おお、勇者よ!姫ではなく王を欲するとはなんたることだ!

銀紙ちよ子

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「よくやったぁああああああ!!」


 大広間の扉が開いた途端、玉座から駆け出した俺を、娘である王女フローラの驚愕に満ちた声が追う。


「お父さま!?」


 ざわめきの中、俺は入室した一団まで跳ねるように駆けて、気持ちのままに飛びついた。
 日本からこの異世界に転生して三五年。
 小国の王子、フローディアとして生きた俺は、紆余曲折を経て王となり、世界を滅ぼそうとする魔王に抗ってきた。

 魔王による混沌の中、世界には多くの英雄が生まれ、うちのような小国でも勇者が見つかる。
 勇者も他大陸に複数いたため、うちぐらい良かろうと、他国から強く言われないことをいいことに、自国の勇者を何年もかけて育成した。

 つまりあれだ、お使いクエストである。
 ロールプレイングの主人公とは総じて、お使いクエストで成長するものだ。
 前世の知識をもって陰ながら育てた勇者が、とうとう魔王を倒し、帰還した。

 俺の喜びも爆発するってもんだ!
 飛びついた俺をなんなく抱きとめた勇者アレンが、眩しそうに目を細めた。


「……ふふ、歓待ありがとうございます」


 低くて、ちょっと甘い、優しそうな声。
 初めて出会ったときの、まだ少年だった彼が、ぱっと脳裏に浮かんだ。
 たしか、子供だと思ったんだ。

 ロールプレイングゲームの主人公は少年少女ばかりだったけれど、実際に目にすると、彼らは生死をかけた冒険に出るには幼過ぎる。
 どう見ても子供である勇者に魔王討伐の王命を出すことは、俺にとってかなり気が重かった。

 目を伏せると、造作なく俺を抱えるアレンのつむじが視界に入る。
 緩く波打つ、朝焼けに染まる髪が揺れると、穏やかな琥珀の瞳と目が合った。


「あなたの瞳は万華鏡のようですね」


 アレンが言う。
 俺は理解が追いつかずに首を傾げた。


「うん?」

「綺麗だ……」

「こんっの無礼者がぁああ!!」


 後方からの大音声に肩が跳ねて体勢を崩し、慌ててアレンの首にすがりつく。
 尻がアレンの片腕に乗り、縦抱きのような姿勢になってしまった俺の後頭部を、彼の手が通り過ぎた。
 その手が、装身具の内側に滑り、うなじに触れる。


「ひゃぃっ」


 咄嗟に出た情けない声に、顔が熱を持った。
 首にはうなじを噛まれないように保護する、カラーと呼ばれる首輪をつけている。
 常につけているせいか、カラーに覆われた皮膚は敏感だった。


「なんと言うことを……ッ!」

「若さまに触れるでなぁあいぃいい!!」

「これ、落ち着きなされ!」

「まぁまぁまぁ」


 俺のアドバイザーである爺さん婆さん達が、後方で騒いでいる。
 え。どうしよ。
 俺の軽はずみな行動が場を混乱させている!
 気まずくて視線を彷徨わせると、勇者の仲間達に目を逸らされた。


「…………」


 よし、とりあえず玉座に戻ろう。そうしよう。
 顔にかかる髪を耳にかけ、そろりと体を動かすと、アレンがにっこりと笑った。


「魔王を倒した褒賞をいただきに来ました。約束でしたよね?」


 あ。
 騒がしかった大広間が一瞬で静まり返る。
 そうそうそう!ここはそういうシーンだよな!

 魔王を倒して勇者が凱旋したんだから、どんなゲームでも童話でも、ここは王がラスボス化するか、褒美を与えるシーンだ。
 そして俺はラスボスではないので、もちろん褒美を与える。
 お……俺の、愛娘を……!

 俺はばっと振り返り、愛娘であるフローラを見た。
 ダイヤモンドを彷彿とさせる光り輝く髪に、穏やかな蛍石の瞳。
 乳白色の肌は暖かな印象で、花びらの唇は優しそうだ。
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