穏やかに生きたい悪役令息なのに、過保護な義兄たちが構いすぎてくる~イヴは悪役に向いてない~

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
98 / 107
伊吹は

17*

しおりを挟む
 無理矢理躰を捻って有都さんを見つめる。
 意図を汲み取った有都さんは、口元を緩ませて、すぐに唇を重ねてくれた。
 息が苦しくなるとわかっていても、でもやっぱりこの甘ったるさを感じるくらいのキスが嬉しい。

 とはいえ優しい優しい有都さんはそんなおれの我儘も理解していて、唇と、たまに舌先が触れるくらいのキスを何度も、唇が離れてはまたくっつけて、視線が絡むとまた触れて、と繰り返してくれる。
 口の中がいっぱいになるキスも嬉しいけど、この柔らかな繰り返すキスもすき。
 たくさんしてもらえるの、嬉しい。いっぱいすきだと伝えられているみたいで。

「ん、ン……ぅ、は……」
「大丈夫?苦しくない?痛くない?この体勢、辛くない?」
「……だいじょ、ぶ」

 息を荒くしながらも心配してくれる有都さんに、本当は息苦しいとか、この体勢は確かに辛いだとか言えない。
 だってキスを強請ったのも自分だし、玲於さんからも有都さんからもいちばん近いところにいたいだなんて欲張りなことを考えてるのも自分。
 少しくらいは我慢も必要、っていうか、そうしなきゃ無理だとわかってる。

「ふ……ぁ、ゆ、とさんは?だいじょぶ?きもちい?……おれ、ちゃんと出来てる……?」

 本人が言う通り、そんなに動いてない。おれの躰を心配して、おれのことを考えて、おれのことを気持ちよくさせようとしてくれてるだけ。
 おれの躰はそんな有都さんを締め付けてるだけ。

「……うん、ちゃんと気持ちいいよ、伊吹はわかんないかな、ナカ、きゅうきゅうしてるの」
「へ」
「少しね、ほら、腰を引くと」
「ン……っ」
「離れないで、っていうみたいに、ぎゅってするし」
「っア、ゔ!」
「ここはもう気持ちがいい場所なのわかってるから押すと全身で締め付けてくるし」
「あっ、あ、ん、う……ぅ、ん……」
「奥の方は吸い付いてくるみたい」

 そうでしょ、と実演のように進んでいく有都さんに、しがみつくのに必死だった。
 急にそんな、気持ちいいことたくさんされたら。さっきからずっと、イくの我慢してるのに。

「ね、気持ちいいよ、僕はちゃんと。伊吹は?」
「んえ……」
「気持ちいい?」
「え」
「伊吹は、気持ちいい?」
「……き、きもちい、」
「そうだよね、わかりやすいもん、伊吹」

 だから一緒にイこうね、なんて笑う有都さんに胸がぎゅっとなってしまった。
 ここで王子さまのようなきらきらした笑顔は狡い。優しい動きと相性が良い。
 有都さんはこの安心させるような笑顔がいちばんすき。

「かわいい伊吹だけでも十分なんだけど」
「……?」
「この体勢、本当はきついでしょ、前向いてていいよ」
「でも、み、見えない」

 有都さんの気持ちのいいかおが見たかった。それは確かに達成されたけど。
 でも本当にもう限界なんだ、さっきは笑われてしまったけど、爆発しそう。
 自身を握り締める手が震えて、もう締め付けてるのか自慰になってるのかわかんないくらい。気持ちいい。
 一緒にイくなら、有都さんのこと、ちゃんと見てたいのに。

「今なら視覚だけでイけそう……」
「ん、む、……んァ」
「伊吹、その手離していいぞ」
「や、ぁ、はなし、たら……イっちゃ、」
「有都ももう限界だって」

 ぎゅう、と玲於さんの硬い胸元に圧迫された。
 大きな手がおれの手を取る。その手を見て、ふ、と笑った。

「随分我慢出来たな、べとべとだ」
「……みないで」
「本当だ、いっぱい我慢してくれたんだね、お願いが聞ける伊吹はすごいねえ」
「ン……!」

 有都さんが息を呑む。多分それはおれがまた締め付けてしまったから。
 褒められたり、好意を口にされると嬉しくなる。だってそんなの、そんなにないことだったから。
 ふたりに甘やかされると悦んでしまう。もうそれは仕方のないことで、そんな癖、わかってくれてるのに、それでも何度も褒めるんだから。

「ほら、伊吹、腕はこっち」
「あ、う、動けないぃ……」
「有都を気持ちよくさせる為にもう少し頑張ろうな」
「ん、ん……どおやっ、て……ッあ!」

 ぐ、と腕を持ち上げられて、その両腕を玲於さんの肩に乗せられた。
 膝立ちにされた衝撃で鼻にかかった声が漏れる。ナカに挿入った有都さんが擦れる。
 限界なのはおれだってさっきからずっとそう。

「鼻で息をするんだぞ」
「え……ンっ」

 すぐ瞳の前に玲於さんの整ったかおがあった。
 ふたりのいちばん近くにいたいと思ったけど、これは近過ぎる。
 限界のおれはもう表情を取り繕ったりなんか出来なくて、みっともないかおをしてる自覚がある。多分、汗も涙も鼻水だって。
 待って、こんなに近いならかお、一回拭いてほしい。有都さんなら拭ってくれるのに。
 そう考えて少し逸らした頬を寄せられて、強引に唇が重なった。
 どん、と軽く叩いても離れない。
 おれ、もうだめなんだってば。限界なの。気持ちいいの。もうイきそうなの。
 ただでさえ苦しいのに。

 鼻で息をしろっていうのはそういうことだとわかってるけど、下手くそなの、知ってるじゃんか。
 キスが下手くそなのもかわいいって言ってたじゃん。苦しいの、息出来ないのって。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。