ヤンデレな彼女達

ネム男

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指切りげんまん

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 ピピピッ ピピピッ!

 携帯のアラームが部屋に鳴り響く。俺は寝ぼけながらアラームを止めて、再び布団に潜った。

 「起きろー!!」

 部屋のドアが勢い良く開かれ、元気な女性の声がする。

 「んん……あと5ふん……」

 「ほいっ!」

 掛け布団を無理やり取られ、12月中旬の凍えるような寒い気温が身体を襲う。

 「うあっ!さむっ!」

 「へへっ。おはよう、健人」

 俺の名前は、柏原 健人。ごく普通の高校2年生。これといって目立つ所がなく、ごく一般的な男子生徒だ。

 「ふわぁ……おはよう、幸希」

 「おう♪」

 彼女は赤坂 幸希。金髪に染めたクセ毛のある長い髪を後ろでひとつにまとめており、一人称が「オレ」だったり、男勝りな所があるちょっと変わっている俺の幼馴染だ。

 「朝飯できてるから、はやく降りてこいよ~」

 そう言って彼女はリビングへと向かった。俺はせっせと制服に着替えて、朝の支度を済ませた。

 「冷めないうちに食べろよ」

 リビングのテーブルには既に朝食が並べてあり、どれも美味しそうだ。

 「いつもすまないな」

 「いいってことよ。お前の為ならば苦じゃないぜ」

 「そう言ってくれると嬉しいよ」

 「えへへ♪」

 椅子に座り、「いただきます」と何時もの言葉を言って箸をとる。できたての卵焼きを口に入れた。

 「うん。今日も美味しいよ」

 「そっか……!えへへ♪」

 幸希はニコニコと笑顔で喜んでいた。男勝りなところはあるけど、可愛いところもちゃんとある。やっぱり女の子だなと思う瞬間であった。
 すると俺は幸希の人差し指に絆創膏が貼ってあったことに気がつく。

 「幸希。その指どうしたの?」

 俺は気になって、その指のことについて問いかける。

 「ん?あ、あぁ。ちょっと包丁でやっちゃってな、まだ慣れてない証拠だなー……」

 「そっか」

 幸希が本格的に料理を始めたのは2年前くらいからだ。その頃は料理もまともにできなかったのに今ではだいたいの料理は作れるようになっている。ここまで上達するには相当練習したのであろう。今度何かお返ししないとなと思いつつ、俺は朝食を取り続けた。




(健人の料理に自分の血を入れるために切ったなんて言えないぜ……ふふっ♪)



 ------

 a.m.8:45

 朝の学校。俺のクラスはある噂でまた盛り上がっている。

 「ねぇねぇ聞いた?またあったんだって」

 「またかよ~。あれだろ?爆竹トラップ事件」

 《爆竹トラップ事件》。2週間前くらいから歩行者や学生が通る通学路に爆竹が仕掛けられている。爆竹の威力は通常の3倍の威力であり爆竹自体の色も仕掛ける道路の色に合わせられているため、なかなか目で捉えることが難しく、突然爆発して怪我を負わせるという無駄に手の込んだイタズラだ。

 「またかよ……早く犯人捕まんねぇかな~」

 「しかも被害はここの地区だけだからなぁ~。気をつけないとな」

 「大丈夫だ!健人はオレがちゃんと守ってやるからよ!」

 幸希はキリッとした顔で断言する。

 「流石に厳しいだろ」

 と俺は笑いながら受け流す。

 「あー!本気にしてないなぁ~?」

 「さぁ?どうだろうねぇ~」

 被害者はこの地区にある3つの高校の生徒だ。大人や高齢者、小学生、中学生達が被害を受けたということは聞いていない。高校生だけがターゲットみたいだ。
 何が目的でこんなことをしているのかは全く理解できず、警察も厳重に警戒しているのかこの地区でよく見るようになっている。
 俺達高校生は次は自分がやられるんじゃないかという不安と恐怖を感じながら生活しているのだ。

