クマの短編ホラー小説

クマミー

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影が追いかけてくるっ!①〜曽祖父の言葉〜

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 昔、葵は曽祖父の源太からこんな話を聞いた。
「ミカゲ様には気をつけろ。ミカゲ様は体を探しているんだ。」
「どんな格好をしているの?」
「姿はない。ただ地面に影が見えるだけだ。」
「ミカゲ様はどこにいるの?」
「どこにでもいるんだ。悪いことすると出てくるぞぉ。」
「ミカゲ様に見つかったら?」
「心も体も盗られてしまうぞ。だからとにかく走るんだ。追いつかれんように。ミカゲ様にも見つからんくらい暗いところに隠れるんだ。」
葵は高校生の頃、時々介護の手伝いに来ていた。92歳にもなる源太は自宅の寝室で色んな話をしてくれたが、葵はこの話が1番印象に残っていた。


「これを受け取ってくれないか。おじいちゃんがずっと大切にしていたものだ。」
亡くなる1週間前のことだ。紫のケースに大事に大事にしまってある十字架のペンダントをくれた。真鍮で出来ていて、傷だらけだ。葵は大切にしているものをもらうことに少し気が引けたが、曽祖父の気持ちを受け継げるならと思い、受け取った。
「ありがとう。大事にするね。」
すると源太は少し真剣な声音で
「もしかしたら、葵のところにミカゲ様がやってくるかもしれない。そのときはこのペンダントをちぎって遠くへ投げなさい。」


 葵はミカゲ様の話をあまり信じる気にはなれなかったがお守りとして持っておくことにした。ただ、このときの曽祖父のいつもとは違う、真剣な声音、眼差しには少し驚いた。


 まもなくして、源太は亡くなった。94歳大往生だった。葬儀は親族間だけで取り行った。源太は地元の谷坂村の者には知らせなくていいとのことだった。きっと友人や知り合いもたくさんいただろうに…葵は曽祖父のあんなに優しい人柄を考えると不思議に感じていた。


 葵は大学4年生になり、ミカゲ様の話も忘れ、就職活動に明け暮れていた。黒のリクルートスーツに身を包み,面接通過を祈る毎日だ。今日は大手メーカーの最終面接だった。役員クラスが面接官だったので、かなり集中力を要した。


 帰り道、葵は誰かに尾けられてる感じがした。気のせいか?後ろから音もなく近づいて来る感じだ。振り向くが、誰もいない。歩き出すが、やっぱり何か変だ。背後に何かいる。もう1度振り向くと、立っていたのは、大学の友人の春奈だった。
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