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1章 悪役貴族は屈しない
第35話 話にならん
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ある日の朝、王家の使者とともに手紙が届いた。
内容は読むまでもない。
『今すぐ城に来い』だ。
いよいよ、処刑イベントか。
意識すると、体が小刻みに震える。
武者震いなのか、怯えなのか……。
まあ、後者だろうな。
だって怖ぇもん!
これから糾弾されに行くってのに、怖くない奴いるかよ。
「ふぅ――それじゃあ各人、速やかに状況開始」
「「「はっ!!」」」
深呼吸をして、俺はハンナたちに最後の指示を出す。
この世界に来て、やっと本番だ!
○
謁見の間に案内されると、既にお歴々の貴族がレッドカーペットの脇に並んでいた。
どの顔も初めて見るが、まあ覚えなくていいやつだな。どうせモブだし。
そういえば、ラウラは来てないのか。
一応女当主として登城の赦しは得ているはずだが。
……まあ、今日に限っては居なくてもいいか。
ここは――危ないからな。
俺が謁見の間、中央で膝をつき頭を垂れる。
するとすぐに王が姿を現した。
「面を上げよ」
「失礼いたします」
この世界で初めて王の顔を見た。
プロデニの時も思ったがこの王、ずいぶんと覇気がないな。
王らしくない、というよりも何かこう……熱意が抜け落ちた顔をしてる。
ミッド・ライフ・クライシスって年齢じゃなさそうだが、人生に疲れた中年サラリーマンみたいだ。
「エルヴィンよ、そなたが当主になって、初めての登城か」
「はっ。力と器が足りない未熟な身なれば、陛下のお目汚しになります故」
「仕事は完璧にこなしておるようだが?」
「父が遺した部下が大変優秀でございました」
「さようか――して」
話題を切り替えた瞬間、広間の空気が張り詰めた。
いよいよか。
俺は気合いを入れなおす。
「我が国に、修行を積みにきた勇者より話を聞いた。そなたが、かの聖女を拉致した、とな」
「……は?」
頭が真っ白になった。
これは予想外。
聖皇国に帰ってなかったのか。
それは朗報だ!
だって、バッドエンド確定じゃなかったからな!
「なんの話でございましょうか?」
「しらばっくれるな!」
そのとき、壁際最後列から怒鳴り声が響いた。
まあ、誰だって確認せずともわかるよね。
空気を読まずに大声上げられるくらい心臓に毛が生えてる奴なんて、世界中探しても一人しかいないだろ。
「この男は、オレの聖女をたぶらかし、拐かしたんだ!」
「……その証拠はありますか?」
「証拠などない!」
「……」
あ、あぶねぇ。
思わずズッコケるとこだった!
大貴族の呪縛がなかったら、絶対その場で転んでたな。
てか勇者、証拠もないのにどや顔するな。
殴りたくなるから。
「話になりませんね」
「なんだ、逃げるのか?」
「〝俺〟を糾弾するのなら、最低でも証拠を出すべきです」
俺、これでも公爵なわけで、証拠もなしに糾弾するってちょっと、いかれてるよね。
そんな意味を一万倍に希釈して伝えるが、
「そんなものはいらない!」
まあ、この勇者には伝わらないよな。
「予言の勇者が『お前が犯人だ』って言っているんだ! これ以上の証拠はない!」
意訳:自分の証言しかありません。証拠はこれだけです!
ドヤ顔で言い放つのはやめてくれ……。
吹き出しそうになるのを堪えるので精一杯なんだが……。
マジ腹筋が痛い。
しかし、周りで聞いていた貴族たちは、次々と声を上げる。
「そうだそうだ」「勇者が言ってるなら間違いないな」「もう罪を認めたらどうだ」「ファンケルベルクも落ちたものだな」「ファンケルベルクを終わらせた男……か」「愚物として末代まで語り継がれるな」
おうおう、おまえら勇者派か。
よくこのトンデモ理論を受け入れられるな。
この国の貴族は頭がお菓子……なわけではなく、どうせ魅了状態なんだろ?
わざわざアナライズを使うまでもない。
ちらり王を見る。
やはりつまらなさそうに静観している。
うーん。陛下はもう、政に興味がないのかねぇ。
「陛下。そろそろご判断を」
「エルヴィン・ファンケルベルクを斬首すべきです」
おいこら王の右と左の。
なに過激なこと吹き込んでるんだよ!
まあ、聡明な王ならこの話を聞いても――、
「うむ」
頷いちゃった!
おいおい、マジかよ。
周りを見て、王の右と左を見る。
彼らは完全に、勇者に魅了されてるな。
そもそも、魅了耐性がある道具を身につけてない。
俺は聖光の刀剣を手に入れた日に、併せて状態異常を防ぐリングを入手していた。
だって裏社会のボスなら、それくらい装備してないと、命いくつあっても足りないだろ?
毒とか麻痺とかさ。
魅了は予想外だったが、防げたからヨシ。
対して、王はどうか?
魅了されているようにはちっとも見えない。
だが、右と左――宰相と将軍のいいなりになっている。
……ああ、そうか。
この王は、側近に自由を奪われたのか。
絶対王政は、本来なら王が一番権力を持っていて、好き勝手に出来る。
でも、それってあくまで王そのものが強いわけじゃなくて、周りが王を支えるから、最強の矛をふるえるのだ。
その支える側が、もし寝返ったら?
側近の言うことを聞かなければ、あっという間に首をすげ替えられるとしたら?