 「はい皆席につけー。ホームルーム始めるぞー」

 担任の先生が教室へと入ってくる。生徒達はせっせと自分の席へと座った。

 「今回もまたうちの生徒1人が例の事件の被害にあった。犯人はまだ捕まっていないため、十分に注意して登校してくれ。では今日の連絡事項だが---」

 やはり皆の噂通り、また被害が出たらしい。ここまでやられると流石にしばらく休校とか考えた方がいいんじゃないのか?その後は特に何もなく授業が行われた。

 p.m.16:18

 学校の授業が終わり、俺達はのんびりと帰宅中だ。
 途中で幸希がトイレに行きたいと言い始め、今は近くの公園で幸希を待っているところだ。俺は喉が渇いてきたので、ジュースを買おうと外にある自動販売機へ行こうと公園から出る。

 「がっ……!」

 すると数歩進んだだけで、大きな音と爆発されたような感覚がした。足下に激しい痛みを感じ、その場に倒れてしまう。

(なんでこんなところにっ……!)

 地面から火薬の匂いがする。どうやら例の事件の被害にあったみたいだ。

 「あひゃひゃひゃ!ほんとにひっかかりやがったよ!」

 「この改良版すげぇな。いつもより少なめに仕掛けたはずなのにこの威力かよ」

 後ろから男達の声がする。深緑色の学ランを着た3人組の男。染めた髪型やピアスをしている格好からして他校生のヤンキーみたいだ。

 「お前ら……」

 「いやぁ。改良版の実験台ありがとうね。いい感じに威力が出てることがわかってよかったよ」

 血がダラダラ出ているその足でなんとか立とうとする。

 「ほれ」

 「ぎっ……!」

 しかし1人の男に怪我している部分を攻撃され、また体制を崩してしまう。

 「あ、ごめ~ん!足が滑っちゃった!ぎゃははははは!」

(こいつら……)

