菓子と、小さな紙は生まれて初めて貰った名刺だ。

きょう、さん……」
「はあい」

 名刺を読み上げたおれにふわふわとした声で返事をすると、がた、と椅子を引っ張り出してベッドの近くに座る。
 ちょっと頭が混乱した。


 先日、SNSを検索して見つけたのが杏さんだった。
 慌てて勢いのまま記載のアドレスにメールを送ったところ、すぐに返信が来た。
 イヴ?本当に?今どこ?病院?大丈夫?会いに行っていい?
 とんとん拍子というか、あっさりと、拍子抜けといってもいいくらい簡単にことが進んでしまい、今に至る。
 平日の午前中、フリーだから時間の自由がきくんだよね、と学生の愛莉や仕事中の伯母が来れない時間を狙って来てくれた。
 ふたりの前で前世なんて話してたら頭の心配をされてしまうだろうから。

 アンリ……杏さんはにこにことした表情がアンリの面影のある、……でもおれよりも歳上だとわかる男性だった。あの無邪気な幼さはない。
 よく考えたらそうだ、ゲームを作っていた時点である程度の年齢で、更に発売されてから数年経っているのだから、十八のアンリではないのだ。
 変わんないねえ、と驚いたように言ったのは、おれがイヴそのものの容姿だったからだろう。

「そっかあ、そう……そうくるかあ」
「……?」
「同じ世界ではあったけど、時間がずれてたんだな、通りで連絡遅かった筈だあ」
「……杏さんは帰ってきたばかりではない、ということですか」
「そう」

 瞳を細めて、おかえり、と言う。
 会ってまだ五分も経ってない。それなのになんだかもう、既に懐かしい。

 杏さんが話すには、戻ってきたのは今から五、六年くらい前だという。
 死んだと思ってたんだけどさー、生きてたみたい!とけらけら笑う。
 同じ体験の真っ最中のおれとしては笑えないけど。
 焦って知ってることを全部口にしようとするおれに、まずは順番通り話しようか、と微笑んだ。
 不本意にも時間はたくさんある。頷くと、伊吹くんは良い子だ、とまたアンリとの差で混乱してしまう程落ち着いた笑顔で頭を撫でた。
 アンリもそうだったけど、もっと明確にこども扱いだ。
 でも今はそれが心地好い。あんなにおとなになりたかった筈なのに、いざとなると未来がこわい。

 買ってきたペットボトルのお茶をぺこぺこと潰しながら、戻ってきた時に確認したのはゲームの内容だと杏さんが言う。同じことをしたおれも黙って頷いた。
 杏さんは初期の十八禁のゲーム内容しか知らない。その後の全年齢になったゲーム内容はおれから聞いただけ。
 でもそれとも内容が違うんじゃないかと気付いたらしい。

「多分なんだけどさ、ほら、前世を元にしてるからゲーム内容は変わったんじゃないかって話をしたじゃん」
「はい」
「それがまた僕と伊吹くんのせいというかお陰というか、また変わったんだろうね」
「はい……」
「多分ね、これはどうしても思い出せないから憶測なんだけど。前までの、ただ発散したいような、作りたいだけだったものとは違って、人気を出そうと思ったんじゃないかな」

 その言葉に、確かに前より内容はまともになっていたし、良い意味では万人受けする内容で纏まっていた、と思った。
 いや、前が歪だっただけなんだけど。
 続編も考えてたと思うんだよね、ぽしゃったみたいだけど、と苦笑した。

「んー……話しちゃってもいいかな」
「……?何を?」
「アンリはさあ、誰がシナリオを書いたかわからないって話をしたでしょ」
「はい、名前も……知らないひとでした、当然だけど」
「本人と話はしてないんだけど、ジャンだよ、ジャンさま」

 多分ね、とペットボトルを傾けた杏さんに、誰であっても驚いたけど、それでもやっぱりびっくりした。
 瞳を丸くしたおれに、やっぱりそんな反応するよねえ、と笑う。
 ジャンがシナリオライターになってるのもびっくりだけど、おれが驚いてるのはもうひとつ、アンリが本人と話してないということ。
 少し胸がちりっとした。
 おれが伯母さんに、多分母さまではないかと思っても本人が気付いてないのだろうからと言い出せないように、杏さんもジャンだろうと思いながら、思い出さない相手に数年言い出せずにいるんだろうか。

「そんなに驚く?ジャンさま結構粘着質のコミュニケーション下手だったじゃん、拗らせてあんな話作ったのかー、って僕納得しちゃったよ」
「……」
「それがさ、あんな普通の、ほのぼのしたストーリーに変わってるんだもん、きっとあの後は円満だったんだろうなって思ったよ」

 精神面が落ち着いたみたい、とおれ自身も思っていたことを口にする。
 良かったよね、なんてなんだか他人事のような口振りに、ジャンともう関わりはないのかと訊いてしまった。
 会社も潰れている訳だし、杏さんはフリーだと言っていた。
 でもそれはあまりにさみしい。
 だってアンリはおれよりずっと、何回も何十回も時間と命を掛けてイヴとジャンを救ってきたのだもの。
 それが報われてほしいと思うのは、どこかで自分のことも甘く考えているからだろうか。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。