王は、彼らの言うことを聞くしかなくなる。
つまりこの男――アドレア・フォン・ブラウンシュヴァイクは、側近に権力を奪われたお飾りの王なんだ。
覇気が無いのは、だからだ。
「はあ……話になりませんね」
内容は読むまでもない。
『今すぐ城に来い』だ。
いよいよ、処刑イベントか。
意識すると、体が小刻みに震える。
武者震いなのか、怯えなのか……。
まあ、後者だろうな。
だって怖ぇもん!
これから糾弾されに行くってのに、怖くない奴いるかよ。
「ふぅ――それじゃあ各人、速やかに状況開始」
「「「はっ!!」」」
深呼吸をして、俺はハンナたちに最後の指示を出す。
この世界に来て、やっと本番だ!
○
謁見の間に案内されると、既にお歴々の貴族がレッドカーペットの脇に並んでいた。
どの顔も初めて見るが、まあ覚えなくていいやつだな。どうせモブだし。
そういえば、ラウラは来てないのか。
一応女当主として登城の赦しは得ているはずだが。
……まあ、今日に限っては居なくてもいいか。
ここは――危ないからな。
俺が謁見の間、中央で膝をつき頭を垂れる。
するとすぐに王が姿を現した。
「面を上げよ」
「失礼いたします」
この世界で初めて王の顔を見た。
プロデニの時も思ったがこの王、ずいぶんと覇気がないな。
王らしくない、というよりも何かこう……熱意が抜け落ちた顔をしてる。
ミッド・ライフ・クライシスって年齢じゃなさそうだが、人生に疲れた中年サラリーマンみたいだ。
「エルヴィンよ、そなたが当主になって、初めての登城か」
「はっ。力と器が足りない未熟な身なれば、陛下のお目汚しになります故」
「仕事は完璧にこなしておるようだが?」
「父が遺した部下が大変優秀でございました」
「さようか――して」
話題を切り替えた瞬間、広間の空気が張り詰めた。
いよいよか。
俺は気合いを入れなおす。
「我が国に、修行を積みにきた勇者より話を聞いた。そなたが、かの聖女を拉致した、とな」
「……は?」
頭が真っ白になった。
これは予想外。
聖皇国に帰ってなかったのか。
それは朗報だ!
だって、バッドエンド確定じゃなかったからな!
「なんの話でございましょうか?」
「しらばっくれるな!」
そのとき、壁際最後列から怒鳴り声が響いた。
まあ、誰だって確認せずともわかるよね。
空気を読まずに大声上げられるくらい心臓に毛が生えてる奴なんて、世界中探しても一人しかいないだろ。
「この男は、オレの聖女をたぶらかし、拐かしたんだ!」
「……その証拠はありますか?」
「証拠などない!」
「……」
あ、あぶねぇ。
思わずズッコケるとこだった!
大貴族の呪縛がなかったら、絶対その場で転んでたな。
てか勇者、証拠もないのにどや顔するな。
殴りたくなるから。
「話になりませんね」
「なんだ、逃げるのか?」
「〝俺〟を糾弾するのなら、最低でも証拠を出すべきです」
俺、これでも公爵なわけで、証拠もなしに糾弾するってちょっと、いかれてるよね。
そんな意味を一万倍に希釈して伝えるが、
「そんなものはいらない!」
まあ、この勇者には伝わらないよな。
「予言の勇者が『お前が犯人だ』って言っているんだ! これ以上の証拠はない!」
意訳:自分の証言しかありません。証拠はこれだけです!
ドヤ顔で言い放つのはやめてくれ……。
吹き出しそうになるのを堪えるので精一杯なんだが……。
マジ腹筋が痛い。
しかし、周りで聞いていた貴族たちは、次々と声を上げる。
「そうだそうだ」「勇者が言ってるなら間違いないな」「もう罪を認めたらどうだ」「ファンケルベルクも落ちたものだな」「ファンケルベルクを終わらせた男……か」「愚物として末代まで語り継がれるな」
おうおう、おまえら勇者派か。
よくこのトンデモ理論を受け入れられるな。
この国の貴族は頭がお菓子……なわけではなく、どうせ魅了状態なんだろ?
わざわざアナライズを使うまでもない。
ちらり王を見る。
やはりつまらなさそうに静観している。
うーん。陛下はもう、政に興味がないのかねぇ。
「陛下。そろそろご判断を」
「エルヴィン・ファンケルベルクを斬首すべきです」
おいこら王の右と左の。
なに過激なこと吹き込んでるんだよ!
まあ、聡明な王ならこの話を聞いても――、
「うむ」
頷いちゃった!
おいおい、マジかよ。
周りを見て、王の右と左を見る。
彼らは完全に、勇者に魅了されてるな。
そもそも、魅了耐性がある道具を身につけてない。
俺は聖光の刀剣を手に入れた日に、併せて状態異常を防ぐリングを入手していた。
だって裏社会のボスなら、それくらい装備してないと、命いくつあっても足りないだろ?
毒とか麻痺とかさ。
魅了は予想外だったが、防げたからヨシ。
対して、王はどうか?
魅了されているようにはちっとも見えない。
だが、右と左――宰相と将軍のいいなりになっている。
……ああ、そうか。
この王は、側近に自由を奪われたのか。
絶対王政は、本来なら王が一番権力を持っていて、好き勝手に出来る。
でも、それってあくまで王そのものが強いわけじゃなくて、周りが王を支えるから、最強の矛をふるえるのだ。
その支える側が、もし寝返ったら?
側近の言うことを聞かなければ、あっという間に首をすげ替えられるとしたら?
王は、彼らの言うことを聞くしかなくなる。
つまりこの男――アドレア・フォン・ブラウンシュヴァイクは、側近に権力を奪われたお飾りの王なんだ。
覇気が無いのは、だからだ。
「はあ……話になりませんね」
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