 さらに1人の男が俺の髪をワシ掴みして持ち上げる。

 「この事は、誰にも言うんじゃねぇぞ?もし俺らのことを喋ったら……どうなるかわかってんだろうな?」

 そしてこの事を誰にも喋らないよう脅迫される。

 「ついでに今持ってる金よこせよ?そうしたらもうお前には手を出さないからよ。ほら早く」

 誰が渡すもんかアホ。
 俺はこの状況をどうにかしようと思考を巡らせていると……


 「……おい」

 「あ?……ほげぇっ!!」

 突然、後ろから殺意の篭った声がして男が殴り飛ばされる。


 「オレの健人に何してんだおまえら?」


 幸希だった。物凄く怒っている。殺意がタダ漏れだ。

 「な、なんだてめぇ!」

 「ふざけんなよ!」

 他の男達が二人がかりで襲ってくる。だが幸希は恐れることなく1人の拳を手で受け止め、もう1人の拳を掠めるように避ける。受け止めた拳を力強くメリメリと握りしめる。

 「いだだだだ!ちょ、やめ、おれ--

 バキッ

 「ぎいあああああ!!」

 遂には握りつぶして、男の掌の骨を砕いた。

 「や、野郎……」

 攻撃をかわされた男はもう一回殴りかかってくるが、幸希は男の腹に鋭い蹴りを打ち込む。

 「が……は……」

 男は腹を抱えて跪いた。1人は折れた骨の痛みで動けないでいる。

 「………」

 そして幸希は最初に殴り飛ばした男の元へと歩いていく。

 「てめぇ……一体何もんだ……」

 「黙れ」

 幸希は倒れている男の顔を踏み付ける。

 「ぐっ……」

 「てめぇ、よくもオレの大事な健人に手ぇ出してくれたな?こんなことしてただで済むと思ってんのかよおい」

 グリグリと足を男の顔に擦りつける。

 「く、そ……」

 「……ふん」

 幸希は踏み付けていた右足を男から離すと、今度は左足で男の顔面を蹴り上げた。男の巨体がふわっと浮き上がり、ドシャッと落下した。

 「さて……後片付けもしないとな……」

 幸希は跪いている2人の男に狙いを変える。

 「ひっ……ゆ、許してくれ!悪かった!頼むから……」

 「ほんとにごめんなさい!あ、そうだ!金払うから!ほら!5000円!」

 2人は幸希に許してもらおうと必死になっている。その姿はとても憐れなものだった。

 「……許すわけねぇだろ、死ね」

 「ひっ……」


「「ぎゃあああああああああ!!」」

 …………

 その後、3人組の男は幸希にコテンパンにされ、全員気絶していた。

 「ふぅ……」

 幸希は昔から喧嘩が強かった。運動神経は元から凄く高い方であったが、格闘技の分野は最も得意としている。しかも元ヤンキーの番長だ。それなりに喧嘩はやってきているし、俺も実際さっき幸希の戦いを初めて目の当たりにして、唖然としていた。

 「大丈夫か健人!?うわ、すげえ血が出てんじゃん!?」

 そして幸希は何時もの雰囲気で俺の心配をしてきた。

 「……あ、あぁ。大丈夫だよ」

 痛みに耐えつつなんとか立ち上がる。

 「そっか……なら早く帰って手当しないとな!ほら、早く帰ろうぜ!健人!」

 そして幸希はニカッとした何時もの明るい笑顔で手を差し伸べる。
 彼女の顔に少しの返り血がついていた。


 「いてて……」

 あの後俺達は家に帰って、幸希に傷の手当をしてもらっている。幸い深い傷ではないみたいで激しい運動を控えればすぐ治りそうだった。

 「はい、おわったぜ」

 「おう、ありがとな」

 俺の両足には包帯が綺麗に巻かれていた。

 「あいつらも今頃サツに世話になってるころだし、これで一件落着だな!」

 まぁ、幸希のおかげで《爆竹トラップ事件》に終止符が打たれたのだ。これで安心して生活していける。

 「………」

 「ん?どうした健人?」

 「あ……あぁ。いや、なんでもない。ありがとな」

 「変な健人だな。じゃあオレは飯作ってくるぜ~」

 そう言って幸希はキッチンへと向かった。

 俺の頭にはまだあの光景がきっちり残っている。
 幸希は昔から喧嘩が強かった。小学生の頃によくやんちゃな男子達とよく喧嘩していてたのを覚えている。中学生の頃はよくヤンキー達に絡まれては喧嘩して、怪我をした状態でよく家に帰ってきていた。高校生になってからは改心して真面目な生活を送っている。

 しかし、さっきの公園での出来事で幸希の怒った顔は初めて見た。あんなに殺気を出している幸希を俺は見たことない。先程の喧嘩も一歩間違えればあの3人組は死んでいたかもしれない。


 それほどまでにあの時の幸希は、様子がおかしかった。


 ------



 「幸希……またこんな怪我して……」


 「……うるせぇ。お前に関係ないだろ」


 「いいからはやくこっちこい。今手当してやるから」


 「うぜぇなぁ!オレのことはもうほっとけっていつも言ってるだろ!」


 「そんな大怪我してるやつをまえにほっとけるかよ!つべこべ言わずに座って--


 「うるせぇ!」


 ドカッ!


