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14.管理人、やめます

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「まあつまり、わたくしの先祖がいなければ、この国はほろんでいた、ということになるのですよ」
 そう言って、こちらを見てふふんとわらったアンダーソン。
 立場上、不敬ふけい(王族などに、とても失礼なふるまいをすること)とはいいづらいわたしは愛想笑いをするしかなかったっけ。
 その後も、アンダーソンはいかに自分の家柄がすばらしいかを自慢していた。
 わざと飲み物をこぼし、メイドにふかせて、「仕事が遅い!」とどなってもいた。
 あの男と、結婚?

 お父様との会話を終え、部屋にもどった後、わたしは考えた。
 わたしの人生、これでいいの?
 確かに、わたしは、小さな頃から恵まれて生きてきた。
 洋服や、食べ物に不自由したことは一度もない。
 でも、わたしの意思は、そこになかった。
 まるで着せ替え人形のように着替えさせられ、体形を保つように計算されつくした料理を食べる。
 晩餐会でのダンスだって、「次はあの方と踊りなさい」だとか、「あの方には挨拶をしっかりとしておくように」だとか、細かい指示を出されて、それに従うだけ。
 これで、わたしは生きているって言えるの?
 ……言えない。
 こんなの、死んでるのと変わりないよ。
 この上、アンダーソンとの結婚するってなったら、一生牢獄の中に閉じこめられているのと同じだ!
 そこで、はっとした。
 お母様の詩にあった、籠の鳥。
 燃えるような恋がしたいという叫び。
 そっか……。
 お母様も、お父様と結婚した時、こういう気持ちだったんだ。
 お母様は、「嫌だとひと声鳴いてみせたかった」と言っていた。
 なら、わたしが代わりに……。

 別の人生を歩んでやる!
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