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後宮生活 5 決壊 *ここより先、閲覧注意
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「ごめん、フィー。また、後で」
そう平坦な声で告げて、フェアルドは踵を返し、部屋を出て行った。
「?」
フィオナは急にどうしたのだろうと首を傾げるが、帰ってくれたのならまあいいと自身もいつも通り寝室に引っ込もうとしたところで「姫さま……」と暗く淀んだ声に引き止められた。
「何か用?マイア」
「侯爵……いえ、旦那様や奥様からのお手紙を開けていらっしゃらないのは、本当ですか?」
いつも手紙を手渡していたのはマイアだ。
フィオナは嫌な顔ひとつせず受け取っていたので、当然読んでいるものと思っていたし、一縷の望みをかけてもいた。
ナスタチアムの両親から言われれば、フィオナは自分たちへの怒りを解いてくれるかもしれないと。
それが……「本当よ。受け取ったら読まなきゃいけないなんてルールはないでしょう?」粉々に砕け散った。
そして、事態は当人たちの思いなど無視して更に思わぬ方向へ進んで行く。
「フィオナ妃殿下、皇帝陛下がお呼びでございます」
その日の夜、フィオナが皇帝の私室に呼び出しを受けた。
「こ、こんな時間にでございますか?」
対応したマイアも戸惑っているが、
「はい。着の身着のままで良いので速やかに来るようにとの皇帝陛下のお言葉にございます」
「お、お支度もなしにですか?」
「はい。迎えの者が既に参っています。本宮との通路にて待機しておりますのでお早く」
と有無を言わさず皇帝の部屋に連れて行かれた。
「こちらでお待ちくださるようにとのことです」
と通された部屋は薄暗かった。
月明かりと僅かなキャンドルだけが灯っていてメインの照明は消されているようだ。
香でも焚かれているのか、甘い香りが漂っていた。
先程のことで叱責でもされるか、ナスタチアム侯爵と直接話でもさせるつもりなのかと身構えていたフィオナだったが人の気配がないことにほぅ、と息を吐いた。
その瞬間、背後から力強い腕に抱きすくめられた。
「っ!」
咄嗟に振り払おうと身を捩るが、自分を囲う腕はびくともしない。
「ごめん、フィー」
そう切なげに囁いてフェアルドはフィオナを抱き上げてベッドにおろす。
その動作は壊れ物を扱うように丁寧だったがフィオナは恐慌状態に陥った。
「何を……!」
「君の心が整うまで待ちたかった。けど、君の心はもう壊れ始めているから」
そう言ってフェアルドはフィオナの衣服に手を伸ばす。
その手をフィオナは呆然と見つめていた。
「君の体はまだ準備が整っていなくて辛いと思うから少しだけ薬の力を使うよ、痛みが和らいで気持ち良くなれるように香を焚いておいた。時間をかけて解してあげたいけど長引くと君が苦痛だろうから」
「っ……っ……」
驚きと恐怖で言葉を発せないフィオナの唇に口付けて、フェアルドはフィオナに覆い被さった。
「愛してるよフィオナ」
悪夢の夜だった。
翌朝目が覚めると、豪奢な天蓋付きのベッドにフィオナは一人だった。
隣に人が寝ていた形跡はあるが、フェアルドの姿はない。
痛みの残る体に紛れもなく情交の後がある事に昨夜の悪夢は夢ではなかったのだと思い知るフィオナが感じたのは、昨夜何度も耳元で囁かれた「愛してる」という言葉でも抱きしめられた腕の感触でもなく嫌悪感だった。
足元から全身を巡る嫌悪感に、今すぐ自分の体を切り刻んでしまいたい衝動に駆られ、何か使えるものはないかと周りを見渡したところに、ノックの音が響いた。
「お目覚めですか?妃殿下」
返事をしなくとも入ってきたのは見たことのない女官だった。
「皇帝陛下より妃殿下のお世話を申し付けられました、サリアと申します。お体の具合はいかがですか?」
頭を下げながら近寄ってきたサリアに、フィオナは憎悪の瞳を向けた。
(こんな状態のところをずかずかと近寄ってくるなんて……)
だがサリアはやや気まずげではあったものの、
「お加減がまだ悪そうですね。とりあえず軽く湯浴みをいたしましょう。その間にベッドを整えますから」
となんでもないことのように言い、軽々と毛布ごとフィオナの体を持ち上げた。
「っ?!」
この細身の体のどこにそんな力があるのか、フィオナを軽々と抱き上げて浴室に連れて行き、そこに待機していた侍女たちと共にフィオナの体を丁寧に清めて楽な服を着せると、再び抱き上げてベッドまで連れて行った。
ベッドはシーツや毛布が取り替えられて綺麗になっていた。
そのことにホッとはしたもののここがフェアルドの私室だったことを思い出して顔を青くしたフィオナの「部屋に戻るわ」と言った言葉に、