 「ぐはっ……!」


 「ちっ……くそが」


 「……いてて、相変わらず……お前の蹴りは痛いなぁ……ははは」


 「………」


 「いてて……ほら、さっきの蹴りでまた足に余計な負担がかかったろ。ったく、いいからおとなしくしてろ……」


 「……なぁ、なんでお前は、オレに構ってくるんだ?オレと一緒にいるとお前まで悪くなっちまうぜ?お前の親にさんざん言われてただろ?」


 「……知っていたのか」


 「ハッ、そういうことだ。……頼むからもうオレに二度と近づかないでくれ」


 「……悪いけど、その頼みは聞けないな」


 「はぁ?」


 「だって、お前はもう家族だろ?だいたい大事な家族の1人が怪我しているのにほっとく方がおかしいだろ」


 「だって、お前……」


 「確かに、俺の母さんは幸希のことを良く思ってないし、お前のことになるといつも嫌そうにしていたよ」


 「………」


 「だけど、俺は1度も嫌とは思ったことない。幸希は俺の大事な幼なじみで、大事な家族だ。今頃構うな言われてもそりゃ無理な話だな」


 「…………」


 「ほら、いいからはやく座って。怪我の手当するから……」


 「……オレ、ヤンキーだぞ……?」


 「だからなんだよ。今更だな」


 「……オレと一緒にいると……皆から嫌われるぞ……?」


 「もう嫌われてるんじゃないかな?俺地味だし?あははは」


 「……オレ、女の子っぽくないし……なんにもできないぞ……?」


 「今から学んでいけばいいさ。まだ中学生だろ?」


 「……グスッ……かまってくれないと……おこるぞ……?」


 「おう。嫌っていうほど構ってやる」


 「……うっ……グスッ……」


 「……お前は、1人じゃない。約束する、俺がそばにいる。ずっと一緒だ」


 「……うっ……うぁぁぁぁぁ……!」


 ……………


 …………


 ………


 「……ん」

 夢を見た。それは懐かしいもので、思い出すと少し恥ずかしくなる。
 今日は土曜日で学校はなく、いつもより遅く起きた。

(そういえば……)

 オレはカレンダーの方にふと目を移す。
 そう、今日は12月24日。世間ではクリスマスイブでオレの誕生日でもある。

(健人、誕生日覚えてくれているかな……)

 オレは布団から出て、いつも通りに健人を起こしに行く。休日だからと言って起こさないわけじゃないんだぜ。

 「おきろ健人ー!」

 健人の部屋をドアを開ける。すると珍しくその部屋に健人の姿はなかった。なんということだ。あいつは誰か起こさないと昼まで寝ている奴だ。今は午前8時30分。休日の日にこんなに早く起きているなんて初めてのことだ。

 リビングに向かったが、健人の姿は見当たらなかった。代わりにテーブルに朝食と、1枚の紙が置いてあった。

 《買い物や色々と用事があるので外に出てます。悪いけど昼飯は適当にとってくれ。》

 紙には健人の字でそう書かれてあった。

(なんだよあいつ……今日オレの誕生日だってのになにやってんだよ……)

 流石に今日は何も予定はないし、あいつがいないんじゃあ色々と暇だ。買い物って言ってもどうせ何時も行っているショッピングモールであろう。あいつをおどかしに行ってやろうと朝食を済ませ、色々と支度して家を出た。

 いつも通っている近くのショッピングモールに到着する。店内に入って所々店を探してみるが健人の姿は見つからない。

(あっ、いた!)

 あれから1時間後。アクセサリー屋で健人の姿を確認する。



(……えっ……?)


 しかし、健人の隣にはオレの知らない女がいた。お互いに笑顔でとても楽しそうにしていた。


(…………嫌………)

 オレは頭が真っ白になって、その場から走り去った。


 「ん?」

(あれって……幸希か?)

 「どうしたの?健人君?」

 「ん、あぁいや。なんでもないよ。はやくあいつらと合流しよう」

 「そうだね!いこっ!」

 「あぁ」

(気のせいか……)


 数時間後---
 柏原家

 「………」

 ……なんで……

 ……なんで、なんで……

 ……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……!!

 「……くそがっ!!」

 玄関の壁を思いっきり殴る。

 「なんでだよぉ……健人……」

 健人が他の女性と一緒にいた。

 オレ以外の女とデートしていた。

 なんでだよ健人

 今日はオレの誕生日だろ?

 なんでそんな大事な日にほかの女と歩いてんだよ


 ずっと一緒にいてくれるんじゃなかったのか?

 なぁ……

 健人……

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 あはっ…

 あははっ

 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!


 嘘だよな!優しい健人がオレを裏切るなんて絶対しない!


