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嫌に現実味のある夢

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「そういやさ、なんで寝てたんだ?」
「・・・ん?」

ネロの唐突な問いに首を傾げる。
寝てた・・・十中八九ウェングリンが来てた間のことだな。
実はラナーシュが向かっているという連絡で初めて起きた。

「確か俺がいるからもう寝るようなことはないって言ってなかったか?」
「・・・あー」

さて、どう返すか。

「・・・急にグラッと?」
「ぐらっと」

意味わかんねぇと眉をしかめるが、それしか言えない。
俺だって久しぶりに眠気が襲ってきたと思ったらてビビったんだよ。

ネロの訝しげな視線を受けながら、俺はソファーに沈み込んでまぶたを閉じた。






夢の始まりは唐突だった。



「・・・どこだ?ここ」

真っ暗な場所。
話に聞くような精神空間ではなく、所々仄暗い明かりがある地下牢のような場所。

その中心で、子供が泣いていた。


一瞬見分けがつかなかった。
なんせその子供の髪が、闇に溶け込むような純黒だったからだ。

少し身動ぎする、発光するような白い肌だけが、それが子供であることの証明だった。

すすり泣いているのか、断続的なか細い声が聞こえる。

変な夢だ。
そう思って、それを眺めていた。

すすり泣きが、声に変わったのはいつだろうか。

「ゆるさない」
「ころしてやる」
「みかえしてやる」
「ゆるさない」
「こうかいさせてやる」
「しんでしまえ」
「ぜんぶぜんぶこわれてしまえ」

淡々とした機械音のような、けれども激しい激情が籠ったそれが、壊れたように赤い唇から零れ落ちていた。

「・・・気持ちわりぃ」

俺は思わず後退り・・・いや、体が動かない。

「・・・は?」

瞬く間に、体が全て動かなくなった。
焦り始める俺の目の前で、子供がゆらりと立った。

長い長い髪に覆われた顔が、ゆったりと上がって。

その奥の瞳と目が合った瞬間感じた衝撃を、なんと言い表すべきだろう。

「おま、えは・・・」

誰だ、と。
そう問おうとした。

それに先がけて、ゆらりと動いた細腕が、その白い指が、俺のことを指す。

「・・・は?」
「・・・おまえから、こわれろ」

それは、悪夢の始まりだった。






「ああ、なんて醜い・・・なり損ない」

初めはその一言だった。

それが妙な感覚を持って、脳内に響いた。
その不思議な余韻が消え失せた頃に、畳み掛けるように、音の濁流が頭に叩きつけられた。

「汚い」
「穢らわしい」
「出来損ない」
「穀潰し」
「役たたず」
「死んでしまえ」
「畜生め」
「死ね」
「こっちを見るな」
「話すな」
「なぜ生きている?」
「なぜ生まれてきた?」
「なぜ存在している?」
「ああ、醜い」
「気持ちが悪い」
「同族とは思えない」
「雑魚のくせに」
「要らない子」
「どうしてお前は私の子なの」

聞き取れたのはそれくらいだったが、それ以上の言葉が、荒れ狂ったように叫ばれた。
脳内を蹂躙され、吐き気がする。
それが、ずっと、ずっと、気が遠くなるほどに続く。

やがてそれら全てが聞き取れないほどの大合唱になった時。

が笑った。
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