心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

詩海猫(8/29書籍発売)

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フェアルドとディオン 1

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前世の自分は途方もなく愚かだった。
あんな始まりではあっても子さえ生まれれば、まともな夫婦になれるだろう、彼女も妃として落ち着くだろうと信じて疑っていなかったのだ。

偏った王太子教育。
女性への誠意や気遣いなど欠片もなく、好きに食い散らかして構わないのだと言わんばかりの特権制度。
「これがあってこそ国は機能しているのです」
「沢山の女性と経験を積むことは決して悪いことではございません」
「体の相性を知っておくことはお世継ぎ誕生の為にも重要です」
等々。
尤もらしく並べたてていたが、女性の体を介してしか生を授かれない男の何がそんなに偉いのか?
塔に入った後も、キリアンは散々考えては吐き気を催した。

特権階級の男たちの為だけに都合よく造られた忌まわしい因習。
その中で頂点ともいうべき立場にいた自分はこの制度に何の疑問も抱かず、目をつけた女生徒を呼び出しては自身の欲の餌食にした。
幼馴染で仲の良いエディアルが入学してきてからはさらに拍車がかかって、競うように女生徒を狩っては武勇伝を語るように世話係との交わりを語りあった。

「今年の新入生は美味く育ちそうなのが多い」
だの、
「同じ学年より下の娘を押し開いて好みの技を仕込むのがたまらない」
だの、今思えば寒気がするような会話を当たり前にした。
どこまでも幼稚で残酷で、なのに体だけは一人前に成長した紛れもない悪魔だった。

なのに、いっちょ前に人間ひとのつもりでいた。
始まりあんなことは些細なことだと。
皆がやってることで、最初別の者の世話係だったとしても今は自分のもの。
キリアンはフローリアを抱く度に今までにない充足感を抱き、どんどんフローリアに執着していた__だからそのまま自分のものにしてしまおうと考えた。

フローリアが世話係になってからホワイト伯爵家にはさりげなく便宜を計っていたが、フローリアが妃になればもっと表立って引き立ててやれる。
彼女にとってもいち伯爵令嬢から第一側妃となり、将来国母になれるかもしれないのだから悪い話ではあるまい。

生家にとっても良いことだろうし、話をしてみようと思った。
だが、初めてエディアルと共に可愛がった時、「嫌!!」と激しく拒否された事を思い出して何故か寒気がはしった。
もちろん今の主は自分なので従順に仕えてはくれるが__。

ここで気がついて踏みとどまるか、せめて話をすれば良かったのだ。
俺は自分の想いに気付かないふりをし、彼女に与える避妊薬をすり替え、本人が気付かないうちに懐妊させるという最悪の手段をとった。
彼女の父親をまず味方にし、外堀を固めて逃げ場をなくした。
彼女に王家の影をつけ、間違っても他の男の手がつかないよう護衛を兼ねて監視させ、彼女が体調を崩して医務室で眠ってる隙に御殿医に診察させ、証明書をしたためさせ、彼女を後宮に迎える準備を始めた。
話をした時の王妃は何故か苦い顔をしたが、キリアンはあまり気にしなかった。

フローリアを妃として迎えられるという事実に浮かれていたから。

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