「それはなりません」
サリアが顔色ひとつ変えずに返した。
そう平坦な声で告げて、フェアルドは踵を返し、部屋を出て行った。
「?」
フィオナは急にどうしたのだろうと首を傾げるが、帰ってくれたのならまあいいと自身もいつも通り寝室に引っ込もうとしたところで「姫さま……」と暗く淀んだ声に引き止められた。
「何か用?マイア」
「侯爵……いえ、旦那様や奥様からのお手紙を開けていらっしゃらないのは、本当ですか?」
いつも手紙を手渡していたのはマイアだ。
フィオナは嫌な顔ひとつせず受け取っていたので、当然読んでいるものと思っていたし、一縷の望みをかけてもいた。
ナスタチアムの両親から言われれば、フィオナは自分たちへの怒りを解いてくれるかもしれないと。
それが……「本当よ。受け取ったら読まなきゃいけないなんてルールはないでしょう?」粉々に砕け散った。
そして、事態は当人たちの思いなど無視して更に思わぬ方向へ進んで行く。
「フィオナ妃殿下、皇帝陛下がお呼びでございます」
その日の夜、フィオナが皇帝の私室に呼び出しを受けた。
「こ、こんな時間にでございますか?」
対応したマイアも戸惑っているが、
「はい。着の身着のままで良いので速やかに来るようにとの皇帝陛下のお言葉にございます」
「お、お支度もなしにですか?」
「はい。迎えの者が既に参っています。本宮との通路にて待機しておりますのでお早く」
と有無を言わさず皇帝の部屋に連れて行かれた。
「こちらでお待ちくださるようにとのことです」
と通された部屋は薄暗かった。
月明かりと僅かなキャンドルだけが灯っていてメインの照明は消されているようだ。
香でも焚かれているのか、甘い香りが漂っていた。
先程のことで叱責でもされるか、ナスタチアム侯爵と直接話でもさせるつもりなのかと身構えていたフィオナだったが人の気配がないことにほぅ、と息を吐いた。
その瞬間、背後から力強い腕に抱きすくめられた。
「っ!」
咄嗟に振り払おうと身を捩るが、自分を囲う腕はびくともしない。
「ごめん、フィー」
そう切なげに囁いてフェアルドはフィオナを抱き上げてベッドにおろす。
その動作は壊れ物を扱うように丁寧だったがフィオナは恐慌状態に陥った。
「何を……!」
「君の心が整うまで待ちたかった。けど、君の心はもう壊れ始めているから」
そう言ってフェアルドはフィオナの衣服に手を伸ばす。
その手をフィオナは呆然と見つめていた。
「君の体はまだ準備が整っていなくて辛いと思うから少しだけ薬の力を使うよ、痛みが和らいで気持ち良くなれるように香を焚いておいた。時間をかけて解してあげたいけど長引くと君が苦痛だろうから」
「っ……っ……」
驚きと恐怖で言葉を発せないフィオナの唇に口付けて、フェアルドはフィオナに覆い被さった。
「愛してるよフィオナ」
悪夢の夜だった。
翌朝目が覚めると、豪奢な天蓋付きのベッドにフィオナは一人だった。
隣に人が寝ていた形跡はあるが、フェアルドの姿はない。
痛みの残る体に紛れもなく情交の後がある事に昨夜の悪夢は夢ではなかったのだと思い知るフィオナが感じたのは、昨夜何度も耳元で囁かれた「愛してる」という言葉でも抱きしめられた腕の感触でもなく嫌悪感だった。
足元から全身を巡る嫌悪感に、今すぐ自分の体を切り刻んでしまいたい衝動に駆られ、何か使えるものはないかと周りを見渡したところに、ノックの音が響いた。
「お目覚めですか?妃殿下」
返事をしなくとも入ってきたのは見たことのない女官だった。
「皇帝陛下より妃殿下のお世話を申し付けられました、サリアと申します。お体の具合はいかがですか?」
頭を下げながら近寄ってきたサリアに、フィオナは憎悪の瞳を向けた。
(こんな状態のところをずかずかと近寄ってくるなんて……)
だがサリアはやや気まずげではあったものの、
「お加減がまだ悪そうですね。とりあえず軽く湯浴みをいたしましょう。その間にベッドを整えますから」
となんでもないことのように言い、軽々と毛布ごとフィオナの体を持ち上げた。
「っ?!」
この細身の体のどこにそんな力があるのか、フィオナを軽々と抱き上げて浴室に連れて行き、そこに待機していた侍女たちと共にフィオナの体を丁寧に清めて楽な服を着せると、再び抱き上げてベッドまで連れて行った。
ベッドはシーツや毛布が取り替えられて綺麗になっていた。
そのことにホッとはしたもののここがフェアルドの私室だったことを思い出して顔を青くしたフィオナの「部屋に戻るわ」と言った言葉に、
「それはなりません」
サリアが顔色ひとつ変えずに返した。
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