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一章 魔導士認定試験編

4話 「3人の見習い魔導士」

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「………」

「………」

「………」

無言の時間が続く。

金髪チャラ男はずっと窓の外を見ており、女の子は自分の髪を弄っている。

そして虎太郎は…

「…だぁーもう! 耐えられねぇ! なんか喋れよお前ら!」

この無言の時間が耐えられずにいた。

「ほら!こう言う時はまずは自己紹介だろ! 俺は赤羽虎太郎!16歳!
はい次!」

「シエル・ブルーラ。 歳は16歳」

シエルは急に指を差され、髪を弄りながら自己紹介をしてくれた。

「シエルだな! はい次!」

「はっ…ばっかじゃねぇの」

「あぁ!?」

シエルと同じように金髪チャラ男を指差したら、鼻で笑われた。

「雑魚どもと馴れ合う気はねぇよ。 友達ごっこなら勝手にやってろ」

「なんだと…!」

「落ち着きなさいよ、虎太郎」

席を立ち上がった虎太郎を、シエルが止める。

「…私が名前教えてもいい?」

「勝手にしろ」

シエルがチャラ男に聞くと、そう返答した。

「彼は、ゴルド・イエロディア。 名門イエロディア家の一人息子で、魔術の天才。
子供の頃から、常に成績、実力共にトップだったの」

「ほー…だからあんなに威張り散らかしてんのか」

「だから、あまり突っかからない方がいいわよ。 面倒くさいし」

「まぁ、分かったよ」

天才だから周りを見下す奴というのは、日本でも珍しくはない。

そういう奴には極力関わらないようにするのが1番なのだ。

「あ、そうだわ! あんたの事噂になってたのよ! 異世界からきた魔導士って!」

「あーそういえばさっきも言ってたな」

シエルは目をキラキラさせながら話す。

「ねーねー! 力を貰ってからすぐに変異体デストを倒したって本当なの?」

「あぁ。 て言っても、あの時は必死だったからな…」

「やっぱり本当なんだぁ…!凄いなぁ…」

「そういうシエルだって、この試験に呼ばれるくらいだから、相当凄いんだろ?」

ゴリスから、この試験は本来魔導士学校で2年学び、16歳以上になって実力が認められた者のみが受けられると聞いた。

そして、試験を受けるのは大体18歳から上が殆どで、16歳になった瞬間に実力が認められる者は少ないらしい。

つまり、ここにいる2人は天才という事だ。

「まぁ、そこに居るゴルドに比べたら全然だけどね」

「…なら、早々に辞退する事をオススメするぜ?」

すると、ずっと黙っていたゴルドが話し出した。

「お前ら2人のせいで、俺の人生プランは狂った。
俺は唯一の16歳で魔導士になった天才少年っていう肩書きでスタートダッシュを決めるつもりだったのによぉ」

ゴルドはゆっくり立ち上がり、虎太郎とシエルを見下す。

「お前らみたいな石ころが俺と同じ土俵に立ってんのが気にくわねぇ。 今すぐ辞退して来年またチャレンジしてくんねぇか」

「おいお前随分と…」

「この超絶美少女シエル様を石ころですって…?」

虎太郎が言い終わる前にシエルが立ち上がり、ゴルドを睨みつける。

「ちょーっと天才だからって、調子乗りすぎじゃないかしら? 」

「ちょっとじゃねぇ。 大天才だ」

「ホホホ。 自信過剰もここまでくると最早ギャグね」

「あ?」

今にも殴り合いに発展しそうな雰囲気のシエルとゴルドに虎太郎が萎縮してる中、急に扉が開き、ゴリスが入ってきた。

「…なんだこの空気は」

ゴリスはただならぬ空気を察し、声をかける。
するとシエルは笑顔になる。

「なんでもないですよぉ~! ただ一緒に試験を受けるもの同士、仲良くしとかなきゃなぁと思って!」

そう言って席に座る。

ゴリスは咳払いをし、話し始める。

「今回の試験官を務めるゴリスだ。 お前達の事は知っている。 相当な実力者である事もな。
検討を祈る」

ゴルドはまた鼻で笑う。

「今回、お前達に受けてもらう試験は、魔獣の森での1週間のサバイバルだ」

「魔獣の森…?」

異世界からきた虎太郎が知らないのも無理はない。
そんな虎太郎に、隣のシエルが小声で教える。

「魔獣っていうのは、簡単に言えば危ない動物よ。 そして、そんな魔獣がいっぱい住んでるのが、魔獣の森」

「めっちゃ危険な場所じゃねぇか」

「そう。危険なのだ。 だからこそ、試験にうってつけだ」

そう言って、ゴリスはとある腕輪を3人の机の上に置く。

「その腕輪を付けろ。 試験を受ける証だ」

皆、言われた通り腕輪をつける。
つけた瞬間、皆が違和感を感じた。

身体が怠いのだ。

「今お前達がつけた腕輪は、魔法が使えなくなる腕輪だ。これに触れたものは魔力を外へ放出出来なくなる」

「はっ…つまり、これをつけた状態で魔獣の森を生き抜けって事か?」

ゴルドが質問すると、ゴリスは頷いた。

「魔導士とはいえ、魔法にばかり頼り過ぎるようじゃ三流だ。
一流の魔導士とは、精神、肉体共に鍛えている事をさす」

(ゴリマッチョのゴリスさんに言われると説得力すげぇなぁ…)

「では早速移動するぞ、ついて来い」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「着いたぞ。 ここが魔獣の森だ」

あれから1時間以上歩き続け、ようやく着いたらしい。

目の前には、高い高い鉄のフェンスが聳え立っている。

「魔獣の森は立ち入り禁止区域、中の魔獣が外に出ないように、こうして森を囲んでいる」

(その中に今から入るのか…)

「この中で、お前達には生き延びてもらう。
食料や水は自分で調達し、寝床も探し、魔獣達と戦闘をしてもよし、逃げてもよしだ。
私は4方向ある入口のどれかで、6日後に狼煙をあげる。
6日目から7日目の夜までに、その入口を通過出来れば合格だ」

「はっ、おもしれぇ。 俺様の実力を示すにはうってつけの試験だな」

「お前ら3人はチームという想定だ。 常に協力して生き延びるように」

「ちっ…」

ゴルドは舌打ちをし、ゴリスは扉を開けた。

3人で中に入ると、なんともいえない不気味な雰囲気があった。

虎太郎とシエルは震え上がるが、ゴルドは笑みを浮かべながら歩き出した。

「お、おいゴルド…!ちょっと待てって…!」

「なんだよ。 ついてくんな足手纏いども」

「いやいや…! 俺達はチームって言われただろ!」

「なら、俺の邪魔をしない事だけを考えてついてこい」

そう言って、ゴルドは歩き始めた。

虎太郎はため息をつく。

(こんなんで1週間生き残れんのかなぁ…)
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