 そうだ、あの女に何かされてんだな!


 大丈夫だぞ……健人……


 オレが必ず守ってやるからな……♪

 ------

 p.m.18:05

 「じゃあね健人君♪今日は楽しかったよ」

 「あぁ、俺も。また集まって遊ぼうな」

 「おう!そうだな」

 「はやく帰って彼女にプレゼント渡せよ。きっと帰りが遅いって怒ってるぞ~」

 「あはははっ、そうだな、じゃあな!」

 俺は今日、男友達1人と女友達2人で幸希のプレゼント選びに付き合ってもらっていたのだ。
 買ったプレゼントは幸希に似合いそうなネックレスと幸希の好物であるいちごのショートケーキ。さらにクリスマスイブということでターキーや、色んなごちそうを買ってきた。
 早く帰って幸希と一緒に楽しむんだ……!そう思いながら走っていると……

 「よぉ、お前か。俺らのダチが世話になったなぁ」

 ぞろぞろと俺の前にいかにも悪そうな奴らの集団が集まってきた。

 「……えっと、なんですか?」

 「おら、つべこべ言わずついてこいコラ」

 逃げるしかない。俺は集団から背を向けて逃げようと試みる。

 「おっと、逃がさねぇぜ」

 しかし奴らの仲間であろう者達が退路をふさぐ。

 「くそっ……」

 ここは既に街から離れた住宅街だ。あたりは暗くなっており、歩行者の姿は見えない。……あ、これ詰んだわ……

 それからは公園に連れていかれ、10人の集団に完膚なきまでにボコボコにやられた。

 「おら!」

 「がっ……」

 5人が俺を叩きのめし、もう半分は俺が買った食料を食い漁っている。

 「ほぅ……なかなかいいセンスじゃないか」

 集団の長である奴が箱の中に入っていたネックレスを手に取る。

 「やめ……ろ……それだけ……は……」

 傷だらけの体を必死に動かそうとする。しかし背中を足で押さえつけられてしまった。

 「へぇ……そんなに大事なものなのか、これ」

 幸希にプレゼントする物なんだ。大事に決まっている。だが俺は最悪の展開を予想していた。

 「そうか……じゃあ、ほれ」

 男は持っていたネックレスを思いっきり引きちぎり、バラバラになったネックレスだった物を俺に投げつけた。

 「似合ってるぜ。今のお前に最高のアクセサリーじゃねぇか。ひゃはははははは!」

 「……てめぇ……!!」

 「あ?」

 長である男から顔面に蹴りを入れられる。

 「が……」

 「なんだよその目は、腹立つな」

 「うる……せぇ……!」

 男は俺を持ち上げ、さらに殴る。倒れた俺に馬乗りになって、さらに顔面を拳で殴り続けた。

 「おぉお!」

 「いいぜ兄貴!もっとやれぇ!」

 「………」

 だんだんと意識が遠くなって行くなかで、最後に見たものは慌しく公園の入り口にたどり着いたある1人の金髪の女性だった。


 「-------!」


 その女性が何かを言っていたのかは聞き取れず、俺は意識を手放した。



 ------



 「……ん」

 目が覚めると、そこは暗い部屋の中であった。体を動かそうとすると、ガチャッと金属音がした。

 「なっ……これは……!」

 暗くてよく見えないが、手首に何かがかけられているのは確かだ。感覚からして恐らく手錠であろう。

(俺、あいつらに捕まったんかなぁ……俺特に何もしてなくね?なんで一方的にやられなくちゃいけねぇんだよくそ……)

 そんなことを考えていると、急に電気がついて周りが明るくなる。

 「おっ、目が覚めたんだな、健人」

 「……こう……き?」

 幸希がこの部屋に入ってきた。だが、幸希の服や顔に赤い汚れが所々ついている。

 「おまえ……それ……」

 「あぁ。あいつらオレ達に仕返してやりたかったんだってさ。ほんとに懲りねぇよな。まぁ、健人をこんな姿にしたんだ。あの10人にはこの世から消えてもらったから心配すんな!」

