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side フェアルド

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「お気をつけて。フェアルド様」
「見送りありがとう、フィー。でも心配だから君は早く邸に戻って」
「ここはうちの敷地内ですわよ?」
「それでも門からは遠い」
何といっても門から馬車で入って玄関ホールに馬車口をつけるのが当たり前の家なのだ。
「だから皆一緒に来てるではないですかっ!」
フィオナが腰に手を当ててちょっと腹立だしげに言う。
そんな仕草も可愛くしか見えなくて、フェアルドは苦笑してフィオナの銀色の頭を撫でる。

本人の言う通り、フィオナの後ろには二人のメイドに青年の侍従が一人、女性の護衛騎士が付いている。
メイドと侍従はナスタチアム侯爵家の使用人だが、護衛騎士はフェアルド自らが選定してこちらに派遣している。
侯爵家にも護衛はいるが、フィオナ専用ではないと聞いてフェアルドが手配したのだ。
「わかっているよ。ただ私が安心したいだけなんだ__わかっておくれ私の宝物」
そう言ってフィオナの頭の天辺にキスを落とすと、フェアルドは馬車に乗り込んだ。



「お帰りなさいませ我が君、今日の姫君は如何でしたか?」
王城の私室でフェアルドを迎えた側近のディオンがいつものように尋ねる。
茶色い髪と瞳の騎士服を着た青年は色味こそ派手ではないが、整った顔立ちをしている。
「いつも通り愛らしかったよ。……ますます目が離せないな」
先程のフィオナの様子を思い出し、意図せず顔に笑みが浮かぶ。
そんないつも通りの主の様子に、
「先日フェアルド様が出されたラナンキュラス公爵家に女性騎士団を立ち上げる法案が可決されましたよ」
「それはよかった」
現在フィオナのところには女性騎士二人が交代で日参している。
今のフィオナはたまにお茶会に行くぐらいなので護衛騎士が付くのは日中のみで問題はないが、デビューして夜会に出るようになったら夜も護衛が必要になる。
女性の貴人の護衛として女性騎士は貴重だ。
王城の抱える騎士団でもその数は二十に満たない。
それをフェアルドは王城の騎士から二人フィオナの護衛に引っ張ってきただけでなく、
「女性だけの騎士団が必要だな」
と女性騎士団の必要性と有用性を説いてそれを立案・可決させてしまったのだ。

ただフィオナの近くに男性の騎士を置きたくない一心で。

「ナスタチアム侯爵令嬢も十二歳ですか、早いものですね」
そう、正式な婚約からはや五年。
先日、フィオナは十二歳の誕生日を迎えた。
現在も輝かんばかりに美しいが、デビューまでにはさらに美しくなっていくだろう。
結婚は「十六になってすぐ」とフェアルドは希望しているが、愛する娘を手放したくない侯爵は「せめて十七、八になるまでは」と必死に抵抗(?)し、ここ一年ほどは不毛なやり取りが続いている。

「義姉上の様子はどうだ?」
「……お変わりないようです」
「__そうか」
フィオナとフェアルドの仲は順風満帆だが、ここに来てひとつ懸念事項が出来た。
兄夫婦に子供が生まれないのだ。
現皇帝には正妃一人しかおらず、側妃や愛妾も置いていない。
皇帝が皇妃を愛しぬいているからであるが、もう一つの理由としてフェアルドの兄にあたる皇帝は体があまり丈夫でない。
皇妃は健康な女性だったが、数年前に流産している。
その影響もあるのか、最近夫婦仲は悪くないにも関わらずなかなか懐妊の兆しがない。

フェアルドはどう見積もってもフィオナが成人するまでに二~三人は生まれるはずだと思っていた。
それが、フィオナの成人二年前の現在、一人も生まれていない。
皇妃や皇帝が避妊薬を盛られているわけではない。
そこはフェアルドがきっちりと目を光らせ、兄夫婦の生活を守ってきたつもりだ。
兄夫婦に子供が生まれないと、フェアルドは継承権放棄が叶わない。
「皇位継承権を放棄してからでないと結婚しない」と言われているわけではないが、皇位継承権一位のままではフィーは嫌がるだろう。
「いっそ、媚薬でも盛るか?」
兄皇帝は賢帝ではあるのだが、とにかく草食である。
しかも政務の間にちょいちょい息抜きをするということが出来ないタイプでもある。
だからこそフェアルドが色々補っているのだが。
兄皇帝はフェアルドより六歳年上の二十九歳、皇妃はそのひとつ下の二十八。
充分子供を望める年齢だが、やはり結婚して十年以上子宝に恵まれていないのは痛い。
側妃を勧めても、「原因はおそらく自分だ」と首を横に振るばかり。
今現在後宮は機能していないが、遠からず開かれる日が来るだろう。
「後宮の方も準備しておくか。義姉上には悪いが」
この際、生みの親は誰でも構わない。
兄皇帝の子供でさえあれば___。
「ナスタチアム侯爵令嬢は嫌がられるのでは?」
少々黒い方向を向く思考の海に沈みかけていたところへ、ディオンから声がかかる。
「だからだ。後宮があろうとなかろうと、俺が早く継承権を放棄すればいいだけの話だ。皇城に住むのでなければ後宮の有無など関係ない。それに、」

___フィオナが「後宮はイヤ」という理由は、よくわかっているのだから。






















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