上 下
31 / 47
コーク商会長アトワ

商人の道のり

しおりを挟む
俺は天才だった。

恵まれた血筋を持って生まれても、生まれなくても、その事実は変わることは無かった。
前世と前前世、どちらも天才と呼んで憚らないのだから、今だって天才であって然るべき。

それに俺には、他の誰にもない前世の記憶というアドバンテージが二つもある。

前世の記憶はともかく、前前世のものなら、相当役に立つはずだ。

そう考えた俺はまず、借金をした。

金を借りたのだ。
先ずしたのは商会の設立。
面倒だがここぞと言う時に厄介事に巻き込まれたくないのでちゃんと金を払い、面倒な書類の作成も行った。
初めは驚かれたが、だんだんと軌道に乗り始める。

開発は金がなければできない。
なら何をするか。

それは、人材の発掘だ。

こう見えて、前前世は上流階級の家の息子だった。
目は肥えているし、舌も肥えている。

画家、音楽家、料理人。
そして使われた紙や食材にまで目を配り、いつの日か大成するであろう彼らの後見人になった。

その作品を商会で売りに出す。

『本物』は『本物』の目に留まる。

だんだんと金が集まれば、その頃には商会の名は囁かれるようになる。

そしてまず俺が手を出したのは、化粧品やダイエット食品などだった。
貴族の女性をターゲットに開発に取り組んだのだ。

デザインも後見人をしている画家たちに一から考えさせた。

そうしてブランドが浸透し始めたら、それらが買えない裕福では無い貴族家を吟味して、年頃の娘のいる家に話を持ちかける。

うちのドレスを着てくれたら、商品を優先しますよ······と。

もちろん彼らは飛びついた。

そうして彼らは高位貴族が嫌う新しいファッションで社交界に出掛け、華々しいデザインを宣伝してくれる。
そしてそのデザインが王族の目に留まったり、はたまた舞台の上の演者やら娼婦やらが好むようになれば、あっという間に流行の最先端という訳だ。

根回しをして、裏をとって、色仕掛けもした。
そうしてその頃には商会の名は、国中に轟いていた。
しおりを挟む

処理中です...