 幸希は笑顔でそう言った。いつも見ているはずのその笑顔は今はとても恐ろしいものに感じた。

 「……幸希、これは……」

 俺は手錠のことを問いかける。

 「ん?あぁ、それがどうかしたのか?」

 「いや、これ外してくれよ」

 「嫌だ」

 「……は?」

 「こうしておけば、もうお前はずっとオレと一緒にいられるんだぜ?」

 「な、何言ってんだよ。いつも一緒じゃないか……」

 「じゃあなんで今日オレの誕生日だっていうのに、ほかの女と一緒に遊んでんだ?」

 「ッ!」

 なんで幸希がそのことを知っているんだ?何処かで見られたのか。

 「それは、お前のプレゼントを選ぶ手伝いをしてもらうために呼んだんだ。俺、女子が好きそうなプレゼントがあんまりわかんないからアドバイスをもらってたんだよ」

 サプライズのつもりでプレゼントを渡すつもりだったが今となってはもう遅いことなのでここで真実を打ち明ける。

 「そうか……そのプレゼントがこのネックレスってわけか」

 幸希はポケットからバラバラになったネックレスを取り出した。

 「お前、持って帰ってきたのか……」


 「当たり前だろ?お前からのプレゼントだったら何でも嬉しいぜ?ただ……」


 「ただ?」


 「これはあの女と一緒に選んだやつだろ?そんなものはいらない」


 そう言って幸希は手に持っていたネックレスを握りつぶして粉々にする。あぁ……それ結構高かったのに……


 「誕生日プレゼントなんて、わざわざ黙って買いに行く必要ないだろ?オレは今日1日お前と2人っきりで過ごせればそれでよかったのに……お前はほかの女と……!!」


 そう言っている幸希の目は光を宿しておらず、黒く濁っていた。


 「もうお前を外に出したりなんかしない。この部屋でずっと2人っきりで暮らすんだ。誰にも邪魔されない、2人だけで……あははははははははははははははははははは!!」


 「幸希……」

 彼女はどこか狂っている。このままだと本気でここに監禁され廃人になりかけない。

 「勝手に黙って行ったのは悪かった!本当に申し訳ないと思う。だから頼む!この手錠外してくれ!」

 「何言ってんだ。外したらまたお前はオレを置いていくだろ?」

 「置いていかない!約束する!今度は2人で出かけよう!もう2度とお前をひとりにしない!」

 俺は必死になって、幸希にお願いした。

 「……わかった」

 彼女は気が進まないような感じだったが承諾してくれたみたいだ。

 「じゃあ……約束してくれ」

 そう言って手錠を外すと、幸希は俺の前に小指を差し出してきた。


 「これからはオレ以外の女と喋らない。オレ以外の女と些細な関係を持たない。そしてこれからはオレとお前は恋人同士になる。これらが約束できるなら、ここから出してもいいぜ」


 「……あぁ、わかった」

 幸希から放たれる殺気と恐怖に勝つことが出来ず、俺は渋々承諾して、幸希の小指に自分の小指をひっかけた。


 「指切りげんまん♪嘘ついたら針千本のーます♪指切った……!!」


 「!!」


 するとバキリと嫌な音がして俺の小指はあらぬ方向に折り曲がっていた。


 「あああああああああああああああ!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 どんな力してんだ幸希は!小指だけで俺の小指の骨を折りやがった……!


 「この折れた小指を見たら、いつでもこの約束を思い出せるよな?なに、小指の1本くらい大したことないさ」

 「……っ……っ……」

 「さて、めでたく恋人同士になったことだし、今日はとことん付き合ってもらうぜ?」

 そう言うと幸希は服を脱ぎ始めた。逃げようにも奴らから受けたダメージが効いていて、抵抗することすらできない。


 「たっぷり愛し合おうぜ……?健人……♪」


 12月24日、クリスマスイブ。この日の夜は今までで1番長かった。




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